星熊童子とONE PIECE   作:〇坊主

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 航海士1を投稿した際の感想でほぼ全てがアーロンの追悼で笑ってしまいました。感想を書いてくださった皆様、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました!
 
 
※海軍少佐を海軍大佐に修正しました。ご指摘ありがとうございました。
 



星熊童子と航海士 2

「つ・・・着きやした・・・!」

 

「これがアーロンパークってやつかい?でもメリー号が見えないねぇ・・・」

 

 

 何事も無く目的地へと到着した勇儀たちは斬りこもうと提案したゾロを抑え込みつつメリー号を探す。

 ナミがアーロンの元に向かったとしてもこちらがまずやらねばいけないことは盗られたメリー号の捜索と星熊盃・伊吹瓢を取り返すことだ。最も後者は勇儀にとって最優先事項である。

 

 

「おっ!あったぞメリー号!あんなところに泊めてやがる!」

 

「でも泊まってる場所がなんかおかしいっすよ。地図上ではこの辺りにココヤシ村とゴサの村あるんすけど、あの場所だと二つの村の間に泊めてることになります」

 

「そうかい。ま、見つけたんだからいいさ・・・ねっ!」

 

「ちょっ!姉御!?」

 

 

 少し船を進めるとメリー号を発見をしたがジョニーがその位置について疑問を持った。が、生憎この世界の地理など知るわけでもなく、興味を持たない勇儀は気にも留めずに跳躍し、メリー号が泊まっている近くに着地した。

 

 

 楽しそうに話し合っていた魚人たちの間に入るように。

 

 

「・・・えっ?」

 

「ん?あぁ、すまない邪魔したね。私はあの船に用事があるからこれにて失礼」

 

 

 日本人が人の間を通り抜ける際に手刀を前に出すように勇儀もそれに倣って魚人たちの間を抜けていく。

 突然現れた異端者(人間)に唖然としていたが我に返り、船に乗り込もうとしていた勇儀を呼び止めた。

 

 

「おい貴様は何者だ!?その船に一体なんの用事がある!」

 

「ん?私は勇儀。通りすがりの忘れ物を探しに来た人間さ」

 

 

 もういいかい?

 そんな言葉を返しつつ勇儀は船に踵を返そうとするが魚人たちに妨害された。

 

 

「まぁ待ちな。この船は今俺らアーロン一味が受け持ってんだ。貴様はこの辺じゃ見かけたことがねぇ。不審人物はまず取り調べしなきゃならねぇ。反乱因子は摘み取るに限るからな」

 

「アーロンさんの所にあんたを連れていく。選択する権利はねぇぜ」

 

 

 

「(おいおいおいおい!こりゃまずいっすよウソップの兄貴!!)」

 

「(待て待て待ておちちちつけ。勇儀よりもまずおれ達が見つからないように行動しなければいけねぇ!仲間がいるとバレたら向こうも仲間を呼ぶ可能性だってあるんだ。生憎奴らは俺たちに気づいていない!難が過ぎるまでここで待機だ!)」

 

 

 勇儀を囲むは3人の魚人たち。

 ジョニーとウソップは勇儀が魚人に囲まれていることを確認すると、その場で船を止めて成り行きを見守ることにした。

 

 

「そういやあんた、突然空から現れたが一人で来たのか?」

 

「いや?船でここまで来たよ?ほら、あそこさ」

 

「何!?」

 

 

「「・・・・・・・・・ッッ!!??」」

 

 

 ここに来てのまさかの裏切りにウソップ達は驚愕する。

 バレてしまったので隠すこともないのだが、勇儀の表情は悪だくみをする際に浮かべる笑みを浮かべていた。

 

 

「同行者も居やがったのか!おめぇらも・・・」

 

「まぁ、そんな面倒なことを私がやる義理なんてない。あんたらは寝てな」

 

「「・・・えっ・・・・・・」」

 

 

 勇儀からウソップ達が乗る船に魚人たちが視線を移した瞬間、彼らは地面に倒れこんだ。動く気配もなく、遠くからでも気を失ったことがわかる。

 ゾロも目を見開いているが、勇儀が行ったのはただの威圧。瞬間的に圧を高めてぶつけただけだ。暖かい部屋から冷え切った場所に移った際に体に鳥肌が立つように、物に勢いよくぶつかる際に身体が本能的に強張らせるように、瞬間的に高密度の威圧をかけることで反射的に意識を飛ばしたのだ。

 

 気を失った三人を放置したまま勇儀はメリー号へと飛び乗って船内へと入っていった。

 

 

「あんにゃろう・・・わかっていたが只者じゃねぇな・・・」

 

 

 ガレオン船を真っ二つにした最強と互角の戦いを繰り広げた一角の女の気迫を感じ取ったゾロは、目指すべき目標の高さを再確認して言葉を吐く。

 ミホークとの戦いで微かな違和感・・・とは言えないものの、何かに手が届きそうな感覚がしたのだがあれは一体なんであったのだろうか。

 

 そんなことを考えるゾロであったが、彼自身気づいていない。

 あの交錯した一瞬、ほんの瞬間的であったが黒刀『夜』と競り合ったことに。

 

 その後、慌てた様子の勇儀が魚人を叩き起こしている姿を確認し、再び騒然とするウソップ達であった。

 

 

 

 

 

 

   ――― 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとアーロン!あんた一体どういうつもり!?」

 

「あァ?どうしたってんだナミ?俺がお前になにかしたか?」

 

「あんたのとこの海軍が私のお金を奪いに来たわ!あんたが(けしか)けたんでしょ!約束は守るんじゃなかったのか!!」

 

「おいおい、一体俺がいつ約束を破ったんだァナミよ?」

 

「・・・・・・ッ!!」

 

 

 笑みを絶やさないアーロンはナミの口を手で塞ぐ。

 海軍を送り込んだことを本当に知らない・・・というわけでもなく、初めからこうするつもりだったという笑みだ。アーロンの反応を見て、ナミは確信した。この男は初めからこうするつもりだったのだと。

 

 

 アーロン一味が平和な東の海(イーストブルー)にやってきてからナミを含めた村の住民たちにとって最悪の時がやってきたと言っても過言ではない。

 人間よりも優れた身体能力と魚本来の特性を兼ね備えた魚人海賊団に抗った住民たちもいたが、その者たちは悉く壊滅。村もいくつか滅ぼされ、その魔の手もナミの生まれ故郷であるココヤシ村にも伸びてきたのだ。

 交友があった隣町のゴザの村が見せしめとして地図上から消されて以来、アーロン一味に従う方針にした村は月初めに奉具を収めることを強要され、収められなかった村は消されていく。村長を含めた住民たちは生き残る戦いをすべく、どんな要求にも従い、そして耐え忍んできたのだ。

 

 ナミは元々ココヤシ村の住民だった。彼女が海賊嫌いなのも本心からだ。

 アーロン一味が襲撃してきたとき、ナミが最も不幸だったのは海図を書くことに長けていたことだった。海賊団の襲撃に当時まだ8歳の子供であったナミが海図を隠そうとしても限界がある。そこでばれてしまったのだ。

 

 勧誘という名の強制的な拉致を受ける際にナミは母親と言っても過言ではない女性 ベルメール を殺された。更に強制的にタトゥーを彫らされ、仲が良かった村の住民たちからは裏切り者扱いを受けてきたのだ。

 ナミが生まれ故郷であるココヤシ村を守るためにアーロンに持ち掛けた取引。それが1億ベリーものの大金を以て、アーロンからココヤシ村を買い取るという内容だ。

 それを成し遂げるために綺麗であった手を汚して窃盗や裏切りを繰り返し続けて8年。1億まで残り500万ベリーに差し掛かったところに今回の海軍の強制徴収。目の前にいる魚人の男は一生1億ベリーを貯めさせずに使い潰すつもりであったのだ。

 

 

 それを理解し、無力さを痛感したナミの瞳からは大量の涙があふれ出てくる。

 絶対に許さないと、殺してやると頭に刻み込みながらも今の自分では殺すどころか傷一つ負わせることが出来ないことを知っていたからこそ、悔しかった。

 

 

「安心しろよナミ。俺だってそこまで鬼じゃねぇ。例え一億ベリー揃えれなかったとしても、世界中の海図を書き終えた暁には解放してやるからよ。シャーッハッハッハッハ!!」

 

「――ーっ!!!」

 

 

 一生解放しない。

 言葉を選んでいるがアーロンが言っていることはそういうことだ。

 現場に居ながらも何もできないことを悟っているナミは何とかアーロンの手を払うとそのままアーロンパークから走りだした。

 

 

「あんたもなかなかえぐいことをするなァ。アーロンの旦那」

 

「ナミほど優れた航海士を俺は知らねぇ。折角優秀な駒がいるのに手放す必要なんかねぇだろう?」

 

 

 そりゃそうだ。そんな魚人たちの笑い声がアーロンパークに満ちる。

 活気に溢れているアーロンパークの門が吹き飛び、笑いが一気に沈静化するのはナミがアーロンパークから出ていった後、すぐの出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畜生、畜生畜生!!

 

 アーロンから逃げるように走りながらナミは言葉を吐き捨てながら走った。

 サメ男のしたり顔が頭に残る。逃げ出したくても村のみんなのことを考えると逃げることも許されない。自分が死ぬなんて以ての外だ。

 

 

「アーロン・・・アーロンアーロンアーロンッ!!!」

 

 

 ただ走った。周りのことなど目にも留めずに走った。

 あふれ出る涙を拭うこともせず、口から出る罵言を止めることも出来ないまま走り続けた。

 

 村が襲われた後、海軍に救援を呼んだこともあった。

 だがそれはアーロンと癒着している海軍大佐によって妨害され、救いがないと教えるように目の前で船を沈められた。あの時の住民たちの顔が頭から離れない。最後の綱だった取引も今ではないも同然だ。

 これからも続くであろう絶望にナミは感情を自分で止めることが出来なかった。耐え続けた8年もの月日が無駄足に終わり、解放されることが無いとわかった以上自分ではもうどうすることも出来ない。

 

 

「前を見ないと危ないよ、ナミ」

 

 

 がむしゃらに走るナミは投げかけられた声に足を止めた。聞き覚えのある声だったからだ。

 『バラティエ』でトンズラを決めたときに置いてきた者が今この場所に何故いるのか。そんな疑問が湧く。

 

 

「・・・なにかあったのかい?」

 

「・・・・・・追ってきたのね。なに?私に償いでもさせるつもり?生憎だけど私は今あんたに構ってる暇はないの」

 

「償いなんてさせるつもりは無いが、一つ聞かせてくれ。“アーロンパーク”ってのはナミの後ろにある建物であってるかい?」

 

「・・・そうよ、それがどうしたの!?乗り込むつもりなら止めておきなさい。あそこにいるのは魚人海賊団を率いる凶悪な男。いくらあんたが強かろうとも殺されるわ」

 

「ふーん・・・そうかい。それならそれで構わないさ。私個人の用があるんでね」

 

「っ!!ふざけないで!殺されるとわかって そうですか って通せるとでも思ってるわけ!?あんたのような無謀な奴から死んでいくの!さっさとここから去りなさい!」

 

「私達と関係を切ったわりにやけに気を使ってくれるじゃないか。赤の他人なのに」

 

「―――ッ!!ふざけるな!!」

 

 

 無関係だと言う勇儀にナミが吠える。

 赤の他人と言われたことに対してナミは叫ばずにはいられなかった。

 

 

「関係ない?ふざけるな!私はあんた達から宝も含めて盗んだ!だけどあんたがアーロンに会う必要なんてない!ここから消えて!今すぐこの村から出て行って!!宝は返すから船を使って帰って!!」

 

「・・・・・・」

 

「・・・っなによ、なによ!出てけって言ってるでしょ!出ていけ!出ていけ!!」

 

 

 ナミの言葉に何も言わず、ただ立つ勇儀にナミは拳をぶつけるが気にも留めない。

 出て行けと言葉を吐きながら勇儀の胸を叩くナミの拳からだんだんと力が抜けていき、最後にはナミは泣き崩れる。それを勇儀はやさしく抱きとめた。

 

 

「っ!・・・ひぐっ・・・うっ・・・」

 

「正直な所私にゃナミの辛さはわからない。さっきも言ったように私はここと無関係な人間さ。過去も知らないしアーロンがどんな奴なのかも知らない・・・だけどね、

 

 『友達』を泣かされて黙っている女じゃあないんだよ」

 

「!!・・・う、うわぁぁぁぁああああ!!」

 

 

 胸の中でナミが泣き出すまで時間を有さなかった。

 今まで耐え忍んで泣くことはあっても他人にその涙を見せるようなことをしてこなかったのだろう。人肌の温もりを感じつつ泣き続けるナミを抱き留めていると落ち着いてきたのか少しずづ泣き止んできた。

 

 

「もう・・・大丈夫そうだね」

 

「うん・・・ありがと。人前で泣くなんて本当に久しぶりだわ。私にここまでさせちゃうなんて・・・この件は高くつくわよ?」

 

「ハハッ!それなら今から支払ってくるとするかね!只でさえ私のモンを持ってるんだ。さっさと返してもらうとするよ。それにナミまで泣かすたぁ黙ってられないからね」

 

「・・・いくら止めても聞かないでしょうし、もう私から止めないわ。でもね、これだけは言わせて。・・・・・・死なないでね」

 

「死なないさ。私を誰だと思っているんだい?」

 

 

 思いっきり泣いたことで気持ちに整理がついたのかナミが勇儀を気遣う。勇儀の性格を理解しているのか止めるのは無意味だと悟ったのだろう。そして最後の希望に縋る様な印象を勇儀は受けた。

 ミホークとの戦闘を知らないナミは勇儀の強さを知らないが、クロネコ海賊団のクロを単独で倒したりしていることからかなりの戦闘力を有していることを知っていた。故に信じたのだ。

 

 ナミを離して勇儀はアーロンパークへと足を進め、門の前で足を止める。普通ならば誰かを呼ぶか素直に門を開けるかをするのだが生憎そんなつもりは無い。

 拳で門を木っ端微塵に粉砕した後、アーロンパークへ悠々と足を踏み入れた。

 

 

「アーロンってやつに用がある。どこにいるんだい?」

 

 

 沈黙している海賊たちに勇儀は大きく言い放つ。

 そこに付属した笑みは極上の獲物を見つけた時のような獣のようで、美しい笑みだった。

 


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