星熊童子とONE PIECE   作:〇坊主

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星熊童子と長鼻狙撃手 1

 

 

「・・・流石にこのままじゃ無謀だわ!」

 

 

 ガイモンと別れて航海中。ナミは何を思ったかそう言った。

 

 

「何が?」

 

「このまま偉大なる航路(グランドライン)へ入ること!」

 

「確かにな!この前おっさんから果物たくさんもらったけどやっぱ肉がないと力g」

 

「食料の事いってんじゃないわよ!」

 

「確かに酒を好きに飲めねぇってのもなんかつれぇしな」

 

「飲食から頭を離せっ!」

 

 

 とにかく頭の中が食べ物だらけな男二人にナミが叫ぶ。

 酒は勇儀の伊吹瓢から得られるのだがゾロは質よりも量を取るようでかなり飲まれてしまうため、勇儀が飲む量を制限しているのだ。それもあってゾロの頭の中は酒のことで頭がいっぱいだった。

 

 

「いい?私達の向かってる偉大なる航路(グランドライン)は世界で最も危険な場所なの。全員が“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を求める以上、その場所は私たちが想像もつかないような強力な海賊たちが蠢いている。当然こんな小舟じゃなく、強力で頑丈な船に乗ってね。船員の頭数にしてもあんたら3人じゃ少なすぎるし、この船の装備の無さとも相まって偉大なる航路(グランドライン)に入って無事でいられるとは思えないわ」

 

「それは一理あるねぇ。偉大なる航路(グランドライン)の海賊たちはバギー一味のような船よりももっと大きなものに乗っているだろうし、シャンクスの船も実際大きなものだったからねぇ」

 

「・・・ん?お前シャンクス知ってんのか?」

 

 

 シャンクスの単語に反応したルフィが聞いてくる。

 自分の宝物の本来の持ち主の事はやはり聞きたいのだろう。

 

 

「そういえば勇儀。あんたルフィの帽子が傷つけられたときにかなり怒っていたわよね?そのシャンクスって人は・・・・・・ん?シャンクス?」

 

「おうさ。赤髪で海賊旗を掲げててねぇ。一度戦い(やり)あった仲さ。シャンクスとの闘いは楽しかったねぇ・・・」

 

「ちょっと待って。いやほんとにちょっと待って!シャンクスってあの“赤髪”のシャンクス!?」

 

「ん?ナミもシャンクスの事を知ってんのか?」

 

「知ってるも何も“赤髪のシャンクス”はかなり有名な大海賊(・・・)!!東の海(イーストブルー)でも名が通っているぐらいよ!!そんな大物と戦ったってどういうことよ!!」

 

 

 “赤髪のシャンクス”は前回戦ったバギーよりもはるかに有名な海賊として名を馳せているらしい。

 世情に疎いルフィや勇儀はそのことに感心しつつも本人を知っているため、素直に納得していた。

 

 

「どうもなにも言った通りさ。一日の間だけだったが真剣(ガチ)でやりあって、その後に酒を飲んで好敵手()として語り合ったよ。今度出会ったらまたやりたいねぇ」

 

「“赤髪”にそんな感情持てるってどんだけよあんた・・・」

 

「だからシャンクスの事知ってんだな!ししし、まだ会うわけにはいかないけど、おれもシャンクスに会いてぇ!」

 

「あんたもまったく・・・それと勇儀はシャンクスと戦えるほど強いのになんでルフィと一緒に航海してるのよ」

 

「なんでも何も誘われたからさ。シャンクス達は何か調べものがあったようだから何もなかったけど、ルフィは純粋に仲間として接してくれたからねぇ。私が認めた船長(キャプテン)船員(クルー)として迎え入れられたんだ。覚悟がなきゃ人として廃るってものさ・・・っとと、大陸が見えてきたねぇ」

 

 

 海図通りに進んだことで大陸が前方へ見える。

 今回の目的地であった場所 シロップ村。食料は当然のこととして多少の物資を船に積むのが今回の目的だ。

 

 船を近くの海岸へと寄せて波に攫われないように杭をした後、地面へと降り立った。ここ何日かは海上で過ごしていたことで久しぶりの地面である。

 

 

「ふーっ。久しぶりに地面に下りた」

 

「お前航海中はずっと寝てたもんな」

 

「うるせぇ。それよりさっきから気になってたんだが・・・あいつらだれだ?」

 

 

 ゾロの視線の先にはこちらを見下ろす4つの視線。鼻が長い男と子供と思われる三人組だった。最も子供たちはすぐに逃げ出してしまったために長鼻の男が取り残されることになってしまったので実質一人だ。

 

 

「・・・・・・おれはこの村に君臨する大海賊団(・・・・)を率いるウソップ!人々はおれを称えて“わが船長”キャプテン・ウソップと呼ぶ!この村を攻めようという浅はかな考えがあるならやめておけ!おれの八千万の部下共が黙っちゃいないからだ!!」

 

「うそね」

 

「んなっ!?ばれた!!」

 

「ほらばれたって言った」

 

「言っちまったァ~~~っ!!おのれ策士め!」

 

 

 初見のナミに嘘を見抜けられて嘆くウソップ。おそらくナミが乗ってきた帆がバギー一味の物のままなので私達がバギー一味であると勘違いしているのだろう。偵察として高台で監視していたがあまりにもバレバレであり、すぐに見つかってしまったために虚勢を演じた・・・と。

 

 

(・・・虚勢のためであっても嘘は嘘・・・だが守るために出た嘘って感じだね)

 

「はっはっはっは!お前面白ェなーっ!」

 

 

 せっかくの虚勢もすぐにバレてルフィに笑われる。

 海賊旗の事を話してバギー一味ではないことを理解させるとウソップは近くの飯屋へと案内してくれた。

 

 

「仲間とでかい船を探してるのか・・・まァ大帆船ってわけにゃいかねぇが、この村で船を持ってるのはあそこ(・・・)しかねぇな」

 

「あそこって?」

 

「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒立ってるんだが、そこの主だよ。でも主と言ってもまだいたいけな少女。それも病弱で寝たきり娘さ・・・!」

 

「え?どうしてそんな()がでっかいお屋敷の主なの?」

 

「おばさん肉追加!!」

「酒を頼む」

「このランチの追加を頼んだよ」

 

「てめぇら話聞いてんのか!!?」

 

 

 一切話を聞いていなさそうなルフィ達に怒鳴るウソップ。勇儀は食べながら話を聞いているがルフィとゾロは食べることに熱中している。怒鳴ったところで効果はないだろう。

 

 

「・・・もう一年くらい前になるかな、病気で両親を失っちまった。可哀そうに・・・手元に残ったのは莫大な遺産とでかい屋敷、そして何十人の執事たち。どんなに金があって贅沢できようと、両親を失うこと以上の不幸な状況はねぇよ」

 

「そう・・・…。止めね。この村で船のことは諦めましょ。ここじゃなくて別の町か村をあたればいいわ」

 

「そうだね。別に急いでいるわけでもないから問題ないね」

 

「だな。肉も食ったし、いっぱい買いこんで次を目指そう!」

 

「・・・ところでお前ら、仲間を探していると言ってたな!」

 

「そうだ。心あたりがあるのか?」

 

 

 ルフィの至極真っ当な疑問にウソップはキメてこう言った。

 

 

「おれが船長(キャプテン)になってやってもいいぜ!!」

 

「「「「ごめんなさい」」」」

 

「はえぇなおい!!」

 

 

 4人が揃っての即答に流石のウソップも驚愕せざるを得なかった。

 4人揃って初めての一致団結だったのかもしれない。

 

 しばらく食事を続ける4人を置いてウソップは時間だと言って退席していった。

 何か用事があるのだろう。出されたものを食べ終えてどうするかを話し合っていると飯屋の扉が勢いよく開かれる。ウソップ海賊団と名乗る先ほど逃げ出した少年たちだ。

 ルフィとゾロが軽く脅かし、そしてなぜかナミを見た少年たちは気を失ってしまったのだが、少し経つとそのまま復活を遂げて普通に接してくる。ウソップは先ほど話に上がっていた病弱な少女に会いに言った様子。

 

 

「ウソップはその屋敷に何しに行ったんだ?」

 

うそつきに(・・・・・)!」

 

「だめじゃないか・・・」

 

 

 理由に勇儀は呆れるがどうやらただ嘘をつきに言ったわけではないらしい。ただ嘘をつくわけでなく、相手もそれを理解して話を聞いている様子。

 

 

「へーじゃあお嬢様を元気づけるために1年前からずっとウソつきに通ってるんだ」

 

「うん!」

 

「おれはキャプテンのそんな“おせっかい”な所が好きなんだ」

「おれは“しきり屋”なとこが好きなんだ」

「ぼくは“ホラ吹き”なとこが好きだ!!」

 

「とりあえず慕われてることはわかった」

 

「人の好意はそれぞれってことかねぇ」

 

 

 日常的に嘘をついているらしいウソップであるが屋敷の少女に対して1年間も通い続けているのは好感が高い。だがその日常的に嘘をついてきたシワ寄せが来なければいいのだが…

 

 

「もしかして屋敷のお嬢様はもう元気なのか?」

 

「うん。この1年でだいぶ回復してきたんだ。キャプテンがずっと元気づけていたおかげで!」

 

「うっし!じゃあ屋敷に船を貰いに行こう!!」

 

「何言ってんの!さっき諦めるって言ったばかりじゃない!」

 

 

 そんなナミの制止もいに変えさずルフィは屋敷へと進んでいく。ナミは嘆き、勇儀とゾロは諦めの境地だ。

 村に立つ豪邸は明らかに他の家とは違っていた。広大な敷地を有していて門までしっかりとついている。富豪とは聞いていたが実際に目の当たりにすると感嘆の声が出てしまう。

 

 ちょうど昼だったのか門番が不在の状況をいいことにルフィが門をよじ登って敷地に入り、ご丁寧に門を開ける。そんな行動をしたことで屋敷内の人間に気づかれてしまうのだがルフィ達が知る由もない。

 

 

「あははは。・・・で、その大きい金魚はどうしたの?」

 

「その時切り身にして小人の国へ運んだがあまりの大きさにまだ喰いきれないらしい。そしてまたもや手柄を立てたおれを人は敬意を表してこう呼んだんだ」

 

「「「 キャープテーン!! 」」」

 

「そう!キャプテン・・・ゲッ!お前ら一体ここに何しに来たんだ!」

 

 

 屋敷の主とウソップが楽しそうに話している途中に割り込んだルフィ達。ウソップはこの場所にルフィ達が来たことに驚いた。屋敷の主 カヤ は自分へ頼みがあるというルフィにその頼みを聞こうとしたのだが…

 

 

「そこにいる君達!屋敷の中で一体何をしている!!」

 

 

 眼鏡をかけた如何にも生真面目で頭が固そうな執事がこちらを見ていた。

 

 

「困るね。許可もなく勝手に屋敷に入って貰っては!」

 

「げっ、執事・・・」

 

「あ、あのねクラハドール!この人たちは」

 

「今は結構ですお嬢様。理由なら後でキッチリ聞かせて頂きます!」

 

 

 クラハドールという執事はカヤの言い分に一切聞く耳を持たずに帰るように促した。

 ルフィの船が欲しいという頼みを駄目だと即答で返されたことでルフィは落ち込んでいたがそれをゾロが宥めていた。正直敷地に不法侵入してくる見知らぬ人間に船という大きな物をくれと言われて渡す人間はいないと思うのだ。

 

 

「・・・!君は・・・ウソップ君だね?」

 

「・・・・・・!」

 

「君の噂はよく聞いているよ。村で評判だからね」

 

「あ・・・ああ、ありがとう。あんたもおれをキャプテン・ウソップと呼んでくれてもいいぜ。おれを称えるあまりにな」

 

「門番がよく君をこの屋敷で見かけるというのだが、一体何の用があってこの屋敷に入ってくるのかね?」

 

「それはあれだ・・・おれはこの屋敷に伝説のモグラが入って行くのを見たんだ!あまりの大きさにおれはそいつが本物だと確信したね。で、そいつを探しに・・・」

 

「・・・フフっ。全く・・・よくそんな滑らかにと舌が回るもんだね。ある意味で尊敬しよう。私は君の父上の話も聞いているぞ」

 

「何?」

 

 

 カヤを元気づけに屋敷に侵入していたと面と向かって言えないウソップは自分の十八番(オハコ)でもある嘘をついてその場をやり過ごそうとするが、クラハドールには通じない。

 勇儀自身も自分の身を守るために軽率な嘘をつくウソップに苛立ちを多少だが覚えたのだが、執事が言った言葉にその気もなくなったのだ。

 

 

「君は所詮ウス汚い海賊の息子(・・・・・・・・・)だ。そんな海賊の息子が何をしでかそうと驚くことはない。・・・が、これ以上ウチのお嬢様に近づくのはやめてくれないか!」

 

「・・・・・・・・・ウス汚いだと・・・!?」

 

「海賊の息子である君と主であるお嬢様とでは住む世界が違うんだ。侵入してまでお嬢様に接近してくる理由はなんだ?金か?いくらほしい?」

 

「・・・ちょいとあんた。いくらなん「言いすぎよクラハドール!!」ッ!!」

 

 

 クラハドールの言い分に声を上げたのは彼が仕えるお嬢様 カヤからだった。

 主の言葉に対して真実を述べているだけだと返すクラハドールはウソップを貶す言葉を続ける。

 

 

「君には同情するよ・・・君も恨んでいるのだろう?自分の家族を捨ててまで村を飛び出した“財宝狂いのバカ親父(・・・・・・・・・)”を」

 

「クラハドール!!」

 

「それ以上親父をバカにするな!!」

 

「・・・?なにを無理に熱くなっているんだ。君も賢くない・・・こういう場面こそお得意のウソ(・・)をつけばいいのに。本当は親父は旅の商人なんだ、とか本当は親父と血は繋がっていないとかね」

 

「ッッうるせぇ!!!」

 

 

 限界に達したウソップはクラハドールの顔面を殴りつける。嘘はつけど温厚なウソップを見てきたカヤや少年たちは驚愕している。

 

 

「おれは親父が海賊であることを誇りに思っている!!勇敢な海の戦士である親父の息子であることをおれは誇りに思っている!!確かにお前の言う通りおれはホラ吹きだ!だけどな!そんなおれが海賊の血を引いているというその誇りだけは、偽るわけにはいかねぇんだ!!!」

 

 

 ウソップが叫んだことは彼の中の信念。

 これだけは曲げないという“意地” 

 

 それを全員が聞いたのだが殴られて言われた本人は全くそれを受け止めようとせずにさらに海賊であるということで貶す。

 ウソップはさらにもう一度殴ろうとしたのだがカヤに止められ、そのまま屋敷から出て行ってしまった。

 

 

「・・・・・・!そうかあいつ・・・!思い出した・・・!」

 

 

 先ほどから頭に何かが引っかかっていたルフィは詰まりが取れてその疑問が氷解したのかウソップを追いかけて屋敷を出る。それに倣ってゾロたちも屋敷から退散していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇクラハドール。どうしてあんな言い方をしたの?私だって黙ってウソップさんと話をしていたのは悪いと思っている。だけどあんな追い返し方ってないじゃない!」

 

「もう3年前になりますか・・・私がこの屋敷にやってきてからあの日の事は忘れもしません・・・!」

 

 

 ウソップ達がいなくなって静かになった屋敷でカヤは仕えてくれている男 クラハドールに対応が悪いと責める。それを聞いてクラハドールは己の過去を語り始めた。

 当時居場所であった船を追い出され、そのまま路頭をさまよっていたところにカヤの両親に声をかけられたことなどを話す彼にとって、恩人の令嬢を守りたいだけなのだとカヤは感じた。

 

 

「・・・私もクラハドールには感謝してるわ。だけど誤解しないで。彼はとてもいい人なの」

 

「ですが!彼がいい人かどうかは別の話!」

 

「・・・・・・もうわからず屋!!」

 

 

 言い過ぎたと自分でも思っているようだがそれでもウソップのことを認めようとしない頑固者(クラハドール)に声を荒げるが、先ほどの険悪な空気はなくなっていた―――。

 

 

 

 

 

「・・・ただ嫌悪だけで言った言葉じゃないみたいだねぇ・・・」

 

 

 そんな会話を屋根の上で勇儀は聞いていた。

 ルフィ達に習って一緒に出ていくことも考えたのだが、クラハドールの過剰な反応と平然と他人を貶す姿勢に対して疑問を持った勇儀は屋根の上で気配を隠すことにした。勿論カヤがウソップとクラハドールの口論を聞いて落ち込んでいたら励まそうとも考えていたのだが、クラハドールの口から出た言葉で先ほどの対応の理由(わけ)を理解した。

 ただでさえ病弱なのに富豪の資産を持っているという背景があるとそれを狙ってくる輩が当然出てくる。それらから彼女を守るために執事は過剰に海賊のワードに反応するのだろう。

 

 盃を傾けながらルフィ達の元に戻るタイミングを計っていた勇儀であったのだが、クラハドールが一人で屋敷から出かけて行く。勇儀はそれに対して何の感情も抱かず、己の好奇心だけでついていくことにしたのであった。

 

 


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