「『できる、できない』を決めるのは自分だ」
by.松岡 修造
「ゾロォーーっ!!うわあああああああああ!!」
「ゾロ!!」
「「アニキーーーー!!」」
最強の剣士と海賊狩り。
この戦いを制したのは鷹の目のミホークであった。
嵐の如き突撃を受け流しつつも黒刀をゾロの胴体へと滑り込ませたのだ。
微細なミスが起これば己にダメージを受けかねない攻撃を見事に捌き、一刀を以て斬り伏せる。黒刀の一撃を受けた衝撃でゾロが手に持つ無銘の二振りは修繕不可能のレベルまで砕け散った。
袈裟に斬られたゾロ本人はそのまま気を失って倒れこむ。位置が悪く、そのまま海に落ちようとしているところを勇儀が受けとめた。ゾロの容体が心配で海へと飛び込み、泳いできていたヨサクとジョニーを掴んでそのまま小舟へと跳躍。すぐにゾロを寝かせる。
深く斬りつけられてはいるものの、ゾロは即死はしていない。ミホークが殺す気がなかったためだろうが、このまま放置していれば出血多量で死ぬことは容易に予測できた。
「チキショォオッ!!ゴムゴムのォ~!!」
「若き剣士の仲間か・・・貴様もまた、よくぞこの戦いを見届けた・・・!」
そんなことは知らないルフィは腕を伸ばしてミホークへと攻撃を繰り出す。・・・が、腕を伸ばした後、体当たりを決行。だが線がわかりやすく、攻撃は読みやすい。さらに怒りで単調になっている攻撃は難なく躱された。
躱されたことで廃材に突っ込んだルフィはすぐに体制を整える。立て直したところでミホークがルフィに言葉をかけた。
「そう急ぐな。心配せずともあの男はまだ生かしてある」
「!!」
「アニキ!アニキィ!!返事をしてくれ!!」
「船に傷薬ぐらいあるだろう?すぐに持ってきな!」
「わ、わかりやした!!」
ジョニーの声に我に返るルフィの視線の先には勇儀によって船に乗せられたゾロが傷薬をかけられているところだ。気を失っているゾロに対してミホークが声を張り上げる。
「我が名はジュラキュール・ミホーク。ここで貴様が死ぬには惜しい。己を知り、世界を知って、強くなれロロノア!この先幾年月でも最強の座にて貴様が登ってくるのをおれは待つ!猛る己が心力を挿して、この剣を・・・このおれを越えてみよロロノア!!!」
「・・・・・・鷹の目のミホークにここまで言わせるとは・・・あいつ、相当気に入ったのか」
ミホークの行動に驚いているのは
周りのコックたちは言葉を失っている。
「ロロノアの仲間の小僧よ。貴様は一体何を目指す?」
「海賊王!」
「なるほど・・・それはただならぬ険しき道ぞ。このおれを越えることよりもな」
「これからなるんだ、知らねぇよそんなこと!おいウソップ!ゾロは無事か!!?」
「無事なわけねぇだろぶった切られてんだぞ!!でも生きてる!気を失っているだけだ!!」
傷薬だけでなく包帯も巻き始めているウソップが叫ぶ。生きているゾロの容体を悪化させないために慌ただしく動くウソップ達であったが、行動を止めざるを得なかった。
ゾロが唯一無事であった刀を掲げたのだ。
「・・・ル、ルフィ・・・聞こえる・・・か?ガブッ!ガハッ!!」
「アニキ!!しゃべらねぇでくれ!」
「アニギ!!」
「二人とも黙ってな。ゾロの言葉が聞こえない」
勇儀がヨサク達を黙らせるとゾロは言葉をつづけた。
「不安に・・・させたかよ・・・おれが、世界一の・・・剣豪に
「しししし!!ない!!!」
ゾロの覚悟を聞いたルフィは笑顔で答えた。それを聞いたゾロはすぐに気を失う。そしてウソップ達によって船の中へと運ばれていった。
「勇儀といい、ロロノアといい、良いチームだ。
ゾロの宣言を聞き、ミホークは表情には出さないものの喜んだ。
退屈であったために暇つぶしを決行して、クリーク海賊を追い詰めていたミホークは最弱と評される
「ちょっと待てや鷹の目・・・!悪いこったぁ言わねぇ。帰る前に死んで行けや!!!」
不意打ちの如く銃弾の雨を作りだすクリーク。
弾丸がミホークを貫くよりも早く、ミホークは海を斬ることで波の壁を作り出す。下手をすれば人を攫えるほどの威力の波は弾丸を飲み込んで、海の底へと押し込んでいった。
「・・・チッ、あの野郎逃げやがったか」
ミホークが逃げたことを悟ったクリークは毒づくが、すぐに思考を入れ替える。
本来の目的は海上レストランをそのままいただくこと。今から一番為すべきことであり、それ以外は順位が下がる。慌ただしい船員を黙らせるとすぐにレストランへと向かい合った。
「うわっとっとと!!」
ルフィはミホークが海を巻き上げた衝撃でその場から飛ばされ、レストランの柵になんとかしがみついていた。
海に落とされなかったことに安堵し、すぐに船員に指示を飛ばす。
「お前ら!先に行っててくれ!俺はまだここでやらなきゃいけねぇ!」
「・・・!わかった!おれ達はナミを必ず取り戻してくるから、お前はコックをしっかり仲間に入れてこっちに来い!6人揃ったら、そんときゃ行こうぜ!“
「ああ!行こう!!」
メリー号を追いかけるためにそのまま出航したウソップ達はルフィと別れる。
その後ミホークという最大の難敵が消えたことによって活気づいた海賊たちの雄たけびと海のコックたちの鼓舞の声が海域一面に響き渡った。
勇儀やゾロを乗せた船をウソップはそのまま進めていく。
海のコックたちとクリーク一味の騒がしい喧噪の声が聞こえなくなったところで勇儀は思ったことを口にした。
「なぁウソップ。『バラティエ』にメリー号を泊めていた筈だろう?なんでヨサク達の船で向かっているんだい?あの船はルフィじゃ動かせないだろう?」
「お前知らなかったのかよ。メリー号や宝はナミがまとめてトンズラしちまったんだよ。だけどルフィがどうしてもナミを航海士にしたいらしくてな。今から追いかけに行くってことさ」
「メリー号ごと持っていかれたってわけかい?・・・はははは!」
「おま・・・笑いごとじゃねぇだろ!カヤからもらったメリー号を盗られたんだぞ!お前は何も思わねぇのかよ!」
ナミの行動を知って勇儀が笑い出す。
ウソップ的には勇儀が怒ると思っていたようで、まさか笑い出すとは思わなかった様子。
「いやはや、まさかナミがここまで大胆な行動に出るとは思わなんだ。いつか行動するとは思っていたがここまでとはね」
「お前、ナミがおれ達を裏切るって思ってたのか?!」
「・・・あー、そういやぁウソップはあの時居なかったね。ルフィが勝手に航海士としてのポジションにナミを入れ込んでいたが、ナミ自身認めていなかったんだ。共に行動していたのもあくまで“手を組んでいた”だけ。ナミはまだ仲間として正式に入っていたわけじゃないんだよ。今ナミが行動したってことは私達と関係を切っただけのこと。私個人としては特に思うことはない・・・。・・・・・・」
そこまで勇儀が言ったあと、肝心なことに気づく。
常に手元に置いておいた盃と瓢箪がないのである。ミホークと闘いをする前に船に置いたままにしていたのだ。外に置いておくと海に落ちる可能性があったために船内に入れて置きはしたが、今現在メリー号はナミが乗って行ってしまっている。
つまり状況が状況なだけに仕方ないのだが、“星熊盃”と“伊吹瓢”共にナミに盗られた形になる。その二つはこの世界に生まれ落ちてから常に持っていた物であり、勇儀にとってルフィの帽子と同じように大切にしていたものだ。
そのことに気づいた勇儀は先ほどまで楽しそうにしていたのから一変して真顔になり、そのまま備え付けの櫂を手に船尾へと移動。すぐさま漕ぎ始めた。
並の筋力ではそこまで航海に影響は及ぼすことはないが、生憎勇儀には鬼の筋力が備わっている。風の力で動いていた船は勇儀が生み出した推進力を得て数倍の速さになって動き始めた。
「お、おい勇儀?どうした?」
真顔で更に全力で漕いでいる姿は正直な所怖い。
ウソップは顔を引きつらせながら問うが回答は急がねばの一言のみ。ゾロがミホークとの戦いで負傷しているため、今いる戦闘要員は勇儀だけになってしまっているのだが、これで大丈夫なのかと頭を抱えるウソップであった。
―――
「ちょ、ちょっと待ってくれ!このまま進むと
勇儀の働きによって船は想定以上の速さで進んでいく。
海上レストランから結構な距離を進んだところでヨサクが何かに気づいて声を上げた。
「?あの場所ってなんだ?」
「この先にはアーロン一味が支配している土地があるんです!このまままっすぐナミの姉御が行ったのだとしたら奴らに見つかっちまう!」
「アーロン?・・・あぁそういやナミはよくそいつの賞金首のリストを見ていたね。だったら猶更そこに向かわなきゃいけないだろう?船を盗られてるんだし、何よりもいかないと私の物も盗られたままになっちまう」
「確かにそうなんですが、これはルフィの兄貴たちにも知らせなかきゃいけないことですよ!このまま奴らと敵対するのはほんとにまずいんですから!」
ウソップや勇儀の言葉に対して本当にまずいというヨサク達。相手は個体数は人間よりも少ないとは言えど、海中を自由自在に泳ぎ回ることが出来る魚人海賊団。
海で戦う事にでもなれば万一も勝てる見込みは存在しないだろう。況してはこちらの戦力の一人は大けがを負い、もう一人は能力者。海で彼らと戦うことは自殺行為の何者でもない。
「かといって今から船を戻すわけにもいかないだろう?あれだけの事を言ったんだ。最低でも船は取り返しておきたいところだ。私があんた等どっちかを投げ飛ばそうとしても流石に届かないだろうし・・・どうしようか?」
「泳いでいけばいいじゃねぇか。ヨサクおめぇ泳ぐの得意だったろ?行ってこい」
「そ、そんなアニキ!殺生な!いくら何でもこの距離だと力尽きますって!!」
「なにかいい方法がないかねぇ・・・ん?ありゃ魚かい?」
「だな。結構でけぇな」
船の横では人を丸のみ出来そうな魚が海上付近を泳いでいる。
ふと勇儀は何を思ったか船の中へと入って行き、すぐに出てくる。その手には魚の餌にでもするのか食料があった。
それを魚の近くに投げてやり、それを食べたらまた近くに投げるを繰り返し、船に魚を寄せていく。頑張れば手が届きそうな場所まで誘導した後、勇儀は行動を開始。一瞬だけ腕を海の中に突っ込んだ後、水を持ち上げるように高く腕を掲げた。
その結果何かの攻撃を受けたように水柱が上がり、近くの魚は空へと投げ出される。落ちてくるその魚を掴んだ勇儀はそのまま悪い笑みを浮かべた。
「おっし、ヨサク。あんたこいつに乗って『バラティエ』まで行きな」
「え、あ・・・はい?勇儀の姐さん。何を?」
勇儀から逃げようとする魚――見た目は明らかにサメ――はビチビチと暴れようとするが勇儀の圧に負けて静かになる。その後に餌付けをしてながら提案する勇儀の言葉をヨサクは何を言っているのか理解できなかったに違いない。
「いや、だからルフィ達の元に向かう手段だよ。こいつに乗って行けばすぐに着くんじゃないかい?」
「いやいやいやいや!!明らかにサメじゃないっスか!?こいつに乗ったら最後、二度とアニキ達に会えなくなっちまう未来しか見えませんって!!」
「そう言うな。ほれ」
カプッ
「えっ」
サメの口の中にヨサクをピットイン。
サメの歯がホオジロザメのように鋭くなっていないのが幸いだ。最もやってることは明らかに虐待レベルの行動なのだが。
下半身を丸飲みにされたヨサクは今の状況を理解できずにいた。そんなことは当然無視して勇儀がサメに語り掛けている。
「いいかい?このままあんたはまっすぐ進むんだ。今口に入れてるやつはたべちゃあいけないよ?重要な伝言役なんだ。ずっとまっすぐ進むと大きな船がある。そこまでこいつを運んでやってくれ。ヨサクに食べ物持たせておくからちゃんと行ってくれ。・・・頼んだよ?」
傍から見れば可哀そうな人にしか見えない行動であるが、サメはそれを理解したかのように海へ戻り、ヨサクが溺れないように海上すれすれを泳ぎだす。
「だばだばばばばばばばばああばばばばばばば!!」
「ヨサクぅ!頼んだよぉ!」
突然サメの口に入れられて、餌を持たされたヨサクは理解できぬままそのままサメと共に姿を消した。綺麗にまっすぐ進んでいったのであのまま行けば大丈夫だろう。
「なはは!いやぁ昔から動物と意志疎通とまではいかないが、こちらのことを理解してくれるんだよ。こういう時にはほんとに助かるね」
「流石に理解が追いつかなかったぜ・・・」
「・・・・・・なにもツッコまねぇぞ」
「・・・死ぬなよ、相棒」
ヨサクが消えていった後、正気に戻るのに時間がかかったウソップ達はやはり勇儀もルフィと同じく変わり者だと再確認。そして彼らはヨサクの身に起ったことに対して何もいうことはなく、無事を祈った。ただただ無事を祈った。自分があの立場に成らずに済んだことに安堵した。彼らは薄情であった。
――
「おお!長旅だったな。どうだった、今回の収穫は?」
「上々ってとこ。でも心にポッカリと穴が開いちゃった気分。あまりいいものじゃないわ」
「シャハハハハハ!!おめぇ一体いつからそんなセンチメンタルなことを言うようになったんだナミ!盗みと裏切りはお前の
「あら、そうだったかしら?」
「まぁいいさ!俺は今機嫌がいいんだ。おう同士たちよ!長旅から仲間が帰ってきた!宴の準備だ!」
「「「「 うぉおおおお!! 」」」」
懸賞金2000万ベリーがかけられている海賊“ノコギリのアーロン”の元に一人の女性が友人に出会うように自然体でアーロンへと近づいていく。それをアーロンは何ら疑問を持つこともなく受け入れた。
魚人では非ず、人間である彼女がアーロンに気安く声をかけることはアーロンの思想を知っていれば死を招く行為だ。だがアーロンは怒るどころか歓迎の意志すら見せている。もしも彼に支配されている人間から見ればその光景は驚愕するものだろう。
だが実際はそこまでに至るほどのものではない。そのわけは彼女の肩にあるタトゥーが答えを出していた。
ノコギリザメをモチーフとしたそのマークはアーロン一味の海賊旗に使用されている物とまったく同じもの。つまり彼女は人間でありながら魚人海賊団 アーロンの一味の仲間であるのだ。
アーロン一味幹部 ナミ
それがナミの裏の顔。
ルフィ達と出会うずっと昔から彼女はアーロン一味の仲間だったのだ。
「それにしてもおめぇあんな大層な船をもかっさらってきたならそのままこのアーロンパークに来ればよかったねぇか。手間だったろう?」
「そうでもないわアーロン。それにここの入り口の前に船があっても邪魔なだけでしょう?ならそこらへんに放置しておく方がいいわ」
「シャハハ!ちげぇねぇ!」
近くにあった