艦娘哀歌   作:絶命火力

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世界中が目を見張った 少数なれども 恐れ知らずの者たちに
深い霧の中 自由の光に照らされるまで 誰が戦いの手を止めようか

――『Foggy Dew』(一九一九年、チャールズ・オニール作詞、作曲者不明)の一節


舞風篇
COG.1 -「霧の露」


 南洋の強い日差しの下、甲高く澄んだ笛の()が酒保の外のテラスに響き渡る。聴いていると、自然と身体が動き出してしまいそうな調子の曲が何度かループを繰り返し、いつの間にか同じような曲調の別の曲になり、そしてそれがループし、また別の曲になってゆく。

 気付けば男も自然と足踏みで、そして手で、最後には身体全体でリズムを取っていた。心地よい気分だった。

 軽く十分はそのような調子で曲が続き、果たしてこれに終わりがあるのか、一体どのように終わるのか、と男が疑問に――幾分かの期待を込めつつ――感じたその時、前触れもなく曲は終わった。本当に唐突な終わりで、男は置いてけぼりにされたような――何にそうされたのかは全くわからなかったが――寂寥感を少し味わった。

 

 突然の曲の終わりに一瞬呆けていたが、男はすかさず満面の笑みで拍手をした。形式的な儀礼としてではなく、心の底から演奏者、駆逐艦舞風に対する敬意を込めた拍手だった。気付けば酒保の中からもいくつか拍手、それに口笛までもが聞こえてきていた。

 舞風は椅子から立ち上がると、少し大袈裟に、まるで演劇の役者のような礼をして再び座った。再び拍手が流れ聞こえた。

 

「素晴らしいですね、それがティンホイッスル……でしたっけ?」

 

 男は舞風が右手に持つ笛に目をやった。小学校では必ずと言っていいいほど使われるリコーダーよりも細く、小さい笛だった。

 絵筆を少し太くしたような簡素な見た目で、濃紺のマウスピースと六つの穴が空いた黄土色の筒がその全てだった。長く使っているのか、筒の部分は全体的に――穴の周辺は特に――くすんだ金属光沢を放っている。

 細長い薬莢のようだ、という感想を男は抱いた。形はともかく、色合いはよく似ていた。

 

「ええ、ティンホイッスル、合ってますよ。まああたしのはティン(ブリキ)ではなくて真鍮(ブラス)なんですけどね、いずれにしてもティンホイッスルなのは間違いないですよ」

 

 舞風そう言って目を細めた。と、すぐに目を開け、男の目を見つめた。南洋特有の澄み切った翡翠色の海の色と似た色をした瞳がハッキリと見えた。

 

「えーっとそれで、何でしたっけ? 取材? 本当にあたしにですか?」

「そうです、取材というか……まあご自由に喋ってもらうというか、とにかくお話を聞かせて頂けないかな、というわけなんです」

「お話ですかー……うーん、これといって何も無いですよ? 『向かって来る敵をバッタバッタと切り捨てた!』とか『有力な指揮官級と思しき敵に単身吶喊! 見事仕留めた!』なんて武勲も、『的確に味方に指示を出し窮地を脱した!』なんて手柄も無いですし。あたしは別に叩いてもなあーんにも出てこない平凡な艦ですよ」

 

 腕組みをし、顎に手を当てて、舞風はこれまた大袈裟に首をひねると笑った。

 

「いや、そういうのでは無くて……そうですね、身の上話とでも言いましょうか。そう、例えば……その素晴らしいティンホイッスル、どこで覚えたんですか?」

「これですか? これは結構前、まだ私が北の基地にいた頃に教わったんです。ここと違って本っ当に寒くてくらーいところだったんですけど――」

 

 そう、そういうのなんです、と軽く指を振りながら男は言った。舞風はぽかんとした顔をした。

 

「こんなのでいいんですか? その、記事にするならもっとこうグワァーッと、ガーッと、シャキッとした話じゃないとダメなんじゃないんです?」

 

 なんとも素っ頓狂な擬音語の連続に男は破顔した。

 

「記事にはしませんよ、あくまで私の趣味……と言うとちょっと語弊がありますね。言うなれば、興味ですかね、艦娘の皆さん方に対する。何せこうして顔を合わせて艦娘の方に取材するのは初めてでして。折角の機会ですし、まあ人となりと言いますか、そいうのを是非とも知っておきたいと思ったんですよ。武功だ何だ、ってのじゃなくて、我々の知らない、血肉が通った『艦娘』を、ね」

 

 舞風は腑に落ちないという様子を隠しもせず、まだ眉を中央に寄せて首をしきりに左右にひねっている。

 

「はあ……あたしたちの、ですか。……それじゃあ、この話しましょうか? どこからやろうかなあ、じゃあ……あたしがティンホイッスル(これ)を教わる少し前の話から――」

 

 

――――――――

 

 

 猛吹雪に吹かれて前後左右どころか天地の感覚すら喪失することをホワイトアウトという。語感からすれば冬、それも雪深い土地で起こりはすれど、あくまで厳冬期の事象のようにも思える。

 しかし、これは夏にも起こり得る。原因は霧である。白い、真っ白な濃霧が全てを包み、自分の足先や掌すら見えない白い闇を作り出す。日本国内でも発生し、地域によってはこれに宗教的な意味が見出されることもあり、しばしば「山神様が降りてくる」や「海から鬼が人攫いに来る」と言われた。

 

 霧とは言うなれば地上の雲である。何らかの原因で空気中の水分が飽和し、微細な水滴が空気中に散らばり、光の乱反射が起きる、そうして白い霧が発生する。例えば、湿度が高いのに気温が低い場合、自然と空気中の水分は飽和し、霧が発生する。千島列島、特に北海道から離れた北千島は、夏場でも時には気温が一桁台にまで下がるような寒冷な気候であるが、湿度が上昇するため、それにより頻繁に濃い霧に包まれる。

 

 オホーツク海と太平洋の狭間に位置する千島列島、そのちょうど中央に新知(しるしむ)島は位置する。千島列島の基地といえば北端の幌筵(ぱらむしる)島基地や南千島の択捉島にある単冠(ひとかっぷ)湾基地が有名であるが、ここ新知島にも基地が設置されている。

 そして今、その基地には真昼ながら白い闇の帳が降りていた。一寸先は白い闇、それでも基地では鬼ならぬ深海棲艦に備え、ある艦娘は哨戒へと出撃し、またある艦娘は補給へやって来る船舶の護衛に出撃し、そしてある艦娘は白い闇など我関せずと酒保や自室で非番を満喫していた。

 

「なあーんにも見えませんね、四方反応ナシです。まあ電探(これ)がキチンと動いてるかは怪しいですけど」

『こちらも同様、敵影見えず。味方しか映ってませんね、山の方はどうですか?』

『三日月の電探(レーダー)も同じみたい。敵影ナシ、だってさ』

 

 海上では陸上ほどは霧は深くなかった、とはいえ曇り空の濃霧の中、複縦陣で航行する艦隊の僚艦は白く霞み、シルエットしか見えない。無線のみが頼りだった。

 新知島基地第五艦隊は母港である新知島北部の武魯頓(ぶろとん)湾から出撃し、新知海峡を出て太平洋に向かい、定期の哨戒を実施していた。

 駆逐艦舞風はその四番艦として、電探による敵艦探索を行っていた。電探ユニットを展開し、ヘッドアップディスプレイ(HUD)に表示される輝点に目を凝らしていた。

 そろそろ帰投、今日も一日平穏無事にご苦労様……と思ったところで新たな輝点がHUDに映った。虚像(ゴースト)ではなかった。

 

「あれれ……んー……あー各員、各員、方位〇-九-〇(マルキュウマル)、距離二万に針路三-一-五(サンヒトゴ)へ向かう新たな反応アリ、速度はおよそ二五ノット、敵味方識別装置(IFF)への応答なし、反応は四つ、艦種は巡洋艦一、駆逐艦三と思われる」

 

 舞風は霧で見えないことをいいことに苦い顔を隠すこと無く――声だけは平静を繕って――艦隊内に通信した。

 

『こちらでも発見しました……巡洋艦は軽巡洋艦(軽い方)でしょうか』

『針路的には新知海峡ね、この感じは霧急行(フォグ・エクスプレス)ってところかしら、それなら軽巡洋艦(CL)になるわね』

司令部(HQ)より入電、哨戒中止、敵艦隊へ急行、これを撃破もしくは撃退せよ……とさ。反応が早いね』

『三日月でも捉えたのかしら……敵艦隊撃破ね、了解。全艦、単縦陣に変更、両舷第三戦速に増速の後、針路〇-四-〇(マルヨンマル)へ変針。行くわ』

 

 一番艦の駆逐艦暁の号令の元、陣形を変更した第五艦隊は敵の撃滅に向かった。霧の中での陣形変更だったが、流れるようなスムーズな変更だった。

 

 

――――――――

 

 

 霧の中、主機の音も無く、周囲は静まり返っている。第五艦隊は陣形を解き、水中聴音機ユニットを展開している三番艦の駆逐艦朝潮以外は、全員が暁の周囲に集まっていた。

 暁は片手に懐中時計を持ち、霧のために少し湿気た煙草を咥えつつ、その針の動きを黙って見ていた。他の艦娘は手持ち無沙汰に腕組みをしたり、脚を動かしたりしていた。

 そんな中、舞風はHUDをじっと見つめていた。HUDには単縦陣を作って北西の方角へ向かう四つの輝点が今も光っていた。

 

「だんちゃーく……今」

 

 暁が呟き、懐中時計の蓋をパチン、と閉じた。それと同時にHUDに映る四つの輝点の周囲にいくつもの輝点が踊り出し、HUDを派手な緑色に染めた。直後から輝点は一つ、また一つと輝きを失ってゆき、やがて全ての輝点が消えた。それと前後して遠くから複数の鈍い爆発音が連続して響いて来る。

 不安げな顔をしていた五番艦の駆逐艦夏潮、六番艦の駆逐艦巻波の顔が少し明るくなった。対照的に暁と敷波はまだ表情を崩さず、口を真一文字にしていた。

 

「魚雷直撃確認……敵反応全て電探から消失、全艦撃沈と推定され……るかな?」

 

 HUDを睨み、首を傾げながら舞風は暁たちに向かって言った。電探を完全には信頼出来ない以上、半信半疑だった。

 やったかしら、と口から煙を吐きつつ暁は呟いた。それは完全にダメなセリフだよ、と二番艦の駆逐艦敷波が苦笑いした。

 自然と全員の目が少し離れた場所にいる朝潮に向けられた。朝潮は、一音たりとも聞き逃さない、とばかりに目をしっかりと瞑り眉を寄せ、両手をヘッドホンに当てている。

 朝潮は暫くそのまま眉を寄せたり離したりしつつ難しい顔をしていたが、ヘッドホンから左手を離すと、舞風たちに向かって親指を上げ、その表情を崩し笑みを作った。

 

「複数、少なくとも七つの爆発音、それに後続して十数の爆発音を確認しました、そこからは完全に無音です。やりましたね」

「久々に珍しく上手くハマったわね、霧様々、かしら」

「まさに策士策に溺れる、かな、この霧に紛れてやって来たのに霧で魚雷が見なくてこのザマだもんね」

 

 懐中時計を胸元に入れ、暁が嬉しそうにニヤリ、と笑い、同じく笑う敷波と互いの掌を打った。夏潮と巻波は緊張の糸が切れたのか、大きく息を吐きながら両膝に手を当てた。直接戦闘を回避できたことへの安堵、砲火を交えること無く敵を完全に撃破できたことへの歓喜が入り混じっていた。

 舞風はHUD越しにその様子を眺めつつ、朝潮に向かって右手で作った握り拳を掲げた。朝潮はそれに気付くと、右手で同じポーズを取り、舞風に応えた。

 

「一応確認しましょうか」

 

 聴音機を格納し、再度電探を展開した朝潮が暁に向かって言った。

 

「勿論よ、手抜かりはナシ。全艦複縦陣、両舷第一戦速で行くわよ。何もないとは思うけど、油断しないでね」

 

 煙草を携帯灰皿に突っ込むと、暁と敷波を先頭に第五艦隊は敵残存艦の確認へ向かった。

 深海棲艦の燃料に引火したのか、海上で数ヶ所ちろちろと赤い炎が上がっている以外は何も、残骸の一欠片すらなく、周囲は平穏そのものだった。

 敵の撃滅を確信すると、敷波が司令部へ通信を入れ――暁の無線は出撃後に前触れもなく故障してしまい、隊内通信は可能だったが、司令部との通信が不可能になってしまっていた――第五艦隊は無事、母港の武魯頓湾に帰投した。

 

 

――――――――

 

 

 日照時間が不足すると、人は塞ぎ込みがちになる、という研究がある。その観点からすると、北千島は人間を暗くするには最適の環境だった。長く厳しい冬、霧が頻繁に立ち込める短い夏、そして大陸に比べて圧倒的に少ない日照時間と一年の三分の一近くに上る無日照日が、あらゆるものから明るさを奪い取らんと牙を剥いていた。

 人間はそれに抵抗した。火を焚き、明かりを点け、集まり、酒を飲み、語り、笑い、楽器を奏で、歌った。特に、音楽は重要だった。音楽は風音をかき消し、不安を忘れさせた。

 新知島基地では設置以来、あるユニークな試みがなされていた。それは定期演奏会であり、三ヶ月に一度、一般隊員と艦娘の合同で開催される、基地のレクリエーションの一つだった。

 演奏のメンバーは公平に抽籤で決められ、演奏者に選ばれると訓練を受けることになる。一般隊員の場合、『演奏手』として一部の通常課業から外され、楽器の練習することになる。それを羨む隊員も多く、『ボーナスステージ』とも言われていた。

 艦娘の場合も同様で、選ばれた艦娘は第九艦隊に配置換えされ、その間は一部の出撃任務が楽器の練習へと変更される。第九艦隊という名前を捩って、艦娘の間では『歓喜艦隊』や『喜び艦隊』と言われていた。

 次期の演奏者は演奏会の二週間前に決定される。抽籤もイベントの一つだった。

 

 そして今、基地内では抽籤の結果が中継されていた。課業終了後にわざわざ基地司令官室に中継機器を持込み、これまたどこから持ってきたのか不明な大小二つの抽籤器が――所謂ガラガラと呼ばれる多角形の木製の箱にハンドルが着いたタイプだ――基地司令室の大きな執務机に鎮座していた。

 カメラ慣れしているのか、笑顔でマイクを握りスラスラ軽いジョークまで飛ばす年若い広報官と対比して、齢五五となる基地司令の将補は未だカメラには慣れていないのか少し緊張した顔をしていた。

 

「今度は誰かなー」

 

 その様子を流す食堂に設置されたテレビを見つつ、舞風は呟いた。帰投した後、艤装や主機の点検などの帰投後の細々とした業務を処理すると、当初の予定からは少し遅れつつも夕食に間に合い、他の艦娘と共に食事をしていた。

 隣で同様に今日の夕食の一品、豆腐ハンバーグを食べていた朝潮は、舞風は何番だったっけ、と言った。

 

「あたしは、えー……二〇……あー、二五番、だったかな、確か」

「私は一三番……と、始まったわね」

 

 広報官が前口上を終え、「では、今回の抽籤を始めましょう!」と合図すると、基地司令はまず大きい抽籤器のハンドルを握り、徐ろに回した。ジャラジャラ、ガラガラと中の玉が触れ合う音がし、そして一つ白い玉がポトリ、と落ちた。

 広報官が玉を持ち上げ、カメラの方に向ける。25、という数字が映しだされた。二五番です、さてどなたでしょうか、と広報官はいつの間にか手に持っていた名簿と思しきリストを確認していた。

 

「ええっ! あたしじゃん!」

 

 舞風は思わず箸で掴んでいたミニトマトを滑り落とした。落ちたミニトマトが食器の縁に当たり、軽い音を立て、ミニトマトは机を転がった。舞風は慌ててミニトマトを追いかけ、机の端で捕まえた。それを見て朝潮は大きく笑った。

 

「またベタな……早とちりしすぎ、ほら、画面見て。まだ隊員さんの方よ」

 

 朝潮は目の端に涙まで浮かべてなお笑っていた。画面には若い隊員の顔写真が――名前と同時に表示されていた所属情報によれば基地陸上警備科の隊員だ――表示されている。

 

「おー焦ったー、いやーびっくりしちゃった」

 

 舞風は何とか地面に落とさずに済んだミニトマトを口に入れ、ウィンクしつつ照れ笑いした。

 中継の方に目を向けると、ちょうど三人目の抽籤が終わり、四人目の抽籤に入っていた。画面左には誰が当籤したのかを先程と同様に名前と所属、そして顔入りで表示していた。そのまま四人目の抽籤も終わり、大きい方の抽籤器が机から退場すると、小さい方の抽籤器が基地司令の前に置かれた。

 

『では、次は艦娘の抽籤に移りましょう!基地司令、お願いします』

 

 頷いた基地司令がハンドルを回す。舞風と朝潮は箸を止め、その様子をじっと見つめていた。周囲で食事をしていた艦娘も同様にテレビに顔を向け、食堂は一時静寂に包まれた。全員、さあ何が出るか……とその回転を待つ。

 抽籤器は一回転した。何も出てこなかった。舞風も朝潮も、他の艦娘も同時にずっこけた。

 

『あー基地司令、早いです。ちょっと早く回し過ぎです。もう少しゆっくり回してください』

『早すぎたかね?』

 

 実はこういった抽籤器は――と広報官がこの日の為に仕入れたのであろう豆知識をカメラに向かって披露する後ろで、やってしまった、というように苦笑いして基地司令は頭を掻いた。

 

「そんな小ボケいらないってばー」

 

 舞風は聞こえないことをいいことにテレビに向かって野次った。周囲からも笑いと野次が寄せられた。

 そんなことは露知らず、基地司令は広報官の合図で再度ハンドルを回す。今度はさっきと比べてかなりゆっくりだった。無事、赤い玉が外に出た。

 玉を持ち上げた広報官は、おや、と意外そうな顔をした。カメラに向けた玉には、25と数字が白抜きされて刻まれていた。

 

『珍しいですね、こちらもトップバッターは二五番です!あー二五番は……第五艦隊、駆逐艦舞風!』

 

 舞風は「ええーっ! 結局同じじゃんかー!」と声を上げ、脱力したように椅子の背もたれに寄りかかると額に手を当て、天を仰いだ。朝潮は「舞風、『喜び艦隊』おめでとう」と再び――今度は腹を抱えて――大笑いしながら声をかけた。

 画面には遅れて舞風の名前と所属部隊名、それに顔写真が挿入されていた。よく見ると、挿入にエフェクトが施されていたりと、スポーツ中継のような凝った作りだった。

 その間も次の抽籤が行われていた。抽籤器から赤い玉が再び現れる。

 

『次は一三番!えーこちらも第五艦隊、駆逐艦朝潮!以上二艦になります!』

 

 今度は朝潮の笑顔が凍る番だった。舞風はこれまた腹を抱えて涙が出るほど大笑いした。その様子を見た周囲から――よく見ると暁や敷波を始めとする第五艦隊員もいた――ドッと笑いが漏れた。

 

『では当籤した隊員は後ほど一九三〇(ヒトキュウサンマル)に基地司令官室へ出頭するように、艦娘の方は……えー共に基地にもう戻っているようだな、同様に出頭するように。ではこれにて抽籤会は終了。二週間後の演奏会をお楽しみに』

 最後に基地司令自らマイクを握り、そうして中継は終了した。

 

 




冒頭で舞風が演奏していたのはアイリッシュ・トラディッショナル、所謂(本当は厳密に言えば違うのですが)ケルト音楽のチューンと呼ばれる曲のセットです。何曲かが自由に組み合わさって一つのセットになります。
演奏者によりますが、長いものだと優に20分を超える長さになったりします。
一概にこの曲、とは言えませんが、たまにキッチリとした終止がなく、いきなり終わったように感じるような曲もあります。ダンスチューンなどを聴いていると出会ったりします。

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