勇儀姐さんが強すぎて話の構築が辛い
※一部の言葉を修正
ウソップは村から離れた海辺で一人、遠くの海を眺めていた。
周りの雑音は聞こえず、ただ波打つ音が辺りに響く。
(・・・・・・まさか手を出しちまうとは・・・)
ウソップは先ほどカヤの前でクラハドールを殴りつけたことを多少なりとも後悔していた。
クラハドールはカヤに仕える執事であり、彼女に尽くしているのは自他共に認める。村の住民全員に聞いてもそうだと肯定が返ってくるだろう。
彼がカヤを障害から守るために海賊の息子である自分が屋敷に近づかないように言ったことも理解はしていたが故になんとも言えない感情がウソップの中に存在していた。
「すぐに町に戻る気も起きねぇし・・・どうしようかな・・・」
「よっ。ここに居たのか!」
「ぶっ!!何だてめぇか!普通に声をかけろバカ!!」
突如眼前に逆さまになったルフィの顔が現れたことで驚いたウソップ。近場の木から降りたルフィは先ほど氷解していた疑問を投げかけた。
「
「・・・・・・・・・・・・え!?お、お前何でおれの親父を知ってんだ!?」
ルフィの口から自分の父親の名前が出てくるとは思わなかったウソップは理由を問す。そして“赤髪のシャンクス”の船に乗っていることを知って人生で一番驚いた。自分の親が世界に名を馳せる大海賊の幹部になっていると知れば誰だって驚くだろう。
幼少期の頃にルフィはフーシャ村にてシャンクス達と出会った。そこでの事故でルフィはゴム人間になり、海を泳げないカナヅチになってしまったのだ。
シャンクス達がフーシャ村に滞在していたとき、ウソップの父親であるヤソップから息子の話を飽きるほど聞いていたこともあって、ウソップの事に気づけたのだった。
「ヤソップは立派な海賊だった!自由に生き、自分に嘘をつかない立派な男だったよ」
「・・・だろう!?果てがあるのかもわからねぇこの広大な海へ飛び出して、命をはって生きている親父をおれは誇りに思っている。もういねぇけどおれの母親も親父を誇りに思ってたんだ!・・・なのにあの執事は親父をバカにした・・・おれの誇りを踏みにじったんだ!!」
「あいつはおれも嫌いだ!でもお前、あんなこと言ってたけどお嬢様の所へはいかねぇのか?」
「・・・・・・・・・さァな・・・あの執事がさっきの言葉に関して謝罪をしに頭下げてきやがったら行ってやってもいいけどよ」
「・・・あの執事が?」
「そうそう。あの執事あの執事・・・なんでここにあの執事がいんだァ!?」
ルフィが崖の下を指さす先には話題に上がっていたクラハドールの姿があった。村に住むウソップでも見かけないという男と一緒にだ。カヤに付きっ切りだった執事がなんの理由もなくこんな人がほとんど来ない場所に来るはずもないために二人は身を隠しながら話を盗み聞きすることにした。
―――――――――――
「おい、ジャンゴ。この村で目立つ行動は慎めと言った筈だぞ。村のど真ん中で堂々と寝やがって」
「ばか言え。一体どこが目立ってたんだよ。あと俺は変でもねぇ。」
「・・・
「当然だろ。だからこそ俺はここにいるんだぜ?いつでもいける“
「
「あぁそうだった事故・・・!事故だったな“キャプテン・クロ”」
―――――――――――
カヤに仕えてきた男の口から出てきた発言にルフィはともかくウソップは息を飲んだ。ジャンゴと呼ばれた男がクラハドールのことを“キャプテン・クロ”と呼んだのである。ウソップはその名前に心あたりがあった。
“キャプテン・クロ”またの名を“百計”のクロ
どんな略奪でも緻密に計算された行動で足を掴ませない手腕と目的のものを得るためなら手段を厭わない残虐性を兼ね備えたクロネコ海賊団の船長。
そんな彼も3年前に海軍に捕まって処刑されたという話なのだ。それが生きているというのは驚愕する事実だろう。
「・・・おい、あいつら何言ってんだ?」
「・・・・・・そんなことはおれが聞きてぇよ。でもキャプテン・クロってのは知ってる。でもあいつは3年前に海軍に捕まって処刑されたと聞いたぞ・・・!」
「
「当然くれてやる。だがそれは計画がしっかりと遂行されて、何の問題もなかったときだ。今回の計画はただ殺せばいいって問題じゃない。カヤお嬢様はあくまでも
キャプテン・クロと呼ばれたクラハドールは計画の重要性をジャンゴに言い聞かせる。
彼がこの村に来る3年前から計画は進んでいたのだ。
周りの人間から信頼を獲得し、カヤお嬢様を慕い、仕えていたという実績を残した。病弱なカヤがもし海賊に襲われるという
シロップ村がたとえ海賊によって壊滅していても、
海軍にも賞金首にも狙われずに大金を自分の元に収める準備は最終段階へと移っていたのだ。計画の要であるジャンゴ率いるクロネコ海賊団も準備を終えている。あとはクラハドールが合図を送るだけ。
「・・・やべぇ!なんてやべぇ事を聞いちまったんだおれは・・・!!」
「おいウソップ。一体何なんだ?なんかやばそうだな」
「(お前も一緒に聞いてただろうが!仲間を身代わりにしてまで計画を進めてきたってのか・・・!?やばい、やばすぎる・・・
「・・・・・・」
ウソップの解釈を聞いてルフィはそのまま立ち上がった。
当然見つかることを危惧したウソップは伏せるように言い聞かせるがそのままルフィは下で話している二人に聞こえるように大声で言い放った。
「 おい お前ら!!お嬢様を殺すな!!! 」
「「!!!」」
(・・・今は隠れてやり過ごすのが普通だと思っていたが・・・やっぱりルフィはその常識の枠に収めてはいけないね)
クラハドールことクロとジャンゴの会話を聞いていたのはルフィとウソップだけではない。好奇心でなんとなくついてきていた勇儀も隠れて話を聞いていた。クロ達がルフィ達に意識を向けている隙に勇儀はその場を離れてウソップ達の元へ向かう。
そしてルフィ達の元に到着すると同時にルフィが崖から落ちていった。
「・・・・・・え?」
「おい!!お前っ!大丈夫か!?」
「あーあー・・・殺すつもりはなかったんだがな・・・完全に頭から落ちやがったな。この高さだ。首が完全にイッちまってもう助からねぇだろうな。・・・どうするクロ?もう一匹殺しとくか?」
「必要ない。あいつがどう騒ごうと無駄なことだ」
突然ヒモ無しバンジーを決め込んだルフィに唖然とするがルフィは“ゴムゴムの実”を食べたゴム人間。あの高度で落ちたとしても死にはしない。クロ達もルフィが能力者であるという考えが頭にないため、落下死したと思い込んでいる。勇儀は見つかると面倒になると判断し、近くの木に身を隠した。
「明日の朝に計画を決行する。夜明けと共に村を襲え。村の民家も適度に荒らしてあくまでも事故を装ってカヤ
「わかった」
「・・・!!明日・・・」
「聞いたかいウソップ君?今君が聞いた通り実行させてもらう。君が私たちの話をどれだけ聞いていたとしても、私の計画が揺らぐことなど在りはしない」
「っ!・・・くそっ!!うわぁあああ!!」
「・・・おいおい大丈夫なのか?村で俺たちのことをばらされでもしたらたまったもんじゃねぇぞ?」
「心配ない。彼がどれだけ喚こうとも、おれの計画は狂わない」
ウソップが何を言おうと何をしようとも計画が狂うことはない。そう断言するクロにウソップはその場を離れて一刻も早くこの事を伝えるべく走りだした。それを見たジャンゴが本当に大丈夫なのかとクロに聞くが返ってきた答えは問題ないだった。
「村が誇る一番の嘘つき男が何を言おうと誰も信じることはない。計画は言った通りに進める」
例え彼が事実を村人につきだそうとも村人が彼を信じるようなことは万に一つも在りはしない。ウソップを処分するより、彼が事実を行ってくれるほうが計画は円滑に進む。そう判断した男はジャンゴと別れ、屋敷へと悠々と戻っていった。
「やばい!大変だっ!俺が育ったこの村のみんながっ!カヤがっ!!全員殺されちまうっ!!おれはみんな大好きなのにっ!!この村が大好きなのにっ!!」
「そうかい。ならちょいと待ちな」
「えっ・・・そげぶっ!!?」
駆けるウソップを掴んで強引に止める。
村で嘘つきと称される彼を向かわせても誰も相手にせず、逆効果をもたらしてしまう。クロが彼を逃がした理由も大方それが理由だろう。
「・・・っ!お前っ!なんで邪魔をするんだ!あいつらの仲間かよ!!」
「落ち着いて冷静になって考えな。クロとやらがあんたを逃がした理由を頭に思い浮かべるんだ。そうすりゃ私があんたを止めた理由もわかる」
「・・・・・・っっ!!」
勇儀がウソップを止めた理由。それはウソップ自身が一番わかっていた。ただクロの激変とその計画に冷静さを欠いていたのだ。日頃から嘘をついて生活していたウソップは今日ほど今までの自分を恨んだことはないだろう。日頃の態度がそのまま自分に返ってきているのだ。
「・・・だが・・・だがよ・・・おれはこの村を守りてぇんだ!はやくしねぇとカヤや村のみんなが殺されちまう!」
「それをさせないために動くんだろう?あんたが村全体を混乱に落としてどうすんだい?それこそ被害が大きくなるだけさ。あの男は少なくとも夜明けまでは動かない。ならあんたはルフィ達と共に迎撃の準備でもしてな。あいつらは他のやつらよりもだいぶ強いからね。手を貸してくれるはずだよ」
「・・・お前も聞いていたのか・・・。あんたはどうするんだよ!それにルフィはさっき落ちて死んじまったぞ!」
「ルフィはゴム人間だからあの程度の高さは死なないのさ。おそらくまだ寝てるんだろう。そして護衛するには気配を消せる奴が最適さね。私がカヤや村の住民を守ってあげるよ。・・・感謝しなよ?私が嘘つきさんに手を貸すんだ。情けない姿晒すんじゃあないよ?」
勇儀はそのまま跳躍し、村へと向かう。
目的地は元凶がいる屋敷の屋根の上。そこでいつでも行動を移せるように辺りと
「・・・・・・・・・!!」
対するウソップも勇儀の言葉を信じてその場から駆け出す。ルフィの元へだ。
偽っていた男の計画を聞いて手を貸すと言ってくれた女性。勇儀の実力を知らないウソップからすれば止めろと言いたくなる提案のはずなのだが、彼女がいうと否定よりも先に安堵の感情が入り込んできた。
この人が言うなら大丈夫
そんな感情を持たされたウソップはすでに姿が見えない勇儀を止めるのをやめ、彼女の言葉を信じてルフィの元へと向かっていく。ウソップが辿り着いた先には先ほどと全く変わらない姿勢のルフィがいた。近づいてみると彼女が言った通り、寝息を立てながらだ。
何とかルフィを叩き起こそうとしているとルフィの仲間であるゾロとナミが合流。どうやら勇儀が伝えたようでウソップ海賊団の子供たちもついてきていた。
昼が過ぎ、夜がやってくる。計画が実行されるという夜明けまでの時間はあとわずか。ルフィ達はどうするのかを思考していた。
「おれは村のみんなに日頃からウソをついて生きてきた。・・・そんな俺が村のみんなにこのことを言い回ったとしてもみんなから信じてもらえるはずがなかったんだ。お前らの仲間に諭されなけりゃおれは村へ行って叫んでたよ・・・おれが甘かったんだ!」
「そう言っても結局海賊は本当に来ちゃうんでしょ?あの勇儀がそう言うんだから私も来たのよ」
「ああ、間違いなくやってくる。でも当然村のみんなはこのことを知らねぇ。誰一人としてこの村に海賊が襲ってくるなんて思っちゃいない!明日もいつも通り平和な一日が来ると思ってる!だからおれはこの海岸で海賊共を迎え撃ち!この一件を本当になかったことにする!!ウソつきで村のみんなに真実が伝えられないのなら、その事実自体を嘘にして無かったことにするのがおれの通すべき筋ってもんだ!!」
「「「キャプテン・・・」」」
「そっか。おれ達も加勢するぞ」
「・・・言っておくけどアイツらの宝は全部私のものだからね。絶対渡さないわよ」
勇儀が言った通りルフィ達はウソップの話を聞いて手を貸すと言う。出会って間もないルフィ達が力を貸してくれることに信じられないウソップであったが本気なのだとわかると自然と涙が溢れてきた。
だがその涙を隠すようにウソップは彼らに背を向ける。そしてウソップ海賊団の三人に帰るように促したのだった。
「...どうやらあの男は村を捨てて逃げだしたようだな」
ウソップにジャンゴとの会話を聞かれたその日の夜。クロは屋敷に設けられた自室でその事実を意外だと受け止めていた。
あの男はあの男なりの思い入れがあるのだと予測。自分が海賊を差し向けていることを村の住民に向かって叫びだすのかと思っていたのだが、そのようなことは一切起きなかった。
恐らく誰も信じてくれないことを理解して逃げ出したのだろう。あの男が騒いでくれれば好都合だったのだがどちらにせよ計画に影響はない。
「ククク・・・もうすぐだ。もうすぐ俺の元に大金が転がり込んでくる。実に楽しみだ」
黒猫は夜道を照らす月を眺めながら笑い始めた。
「ジャンゴ船長、起きてください。もうすぐ夜明けになりますジャンゴ船長。そろそろ起きてください」
黒猫海賊団の船員が寝ている船長を起こすために扉を叩く。軽く返事が聞こえた後に扉が開き、ムーンウォークをしながら船長であるジャンゴが出てきた。
「あ、船長おはようございます」
「船長おはようございます」
「バカヤロウおめぇら。『おはよう』って言葉はな、朝日とともに言うのがおれのポリシーなんだ。今はなんだ?まだ月も落ちねぇ真夜中だぞ?」
「そ、そりゃ失礼を!」
「・・・・・・わかったならそれでいい。野郎共!おはよう!!」
((((えぇええ・・・!))))
朝日とともに言うジャンゴであっても、起きたなら定型文を言いたくなるのだろう。先ほどの自分の言葉など知らないとでも言うように挨拶をしたジャンゴにショックを受ける船員たちであったがそれもすぐに歓喜の声へと変化する。
「随分待たせたな野郎共!漸く出航だぁ!!」
「「「「オオオ―――――っ!!!」」」」
計画がついに開始した。1週間の間動くにも動けなかった彼らはこの時を待ちわびていたのである。
無防備に存在する村を根こそぎ奪うべく、黒猫の船は移動を開始したのだ。