あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!
これからも5000字程度を目安に投稿を行っていこうと思います。
今後ともこの作品を気ままに御覧なさってください。
嫌な風だ。
これから怒りと嘆きで彩られた飛沫が起こる。
革命軍に所属し、これまでも多くの国が倒れ行く様を目の当たりにしてきたサボはすぐに察しがついた。
如何にこれまでが幸せに満ちてきた国であっても、如何に闇を抱えてきた国であっても、亡びるときは皆同じ。最終勝者へとなるべく、勝つ覚悟と、死ぬ覚悟を有してぶつかり合う。
自分たちと相手、それらが有する感情が混ざり合って狂気となり、そして自分たちでは殲滅するまで剣を手から離すことが出来なくなる。
戦いが空間を支配し、砲撃と剣戟が木霊し、隣の首がもげようとも止まることが出来ない極限の状態。
それが戦いの状態であっても止まれることがあるのなら、それは第三者の介入によって空気が入れ替わることでしかありえない。
反乱軍の攻撃開始の報を耳に入れてからもうすぐ8時間が経過する。
迎撃態勢に入っている国王軍に視認されない位置で待機しているサボは双眼鏡で遠くの景色を見る有角の女性へ意識を移した。
「ちなみにだが…あー敬称はつけたが良さそうかい?」
「いやいらねぇよ。無理しなくていい」
「それは助かる。サボ、あんたらはどうやってこれから反乱軍を止めようってんだい?もう動き始めてるんだろう?」
「ああ。ここに来るまでに伝えたが反乱軍内に同志がいる。今後の工作方針もすでに向こうにも伝わってるだろう。本当なら攻撃自体を無くすことができればよかったんだが、それは流石に無理だった。だからおれ達は
「…“革命軍”による国家転覆かい?」
「それはねぇよ。裏で手を引いていたB・Wをとらえた後、雨を降らす」
「雨を…?そんなことが可能なのかい?いくら何でも自然現象をどうこうする方法はないだろうに」
「いや、それは世界的に有名ではないだけだ。雨を降らす方法は何個か存在する。手っ取り早く雨を降らせる粉なんてものもあるくらいだ」
「そんなのもあるのかい…。ってことはその粉を使って雨を降らせると」
「いや、それは
「おいおい。そんなこと言ってもすぐに降らせなきゃ反乱軍も止まらないだろう?衝突しちまったら多少の雨じゃ止まらないだろうに」
雨を降らせる魔法の粉“ダンスパウダー”。別称“雨奪い”
数年かけてB・Wがアラバスタ王国から雨を奪うために使用してきた方法をサボはすぐさま否定する。
その場しのぎの方法を用いたところで別の場所で同じ被害が発生する。そんなことは革命軍も望まない。
話を聞いた有角の女性――麦わらの一味 星熊 勇儀はそりゃそうかと納得した。
反乱軍を止める方法は分かった。だがそれだけでは衝突までには間に合わない。それならどうするのか?それは自分たちがこの場で反乱軍を待っていることが答えであると理解したのだ。
再び双眼鏡に意識を移して辺りを眺める海賊を見て、本当に不思議な奴だとサボは思う。
“
そこで多くの活動を行い、海賊を見てきたサボであるが、彼女のように悠々と人助けに近いことを行う海賊は極少数。名のある海賊で言うと“白ひげ海賊団”や“赤髪海賊団”と言った大物海賊団もその少数に入るといえば入るのだが、赤の他人に対してそこまで身を挺する行動を取ることはないと報告を受けている。
しかし彼女曰く、歓迎の町からアラバスタ王国まで、始めは敵対勢力であった人物を護衛。それから元凶を叩くために行動を船長自ら行っているということだ。
そんな普通ではない海賊をルーキーの頃に目を付けたドラゴンさんの慧眼に感服する。
だが実際に出会ってわかることは彼らは誘導しやすい存在ではないということだ。
今は利害が一致しているが故の協力関係であるが、場合によっては敵対する可能性が多いに存在しているのを忘れてはいけない。
馬が大地を蹴って進む音が聞こえる。
それに伴って宙へと舞う砂塵が壁のごとく霞んでいる。何も知らないものが見れば濁流が押し寄せて来ているのではないかと錯覚してしまうほどの光景。それはこの戦闘にすべてをかけて挑んでいる証拠でもあった。
「あんたらの仲間が雨をどうにかして降らせるってのはわかった。どれぐらい持たせればいいんだい?」
「それはわからない。だがそう長くはないはずだ。おれの仲間は優秀な奴が多いからな」
「……そうかい。なら一番槍は頂くよ」
「え?お、おい!!」
ニッっと笑った顔を見て、勇儀はサボの言葉を信じた。
笑顔を見たからとかではない。只々己の中で信頼に足ると判断しただけの話だ。
あのままレインベースでルフィ達と合流しようとしていれば国王軍と反乱軍の衝突に間に合うことはなかっただろう。
間に合わせてくれたことの感謝でもあった。
勇儀は待機で用いていた砂に埋もれてしまった庭園から身を動かして障害物がない場所へと移動した。
相手は100万を超える大軍。
しかし戦慣れした戦闘集団ではない。それならばやりようはいくらでもある。
馬に乗り、各々の武器を構えて向かってくる存在が目で見てわかる距離になってきたのを確認し、勇儀は改めて状況を整理した。
足場は砂で安定したとは言い難い。空気も熱く、満足に息をすることもできない。仲間との連絡は一切取っていない。そしてB・Wの動きも勇儀自身そこまで把握できているわけでもない。
しかしそれでもできることはある。それが足止めだ。
普通に考えれば無謀。
これから戦争を仕掛ける者達が、たった一人。それも見ず知らずの存在一人を視界に収めたところで止まる道理など存在しない。
それならば。
それならばだ。
己の武力によって、その道理を叩きつぶす。
「さて、勇敢な反乱軍。残念だがここで行き止まりだ」
――四天王奥義『三歩必殺』
酒を飲み干し、盃を上空へと放り投げ、握り拳を地面へ叩き込む。
軍艦を一撃で屠る剛腕から放たれる衝撃。これまでも強敵を一撃で撃退してきたその全てのエネルギーを足元の大地へと投下する。
当然ながらその威力はその場で収まりきらずに逆流し、周囲の砂を一気に巻き上げただけでなく、地面に大きなクレーターを作り出した。
それを視認する先頭集団が不意打ちだと警戒度を瞬時に高め、雄たけびを上げて進軍速度を速める。
早めようとした。
「ガアアアアアァアアアア!!!」
“覇気”を声に載せて、軍衆へと解き放つ。
奮い立たせるために用いられた雄叫びは時には相手の戦意を奪う武器として用いられてきた。それじゃ姿が見えずとも、声によってどれほどの軍勢がその場にいるかを示すわかりやすい指標だったからだ。
――鬼声『壊滅の咆哮』
――鬼符『鬼気狂瀾』
彼らがアラバスタへと近づくにつれて大きくなっていた雄叫びを、一瞬で上書きする大咆哮。
それに合わせて場慣れしていない者達の意識を刈り取る圧力を一瞬でかけて意識を奪う。
体格は似たようなものであれども、眼前の存在は全くの別種であると、そう思い込ませるために勇儀はかつてない規模で力を込めた。
いくら強者であったとしても100万の軍勢と正面からやりあったところで押し込まれる。
出鼻を挫き、敵は国王軍だけでないことを知らせるためにはなによりもインパクトが大事なのだ。
やるからには全力全開。
それが功を制し、軍勢の動きが鈍くなる。が、止めるまでにはまだ足りない。
「~~ぬぅぅ…うらぁあああ!!!」
――『一刀烈破』
すぐさま真横へ手刀を振るい、直線状の砂を一気に巻き上げ地面に切れ目を作り出す。
進もうとしていた反乱軍達の目には突如として砂の巨壁が生み出されたように見えただろう。
流石にそこまでくれば遠くの者達も異常に気付く。
反乱軍の戦闘集団だけでなく、後続の者たちの動きも勢いを削がれているのが感じ取れるほどだ。
「…ッ!!なんだ貴様は!!」
「おれ達の邪魔をする気か!?」
気を失った者達を守るように勇儀の前に立つ者達は声をあげる。
各自で手に持つ剣を、槍を、そして銃口を。それを一身に向けられても尚、勇儀は笑う。
「生憎話す義理はない。あったとしても、あんたらは信じすらしないだろうさ」
重力に身を任せて落ちてきた盃を取ってすぐに背負う。
構えなどない自然体。それこそが勇儀が担う戦闘態勢。
反乱軍に対して諭すような口調で述べつつ、一息ついて言葉を紡ぐ。
「名乗るとするなりゃこう名乗ろう。私は“海賊”。あんたらの邪魔しにやってきた。場所は広い、武器もある。闘志もある。私があんたらを邪魔するように、
「ッ!!全隊!一人だと油断するな!軍とぶつかるつもりでかかれ!!」
『 ウォオオオオオオオオオオオオ!!! 』
首都アラバスタより25km。
場所は広大な砂漠地点。
後に歴史にも語られるアラバスタ最大の内戦の序章―――開戦。
「―――やれやれ…まじかで見たがとんでもねぇなありゃあ…。“
勇儀の一喝によって反乱軍は完全に出鼻を挫かれた。
最初の威圧によって軽く見ても3万ほどは気を失ってその場に
その後に続けて起こっている戦闘でも反乱軍の数多くが宙を舞い、そのまま意識を手放しているのが視認できる。
最も反乱軍からすれば彼女の存在自体がイレギュラー。
まさか100万もの大軍を一人で受け止めようとする者がいるとは思ってもみなかっただろう。それは裏で暗躍するものがいると考えてすらいないのならば尚更だ。
しかし反乱軍としても勇儀一人に100万ぶつけるはずもなく、逃げ場がないように取り囲んで視界を塞いでいる間に大半の反乱軍は王国へと向かっているのが現状であるのだが始めの攻撃を警戒してからなのか、大きく迂回してから入口へ向けて部隊を差し向けている。これだけでもかなりの時間を稼げた。
意識を飛ばしこそすれど、仕留めない勇儀に対して反乱軍は彼女の意図に気づいているだろう。
ただの時間稼ぎであり、欲を出してこちらの戦力を削っておきたいのだと。現に反乱軍の被害は増える一方である。だがそれでも戦闘を行っているのは彼女に背後を見せようものなら致命的な打撃を受けることを理解しているからだろう。
そんな戦場においてもいまだに怪我一つ追っていない彼女の運動神経に呆れつつも、自分のやるべきことをすべく駆けだした。
「…そっちの状況はどうだ?」
「はっ!!無事に話をつけることに成功したようです。しかしどれくらい時間がかかるかわからないと…!」
「いや十分だ。話がついたならこの作戦が失敗することはねぇ。お前らも気をつけろよ。国王軍だけじゃなく、
「了解しました!サボさん、ご武運を!」
反乱軍として身を投じていた“革命軍”の工作員たちはサボに敬礼をした後、前線へと向かっていった。
サボがこれから行うのはB・Wの主要幹部たちの捕縛。これ以上情勢を引っ掻き回されてもたまらない。のだが、生憎幹部の顔は分かっていないのが現状だ。闇雲に探したところで無駄な時間を過ごすだけだろう。
奴らの計画にとって最も邪魔になる存在がこの時に飛んでこないはずがない。そして彼らにとって息の根を止めてでもこの場にいてほしくない存在――王女 ネフェルタリ・ビビがやってくるはずだ。
「超カルガモとやらがどれだけ早いかわからねぇが、そう遅くなることはねぇだろうし、急ぐか」
向かうは反乱軍が正面突破するであろう南の門。
目的地へ向かうべく、サボは隠していたラクダの足を走らせた。
・ダンスパウダー
原作において国王が首都のために他の地区から雨を奪ったように見せるためにクロコダイルが用意したもの。
人工降雨船を用いてばれないように各地から雨を奪い、王国に対する怒りを焚きつけていた。
別称“雨奪い”は効果の割に副作用がえげつないことと、裏組織が工作に用いていることから勝手につけました。なので原作をいくら読み返してもこんな言葉は出てきませんので気を付けて。
・勇儀の技
四天王奥義『三歩必殺』や今回使った鬼声『壊滅の咆哮』のように原作などで実際に用いられている技はそのままの記入を。
そしてオリジナル技は『』の前には何もつけないようにしました。
前の話では書いていましたが、今後は『一刀烈破』のような記述になります。
どうでもよい変更かもしれませんが、よろしくお願いします。
ちなみにですが、この作品では“麦わらの一味”はMr.2と海上で出会っていません。ご了承ください。