星熊童子とONE PIECE   作:〇坊主

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偉大なる航路
一味と曹長と犯罪組織


 辺り一面には嵐によって大雨がもたらされていた。

 突風が発生し、それによって忙しなく動いていた部下や民間人が足を掬われていく。

 民間を護るために賊を捕らえる彼らにとって、今の労働環境は最悪であろう。

 だがそれでも彼らは走る。絶対正義の名の下に。

 

 

「ハッ・・・ハッー・・・ぐっ」

 

 

 片膝をついて肩で息をしている彼も大枠は違えども、志を共にする者。

 世界の秩序を乱す海賊という存在を撃退し、捕縛することで平和を保つことを目的としている彼は眼前の存在に対して圧倒的な実力差を痛感していた。

 

 

「こいつが2700万だと・・・?賞金詐欺も大概にしやがれってんだ」

  

 

 賞金首のリストに載っている存在の実力を目の当たりにしてそう呟く。

 見栄を張った程度でこのレベルはあり得ない。確実に偉大なる航路(グランドライン)だけでなく、その後半の海である『新世界』でも通用すると確信できる実力だ。

 

 彼自身も“海軍本部”の大佐を担う実力者だ。

 そこらの海賊と当たったところで数秒で鎮圧出来るほどの実力を有している。

 

 それでも届かない。

 悪魔の実の中でも稀少と言われる自然系(ロギア)『モクモクの実』を食べたことで全身を煙のように変化させることが出来る彼は物理的攻撃の無力化は当然として、広範囲に渡っての攻撃や捕縛を行うことが出来る。

 その力ですら届かない。届かないばかりか、通用しないはずの打撃――拳――で逆にダメージを受ける始末。

 

 これは能力者同士の相性なんかではない。

 『海軍の英雄』と呼ばれる男のように、海軍本部でも一定水準以上の実力者たちが扱う力、それが“覇気”。

 それを目の前の女は使えるのだと彼は確信した。でなければ煙状態の己を捕まえるなど不可能だからだ。

 

 

「生憎今は急いでいる身なんでねぇ。ここらでトンズラさせてもらうとするよ」

 

「ぐっ、待ちやがれ!」

 

「待ってほしけりゃ精進することだ。次会う時にゃ全力を出せることを楽しみにしているよ」

 

 

 踵を返して走り去って行く有角の女の背を追いかけようとするも、身体がうまく動かない。

 瞬く間に距離を離され、姿が見えなくなってしまった。

 

 

「・・・ちっくしょうがァ!」

 

 

 彼はこの時に決めたのだろう。

 意地を通してでも有角の女を含めた麦わらの一味を捕らえると。

 

 彼の二つ名は“白猟のスモーカー”

 

 未来の海軍において最も多く麦わらの一味に挑み、そして追い込んだ男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜこのようなことになったのだろう。

 

 海軍本部の曹長を担う海兵 たしぎ は今の現状を見てそう思う。

 ローグタウンでの任に着いていた彼女はいつも通り見回りを行い、趣味の刀鑑賞を行うべく近くの武器屋へと足を運んだのだ。

 

 そこで出会った不思議な男。 

 

 妖刀と呼ばれた業物『三代鬼徹』の呪いを破って己の物にした男をたしぎは初めて目にしたのだ。

 だからこそたしぎはその男に怒りが沸き上がった。

 

 彼女は刀を金稼ぎに用いる者達を『悪』と見なして忌み嫌っており、世界中の名刀を『悪』と見なした者達から取り上げ、回収することを夢としていたのだ。

 たしぎの目の前で『三代鬼徹』と武器屋の最高の刀『雪走』を手にした男は最近台頭してきた海賊団“麦わらの一味”に所属する者であり、元賞金稼ぎとして手配されていた男だったということを知ったのだ。

 男はたしぎの夢を聞いた後にこう言った。

 

 「ならこの刀も奪うのか」と

 

 お前程度が出来るわけがない。男はそう思ってたが故に暗に自分のことを馬鹿にした発言だったのではないかとそう思った。故に怒ったのだ。

 その怒りを糧に港へと走る男に一騎打ちを挑み、そして敗北した。

―――否、実際は途中で乱入があったために決着がついていないのだが、あのまま斬りあっていれば自分が負けていたことなどわかっていた。それだけ実力差があった。

 

 だがそれでも諦めきれなかった。手が届く目的に対して手を伸ばさずを得なかった。

 最も今となってはそれが後悔に近いものになっているのだが。

 

 

「はっきり言って何故私まで巻き込まれなくてはいけないんですか!」

 

 

 今彼女は怒りの声を挙げながら、迫りくる剣戟を返していた。

 この場所はすでに偉大なる航路(グランドライン)。たしぎが元居たローグタウンに戻ることは困難になってしまったのだ。

 様々な海上環境が変わっていく中での航海を楽しくなかったとは思わない。だがそれでも民間人と思っていた人達から襲われるなど予想出来るはずもない。

 

 

「仕方ねぇだろ、お前も一緒に飲み食いしてたじゃねぇか」

 

「うっ、・・・た、確かにそうですけど私まであなた達の仲間だなんて思われたら堪ったものじゃないんです!なんなんですかこの人たちは!?」

 

「だから言ってんだろ、『バロックワークス』だってよ。ただ忠実に任務を全うする犯罪集団。社員内でも素性を知らせず、社長(ボス)のことすら一切秘密の結社だってな」

 

「~~ッ!だからなんでその秘密結社に襲われているのかを聞いているんです!!」

 

 

 たしぎの傍で同じように撃退しているゾロの言葉に対して若干言葉を詰まらせつつも返す。当然ながら刀を振るうのも忘れない。

 たしぎはゾロに及ばないものだが、剣技一本で海軍本部の曹長に登ってきた身だ。多くの場数を踏んでおり、賞金稼ぎ達の動きが単調に見えている。それに合わせて刀を振るい、対象を確実に着実に沈黙させていく。

 遠距離からの銃撃を躱しつつ一旦二手に別れ、迫りくる脅威を撃退していく二人は傍から見れば良き相棒に見えるのだが、それを指摘すれば二人揃って怒り出すだろう。

 

 それから少し経って、二人は『バロックワークス』の戦闘員を全員鎮圧して一息をつく。

 山積みになった男たちを見つつ、たしぎは何故こうなったのかと頭を抱えた。 

 

 

 

 

 ローグタウンでバギー一味が起こした一騒動。そこからの麦わらの一味の逃走を阻むため、海兵らは動いた。

 たしぎも一味の仲間であるゾロと切り結んでいたのだが、“剛拳”の乱入で中断することになる。その際ゾロが保有する名刀『和道一文字』を回収するチャンスが巡ってきたと思い、鞘を掴んだのが間違いだったのだろう。

 鞘を掴むやいなやそのまま周りの風景が瞬く間に変わっていき、辺りの景色が空に切り替わる。そして気づけば船へと近づいていき、意識が飛んだ。

 

 目を覚ましたと思ったらすでに出航した船の上。その次には訳も分からずに一味の進水式を共に実行し、そのまま海王類に食べられないように慌ただしく手伝いをする。

 何とか一息ついたところでようやく他の船員たちが自身の存在に気づいて驚く中、元凶(?)であろう女は腹を抱えて大笑い。船長と思わしき男も別にいいかと受け入れる始末。一味に不信感を抱く前に呆れた感情が出てきたのも仕様がないものだろう。

 

 このまま戻るわけにもいかないからと話し合った結果、偉大なる航路(グランドライン)で見つけた最初の町で降ろそうということになった。それだけならいいのだが最初の町『ウイスキーピーク』に着いた結果が今の現状だ。

 ここに来る前も暇なら修行に付き合えと引っ張りだされる始末。

 そのお陰で自分の無力さを痛感するいい機会になったのが悔しく思うが、細かいことを全く考えていなさそうな一味の雰囲気に気づけば自分も取り込まれていた。

 

 

「なんで襲われているかっつったら簡単だろ。その社長(ボス)から指令があったってことだ。生憎俺らの船長らは賞金首。狙う理由なんてそれで充分だろ?」

 

「・・・そうですね。そうでした。あなた達は海賊。狙われる理由はそれで充分でしたね」

 

 

 そういえば海賊だったと改めて理解したたしぎはそこで会話を切る。

 ゾロが何故名刀と名高い『和道一文字』を持っているのか、そして何故たしぎに苦手意識を抱いているのかなどを航海中に聞いていた。

 そこで彼女は思ったのだ。彼は本当に自分の中での『悪』なのかと。

 

 ゾロが目指すは世界最強の剣士。

 それは王下七武海の最強の剣士“鷹の目のミホーク”を倒すという事。

 すでに亡き幼馴染の約束を果たすために自分の武を極めていく彼を見て、改めて考え直す必要があるのではないかとたしぎは思ったのだが、その時は“剛拳”によって思考を中断していた。

 

 だが、今は違う。

 

 邪魔は在ったものの、周りにはすでに沈黙している彼らのみ。

 他の面々はお休み中で邪魔は無いため、想いに耽ることが出来る。

 

 ゾロはすでに酒瓶を片手に腰を下ろしている。たしぎもその場から動く気に為れずに腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

「夜中だってのに随分と賑やかな町だ。まったく若い衆と来たら夜中になってもドンチャン騒ぎ。全く五月蠅い事この上ない」

 

「それについては同意の意ですがマザー、その言い方ですと貴女がすでにお歳のような言い方になってしまいますよ?・・・それにしてもつまらない仕事をおおせつかったモノです。こんな前線にわざわざ私達が向かう必要があるのですかね?」

 

 

 賑やかな喧噪を醸す町へ入って行く二人の姿がそこにはあった。

 ゾロ達の予想以上の強さを確認した一部の賞金稼ぎ達はその場から離れて難を逃れようとしていたのだが、その二人と出会ってしまったのだ。

 

 

「な・・・何だ貴様らは!一体誰だ!?」

 

 

 確認した二人はどちらも修道服を着込んでおり、パッと見れば親子のようにも見えなくはない。

 見ず知らずの二人を見つけて拳銃を突き付ける構成員に対して男の方は残念そうに頭を振り、女の方は見下すような視線を向ける。

 

 

「やれやれ、確かに我が社のモットーは“謎”。なのですがこういう場合には意思疎通が難しくなってしまいますね」

 

「関係ない。いっその事こいつらもやるか?」

 

「いけませんよマザー。仲間討ちは相応の理由がなければ行ってはいけないのです」

 

 

「~ッッ!!誰だと聞いているんだ!!!」

 

 

 拳銃を向けられてもペースを崩さない彼らに不気味さを浮かべる。

 近くで監視していた『バロックワークス』の仕置きラッコとハゲタカこと“13日の金曜日(アンラッキーズ)”ですら、彼らの登場に驚いているのだから逃げようとしていた賞金稼ぎ達にとっては重要なことだった。

 

 

「これは名乗りが遅れてしまい申し訳ない。私はMr.(ミスター)(シックス)。そしてこちらが」

 

「ミス・マザーズデー」

 

 

『 !!!? 』

 

 

「どうか覚えておいてください。無駄に命を消したくないのでしたら、道を譲っていただけると助かるのですがね」

 

 

 Mr.6と名乗った神父の言葉に賞金稼ぎ達はすぐに道を譲った。

 そうして出来た道を二人は歩いていく。

 

 

「・・・相変わらず温い奴だ」

 

「まぁそうカッカなさらず。血を流さずに邪魔な者達を退けることが出来たのですから行きましょう。私たちの任務を為すために」

 

「はぁ・・・早く終わらせて寝たい。酒に溺れたい」

 

「やれやれですね」

 

 

 つまらなさそうに呟くマザーズデーにMr.6は若干の苦笑を浮かべつつ、町の奥へと進んでいくのだ。目的の人物に向かって。

 

 

「・・・なにこの惨状。高々数人の海賊団に全滅ってわけか?まともに仕事すら出来ないのか貴様等は」

 

「ぐっ・・・!?!Mr.6!?ミス・マザーズデー!!」

 

 

 彼らが向かった先には今回の襲撃を行った親玉とも言える男が立ち上がろうとしている最中であった。

 周りの建物はボロボロになっており、ここまで来るまでにも所属している賞金稼ぎ達は全滅している現状を見てきたマザーズデーが嘗めているのかと吐き捨てた。

 それを聞いて驚いたのはMr.8。この町の町長 イガラッポイ と名乗っていた男であり、今まさに立ち上がろうとしていた男である。

 

 

 犯罪組織『バロックワークス』にはいくつかの独自ルールが存在する。その最たる例が徹底された秘密主義だ。

 

 その徹底した秘密主義によって社員たちは社長(ボス)の正体は疎か、仲間にすら己の素性を一切知らせない。名前すらもコードネームで呼び合うようにしているのだ。

 もし仮に明かされるのではなく、仲間の素性を知るために行動を起こしていた場合はいかなる理由であろうとも処罰が下される。もし素性を探るような事があるならばそれは社長(ボス)による指令に他ならない。

 また指令を達成することが出来なかった者にも等しく罰が下される仕組みになっているため、各々は必ず与えられた使命を全うすべく動く。言わば忠実な兵隊を生み出していた。

 

 社長が居るなら幹部もいる。

 幹部に位置する彼らを『オフィサーエージェント』と呼ばれる者達であり、コードネームMr.1からMr.6までの者達だ。この数字は単純に強さの順位を表しているだけでなく、組織としての地位も相応に高い。

 

 ゾロ達を襲撃したMr.8を含めたMr.6以降のエージェント等、つまりMr.7から下の者は『フロンティアエージェント』と呼ばれ、他の社員を率いて資金集めをすることが主な活動となる。ルフィ達を狙ったのも船長と副船長とされている女共に賞金首となっていたからだ。

 

 

 そして彼らはMr.6とその相棒。つまりMr.8ことイガラッポイよりも上司(うえ)の存在ということだ。

 さらに重要なのは彼ら『オフィサーエージェント』は重要な任務の時でしか動かない(・・・・・・)ということ。つまり彼らはMr.8等を笑いに来たというわけではなく、指令が下っているからこそこの場に存在しているのだ。

 

 

「・・・我らを笑いに来たのか?」

 

 

 Mr.8は最悪の予測を頭にチラつかせながらもそれを出さないように返す。

 出来れば予測と違っていてほしいと願いながらもだ。

 

 

「違いますよ。私達がこの場にいる意味をあなたがわからないとは言わせません。そうでしょう?アラバスタ王国(・・・・・・・)護衛隊長(・・・・)”のイガラム(・・・・)さん」

 

「!!?ぐぁあッ!!」

 

 

 反応する間もなくMr.8――イガラム――は叫ぶ。

 相対するMr.6の手には銃が握られている。イガラムは足を撃ち抜かれたのだ。

 痛みに耐えるイガラムを見下ろしたままMr.6は話を続ける。

 

 

「我が社の社訓は絶対的な“謎”。社内の誰であろうとも決して詮索してはならないことはあなた方もわかっていたはずです」

 

「ましてや対象が社長(ボス)の正体など言語道断。そして調べていけばその罪人はウチらに潜りこんだ王国の要人と来た」

 

「ただ潜りこんでいたのでしたら黙認されていたのかもしれませんが、あなた方が起こした事は大変罪深い。それゆえに社長(ボス)より遣わされたのが私達ということです。ご理解頂けましたかな?」

 

 

 笑顔と砲口を向けながら話すMr.6に対し、イガラムは思考することを止めない。

 イガラムと、そしてもう一人。彼らが『バロックワークス』に潜入し、社長と呼ばれる男 Mr.0 に探りを入れていたのは遊びではない。しっかりとした目的があったからだ。

 目的を果たすために彼らは命の危険を顧みずただの賞金稼ぎとして多くの海賊たちを狩っていたのだが、それがバレてしまい、あろうことか自分たちの事柄まで見抜かれてしまった。それは一刻を争う事態である。

 

 

「~~ッ!死ね!!“イガラッパ”!!」

 

「おっと」

 

「ぐぁッ!!」

 

 

 手に持つサックス型のショットガンを不意打ち気味に発砲させるも、Mr.6は分かっていたかのように身を返して避ける。それだけでなく避けながらもイガラムの左腕を射撃し、イガラムにショットガンでの攻撃を行わせないように立ち回っていた。

 

 

「あなたのように追い詰められてきた者達の行動パターンは大まかにですがわかりますよ。残念でしたね」

 

「Mr.6、何を遊んでいる。さっさと仕留めて終わらせるぞ。隠れては居るだろうが、“王女”がいるんだろう?」

 

「えぇ、確かにこの町に居るはずです。・・・・・・おや、どうやらマザーの後ろにある木箱の後ろに隠れておられるようだ。そうでしょう?Mr.(ミスター)(ナイン)、そしてミス・ウェンズデー」

 

 

(!!!)

 

「な、なんでバレた!?」

 

 

 Mr.6の指摘に困惑する者が二人。彼らが麦わらの一味をこの町へと誘導した二人でもあるMr.9とミス・ウェンズデーである。

 二人の姿を確認してすぐに身を隠していたというのにこの場がバレ、ウェンズデーは歯を食いしばった。

 

 

「・・・いや、もうミス・ウェンズデーという名前で呼ぶのは不適切ですね。そうでしょう?アラバスタ王国“王女” ネフェルタリ・ビビさん」

 

「化物・・・・・・!!」

 

「お・・・王女であらせましたかミス・ウェンズデー!!!」

 

「ちょっ・・・バカなことやめてよMr.9!!」

 

 

 相棒が王女であることを聞かされ、土下座を決め込むMr.9に対し叫ぶミス・ウェンズデーことビビ。

 彼女としては相棒の行動に若干の申し訳なさを感じながらもこの状況を打開する手段を考えたかった。だが、それは当然防がれてしまう。

 

 

「・・・・・・」

 

「えっ?きゃっ!?」

 

 

 ミス・マザーズデーがビビを地面に伏せさせ、動けないように圧をかけたからだ。

 あまりの早業にMr.9はその場から数歩下がり、イガラムは目を見開いた。

 

 

「チマチマと逃げられるとイラつくんでな。このまま抹殺させてもらう。懺悔の用意は出来ているか?」

 

「ビビ様ァ!!」

 

 

 ビビを拘束したマザーズデーはそのまま背にかけていた刀を抜く。

 イガラムはそれを止めようとするも片手足を撃たれた状態ではうまく動くことすらできない。ましてや目の前にMr.6が下手に動けないように見張っているのだ。

 

 

「りゃあああ!!」

 

「ッ!」

 

 

 マザーズデーが刀をビビの首に落とす前に、ビビの真上を金属バットが通り過ぎる。それに合わせてビビの身体が軽くなった。

 

 

「ミ、Mr.9!!」

 

「貴様・・・邪魔をするか・・・」

 

「・・・事情が俺にはさっぱりわからねぇが・・・目の前でペアを殺されるのを黙って見てはいられねぇ。さっさと行きな!ミス・ウェンズデー。時間を稼いでやるからよ」

 

 

 妨害したのはビビのコンビを組んでいたMr.9。

 状況がわからない彼であったが、直感でビビの味方に付くことにしたのだ。振るったバットを前に構え、マザーズデーからビビを護るように立つ。

 

 

「・・・そうか。そうか、そうか。ならば貴様もここで果てろ」

 

 

 それに激高したのは当然ながら邪魔をされたマザーズデーだ。

 刀を身よりも後ろに構え、突く態勢へと構えを変える。そして瞬時にマザーズデーの姿が消え、気づいた時にはMr.9の懐へと入り込んでいた。

 

 

「させません!!」

 

「っ!!?」

 

 

「おいおい、何で面倒事につっこんでんだあいつは」

 

 

 Mr.9の喉元を貫かんとした刀先は直前に外的要因によってずらされた。突然の乱入に驚く一同。

 この場に乱入してきたのは女。それも先ほどイガラムやMr.9と戦闘していた相手だったのだ。

 

 

「例え悪党であったとしても、私の前で死者を増やすような行為は許せません!」

 

 

 そう言い切った彼女はたしぎ。彼女は建物の上でゾロと先ほどのやり取りを静観していたのだが、Mr.9が殺されそうになったところで飛び出したのだ。その行動にゾロも苦言を呈しているが、彼女の耳には届いていない。

 

 

「ミス・ウェンズデー・・・いや、ビビ王女の方がよろしいですかね。アラバスタ王国の王女であるあなたが何故犯罪組織に属していたのかを問いたい処ですが、私は目の前の敵を制圧しなければなりません。行ってください」

 

「!!カルー!走って!!」

 

「クエー!!!」

 

 

 ビビはたしぎの意図を汲み取り、お供であるカルガモに乗って離脱を行う。Mr.9も続くように走りだした。

 それをマザーズデーは忌みたらしく、Mr.6は面白そうな表情で確認していた。マザーズデーは兎も角、Mr.6は手に持つ銃をビビに向けることすらしなかった。

 

 

「・・・はァ・・・どいつもこいつも私等の仕事の邪魔しやがって・・・おいMr.6。何故さっさと撃ち抜かない。あの程度で外すほど落ちぶれてないだろう?」

 

「いやぁ確かに私もそうしたい所だったのですが、乱入してきた方の仲間が私の上部に居るとわかっている以上は安易な行動をとれないものでしてね。というわけで貴方も下りて来たらどうでしょうか?居ることは分かっていますよ」

 

「・・・なんで俺まで巻き込まれなきゃいけねぇんだ・・・?・・・こいつらがどうなろうと俺は知らねぇってかそいつらは敵だしで俺にゃデメリットしかねぇ。一人でやってくれ」

 

 

 Mr.6はマザーズデーに対して悪びれた様子もなく、ゾロにそう提案する。

 降りなければすぐにでも撃たれる。そんな気配を感じ取ったのかゾロはしぶしぶ降りてきた後、敵対する意思はないと言い切る。それに反応したのはMr.6でもなく、ミス・マザーズデーでもなく、たしぎだった。

 

 

「んなっ!?あなたはそんなに薄情な人間だったのですか!?剣士を名乗ってるくせに!」

 

「剣士は関係ねぇだろぉが!!」

 

 

 そこから生まれた火種によって、二人はそのまま言い争いへと発展してしまう。

 二人の相性は悪くないものであるのだが、良くもない様だ。

 

 

「・・・・・・いくぞ、Mr.6」

 

「いいのですか?彼らは私達の妨害を行った者達ですよ」

 

「あいつらは後でも処理できる。それよりも目標を見失ったら面倒だ。さっさとこの町で処理するぞ」

 

「フフ。了解しましたよマザー」

 

 

 痴話喧嘩をしている二人を見て、Mr.6とミス・マザーズデーはその場から離脱した。

 それにたしぎが気づいたのは少ししてからだ。

 

 

「・・・あっ!!しまった!見逃した!!もう、あなたのせいですよ!」

 

「なんでそうなるんだよてめェは!」

 

「黙りなさい!さっさと追わなければ!!」

 

「・・・ったく、俺を巻き込むんじゃ・・・ん?何だてめェ」

 

 

 走るたしぎの背を見送ったゾロは踵を返そうとして、足に感じた違和感に気づく。

 ガムを踏んだとか靴ひもが解けたなどというものではなく、男がしがみついて居たのだ。先ほどの戦闘で戦っていた男がだ。

 無理やりにでも外そうと足を動かそうとするが思っていた以上の力で外すことは出来なかった。

 

 

「騎士殿!貴殿の力を見込んで理不尽な戦いもうし奉る!!」

 

「奉るな!てめェ等のいざこざなんて知るか!手を離せ!!」

 

「あの二人組は両者とも『バロックワークス』内でも屈指の実力者!私には阻止できん!代わって王女を守ってくださるまいかっ!どうか!!東の大国“アラバスタ王国”まで王女を無事に送り届けてくだされば・・・!かならづやあなた方に莫大な恩賞を・・・!!」

 

 

 ゾロは元々乗り気ではなく、完全に一眠りするつもりでいた。だがビビ王女を助けたいイガラムは当然許可出来るものではなく、必死になって説得にかかる。

 無意識だったのかもしれないがそれが良かったのだろう。

 

 

「その話乗った」

 

 

 イガラムが頼み込んだ本人ではなく、異なる人物が反応を示した。

 高台から見下ろすような形で見ているその人物はゾロにとって見知った顔だ。

 

 

「ほ・・・本当でずかっ!?」

 

「えぇ。10億べリーで手を打ちましょう」

 

「・・・!?」

 

 

 ナミが天使のような笑顔で、悪魔のような要求を押し付ける。

 

 10億ベリー。

 

 それは一般人が一生働き続けても集められる金額ではない。当然ながら王国の重要人物であったとしても、その額を簡単に出せるとは言い切れないのだ。

 確かにイガラム自身、莫大な報酬を差し上げると言った。だが要求金額が小国を買い取れるほどの大金とは想定していない。

 

 

「じゅ・・・10億・・・」

 

「まさか一国の王女の値段がそれ以下の価値だなんて言わないわよね?・・・出せ」

 

 

 必死の想いで繋ぎ止めた存在ではあるが、ナミを前にして早速イガラムはその事を後悔し始めていた。

 

 




     
 
 
 
 
・『バロックワークス』

 特に記していないが彼らは『ビリオンズ』
 一般的な平社員の立場である。特に活躍の場もなく、機会もないだろう。 


・Mr.6&ミス・マザーズデー
 
 原作では設定こそあるものの、一切姿を現さずに存在を忘れ去られた『バロックワークス』のフロンティアエージェント。今作ではその設定を拝借し、オリジナルキャラをぶっこんだことでこうなった。
 二丁拳銃を操る中年神父と大太刀を豪快に振るうJKシスターではあるが二人は夫婦であり、マザーズデーの方が年上。諸事情で二人はオフィサーエージェントに格上げされている。
 
 
・たしぎ

 痴話喧嘩を止めた勇儀によって海賊と共にすることになった海兵ヒロイン。これに伴い強化が必然的になった模様。
 ちなみにローグタウンの海兵達からマスコット的な立ち位置のためか、麦わらの一味に拉致されたという認識で血眼になって探しているとか。
 かわいい。


・10億ベリー
 
 1ベリー=1円という認識で問題なし。
 この世界の物価などはわからないため、基本的には現代社会と同じような認識でも大丈夫だとは思う。

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