綺麗なモーガンが出来ました
海賊王になる
他の人間が聞けば高らかに笑い出すであろうその宣言。
それを堂々と告げる眼前の男にゾロは唖然とするどころか自分に似たものを感じ取った。
自分よりも強かった少女と突然の死別。
そして心に誓い、強くなると約束したあの日を思い出す。
「ほら!お前の宝物持ってきたぞ!3本あってどれかがわかんねぇから全部持ってきたけど、おめぇの宝物はどれだ?」
「三本ともおれのだよ。…おれは
「そっか。なぁゾロ。ここで生きるために俺らと一緒に戦えば政府にたてつく悪党に成り下がる。悪党になって俺らと共に生き延びるのとこのまま処刑されて死ぬの、どっちがいい?」
いい笑顔でそう問いかけてくる麦わら帽子のゴム人間。
ふざけるなと思った。
自分の
だがそれよりもこんなところで死ぬわけにはいかない。
「悪魔の息子かァてめぇはよ・・・まァいい。目的を為すために、おれはこんなところでくたばってる暇なんて存在しねぇ。約束を守れずに死ぬくらいなら、無様にでも生き延びてやろうじゃねぇか!」
銃が効かないとわかって剣で切りかかってくる海兵8人を三刀流ですべて受け止め、動くと切ると威圧する。
「海賊にはなってやる・・・
「勿論だ!世界一の剣豪!海賊王の仲間なら、それくらいすごいやつになってくれないとおれが困る!!」
「・・・ケッ、言いやがる」
「うっし!しゃがめゾロ!ゴムゴムの…“鞭”!!」
ルフィの足が一気に伸び、ゾロが止めていた海兵をまとめて薙ぎ払った。
ゴムゴムの実を食べたゴム人間。己の体を自在に伸ばせるようになったこの能力は銃撃や打撃を無力化する。
斬撃を通してしまうのが痛いところであるが、遠距離武器の大半を無力化出来るこの能力はとても優秀だ。
「た・・・大佐!あいつらは我々の手にはおえません!」
「銃弾が効かないなんて無茶苦茶だ!」
「『悪魔の実』の保持者に、“海賊狩り”のロロノア・ゾロ・・・!勝てるはずがない・・・っ!!」
「情けねぇ奴らだ・・・そうかい、なら大佐命令だ。今弱音を吐いた奴ァ・・・いますぐ頭を撃って自害しろ」
「「「 !!? 」」」
「ここのトップは俺だ!その俺の部下に弱卒なぞ不要!存在する価値もない!命令だ、さっさと自害しろ!!」
「悪いが、させないよッ!」
「ッッ!?てめぇ・・・」
弱音を吐いた海兵を自害させる命令を出したモーガンに勇儀が殴り掛かる。
右手と一体化した斧で防がれはしたがその場から吹き飛ばして海兵達から距離をとることが出来た。
海軍に仇なす賊が自分たちを庇うように戦う姿を海兵たちが驚きながら見ているが気にせずに、それでいて巻き込ませないように適度に攻撃を行って邪魔をする。
「
「いんや、気にしねぇで思いっきりやっていいぞ勇儀」
「
片手に盃を持って酒を注ぎながらそう宣言する勇儀に対してモーガンは怒りが沸点に達した。
今から戦うと宣言しているにも関わらず盃に酒を注ぎだす行為は明らかに嘗めているととられてもおかしくはない。
「てめぇ何のつもりだ…!!」
「これは私なりの気づかいというやつでね。これから私は盃から酒を一滴も零さずに戦う。一滴でも零したら私の負けだ。どんな手を使っても構わないから、あんたは気にせずかかってくればいいよ」
「~~ッッ!!ふざけるなァぁぁああ!!」
自慢の斧を振り回して切りかかってくる動作を見聞色で見切り、動作を最小限に抑えて躱す。斧を躱し、蹴りを避け、体当たりを往なす。ちょくちょく攻撃を加えていることもあり、短い時間ではあったが一方的にモーガンが弄ばれているようにしか見えない。
「……お前といい、あの女は何者だ…?」
「勇儀か?…シシシ。勇儀はおれの夢をバカにせずに受け入れた、大切な
嬉しそうな声は戦闘中の勇儀の耳にも届いていた。
心底からそう思っているのだろうその声音に勇儀は若干の恥ずかしさを覚える。
「~~ッ!!てめぇ・・・俺を前にして余所見してんじゃぁねぇよ!!」
「おやおや、あんたからはそう見えたのかい?ならすまないねぇ」
薙ぎ払うように斧を振るうモーガンの攻撃を舞うように飛んで避ける。
傷は疎か髪一本すらも斬れていない現状にモーガンは躍起になっているようだ。
最も酒を片手に一切零さずに避けられ続ければ頭にくるのも当然なのだがそれは置いておく。
「ここで最も偉い俺に盾突いた罪は軽いもんじゃねぇ・・・てめぇもあそこにいる麦わらの小僧と共に葬ってくれる」
「さっきからあんたは権力だの偉いだの・・・それしか言葉を知らないのかい?」
「ほざけ小娘!!」
「おっと」
呆れる勇儀は振り下ろされた攻撃を避ける。
先ほどから軽くモーガンの攻撃をいなしているが、それはなかなかの芸当だ。バターを切るかのように鉄格子を切っていることから生身で触れてしまえば真っ二つになってしまうだろう。
自慢の切れ味であっても勇儀には届かないのが現実なのだが服が斬られるのが嫌なために勇儀はずっと避け続けている。それすらも防ぐ手段も持っているのだが、今の趣旨には合わないために使用していない。
「そぉら!」
「――ッ!?ぐぁ・・・!」
幾多の攻撃を躱した後、モーガンは地面に身体を叩きつけられる。
右腕を一体化した斧を振り回すことに意識を置きすぎていたモーガンの足を払ったのだ。
虚を突かれ、受け身を取ることも出来なかったモーガンは肺の息を全て吐き出す。それによって体を強張らせた。
「モーガン大佐が手も足も出ないなんて・・・!」
「あ、あの女どんだけ強いんだ・・・」
一方的な展開に海兵たちは唖然。賞金首にもなっていない女に恐怖の対象であったモーガンが負けるなど誰も予想出来なかっただろう。
勇儀は立ち上がろうとしているモーガンに近づいていく。
「ぐッ・・・くそが・・・」
「あんたがどれだけ権力を持っていて偉いとしてもね、あんたの権力程度じゃあ私の力には敵わない。そういうことさ。初心に帰って出直してきな」
腕に力を込め、勇儀が戦いを終わらせようとした時、
「待てぇ!!!」
制止する声に動きを止めた。
肩で息をしているモーガンは勇儀が背を向けたことで何とか起き上がったようだ。
声がしたほうを見るとモーガンの息子 ヘルメッポがコビーに向かって銃を向けている光景が目に入る。銃を構えつつも腕や足が震えているのがわかるため、人の命を奪うことが怖いのだろう。彼自身も撃ちたくはない、といったところか。
「こいつの命が惜しけりゃ動くんじゃねぇ!ちょっとでも動いてみろ?動けばこいつの頭が吹っ飛ぶぞ!!」
「ヘルメッポ様・・・・・・・・・・・・!!」
ゾロやルフィ、そして勇儀のような肝の据わった存在ではない少年に銃を向ける大佐の息子に困惑している。無関係とは言えないが一般市民にしか見えない少年に銃を向けていることが信じられないといった様子だ。
そんな銃を向けられているコビーだが、出会って短い間に度胸がついたと言えるだろう。
「ルフィさん!勇儀さん!僕は・・・あなた達の邪魔をしたくありません!!例え死んでも!!」
「「ああ。知ってるよ」」
コビーの覚悟を理解したルフィはヘルメッポに向かって拳を定め、後ろで斧を振りかぶっていたモーガンに対して勇儀は笑って“鬼”の能力を発揮させ、腕に力をこめる。
弾幕ではなく物理であるが原作からこの名前を拝借しよう。
―――ゴムゴムの・・・
―――光鬼・・・
「“
ルフィの拳がヘルメッポの顔面へと吸い込まれ、
「『金剛螺旋』!!」
勇儀の腕がモーガンの斧を打ち砕き、そのままアッパーの要領で空へと打ち上げた。
力を入れすぎたのかすこし空に滞空しすぎている気がするが気にしない。これはモーガンの恐怖からこの町が解放されたことを表す花火になったのだ。
空をしばらく飛んだ後、落下してきたモーガンを見て一気に海兵達が沸き立った。
「や、やったーーーーっ!!!」
「ついに、ついに解放された!!!」
「モーガンの支配が終わったんだァ!!」
「海軍バンザーイ!!!」
モーガンの圧政に苦しめられていた海兵達は喜び合い、一部は町の住民に知らせるために全力疾走していたほどだ。相当な喜びがあるのだろう。
成り行きでここまで来たとはいえ、ここまで喜ばれるとは思ってもみなかった。
「なんだ。上司がやられたのに喜んでやんの」
「・・・・・・本当はみんな・・・モーガンが怖かっただけなんだ!」
「・・・・・・っっ」
「っと。大丈夫かい?」
モーガンが倒れたことで完全に開放されたゾロは突然倒れそうになり、勇儀が支える。
心配して声をかけるがそれに応えるように腹から返事が返ってきた。
そこで勇儀たちはゾロが9日間の間何も食べていないことを思い出したのだった。
◇
「はァ食った・・・!流石に9日も食わなかったせいで極限だった!!流石に死にそうだったぜ」
「ふーん、じゃあどうせ一ヶ月は無理だったんだな」
「そんなおめェは何で空腹の俺より食が進んでんだよ。おかしいだろ、どんな原理でその腹に収まってんだ?」
「ルフィのおかげでいつも食料難だからねぇ。本当によく食べるもんだ」
「なんかすいません・・・僕までご馳走になってしまって」
「いいのよ!町が救われたんですもの!」
モーガンを倒して場所はおにぎり少女の宅に移る。
ゾロの空腹を訴える鳴き声を聞きつけて少女の母親は娘を助けてもらったことへの感謝と事実と異なった認識を持っていたことへの謝罪を込めてルフィ達に食事を振舞ってくれた。
町を解放してくれた英雄を一目見ようと窓の外から中を覗くものも多くあり、辺りは賑やかになっていた。
「やっぱりお兄ちゃんはすごかったのね!」
「ああすごいんだ。おれはこれからもっとすごい男になるぞ!」
「・・・それはいいとして、ここからどこへ向かうつもりなんだ?流石に今から向かう場所を決めるなんてことはねぇんだろ?」
「目的地は決まってる。“
「!!?また無茶苦茶すぎますよルフィさん!ゾロさんが入ってようやく三人目なんですよ!?そんな少人数で“
「そうは言っても“
「だろうな。おれは構わないぜ」
「2人ともですか合意なんですか!?僕はあなた達を心配して言っているんですよ!!」
机を叩きながら心配するコビーであるが、この家や家具が誰のものであるか忘れてはいないため、落ち着けとコビーを宥める。
机から立ち上がりコビーはルフィと向き合った。
「ルフィさん、勇儀さん。僕らは・・・出会ってつきあいは短いけど、友達ですよね!!」
「当然だろ?海軍になろが海賊になろうが、友達であることに変わりはないよ」
「まぁここで別れちゃうけどな。おれたちはずっと友達だ」
2人の肯定の言葉を聞いて改めて決意を表明するコビーは初めて出会った頃とは大違いだ。
コビーの中の信念がなんなのかはわからないが海軍に所属してからもやっていけるだろう。
「失礼する!」
そんな中で家に入ってきたのはこの町の海軍中佐。
そして彼の口から出てきた言葉は立ち去れという警告であった。
「なんだその言いぐさは!」
「てめェらだってモーガンの圧政になにも出来ずに従っていたじゃねぇか!」
「この人たちは我々の命の恩人だぞ!!」
恩を仇で返すような海軍の対応であるが、こちらは略奪などを行わない義賊のような存在であるとはいえ海賊。世界の治安を守ることを目的とした組織が賊に恩を受けるようなことがあってはならないのだろう。
「・・・行くか。おばちゃんご馳走さま」
「そうだね。二人とも体調には気をつけるんだよ?」
「・・・・・・」
それがわかっているのかルフィやゾロも何も反論せずに席を立つ。
三人が席を立ち上がり家から出ようとするのだが、コビーだけ出ようとしないことに中佐は疑問の声を上げる。
コビーの一人立ちに三人は背を向けて聞いていた。
「僕は、僕は!彼らの仲間じゃありません!!」
不運で海賊になっていた少年はこの場で独り立ちする。
意識せずに三人は口元が笑っていたのだろう。
「待ちたまえ君達!・・・彼が言っていることは、本当かね?」
中佐は足を止めさせて、言及する。
何を思ったかルフィはコビーがアルビダ海賊団の元で下っ端として動いていたことを言おうとして、途中で止めさせられた。
「やめてくださいよ!!!」
コビーがルフィを殴りつけたのだ。
その後すぐに数倍にして殴り返していたのが大人げないというかなんというか。
「止めたまえ!!君らが仲間じゃないことはよく理解した!即刻この町から立ち去りなさい!!」
だがこんなサル芝居を打ったことも価値があったようだ。
三人が家から出ていった後、コビーは海軍に入りたいと頭を下げ、それを許諾された。これからの将来はコビー自身が決めるのだ。
船を出す準備を終えて、この町から出航しようかというところでコビーが私たちを呼ぶ。
「ルフィさん!勇儀さん!本当に、ありがとうございました!この御恩は一生忘れません!!また会いましょう!!」
礼をしているのがコビーだけでないことに気づいてルフィは笑い、ゾロは皮肉を垂れる。勇儀は何も言葉には出さないが酒を飲みつつ、片腕を上げて返事を返していた。
この場にいるのが一人ではないことをコビー自身は気づいていないのだろう。
全員敬礼!!!
コビーの背後で一斉に海賊に向かって敬礼する全海兵の姿がそこにはあった。その背後には海軍の意図がようやくわかった住民らも自分たちの船出を祝福している。
海兵を含めた町の全住人が海賊の船出を祝う奇妙な光景は、海賊が海の向こうに姿を消すまで止むことはなかった。
「いい友達をもったな」
海賊の姿が見えなくなったところでコビーに中佐が声をかける。
彼もルフィがサル芝居を打っていたことには気づいていた。だがモーガン大佐がいなくなり、実質この町の安全を守るトップとなった彼は彼らの考えを汲み取って乗ることにしたのだ。
「先ほどの敬礼は海軍軍法の規律を犯すものである。よって全員これから一週間はメシ抜きだ!」
「「「「はっ!!!」」」」
海賊の中でも異質な存在感を持ったルフィ達をこの町の住民たちは忘れることはないだろう。
彼らに今後どれだけ懸賞金が掛かったとしても、彼らの中では町を救った英雄ということには変わりがない。
恐怖から解放されたこの町は、今までの数倍の活気を宿した平和な町へと生まれ変わったのである。
その一方で牢獄の中に入れられたのは大佐であった男。
自慢の戦斧も粉々になっており、ただの凶器に成り果ててしまっているが男はそれをまじまじと見つめていた。
「――――・・・・・・くそが・・・全く・・・なんで俺は忘れていたんだろうな・・・」
鎖につながれ、身動きが取ることが出来ない男はかつての自分が背負っていたモノを思い出していた。
否、思い出されたと言った方が正しいのだろうか。
思い出すは3年前。今ではすっかり勢いをなくした海賊団。死んだと
そう負けたのだ。
偽物の船長を本物と思い込まされ、捕らえたことを評価されて昇進していった。催眠術にかかり、本物だと思い込んでいた自分はそれを誇っていたのだ。
しかし、一角の女に殴られて思い出した。ショック療法に近いものだろう。
自分は良い様に踊らされた。偉いと思っていた権力も虚構の礎であったのだ。道化を演じていただけの己に気づいてしまった。
海賊に利用され、それで得た権力を振りかざす自分など偉いなんてものではない。ただの愚か者だ。
悔しくて涙が出てくるが悔やんでいる暇などない。こうして真実に気づけた自分は幸運だったのだ。最もそれでもあの女はいずれ捕まえてやるが。
「・・・また、やり直す。待っていやがれ女・・・ぜってぇ俺が捕まえてやる」
だったらやり直せばいいだろ。
自分を殴り飛ばしたあの女ならばそれに近い事を言う気がする。
それに従うのも癪であるのだが、このまま圧政を強いていた罰を受けねばならない。
殺されることはないが、重い処罰を受けるであろうモーガンはそれでも清々しい顔つきになっていた。それは海軍に志願した時と同じ顔であったのだが、誰もその顔を見ることはなかった。