違う!勇儀姐さんが勝手に!
書いているとキャラが動き出すって本当なんですね。
「・・・おやクラハドールさん。こんなに早く起きていらっしゃったのですね」
「・・・・・・えぇ。ついつい気が高ぶってしまっていましてね。目が覚めてしまったのですよ。…ん?これは?」
日も上がっていない早朝。屋敷の執事であるメリーはクラハドールが起きていることに気づいて部屋へと入った。夜は明けていないが今日はクラハドールがこの屋敷に来てからちょうど3年目を迎える日だ。
今クラハドールが見つけた包装された箱は屋敷の主であるカヤが彼のために作った特注品の眼鏡である。
「それはお嬢様から貴方へのプレゼントのようです。何でも今日はあなたがこの屋敷へ来てちょうど3年目になるとかで。所謂記念日というやつですね」
「・・・・・・記念日…」
「えぇ、あなたの今の眼鏡はよくズレる様なので、なんとお嬢様が設計して特注なさった品なんですよ!本当にもう・・・よく気の利く優しい方だ・・・」
カヤの気づかいに涙を浮かべるメリーに対してクラハドールことクロはこのことに嘲笑を浮かべていた。もうすぐすれば夜明けが訪れ、ジャンゴに指示した通りに村を襲うだろう。関係者は当然皆殺し。海賊たちも例外はない。
「フフフ・・・」
「?」
「記念日というなら確かに記念日だ。こんな素敵な日は胸が高鳴るというか、血が騒ぐというか・・・」
「・・・な!!!」
受け取る張本人がカヤが作ったその眼鏡を足で粉々に踏み砕く。
普段真面目にお嬢様のことを心配し、気を使っているこの男がまさか主のプレゼントを踏み砕くなんて予想が出来るはずもない。メリーはクラハドールが起こした行動に理解できず、声を荒げた。
「ク・・・!クラハドールさん!?あんた!お嬢様のプレゼントに何を!!」
「プレゼントなら勿論受け取りますよ。・・・だがこんな物ではなく、この屋敷まるごとだがな・・・!!」
海賊をしていた時のクロの獲物は『猫の手』
手袋の指もとに刀がついた独特な武器だ。
日頃から彼は眼鏡を直す際に掌で直す癖があったのだが、それはこの武器を多用していた頃に染みついてしまったことによるもの。
本来この計画を完全に実行するにはクラハドールが元・海賊キャプテン・クロであることがばれてはならない。そのため、メリーがこの事実を知ったということは彼を始末する必要が出たのである。
猫の手を装着したクロに対してメリーは動くことが出来なかった。真面目な彼がなぜこのような凶行に出たのかがまるで理解できなかったのだ。
高速歩行術である“抜き足”を使ってクロはメリーへ斬りかかる。
戦闘訓練など受けていないメリーには防ぐことは愚か反応することすら許さない。まさに無慈悲な一撃だ。
「・・・ッ!??」
そんな一撃を放とうとしたクロは悪寒を感じ取り、すぐさま身を屈めて横へと飛んだ。斬ることを強制的に止めてでも行った行動は結果的に彼にとって正解だったと態勢を整えたクロは確信した。彼の居た場所には新たな人物が割り込んでいたのだ。
「おや?随分勘が鋭いね。気配を消して首をへし折るつもりだったんだが、避けられたか」
自分の攻撃が避けられたというのに楽しそうに笑いながら笑えないことを言う女。その人物は先日
赤い角で腰まである長い金髪、そして特徴的である雅な服装。一度見ただけであるがその特徴的な印象をクロは覚えていた。そして他人であろうこの女は何故自分の邪魔をするのか理解できなかった。
「・・・なぜこの場所にいる?」
「今見た通りさ。私はあんたが村の住民たちに害を加えないように見張っていただけ」
「始めから気づいていたというのか?ありえん。・・・俺の計画をいつ知った?」
「ありえないも何もあんたが昨日ジャンゴとやらと話していたじゃないか。私はそれを陰で聞いていただけの話だ。あんたが村の住民や屋敷の人間を殺すと言うからにゃわたしゃそれを防ぐためにここにいるんだよ」
勇儀が計画の事を知ったのは必然と言えば必然なのだが、好奇心が勝ったことによる偶然だ。
頭がキレるこの男は自分がつけられていたことに驚きの表情になりながらも距離を取る。
「・・・そうか。てめぇはおれの計画の邪魔をするってことか。ならこの場で死んでもらう」
「いいねぇ。大将が本気で私を狙いに来るなんて熱いじゃないか。もう
「何・・・っ!?」
勇儀に指摘され、外を確認すると太陽が昇り始めていた。
ジャンゴに指示したのは夜明けとともに襲えだ。つまりジャンゴはなにかにモタモタしているか、他の者にやられて動けなくなっていることを意味する。
(あの野郎共・・・あとで皆殺しだ・・・!だが今はこいつを仕留める・・・!)
クロは“抜き足”を展開して瞬時に勇儀へと接敵。対象を斬り伏せるべく行動を起こす。だがそれは彼の死期を早める結果になった。『猫の手』での斬撃は勇儀の
「!??」
「ルフィ達なら効いていただろうが、見誤ったね。私にただの斬撃は効かないよ?」
掴んだ腕を引っ張りあげ強引に窓から屋敷の外へと出る。
室内で行動を起こすと屋敷の中が大変なことになるのがわかっていたための行動であり、未だ放心状態になっているメリーの安全を気遣っての行動だ。外に出るや否や瞬時に勇儀はクロを上に投げ飛ばした。
対するクロは女の身でありながら全く抵抗できないその力に驚愕。自分の武器も効かないことが証明されてしまったことで頭の中ではどのように打開するかを思考錯誤していたのだが、浮遊感を感じて思考を止めざるを得なかった。
“抜き足”も最終手段の“
宙にいる己の下には落ちてくるのを構えて待機している女の姿。
一つ。――一歩目で体を崩して、隙を生み出す。
「私の知らないとこで策略を巡らすのはかまわないさ。だがね・・・」
落ちてくる箇所を予測し、勇儀は全身に力を込める。
(あり得ないあり得ないあり得ない――っ!!)
クロは今から己に降りかかる事柄を真っ向から否定する。3年もの月日を投資して練り上げた計画だ。ここで終わるわけにはいかない。
二つ。――二歩目で持ちうる力を込め、
落ちる勢いを利用したクロは『猫の手』を勇儀に向ける。
だがそんな事を勇儀は意に返さない。
「私がそんなこと許すとでも思っていたのかい?」
三つ。――三歩目で必殺の一撃を放つ。
「 おれの計画は!絶対に狂わないっ!! 」
クロの手に付けられた刀が勇儀の額へと迫る。
勇儀の拳がぶつかり合う。
――四天王奥義・・・
「『 三 歩 必 殺 』!! 」
己の範囲内で放たれるは回避不可能の文字通り一撃必殺。己が“覇気”を用いず能力だけで打ち込める全力の一投。ソレを刀を躱しつつ顔へと叩きこむ。
三歩あれば一撃で人間を沈めることができるという中国拳法の理念を凝縮したかのような究極の一撃。
殴ったクロから衝撃が突き抜け、その周りに風を生み出した。技を打ち込んだ反動で勇儀が立つ地面が沈む。
「ラァァァァアアアアッ!!」
久しく感じていなかった衝撃の重さに勇儀は歓喜しながらも腕を振りぬいた。全霊の威力を以て、クロは螺旋を描きながら飛んでいく。それに満足した勇儀は未だに動けないメリーに事情を話すべく、屋敷の中へと入って行った。
「っっ~~!!くそ!あと刀が一本でもありゃあ・・・」
北の海岸ではゾロと黒猫海賊団が誇る船の番人 ニャーバン・
ウソップは最初の防衛時に攻撃を受けすぎていたために動くことが出来ず、ルフィはジャンゴの催眠術によって眠りについている。そしてナミはたった今肩を裂かれてしまった。
圧倒的不利になってしまったこの現状を変えたのはこの場にいる者たちではなかった。
「・・・オイ・・・なんかとんでくるぜ・・・」
「なんだ・・・あれは・・・?」
ルフィの攻撃で動けなくなっていた
その何かはクロネコ海賊団の船員たちが作っている塊へと突撃。そしてその物体がなにかを確認し、
「きゃ・・・“
「な、なんだとぉ!?」
カヤの暗殺計画を立てたクロネコ海賊団の元船長。その張本人がボロボロの姿で飛ばされてきたのだ。一人で海軍の一船を落とすほどの戦闘能力を持った男は完全に気を失っており、立ち上がることはなかった。
「・・・ど、どういうことだ・・・?」
「し、知らねぇよ・・・」
「キャプテン・クロが・・・」
「おいおい、どういうことだよ」
「なんであの執事がここに飛ばされてきてんだ・・・?」
ウソップ達は当然として、ジャンゴもこの現実を理解できていない。
いくら3年のブランクがあったとしてもクロは無音戦闘術を保持した男。自分でも勝てない男が村の住民にやられるとは到底思えないし、なによりも彼自身それほどの実力者が村にいることを知っていたのなら警戒を怠っていないはずだ。この醜態を晒しているクロを見ると殴られたのがわかるほどの凹みが出来ていた。
つまり100mを4秒で走れる無音の移動術“抜き足”を用いるクロの速度に追いつき、さらにこの場にいる者たちに気づかれないほどの距離から殴り飛ばしたということになる。
「クロ・・・あんたが言っていた計画は完璧なんじゃなかったのかよ…!なんでおれらよりも先にやられてんだ・・・」
「せ、船長・・・!どうしますか!?」
「どうもこうもねぇ!本人がやられたとあっちゃあ計画なんて成立するはずがねぇだろうが!退くぞ野郎共!」
「生憎だけどそれは待ってもらいたいねぇ」
撤退の合図を出すジャンゴに待ったをかける存在が現れた。
クロを倒し、この場まで殴り飛ばした張本人。星熊 勇儀である。両脇に二人の人間を抱えてきたようで、勇儀は到着したと言って二人を地面におろした。
勇儀に抱えられてきた二人。執事のメリーとカヤ本人だ。
「・・・!カヤ!何しにここに来たんだ!ってかなんで連れてきてんだ!」
「なんでも何も本人の意思さ。自分の命を狙っていた事実は遅かれ早かれ知ることになるんだ」
「・・・ここに来る間に話は聞いたわ。でも私・・・どうしても信じらなくて・・・!クラハドールが海賊だなんて事は・・・!でも海賊に“キャプテン・クロ”って呼ばれてるってことは、本当なのね・・・!」
「カヤお嬢様・・・」
「メリー、私は大丈夫。気持ちの整理がまだ追いついていないだけだから・・・」
勇儀はクロを殴り飛ばした後、放心状態だったメリーを抱えてカヤがいる一室に向かった。少々強引であったが話をつけて抱えてきたのである。当然彼女自身思う節などあるはずもなく、信じられないと言った状態であったがクロネコ海賊団の反応を見て受け入れざるを得なくなった。
「おい勇儀。まさかこれはお前がやったのか?」
「あぁそうさ。そこにいるウソップに屋敷は任せろと
当然と答える勇儀には怪我どころか衣服に傷一つついていない状態だ。ジャンゴはその事実に更に唖然としていながらも逃げる準備を始めたのだが、ナミによって叩き起こされたルフィにより阻止され、殴り飛ばされる結果に終わる。
クロネコ海賊団のトップ達がやられたことを確認した
カヤの暗殺計画を阻止したのだが、これはウソップの意向に従ってこの一件は他の住民たちには知らせないことになった。ウソップ海賊団の子供たちは反対をしていたのだが本人の強い希望により説得。屋敷に仕えてくれていたクラハドールは急遽旅に出たということで納得させた。
「ありがとう!お前たちのお陰だよ!お前たちがいなかったら、村は守りきれなかった」
「何言ってやがんだ。お前が何もしなきゃおれは動かなかったぜ」
「おれも」
「・・・・・・」
「どうでもいいじゃないそんな事。宝が手に入ったんだし」
「おれはこの機会に一つ。ハラに決めたことがある」
ウソップの覚悟を聞いた一同は素直にそれを受け止めた。
そして後日。この村にあるメシ屋でいつも通りに飲み食いをしていたところ、カヤが声をかけてきた。
ナミは体調の事を気にしていたが、どうやら精神的な気持ちが原因で重くなっていたようで、ウソップの活躍によりだいぶ回復に向かっていたらしい。
カヤは今回のお礼も込めて、ルフィが頼み込んでいた船を一隻くれるというのだそう。
カヤに連れられて海岸に向かった一同は目の前にある帆船に感嘆の声をあげるのだった。
「お待ちしておりましたよ。少々古い型ですがこれは私がデザインしました船で、カーヴェル造り三角帆使用の船尾中央舵方式キャラヴェル“ゴーイング・メリー号”でございます」
羊の顔の形をしたかわいらしい船首に立派な砲門がついており、航海するには全く問題ないその大きさ。なによりもルフィ達はこれが今から自分たちと旅をする船だという喜びから目に見えてわかるぐらいの表情をしていた。
「良い船だなー!!」
「航海に要りそうなものは全て積んでおきましたから」
「ありがとう!ふんだりけったりだな!」
「至れり尽くせりだアホ」
汚名挽回ばりの間違いをするルフィにゾロが訂正。ナミはメリーから船の設備のことを聞いており、勇儀はメリー号を感慨深そうに眺める。
「うわぁぁぁああああああ止めてくれぇええええええっ!!!」
そんな中でウソップらしき声が坂道から聞こえる。振り返るとリュックと思わしき球体が勢いをつけて転がってきていた。
「何やってんだあいつ」
「このコースは船に直撃だ」
「ならとりあえず止めとくかい」
勇儀がリュックを受け止め、ウソップは感謝を告げる。
ウソップは村の住民に言わないまま村を出るとのことでウソップ海賊団も解散したとの事。
「・・・やっぱり海へ出るんですねウソップさん・・・」
「ああ、決心が揺れねぇうちにとっとと行くことにする。止めるなよ」
「止めません。・・・そんな気がしてたから」
「おいおい、なんかそれもさびしいな・・・・・・今度村に来るときはよ、ウソよりずっとウソみてぇな冒険譚を聞かせてやるよ!」
「うん。楽しみにしてます」
末永く爆発しろと思ったのは悪くないと勇儀は思った。
とても素敵な関係を築きあげれている二人は下手をすれば一生の別れにもなる可能性があるというのに、笑顔でまた会うと約束しあっているのだ。
カヤとの別れを済ました後、ウソップはメリー号ではなく、小さな帆船の隣に立った。
「お前らも元気でな。またどっかで会おう」
「なんで?」
「あ?なんでってお前・・・愛想のねぇ野郎だな・・・これから同じ海賊やるんってんだからそのうち海であったり・・・」
「何言ってんだ早く乗れよ」
ウソップの言葉をゾロはバッサリと切り捨てる。
出会って日は浅いが考えていることはみんな同じようだ。
「おれ達もう仲間だろ」
「え・・・」
ウソップは何を言われたのか一瞬理解できなかった様子。心のどこかで本当は望んでいた展開が実際に起こったのだからとてもうれしかったに違いない。
減らず口を叩くウソップがメリー号へと乗り込んでいく姿を嬉しそうに見つめるカヤとメリーの姿がそこにあった。
「よーし!新しい船と仲間と共に、出航だァーっ!!」
「「「おおぉおおお!!!」」」
船を出す声が自然と大きくなる。
仲間と掲げるは酒の入ったジョッキだ。ガシャンと互いに鳴らし合い、航海開始から初めての酒盛りへと洒落込んだ。
新たな仲間と共に