星熊童子とONE PIECE   作:〇坊主

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 アーロン君に『一人で頑張ったで賞』を進呈します。
 
 


星熊童子とノコギリザメ

 

 

「・・・アーロンってのは俺のことだが・・・何の用だ?」

 

 

 門を破壊して侵入してきた女を見据えてアーロンは自分がそうだと答えた。

 見たことが無い顔だったこともあり、警戒心を上げておく。額に角が生えている女が普通の女の訳がない。それもアーロンパークの門を破壊した張本人とあっては尚の事だ。

 アーロンが慕っている男、現・七武海のジンベエ。その男が着ている衣装に似た雅な着物を見事に着こなしている金髪の女は賄賂を渡しているネズミ大佐からの情報はない。ニュースや賞金首のリストにも載っていない存在だろう。

 

 多少の警戒心を抱きながらもアーロンは眼前の女を嘗めきっていた。

 なぜならアーロンは『魚人こそが至高の種族』という思想を持っているからだ。

 

 人間の数倍の筋力と耐久力を持ち、水中を自由自在に泳ぎ操る魚人という種族こそ、万物の霊長であると信じているアーロンは門を破壊した勇儀を見て多少は出来る女としてしか見なかった。

 魚人と比べて身体能力が遥かに劣る人間に何かされようとも微動だにしない。ましてやダメージを負うなどあり得ない。

 

 

「あんたが今持っている盃と瓢箪。それを返して貰いにきた。その二つは私の所有物なんだ。返して貰うよ」

 

「シャハハハ!初対面の相手に物を返せとせがむか!この二つは最高の品・・・そう簡単には渡せねぇよ。本当にてめぇの物なのかもわからねぇのに渡すわけねぇだろう?」

 

「あぁ、言葉が足らなかったようだ。すまないね・・・あんたに拒否権はない」

 

「―――ッッ!?!」

 

 

 そんな自身と誇りを胸に抱いているアーロンは予測出来なかった。

 女の言葉と共に自分の身が吹き飛ばされるなど予想できるはずもない。下等種族と見下している人間相手なら猶更だ。

 

 吹き飛ばされ、塀が崩れる。頬に感じる痛みから殴られたとアーロンは理解した。

 そう。痛みを感じたのだ。下等種族の女の攻撃で、だ。

 殴ってきた女を睨むとその手には瓢箪と盃が収まっている。あの一瞬で奪われたことに怒りが湧き出る。

 

 

「あんたがどれほど偉くてどれほど強いかなんて関係ない。興味もない。あんたは私の宝を勝手に盗っていき、私の許可もなく使用した。・・・まぁそれについては百歩譲っていいとしよう。だけどそれ以上にあんたはやらかしちまったのさ」

 

「あァ?俺の記憶が正しけりゃてめぇとはさっき言ったように初対面のはずだが?俺が一体なにをやらかしたってんだ?」

 

「私の『友』を、泣かすなよ」

 

 

 勇儀の表情は怒りではない。笑ってもいない。通常時に近いもの。

 それであっても先ほどとは明らかに違う異質さを醸し出していた。

 

 

「私はあんたに対してお願いでもなく、提案でもない。ただ報告をするだけだ。『私の宝は返して貰う』そして『ナミは私達(・・)が貰っていく』そしてそのために『あんたらはこの海から消えてもらう』」

 

「クククク。そうかい・・・てめぇはナミの差し金ってことか。丁度良かった・・・俺は今この怒りを誰かにぶつけてやりてぇところだったんだ」

 

 

 起き上がったアーロンのこめかみには欠陥が浮き出ている。勇儀の報告はアーロン達から聞けば不利益しかないもの。それも見下している存在に上から目線で言われれば怒るのも当然だ。

 

 アーロンの目が鋭いものへと変化する。

 勇儀は知らないがその目は怒りが頂点に達した海王類が見せるモノと同じもの。それ即ちアーロンの怒りが頂点へ達したことと同義である。

 

 

「――!」

 

 

 少量の水を手に取ったアーロンはおもむろにそれを勇儀へと投擲。それを一瞬訝しんだ勇儀は避けて躱す。

 すぐにアーロンは行動に移す。近場に水が存在するこのアーロンパークは地上戦を行うとしても最高の場だ。多少の水があれば己の身体能力を存分に発揮することが出来る魚人にとって最高の狩場と化していた。

 

 

「“(トゥース)ガム”!!」

 

「早いねぇ!」

 

 

 散弾のように飛ばしてくる水滴はマシンガンと思わせるほどの威力を誇る。それを波状攻撃にしながらも自分の歯を引っ抜き、手に収めて噛みつき攻撃を繰り出してきた。

 勇儀はその牙に噛みつかれないように身体を動かして躱し、アーロンは己の筋力にモノを言わせて連撃をかますが勇儀は攻撃の合間を縫った。

 

 

―――光鬼『金剛螺旋』

 

「がァッ!?」

 

 

 胴体へと滑りこんだ正拳がアーロンの身を後方へと飛ばす。

 人間の女に吹き飛ばされるアーロンを見て呆気に取られる船員(クルー)達であったがすぐに我を取り戻した。

 

 

「アーロンさんだけが海賊じゃねぇぞ!!」

「覚悟しろ女ァ!!」

 

1対1(タイマン)勝負に水を差すものじゃない・・・失せろ」

 

 

  『鬼気狂瀾』

 

 

「がっ!?」

「うっ・・・」

 

「お前ら!?・・・チィ!魚人空手“千枚瓦正拳”!!」

「嘗めんなよ!“水千砲”!!」

 

 

 瞬間的な威圧によってドサドサとその場に崩れ落ちる仲間を見て、アーロン一味の幹部たちは動く。

 

 エイの魚人である クロオビ は己の必殺技を放ち、

 キスの魚人である チュウ は勇儀の退路を無くすように水で弾幕を張る。

 

 互いに合図はしていないものの即興でコンビを組んだことは多々ある2人。瞬時に連携を組んで挑んでくる姿勢は評価に値するものだろうが相手が悪かった。

 

 

「力業『大江山嵐』」

 

 

 勇儀が放つ一撃が文字通り千の数もの水を撃ち潰し、正拳ごと衝撃で腕を砕く。

 ミホークとの一戦でこの攻撃は斬られているが実際の威力は大砲の比ではない。勇儀自身戦艦一隻程度なら容易に破壊できる威力であると自負している技だ。技名をつけているのは伊達ではない。

 

 

「ッ!!クロオビ!チュウ!!」

 

 

 吹き飛ばされた仲間に駆け寄るアーロンだが、幹部二人とも意識を失っているため返事がない。

 怒りがすでに頂点になっているのに加えて、目の前で同胞がやられたことで今にも憤死してしまいそうな表情へと変化する。

 

 

 「下等種族如きが・・・我が同胞をここまで傷つけてくれやがって・・・俺は女と賢い人間は好きなんだが・・・てめぇは死刑確定だ。八つ裂きにしてこのアーロンパークに掲げてやるよ」

 

「そいつはすごい。この後に無くなる場所に飾るたぁ面白い趣味を持っているようだ」

 

「――ッ!!吠えてろ!」

 

 

 叫びと同時に勇儀は吹き飛ばされた。

 

 

「っ!?」

 

 

 身を翻して威力を抑えこみ、壁に着地する。

 衝撃波ではない何かを喰らったことに驚く勇儀。その原因を作った張本人はすでに姿を消していた。

 

 

「・・・・・・見失った?いや、相手は魚人・・・つまりうm」

 

「“ 鮫・ON・DARTS(シャーク・オン・ダーツ) ”!!!」

 

 

 姿を暗ましたアーロンがどこにいるのか。

 それに目星をつけ、海に視線を向けたと同時にアーロンが高速で突撃してきた。

 

 ノコギリザメの魚人であるアーロンが好んで使用するこの技は水と刃を通さない鋭利な鼻を使用した高速刺突。水中では身体能力が向上し、自由に動くことが出来る最大の利点を最大限に使用したこの攻撃は外壁を貫通するほどの威力を持つ。人間が喰らえば風穴が空くことは必然的なものだ。

 

 それを最高のタイミングで放ったことでアーロンは仕留めたと確信した。

 普段のようにゆったりと攻撃に移るようなことはせず、一切の慈悲もなく攻撃に移ったのだ。避けれるはずがない。触れたのならそれは致命傷は確実だと、そう信じていた。

 

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 

 最もそれがただの人間であればの話であるが。

 

 

「・・・全く、痛い(・・)じゃないか」

 

 

 アーロンにとっての最高の一撃は勇儀の腕で防がれていた。咄嗟の判断で勇儀は筋肉を締め、鋼の如く固めた腕で重要部を護ったのだ。

 護りはしたが無傷ではない。文字の如く高速で飛んでくる刃物を受ければいくら固めても傷が入ってしまう。鼻先が刺さった腕からは血が流れ落ちていた。

 

 アーロンは“鮫・ON・DARTS(シャーク・オン・ダーツ)”でその程度のダメージしか与えられていないことに驚愕する。最高の条件でこの程度のダメージしか与えられないのかと。

 

 そして勇儀は相手の攻撃で怪我をしたことに驚いていた。 

 覇気を纏う暇がなかったとはいえ、本気で締めた腕はそこらの刃物を通さない防御力を誇っている。それを越えられたことに素直に感嘆しながらもすぐに行動を開始する。

 アーロンの頭を掴んで鼻を引っこ抜いた後、そのまま建物の壁へと叩きつけた。

 

 

「ッ!!」

 

「私に傷をつけるとは驚いた。だがそれだけだね」

 

「嘗めるな下等種族がァ!!」

 

 

 攻撃を数発喰らったアーロンはすでに万全の状態ではなくなっている。それでも立ち上がり、戦う意志を見せているのは魚人を誇っているのは自分の意地。

 

 

「上等種族である俺ら魚人には、ハッ・・・てめぇら下等種族では絶対に到達できない領域ってモンがある!」

 

 

 アーロンは横にあったアーロンパークの壁を蹴り壊した。

 壊れた場所は水路になっていたのか大量の水が溢れ出し、地面を瞬時に覆っていく。

 

 その様子を特に気にせず見届ける勇儀はある程度浸食したあと、何があるのかと問いた。

 

 

「グ・・・ハァ・・・、魚人特有の筋力があってこそ為し得る武術“魚人空手”・・・俺のはクロオビの比じゃねぇぞ!!」

 

「・・・ほぉう?それがあんたの切り札って所かい?いいじゃないか、来な。あんたのその誇りと共に、私が殴り潰そう」

 

「ほざいてろ人間風情がァ!!」

 

 

 辺り一帯が水を有するこの状況でアーロンが先に動く。先ほどの動きとは比べ物にならない速さで、地面を滑るように移動していく。

 移動の際もアーロンは水を撃ち出すことを忘れない。

 人間相手に使う気がなかった己の技を確実に当てるために相手を牽制する必要があるからだ。

 

 “撃水(うちみず)

 

 魚人たちの間ではそう呼称されるその技は己が手に少量の水が有れば特別な構えもなく使用できる射撃技。勇儀に対してアーロンが水をかけようとしたのもこの技で攻撃しようとしたためであった。

 

 対する勇儀は“撃水(うちみず)”を喰らいながらもそれを無視し、アーロンの攻撃タイミングを計りながら己の腕に力を込めていた。

 攪乱しようとするアーロンを他所に地面を踏みしめながら一歩また一歩と歩みを進める。

 

 

(こいつで仕留めてやる!)

 

 

 アーロンが当然狙うは必中、故の必殺。

 大気中の水分に振動を伝わせることで一点を集中破壊するその技は、鐘が鳴るように鈍くそして重く対象を崩壊させていく。人生で習い、そして己の必殺技として昇華させた型の一つ。

 

 気合いを体に捩じ込みながら空手の型のような構えを取って、勇儀の背後へ回り込む。

 放つ対象に意識を移すとこちらの動きについて来れなかったのか、こちらを向く様子もない。

 

 

(今だ!!)

「“魚人空手”『重梵鐘(かさねぼんしょう)』!!!」

 

 

 振り向かないのを好機と捉え、間合いを詰めて技を放った。放ってしまった(・・・・・・・)

 放った瞬間、アーロンは戦慄した。 

 

 

(何故・・・)

 

 

 勇儀が背後を向いている瞬間を狙って放ったのだ。

 状況変化が遅く感じるかもしれないが、人間から見れば文字通り高速移動。それも“撃水(うちみず)”による弾幕の応酬も含め、30秒と経っていないのだ。だからこそアーロンは信じられなかった。

 

 

(何故こっちを向いていやがる!!?)

 

 

 背後を取り、数秒経たずにそ最速で技を打ち込んだというのに有角の女はこちらに目を合わせて腕を振りかぶっていた。

 

 絶句するアーロンに対して勇儀は静かに奥義を放つ。

 

 

―――四天王奥義・・・

 

「『三歩必殺』」

 

 

 振り降ろされた拳と共に、周りの景色が吹き飛んだ。

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 
 
 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 新年最初のキャラ強化第一被害者はアーロン君でした。 
 それに伴って魚人空手を追加。これは完全なるオリジナルなので許してください!

 
・魚人空手“重梵鐘”

 大気中、または海中の水分を支配し、一点へと圧縮することで対象を圧殺する技。
 新年の除夜の鐘にかけて梵鐘を鳴らすように攻撃することからふと思いついた技で、アーロン君しか使わないであろう奥義。流石にジンベエの“武頼貫(ぶらいかん)”には敵わないがそれでも大物を食えるだけの威力を有すると思います。


 
 今回補足はこんなところでしょうか。戦闘に参加していないハチは次回に出てくると思いますよ。
 そして感想をくださった方々本当にありがとうございます。
 返信はあまり出来ておりませんが、しっかりと読ませていただいております。今後ともこの作品をよろしくお願いします。
 

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