星熊童子とONE PIECE   作:〇坊主

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メリークリスマス。
なお作者は仕事の模様。
 
 
 


戦へ

 

 

 その人物を見たのは偶然だった。

 

 

 平和な海を関する東の海(イーストブルー)で活動している最中、ある町の中心で慌ただしい出来事が起こった。

 聞けばかつての海賊王が処刑されたあの場所で、首を落とされかけたものが落雷によって助かったのだと言う。

 ただの偶然で済ませれば簡単な話であったはずなのだが、騒動の中心に入る人物を見て頬が人知れずに上がっていくのを感じとる。自分とは無関係ではないその人物はこれから先の未来で必ず世界の歯車を回す存在だ。

 そんな麦わら帽子をかぶった少年がこの町 ローグタウンで活動する海軍本部大佐相手に悪戦苦闘しているのを視認しながら、いつ助け船を出そうかと考えていた時だ。その者が現れたのは。

 

 

――轟撃『一衝』

 

 

 一撃。

 その光景をどう答えるといわれたなら、まさにそれが当てはまる。

 静かに撃たれた正拳が一瞬にして煙を吹き飛ばし、本体を壁へとめり込ませた。

 

 海賊を捕らえようとしていたのは全身を煙に変えることが出来る自然系(ロギア)の能力者。

 自動で物理的干渉を無効化する自然の力を有している海軍の男を割り込んだ女性が難なく、それも一撃で退けてみせたことに驚いたことは今でも記憶に新しい。

 

 海賊が蔓延らないこの海で、まさか“覇気”を有し、それもかなり高度に練り上げられている者が存在していたとは思いも寄らなかった。

 その後調べてみようにも全くと言っていいほど情報がない。あってもそれは活動を始めて、海賊として名乗りを挙げてからしかなかったのだ。まるで突然湧いたかのように、彼女は現れたのだ。

 

 海兵を適当にあしらって自分の船へと向かう姿を確認したその時は、海軍に悟られぬ様にその場を去った。自分が手を貸さずともこの程度の障害は乗り切るだろうと思ってのことだ。

 

 

「ドラゴンさん!どこ行ってたんですか。ただでさえ大嵐なんですから早く戻りましょうよ」

 

「ふむ……すこし頼みがある。サボを呼んでくれ」

 

 

 後に一角の女性が麦わらの一味の船員(クルー)であると知るのは仲間と合流してからの話だ。

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

「はぁ?革命軍に入れたぁ唐突すぎやしないかい?」

 

 

 サボと名乗る男の提案に勇儀は意味が分からないと表情が語る。

 初対面の相手に対して引き抜きを敢行してくる相手の意図が分からないからだ。

 

 戦闘が大好きで常日頃ルフィ達を扱いているが、世間の情勢に疎いわけではない。

 船旅中にニュース・クーから届けられる新聞から情報は得ていた。

 

 革命軍。

 それは打倒世界政府を掲げて各地で暗躍する反政府組織。

 麦わらの一味が成立して航海している間でも革命軍の思想の下にクーデターが勃発しており、現時点でも最重要犯罪集団として探し回っているという。

 それなのにも関わらず、自軍の情報を一切漏らさないように指揮しているのはただのテロリスト集団ではなく、それだけ統率力が取れた集団であることを意味していた。

 

 そんな世界にとって最も警戒せねばならない組織の者が勇儀と対面している。

 “偉大なる航路(グランドライン)”の中でも数多くの賞金首がいる中で、たった2千7百万ベリーの勇儀を指名してだ。 これがどれだけ異常な光景であるのかは裏事情を知っている者からすれば一目瞭然。わざわざ自分を選らんでくる理由が全く分からない。

 

 

「唐突なのはわかってるさ。おれだってドラゴンさんの指名を受けてなけりゃわざわざこの海までやってこねぇよ。だが逆に言えばあんたはドラゴンさんが一目を置くほどの人物だってのも理解している」

 

「…そりゃありがたいけどねぇ。私しゃあんたの事情も知らない。トップの顔もわからない。わざわざ引き抜きにきた理由も知らないのないない尽くし。そんなんで仲間になれってのは如何せん虫が良すぎる話だと思うんだが?」

 

「そんなことはこっちだってわかってる。だが革命軍(おれら)だってそんな悠長なことやってる時間はねぇんだ。素早くYESかNOで答えてくれ」

 

「ならノーだ。指名しながらその訳を話せない組織なんかと共に活動なんてできないね」

 

「―――まぁそうだ。だがおれも詳しくは聞かされてねぇんだ。言われたことはあんたとコンタクトをとってこい。そして協力を取り付けろ、だ。ドラゴンさんがなにを考えておれに伝えてきたのかはわからねぇが、革命軍(おれら)は敵じゃない。それだけはわかってくれ」

 

 

 即答。

 勇儀の対応にそりゃそうかと返すサボ自身もリーダーの判断に苦しんでいる様子だ。

 

 

――――ォォオ 

 

 

「ん…?」

 

 

 だが時間はそう待ってくれない。

 

 

――ォォォォォオオオオ

 

 

「さっきとはまた別に騒がしいねぇ」

 

 

―ウォォォォォオオオオ!!!

 

 

「ッ!!サボ殿!反乱軍がアラバスタへ総攻撃を仕掛けるとの情報が!!」

 

「はァ!?」

 

「ほんとうか!?もう少し時間があると予測していたが早めに行動に出てきたか…!」

 

 

 再び斥候を行っていたハナムからの情報で反乱軍がついに総攻撃を仕掛けるという情報に勇儀が驚きの声を上げる。

 枯れてしまった町から拠点を移したばかりだという情報からのこの事態だ。それほど切迫していたということか。

 

 

「何でも国王自らが出向き、町に火を放ったという証言が出ております。おそらくはそれが原因でしょう」

 

「国王が?何かの間違いだろ。ネフェルタリ国王は数少ない国民を優先して考える人物と聞いてるぞ」

 

「その通りです。が、諜報員がはっきりと目視で確認したと申しております。しかしながら私はそれこそ奴らの計画ではないかと予測しております」

 

「…可能性はなくはないな。国王軍と反乱軍両方に工作員がいるんだ。あいつらならやりかねない」

 

「つまり相手の中には変装の達人がいるってことかい?もしそうなら厄介だね。だれが味方なのかわかったもんじゃない」

 

 

 勇儀の言葉にサボも同調した。

 アラバスタの現国王であるネフェルタリ・コブラは常に民を想い、そして民のための方針をとっていたと聞いていた。そんな彼そっくりになれるだけでは済まないだろう。ほかの人物にも変装できるに違いない。互いにそう考えていた。

 

 

「ハナム、革命軍全員に伝えてくれ。俺たちはこのまま首都であるアルバーナへと向かう。半分に分けて行動するぞ。ここに残るものはこれまで通り工作に徹してくれ」

 

「御意」

 

 

 すぐに姿を消す彼を見届けた後、サボが勇儀の方を向く。

 

 

「おれはこれから首都に向かう。あんたはどうする?」

 

「私かい?んーールフィ達がどう動いているのかはわからんが、私も首都に行くとしよう。戦争を止めるのを王女さんと船長が約束してるんだ。できることがあるならやっておいたほうがいいだろうからね」

 

「助かる。こんな事態だ、人手は多いほうがいい。それと、くどい様だがこの騒動を止めた後にもう一度、あんたの答えを聞かせてもらう。その時はドラゴンさんの意図を何とか伝えるよ」

 

「そこまで言うなら後でしっかりと聞かせてもらうよ」

 

 

 こっちだと駆けるサボに勇儀は続く。

 目指すは首都アルバーナ。国王軍と反乱軍がぶつかると予測される中心地。

 互いの勢力がぶつかり合うまで、残り8時間を切っていた。

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

 

 

 

「クハハハハ…ハッハッハッハ!!」

 

 

 そんな情勢を耳に入れた男の笑い声がある一室に響き渡る。

 アラバスタに存在するカジノ“レインディナーズ”の中でも特に厳重な警備の元で裏を知っているものしか入ることが許されない空間。隠された地下室。

 姿を隠すには絶好の場所で今回の首謀者である“王下七武海”サー・クロコダイルはギャラリーの眼前で勝ち誇るように事を話した。

 

 

「ここまで漕ぎ着けるまでに数々の苦労をした…!社員集めから資金集め、破壊工作、国王軍濫行(らんこう)の演技指導。それによってじわじわと溜まりゆく国へのフラストレーション。崩れ行く王への信頼…!!そうやって各々が行動する中でもみんな こう思っているのさ。アラバスタを守るんだ。おれ達がアラバスタを守るんだ…!!

 ハハハハ!!泣かせるじゃねぇか!国を想う気持ちが、それを想うからこそ国が滅びる要因になっちまうんだからなぁ」

 

「やめて!!どうしてこんなことができるの!!」

 

「あの野郎ォ~!この檻さえなけりゃ……!!」

 

「外道って言葉はコイツにピッタリだな」

 

「ククク…てめぇらもわざわざご苦労。最も王女さまをここまで連れてきたその悪運には驚いたが、それも終わりだ。能力者がその檻から出られることはねぇ。今後の情勢を楽しみに待ってな」

 

 

 王国の崩壊を望むB・W(バロックワークス)の社長が眼前にいるというのに誰も手を出せないのは彼らのおかれている状況にあった。

 麦わらの一味だけでなく、捉えようと追っていたスモーカーまでもが集まって一つの檻に閉じ込められているのだ。それもただの檻でなく、海楼石(かいろうせき)という特殊な石を用いて作られたもの。ダイヤモンド並みの高度と耐熱性を誇り、海と同じエネルギーを発するともいわれるその石は悪魔の実を食べた囚人らにつけられる手錠と同じものだ。

 海と同じエネルギーを発するその存在は触れた能力者の力を削ぐことができるため、体を変化させることが出来る自然系(ロギア)の能力者であっても脱出することが出来ないのだ。

 

 

「く……!!」

 

「オイオイ、何をする気だミス・ウェンズデー?」

 

「止めるのよ、この戦争を!!反乱軍よりも先に『アルバーナ』にたどり着けばまだ反乱軍を止められる可能性はある!!」

 

「ホォ…奇遇だな。おれも『アルバーナ』へ向かうところさ。てめぇの親父に一つだけ質問をしにな」

 

 

 ミス・ウェンズデーことネフェルタリ・ビビはミス・オールサンデーに両腕を後ろで拘束されている。

 それでも這いずるようにしてでも戦争を止めに行こうとする姿に一同は目を奪われた。国を想うその心に惹かれて一味はここまでやってきたのだ。

 

 しかしそれに待ったをかけるのがMr.0ことクロコダイル。

 彼は鍵を見せびらかし、そのまま地面へと投げ捨てる。そのまま地面にはねることはなく、床が開いてさらに下層へと落ちていった。

 

 

「クク、一緒に来たければ好きにすればいい…どの選択をしようがお前の自由(・・・・・)さ、ミス・ウェンズデー。奴らの殺し合いがあるまで8時間。ここから急いだとしてもそれ以上はかかるだろう。反乱を止めたきゃすぐにここを出るべきさ。さもなくば…何十万人が死ぬことだろうよ…!

 無論こいつらを助けてやるのもお前の自由。この檻を開けてやるといい、邪魔はしねぇ。だが俺としたことがウッカリ(・・・・)この床の下に鍵を落としちまったがな」

 

「バナナワニの巣に投げ込んでおいて白々しい…!!」

 

「クハハハハ!!じゃあおれ達は一足先に失礼するとするか…。それと伝え忘れていたがこの部屋はあと一時間かけて自動的に消滅する」

 

『  !?  』

 

「B・W社社長として使ってきたこの部屋はすでに不要の部屋。水が入り込み、ここはレインベースの湖に沈む。罪なき100万人の国民を選ぶか、それとも未来のねぇたった数人の小物海賊団を選ぶか。最もどちらも救える可能性は低い賭け。“掛け金(BET)”はお前の気持ちさミス・ウェンズデー。クク、クハハハハハ!!!」

 

「おいビビ!何とかしろっ!ここからおれ達を出せ!!おれ達がここで死んだら!!誰があいつをぶっ飛ばすんだ!!」

 

 

 室内に響く笑い声をかき消すように叫んだルフィの声に、クロコダイルの動きが一瞬止まった。

 背を向けていた状態からゆっくりと、首を動かしてクロコダイルはルフィ達を視界に収めた。

 

 

「……自惚れるなよ小物が…」

 

「…お前のほうが、小物だろ!!」

 

 

 睨みあう両者。

 互いに組織を率いる頭目として、どちらも引かない。

 

 しかし水没し始めている部屋で睨みあい続けるわけもなく、開いた床から出てくるバナナワニを見届けるとクロコダイルはミス・オールサンデーを連れてそのまま外へと出て行った。

 敵を目の前にして何もできない無力さと、彼に対する怒りでルフィが叫ぶ。

 

 

 どちらが泣いても笑っても、この事態が終息するまで残り8時間。

 

 


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