第四次聖杯戦争にセイバーが召喚されました。   作:主(ぬし)

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ふとアイデアを思いついてちまちまと書き足していましたらそれなりの文量と完成度になりましたので投稿させて頂きました。
「もしもセイバーが、何の奇跡が起きたのか、自分が本当になりたかった理想の王様になることが出来たなら?」
「もしも、そんなパーフェクトなセイバーが、もう一回第四次聖杯戦争に参加することになったら?」
そんな妄想を形にしてみました。これからもちまちまと書き足していくつもりです。




 それはさておき、ステルスマーケティングをさせてください! 今年の冬コミ水曜日、東地区 "ミ" ブロック 04aで、僕も参加させていただいたTSFを題材にした合同誌が販売されます!!サークルは本地そらさんの『雪月風花』、合同誌タイトルは『ALTER』です!! 冬コミに足を運ばれた際はぜひお立ち寄り下さい!! 僕は行けないけどね!! ファァアアアアック!!!!


第一話(2015年)

 この日、ドイツの山奥にそびえ立つアインツベルン本城にて、衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンはサーヴァント・セイバーの召喚の儀を執り行った。神代の鞘を触媒にして召喚されるのは、名高き騎士の王、アーサー・ペンドラゴンである。柱のような眩耀を屹立させる魔法陣を前にして、マスターである衛宮切嗣は無視できない不安に表情を固くしていた。彼の王の誉れ高い逸話が示すように、アーサー王は正義と理想を体現する聖王と言い伝えられている。目的のためには手段を選ばない冷酷無比な切嗣との相性はきっと最悪に違いない。強力であるが故に扱いづらいサーヴァントの運用方針について、切嗣は大いに頭を悩ませていた。彼が眉間に皺を寄せる間にも魔力の輝きは生物のように渦をまき、やがて形を持ち始める。超高密度の魔力がヒト型に凝縮し、仮初めの生命(いのち)が吹きこまれていく。

 

「「―――……!!」」

 

 切嗣とアイリスフィールが思わず息を呑むなか、重厚な甲冑をかち鳴らし、魔素で編まれた肉体を獲得した2本の足が(しっか)と大理石を踏みしめる。蒼天のように鮮やかな外套(マント)と重層な戦装束が力強く風にはためき、磨き上げられた鎧が刃の如く純銀に煌めく。炎のように燃え立つ黄金の髪はまるで咆哮する雄獅子の(たてがみ)だ。

奇跡と呼ぶべき光景を前にしてアイリスフィールが全身を身震いさせ、次の瞬間、「えっ!?」と声を高く裏返らせた。召喚されたアーサー王が、予想よりもずっと小さく、華奢な―――少女(・・)の姿をしていたからだ。魔法陣の淡い残り灯に照らされる様子は、月下の一夜花のような繊細な儚さすらある。すうっと細く開いた双眸に見据えられ、切嗣はさらに混乱した。

 

 だが、次に少女が放った第一声によって、切嗣の混乱メーターはマックスを振りきった。

 

 

 

「ンむぁ~~~~~た貴方ですか、キリツグ」

 

 

 

 

 

 

 

 眉根に梅干しのようなシワを作ってさもイヤそうにノタマッた少女は、二三度辺りを見回して「そういうことですか」と一人勝手に納得すると、ポカンと口を開ける切嗣とアイリスフィールの間をズカズカと大股で通り過ぎた。そのまま勝手知ったるなんとやらとばかりに城内をずんずんと突き進んで食堂に顔を出し、その場にいた料理番のホムンクルスメイドをむんずと捕まえる。たっぷり5分ほどのフリーズを経て大急ぎでその後を追った二人が少女を見つけた頃には、彼女はそれまでの見事な拵えの甲冑を脱ぎ捨てて私服姿でテーブルに広げられた出来立ての料理に舌鼓を打っていた。白いブラウスと紺色のスカートという現代風の衣服は、シンプルだが少女の姿によく似合っている。が、アーサー王のイメージとは少しもまったくこれっぽっちも相容れなかった。

 

「……えーっと、確認なんだけども、貴女はサーヴァントで、セイバーで、アーサー王、なのよね?」

「もぐもぐ如何にも私がサーヴァントセイバーであり、ブリテンの王、アルトリア・ペンドラゴンですよむしゃむしゃ久しいですね、アイリスフィールごっくん」

 

 本人がそう言っているのだからおそらくそうなのだろうが、メイドが運んできた日本料理を見るやいなや「おお、この天麩羅は鯉ですね!珍しい!」と喜色を浮かべてひょいひょいと口に放り込んでいく様子には果てしない違和感がある。しかも二本の箸を器用に使っている。アーサー王伝説には何時から『ブリテン王は和食好き』という尾ひれがくっついたのか。

 

「うむむ、白粉(おしろい)のような薄力粉によって油衣が新雪のようにきめ細かく美しい。ほお、油に新鮮なオリーブオイルを足しているのですね。出来立ての湯気に混じってふわっと漂うワインにも似たオリーブの芳醇な香り、サクサクと歯ざわりの良い食感、しっかり熱の通ったホクホクの魚の白身、歯を通した瞬間にジュワッと染み出してくる魚の肉汁にはほんのりとレモンと塩の風味を感じられる。天つゆに漬けなくてもご飯が進みます―――おお、ジャポニカ米! しかも炊きたて! 実によくわかっている! ここのメイドはセラに匹敵するこだわりを持っていると見えます。良い腕前です。褒美としてランスロットの領地を半分授けてもいいくらいです」

 

 などと滑らかに品評してみせる口ぶりはやけに玄人じみていて、明らかに現代の―――しかも豊かな食文化を経験して舌を肥やしている風だった。アーサー王の時代といえば中世の初期も初期。およそ『豊か』という言葉とは無縁の食生活を送っていたはずだ。薄力粉もオリーブオイルも、ましてや天ぷらやら天つゆなんてシロモノも当然存在するはずがない。いや、そもそもにして、どうしてこのサーヴァントはすでに切嗣とアイリスフィールの名前を知っているのか。

 「まさか奇妙奇天烈なハズレを引いたのでは」と表情を震わせ始めた切嗣にチラと意識を流した少女は、やれやれと大きなため息をつくと最後のサーモン寿司を口に放り込んでのそりと面倒くさそうに立ち上がる。

 

「もぐもぐゴックン。けふっ。さて、キリツグ。貴方のことは好きではありませんが、仕方がないので一から説明してあげましょう」

「お前とは初対面だ。嫌われる心当りがない」

「大有りです! 私が貴方に何度煮え湯を飲まされたことか! 私に対する不当な扱いの数々は思い出すたびに腹が立ってきます。とは言え、そのおかげで今の私があることも事実ですし、今となっては過ぎたことです。まあ、貴方方にとってはこれからの話(・・・・・・)となるのでしょうが」

 

 ますます訳が分からなかった。訝しげに見下ろす切嗣を真っ直ぐに見返し、頭頂部から生えた髪をピョコンと揺らした少女が胸に手を当ててにっこりと笑う。そして、荒唐無稽な自己紹介を口にした。

 

「私はアルトリア・ペンドラゴン。そしてサーヴァントセイバー。しかもただのセイバーではありません。第四次聖杯戦争にて貴方が召喚し、聖杯をイヤイヤながらふっ飛ばし、第五次聖杯戦争にて貴方の息子に召喚されて聖杯を嬉々としてふっ飛ばし、さらに繰り返される4日間を打開するために主を背に守って敵の群れを吹っ飛ばすなど、それはそれは輝かしい経験を積んだ、パ~~~フェクトなセイバーですっ!」

 

 ふんす、と鼻孔を大きく開いて名乗りを終えた少女に、二人は硬直した表情を返すしか無かった。しかし、世迷い言と断じることは出来ない。この説明でなら、少女―――セイバーがどうして切嗣たちの名を知り、城の構造を熟知し、箸で寿司を摘み、当代慣れして飄々と振舞っているのかも筋が通る。とは言え、各所の話は切嗣にとっては受け入れ難いものであり、彼は合点がいくどころかさらに不可解のループに陥る。

ていうかコイツ聖杯ふっ飛ばしてばっかりだな。

 

「……ありえない」

「私には再び貴方に召喚されたことの方がそう思えますけどね。召喚に応じるつもりもなかったのですが。まあ、どうしてこのような奇妙なことになったのかは私にもわかりませんが、シロウには言葉では語れないたくさんの義理がある。その恩返しの一端と考えれば貴方に全面的に協力するのも吝かではありません。ええ、仕方なく」

 

「なんでそんなに上から目線なんだ」と額に青筋を浮かべて肩を持ち上げる切嗣をまあまあと諭し、アイリスフィールが話題を逸らす意図もこめて問いかける。

 

「ねえ、セイバー。その、“シロウ”って誰のこと?」

「切嗣の息子ですよ、アイリスフィール。養子だそうです」

「えっ? 養子? い、イリヤは?」

「日本のアインツベルン城でメイドたちと優雅に暮らしています。バーサーカーのマスターとなって、灰色筋肉ダルマの肩で年がら年中ふんぞり返っています。弟にあたるはずのシロウと危うい関係を持とうと拉致監禁催眠誘拐などなど画策したり、かと思えば本気で殺そうとしたり、筋肉ダルマをモチーフにした趣味の悪い戦車に乗って城の中を暴れまわって最終的にアインツベルン城が崩壊したりとかなりヤンチャな娘です」

「えっ? えっ? 待って全然意味わかんない。そんなの私のイリヤじゃない」

「残念ながら現実です。今のうちに教育を見直したほうがよいかと」

「―――ふらっ」

「あ、アイリっ!!」

 

 脳の処理限界を超えて立ちくらみを起こしたアイリスフィールの肩を慌てて支え、切嗣はパンク寸前の思考を必死に手繰り寄せながらなんとか言葉を紡ぐ。

 

「せ、セイバー。お前の言い分を信じるのなら……お前にとって、現代に英霊として召喚されての戦闘はこれで四度目、聖杯戦争もすでに二度経験し、しかもこの第四次聖杯戦争はお前にとっての過去(・・・・・・・・・)にとっくに経験済みということになる」

「如何にも。この第四次聖杯戦争に参戦する全ての陣営について、分かりうること全てを諳んじています。マスターからサーヴァントの真名、特徴、宝具、弱点、さらには戦争の行く末まで、なんでもござれ。サーヴァントには強敵が一人いますが、当時の私ならいざ知らず、今の我ら(・・)であれば十分に倒せるでしょう。肩にヤカンをくっつけたゴールドボッチになんぞ負けてやれません」

 

 この時ばかりは自らを“私”ではなく“我ら(・・)”と複数形で語ったセイバーの誇らしげな口ぶりに多少の違和感を感じれど、すぐに掻き消えた。まるで、店自慢の特盛りカレーを前にして“このくらいなら制限時間内に食べ終われるかな”とでも言うようなおよそ緊張や虚言とはかけ離れたさっぱりとした物言いに、切嗣は頭を蹴飛ばされる衝撃を受けたからだ。衛宮 切嗣が今まで捨て去ってきた幸せや心身を灼いた悲しみを全て掛け(ベットし)ても到底掴めるはずのない僥倖中の僥倖を、彼はよりによって今この瞬間という最高のタイミングで引き寄せることに成功したのだ。

 この英霊は間違いなく規格外だ。否、次元外(・・・)だ。かの有名なアーサー王を、彼―――いや、彼女か―――に最も適した剣士(セイバー)のクラスで召喚できただけですでにアドバンテージを得ているのに、よりによって歴史を一周先回り(・・・)しているとは。誰も知らない情報を彼女は知っているし、そのうえ、一周前よりも強くなっていると言う。まさに卑怯反則そのものだ。これだけのジョーカーを手にしては、もはや負けるほうが難しい。汗が伝う頬に刃のような鋭い笑みが走る。

 必勝の図式を脳裏に描きながら武者震いに背中をわななかせる切嗣(マスター)を気にする様子もなく、セイバーはテーブルのバケットに山積みにされたドイツブレットを人差し指で品定めしつつごちる。

 

「それに、あの金ピカサーヴァントのマスターはリンの父親ですから、どうせどこかで大ポカをやらかすでしょう。お、この干しブドウのパンは美味しそうですね。……やけに手触りが硬いのが気になりますが」

「リン?」

「遠坂凛。遠坂時臣の娘です。血筋のためについうっかり大失敗を起こすことはあれど、世界に通用する当代屈指の魔術士です。わかりやすいツンデレ娘で、シロウのことを好いています。ちなみに、リンの実妹の間桐桜もシロウを好いています。間桐桜のサーヴァントもシロウに気があるようです。不服ながら()、シロウと肉体関係を持ったこともあります。むぐぐ、か、硬い! そして味がない! これだからドイツのパンは質素すぎて困る! ブリテン王国のパン職人だってもうちょっとマシなものを…………いえ、なんでもありません。美味しい。ドイツ最高。ブリテンは滅べ」

 

 眉をハの字に寄せてもしゃもしゃと不満気にパンを咀嚼しながら自分が興した王国を貶している。とんでもない王である。だが、そんなことよりも気になることを彼女は口にしていた。肉体関係を持ったのは“()”と確かに口にした。その一瞬、セイバーは口元を乙女のように小さく綻ばせていた。

 

「……まさか、セイバー、お前も、」

「ご明察の通り、私もシロウを好いていますし、肉体関係もたくさん持ちました。そりゃあもう、畳の上でとか、お布団でとか、お風呂でとか、野外でとか、凛と三人でとか」

 

 ほんのりと頬を朱に染めるセイバー―――見た目で言えば15、6歳ほどの少女―――の姿に、切嗣は額に手を当てて天を仰いだ。未だ見ぬ好色息子に思いを馳せ、その将来を激しく憂いた。遠坂の娘のみならずその妹にも手を出してその上サーヴァントも食い散らかすとは、いくらなんでも見境なさすぎだし性欲旺盛すぎるだろう。いったいどこの誰が育てたんだ。顔が見てみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうそう。今の聖杯は使い物にならな―――……いえ、なんでもないです。今は伝えないほうがいいでしょう」

 

 

 

 はたと何かを思い出したらしいセイバーだったが、意味ありげに独り納得するとさっさとメイドが運んできたケーキに勢い良く顔を突っ込んでモクモクと頬袋を膨らませ始めた。それは物語を根幹から揺るがす真実であったのだが、「イリヤの教育をリセットしなきゃ」と呟いてバット片手に走りだした己の妻を追いかける切嗣が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。冬木市海浜公園、港湾区画にて。

 

地上に現出した星の輝きに、暗黒の影が挑む。

 

 

 

「Arrrrrrrrrrthurrrrrrrrrrrrrrr!!!」

 

 

 

 漆黒の騎士が全身で吠える。総身に殺意を漲らせ、怨念の塊となって眼前の輝きに突進する。輝きが強ければ強いほど、彼の影はより濃くなる。彼はそういう(・・・・)ものだった。

 

 そうだ。その輝きが、俺を、俺たちを狂わせたのだ。あの日あの時、その輝きを貴様が岩から抜き放たなければ、俺と彼女(・・)の運命はこうはならなかったはずなのだ。いと美しき聖君よ、いざ知るがいい、貴様のために散った者たちの恨みを。人の心がわからぬ王よ、いざ知るがいい、貴様のために心を摩耗し尽くした者たちの悲哀を。

 

 漆黒の騎士(バーサーカー)は今こそ思いの丈をぶつけんと手足を振り乱しながら全身全霊の力で疾走する。ヒト型の憎悪と堕ちて真っ直ぐに迫るかつての忠臣を前に、輝き―――抜身の(・・・)聖剣エクスカリバーを携えたセイバーは、避けるでも受け止めるでもなく、口元に小さな微笑みを浮かべてそっと静かに囁く。

 

 

 

「さあ―――我が盟友(ランスロット)よ。やり直し(・・・・)を、始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度のセイバーは、一味違う。

 

 

 

 




 『パーフェクト・セイバー』。
 いろいろな歴史を一巡したセイバー。いろいろあっていろいろ経験した結果、清濁併せて呑み込める度量と気概を手に入れ、理想の(いただき)に達することが出来た。戦闘時の鎧が少し派手になり、マントも装備しているなど、実用主義一辺倒だった身嗜みにも変化が見られる。性格も角が取れてさっぱり丸くなり、ボーリング球のようになって己の思うままにズンズンと突き進むようになった。しかし、他者への気遣いや慈しみは以前と変わらず失っていない。また、食生活に関してもすっかり舌が肥えているようだ。
 尚、このセイバーの保有する最強宝具は『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ではない。彼女曰く「これはただの剣に過ぎない。本当に大切なものたちは他にあった」とのこと。歴史を一巡する過程で成長(・・)した結果、ギルガメッシュやイスカンダルとも互角に渡り合えるEX宝具を獲得したようだ。規模、火力ともに全サーヴァント中最強を誇るという。その名は『騎士王の御下へ(キング・アーサー)』だそうだが、詳細は今のところ謎である。

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