星熊童子とONE PIECE   作:〇坊主

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あけましたおめでとうございました
今年もよろしくお願いします()
 
 


街からの出港

 

 たしぎが海兵であるにも関わらず、ルフィ達の船でローグタウンを出港してしまったのは海兵人生では最も不幸な事柄であろう。

 職務を全う出来ずに海賊に連れ去られる。場合によっては離反と採られてもおかしくない内容だからだ。

 たしぎはとても真面目であり、海兵内でもアイドルポジションに遺憾ではあるが就いていた。そのため離反したとは考えれないだろう。

 一海兵として海賊と寝食を共にしているだけでなく、あろうことか海賊に強くなるための特訓を受けていると聞けば彼女の上司であるスモーカー大佐が聞けば憤慨モノだ。

 

 しかしたしぎは海兵として不幸なことであれども、己の人生としてはとても幸運であると言い切れる。

 海兵として活動している以上、世界の秩序を乱している海賊は『悪』だ。

 だが悪と断ずる組織で実際に暮らしてみて、狭いフィルターで視野を狭めることはいけないのだと学んだのだ。

 民衆を下に見て略奪を行う海賊。逆にそんな活動など眼中になく、己の夢のために海賊旗を掲げて大海原へと乗り込む海賊。

 大まかに分ければ海賊もこの二種類に分けられることに気づいた。ローグタウンで活動している頃であれば絶対にありえないと断言出来る。

 

 現在進行形で未熟なのは理解しているたしぎであるが、この船に居なければ気づけることも気づけなかった。

 航海した時間は短いながらもローグタウンの頃よりは明らかに強くなっていることも実感できる。

 平和な海でもある東の海(イーストブルー)。そこで活動する海賊はごく少数であり、戦闘技術もはっきり言ってしまえばそこまで必要ではなかった。だが麦わら海賊団ではそんな戦闘技術も高みに存在している。

 

 

 “剛拳”ホシグマ・ユウギ

 

 

 言ってしまえば彼女は異質。もっとわかりやすく言えば化け物だ。

 

 同じ人間のはずなのに肌は刃を通さず、握り拳だけで岩を砕く。彼女曰く動物(ゾオン)系の悪魔の実を食べたということだが、それだけで片付けていい問題ではない。

 物理的干渉を自動で無効化する悪魔の実自然(ロギア)系。そのモクモクの実を食べて全身煙人間となっているスモーカー大佐を難なく鎮圧したと本人から聞いたが、到底信じられなかった。

 なんでも“覇気”と呼ばれる技術を身に着ければ自然(ロギア)系相手でも触れることができると聞いた時は正直なんだそれはと考えた。東の海(イーストブルー)出身の者なのに、なぜそんな技術を身に着けているのも疑問ではあったが、それ以上になぜそれを海兵である自分にまで教えるのかが理解できなかった。

 

 

『なぜかって?成り行きさ。やましいことはない。ただの気まぐれだよ』

 

 

 肩身離さず持っている盃を傾けながらそうはっきりと言い放った時、勇儀が言いたいことをなんとなくであるが察したのだ。

 

 彼女は自分と張り合える猛者を増やそうと考えているのだと。

 

 海兵と海賊は分かり合えない者同士だ。今のこの関係もどこかでなくなる。

 だが最低限の技術と考えを教えておけば、勝手に高めてくれるのではないかとそう考えているのだ。

 そしていずれは自分の喉元に刃を突きつけるレベルにまで達するその時まで、楽しみながら生きていくのだろう。

 最もただでさえふざけた強さなのに、更に高みを目指して日々鍛錬している彼女を越える日は来ないような気がしないでもないが、それは置いておく。

 

 

 

 現在進行形で戦闘中であり、相手の攻撃で自分の得物が欠けてしまったというのにも関わらずそのようなことを考えてしまうことにたしぎは内心でため息をつく。

 先程の攻防で刀が欠けてしまったショックで動きが鈍くなってしまったが、たしぎの頭の中はすでに冴えていた。

 相手が動くよりも先に行動を予測することが何となくではあるが可能になり、避けるべきところは鍔迫り合いすら避けてこれ以上の損害を防ぐ。

 まるで自分以外がスローモーションになったかのような錯覚。

 それは相手の大太刀が黒刀へと変化していても変わりはない。

 

 

(……なるほど、これが“見聞色”ですか…そして相手は“武装色”。見事に分かれていますね)

 

 

 ユウギの本気(マジ)パンチを文字通り死ぬ気で躱し続けた成果がこの局面で現れ始めたのだ。

 座学で知識は頭に入れたものの、本当に自分がその技術をつかめるとは。

 

 

「――――チッ!!」

 

「――!くっ!!」

 

 

 全ての人間に宿る「意志の力」。

 実戦で常に扱えるようになるまで長期の鍛錬が必要になるが、たしぎはまだそこまでに至る最初の道を歩み始めただけに過ぎない。

 意識の高ぶりで感じ取れてはいるが精度にムラがまだ存在している。予測が外れたり、タイミングがブレたりと不安定な状況で何とかやりあえている今の現状はやはり厳しいと言わざると得ない。

 

 対して相手はやはり経験の差と言うべきか。こちらの動きを見切り始めており、うまくタイミングをずらす様に立ち回りが変わってきていた。

 大太刀を身の一部の如く扱うその技量に舌を巻きつつ、たしぎは背後の壁を駆けあがる。

 そのままバク宙の要領で身を空へと浮かべながら刀を振るうも、マザーズデーはうまく受け流してきた。このままではやはりジリ貧であると判断したたしぎはゆっくりと自分の動きを制限されない場所へと後退していく。

 

 

「イラつくねぇ…序盤にもほどがあるこの海で、名も売れてねぇ一兵にここまで手こずるとは…」

 

「そうですか?なら私達は偉大なる航路(グランドライン)でも通用するということですね。それはうれしい事です」

 

「ッ!!言ってろ!!」

 

 

 たしぎの挑発に対して何かが切れる音が聞こえた。

 イラつきが限界に達したのかものすごい勢いで切りかかってくる。だがそれはたしぎとマザーズデー、両者のものではなく、第三者の介入によって阻まれた。

 

 近くの倒壊していた建物が崩壊し、凄まじい戦闘音が響き渡る。

 破壊音と衝撃が響き渡り、二人の間に入るかの如く向かってきたのだ。

 

 

『ゾロ~~~~~~~~~!!!!』

 

 

「えっ、なに!?」

 

「―――!!」

 

 

 二人はすぐに距離を置いてこの騒動の原因を探る。

 それはすぐにわかった。

 麦わら帽子を被った見慣れた男が、三本の刀を扱う剣士に殴りかかっていたのだ。

 

 

「おれは お前を許さねぇ!!勝負だ!!」

 

「この野郎っ……!!人の話も聞かねぇで勝手な事を……言ってんじゃねぇ!!!」

 

 

 『ぬあああああああっ!!!』

 

 

 物が壊れ、それによって発生する破砕音が周囲の音を奪っていく。

 一対一で行われている戦闘でもこれほどの影響を与える戦闘をたしぎは見たことがない。

 そのためか目の前で行われている映像に目が行ってしまい、先ほどまで自分が戦闘をしていたことを忘れてしまうほど呆気に取られていた。

 

 

「……あいつら、本当に嘗めてくれるじゃねぇか…おいMr.6。いるんだろうが、何呑気に観戦していやがる。さっさと始末するぞ」

 

「やれやれ私は王女を打ち取るタイミングを計っていた所ですのに…それほどまでに溜まっているのですか」

 

「当然だろうが。これほどの屈辱は初めてだ。妨害したと思えば同士討ちをはじめやがってこっちは眼中にない。“バロックワークス”オフィサーエージェントの名折れでもあるが…なによりもどこまでふざけていやがるのか……!!」

 

 

 オフィサーエージェントである彼女らは『麦わら』海賊団の情報も知っている。

 東の海(イーストブルー)出身で懸賞金の初頭が3000万ベリーという平和を冠する世界では破格の額を付けられた存在であると。だがその程度の懸賞金であれば二人は難なく狩ってきたのだ。それがまさかのぽっとでのルーキーが率いる部下にここまで時間をかけることになるとは思っていもいなかった。

 そんな内情もあり、マザーズデーの限界も沸点に達している。

 それに気づいてはいるMr.6ではあるものの、自分から言葉を投げかけることはしなかった。今回の目標(ターゲット)に対して時間をかけすぎていることも事実であるからだ。

 

 Mr.6は未だに争っている二人を見る。

 本来の目的は自分たちの組織に侵入し、情報を盗み取っていたアラバスタ王女の抹殺だ。極端なことを言えば彼らは無視してもいい存在である。

 だがここまで虚仮にされた以上、むざむざと目標だけ仕留めてきたとしても逃げ帰ってきたともとられかねない。それは今後の活動に影響が出てくる可能性も孕んでいた。何よりも彼らもこちらの存在を知った者達。生かしておけば余計な情報が流れ出る危険もある。

 

 

「早めにケリをつけましょう。援護しますよマザーズデー」

 

「当然だ!殺るぞMr.6!!」

 

 

「「ゴチャゴチャうるせェな!!」」

 

 

 そんな判断もあり、邪魔をしていたルフィトゾロを抹殺しようと行動を起こそうとした二人で会ったが、そんなやり取りが戦闘中でも耳に入っていたルフィとゾロが瞬時に距離を詰める。

 

 

「なっ…!?」

 

「なん…!!」

 

 

 馬鹿にしてはいけない。彼ら二人は“偉大なる航路(グランドライン)”に入る前から勇儀の扱きを受け続けてきたのだ。

 相手の警戒を乗り越えて接近することなど朝飯前になっている。

 

 

「「勝負の…邪魔だァ!!」」

 

 

 完全に不意を突かれたMr.6とミス・マザーズデーはそれぞれ綺麗に拳と斬撃を食らって遠くの建物へと吹き飛んでいった。

 それを見ていたビビとたしぎは二人がここまでの強者であるとは思っていなかったのか、衝撃が抜けれていない様子だ。最も二人の実力を初めてみたのが同士討ちの最中でなければ素直に喜べていたのであろう現実が残念な話である。

 

 

「……邪魔ものはいなくなったなやるか」

 

「おお」

 

「やめろっ!!こん馬鹿共!!」

 

「「はぶっ!!??」」

 

 

 オフィサーエージェントを撃退したとは言えど、彼らの中では決着などついていない。そのため再び喧嘩を始めようとしたところにナミの剛拳が二人の頭を打ちぬいてそのまま地面とキスを強要させた。

 

 

「まったく…あんたらのせいで10億ベリーが逃げるとこだったじゃない…さってと。あなたが王女さんね」

 

「…どうして私を助けてくれたのかを聞いていいでしょうか?」

 

「えっ、それは海兵として」

 

「あぁ、そのことについては私が話すわ。ただその前にちょっと契約をしない?」

 

「契約?」

 

 

 海兵だからと説得を試みたたしぎを止めてナミはビビにある提案を示した。

 この場に来る前にイガラムと話した内容。それをビビに承認してもらうためだ。

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

 

 

 月が綺麗だ。

 

 そんなことを思いながら有角の女性は盃を傾ける。

 雅な着物を着こなすその姿は魅入ってしまう何かがあった。

 

 

「………さてあんたはこれからどうするんだい?」

 

「ふふっ。どうしようかしら?」

 

 

 本来の船員(クルー)でもない人間が乗っているのにも関わらず、我関せずの姿勢で勇儀は伊吹瓢を傾ける。

 この身になってから酔うという状態になったことがない勇儀は冷静に目の前の女性を分析していた。

 

 目の前の女は内心に一物抱えていることは察したが、それでもなぜこの船から早急に退避しないのだろうか。勇儀が最初の邂逅で物理にモノを言わせればこのような状況に陥ってはいないだろうが、お茶を出して軽く話し合った末に記録指針(ログポース)をくれた以上悪い奴ではないと思う勇儀であるのだがふと疑問が浮かぶ。

 たがそれ以上に赤の他人に手解きを行うのだろうかと。

 しかし彼女を見るに、そんなことを聞いたところで流されてしまうのは目に見えていた。

 

 

「まぁあんたが構わないならいいんだが...船に変なことはしないどくれよ?航海中に沈んで終わりじゃあいくらなんでも悲しいからね」

 

「ふふっ。そのわりにはそれもそれで面白そうって顔をしてるわよ?」

 

「えっ、ほんと?」

 

「冗談よ」

 

 

 軽口を数回叩きあい、彼女は満足したのか頑張ってねと言葉を残して船から降りる。

 亀に繋いだ船でここまで移動してきたようで、こんな移動手段もあるのかと勇儀は素直に感心した。

 

 亀船の姿が丁度消える頃、出港しようとしていた船が爆発を起こし、メリー号の船員達とプラスワンが急いだようにやってきた。

 

 どうやら忙しい船旅になりそうだ。

 

 

 


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