楽天家な忍者   作:茶釜

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序章 -7-

 教室の机に座り、イルカ先生の話に耳を傾けながら、どんどんとやってくる影分身の情報になんとか耐える。

 九喇嘛の封印の解除は殆どできたといえる。だけど、四代目火影が現れて交戦することになり、影分身が解除される度に状況が送られてくる。

 

 チャクラが漏れだしそうになるのを押さえつけることに意識を集中させる。

 疲労はここ20日である程度慣れた。今でも眠たくはなるけど、耐えれないほどではない。

 だけど、チャクラの昂ぶりを抑えるのは案外苦労している。こんな所で開放しちゃったら大変なことになるのは目に見えている。

 

 ちょくちょくイルカ先生から視線を感じるけど、真面目に授業を受けているように見せているので特に何も言われていない。寧ろ、居眠りしているシカマルに青筋が立っているようだ。

 

 それにしてもやっぱり四代目火影は凄い。目にも止まらない瞬身の術を瞬間瞬間で行使してきている。ある程度の法則はあるまでも、その応用力は計り知れないだろう。

 影分身達も策を練って螺旋丸で攻撃するも当たらなかった……

 

 それなら奇襲するしか無いけど、今の俺に出来る奇襲は影分身による目眩ましと背後へ移動して攻撃することしか出来ない。しかも、それをするには他の影分身に遠の陣をベストなタイミングで発動してもらわないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫く影分身からの音沙汰がなくなった。もう、解放出来たのかな。丁度授業も終わって休憩時間になったし、解除していい旨を伝えるため、外に出てから影分身をし、消した。

 数秒後、向こうの影分身からの情報が流れ込んできた……

 

 

――強くなったね、ナルト

 

 

 そして告げられた暖かな言葉……四代目火影からの言葉……

 

 それは、息子に宛てられた言葉だった……

 

 

――九尾という重荷を背負わせて済まなかった

 

――息子として育ててやれなくて済まなかった

 

――こんなに早くに成長して誇らしい

 

 

 沢山、沢山溢れてきた。

 涙がこみ上げてきたけど、ぐっと我慢して息を吐く。

 

 四代目火影……いや、父ちゃんは九喇嘛を封印する時に俺に自分のチャクラを残していたらしい。それで封印が解けそうになった時に現れるようになってたようだ。

 もう、封印の必要もないと悟り、俺と戦ったらしい……

 

 本当に、本当に不器用な父ちゃんだと思う。そんなことしなかったらもっと話せると解っていただろうに、それ以上に俺に自分の力を見せつけたかったようだ。

 里の文献には父ちゃんの良いところばっか書いていたけど、思ったよりもおっちょこちょいな所があったみたいで、少し安心した。

 

 それにしても、まさか四代目火影が父ちゃんとは思わなかったな……俺に九喇嘛が封印されてるって知ってから俺の両親は九尾襲来の時に死んじゃったんだと思ってたけど、それが四代目火影だったとは思いもしなかった。

 

 父ちゃんはチャクラが無くなる直前、ニヤリと笑った。まるで安心したと言ったような感じに……

 

 

 ――母さんにもよろしく

 

 

 そう言葉を残した所で、九喇嘛が父ちゃんにチャクラを同調させて父ちゃんに渡した。

 

 腹に手を当て、心のなかで呟く。

 

 

「(やっと会えたってばよ、父ちゃん)」

 

『ははは、僕としては格好良く消えたかったんだけどね』

 

 

 九喇嘛は以前から俺に負担はかけないようにチャクラを同調させていた。俺が初めて忍術を使えるように九喇嘛とチャクラを同調させたのを参考にしていたようだけど、それが幸をなしたようだ。

 そのおかげで父ちゃんはまだ俺の中に残っていてくれる。封印されて憎んでいるはずの父ちゃんを残してくれたのは九喇嘛の優しさなのだろう。本人は絶対に認めないだろうけどな!

 

 

『抜かせ、唯の気まぐれだ』

 

 

 息を吸ってゆっくりと吐く。今、俺ってばすっげえ幸せな気分だ。

 目を閉じると涙が頬を伝っていくのが解った。

 

 初めてあった父ちゃんはすごく格好良くて、すごく優しくて、そして、すごく暖かかった。

 

 

 意識を自分の中へと落としていく。

 折角だ、影分身越しじゃなく、直接会いたくなった。多分、現実の俺は眠っちまうけど、どうにかなるさ。そんな事よりも、早く会いたかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「改めて、会えて嬉しいってばよ」

 

「僕もさ、ナルト」

 

 

 目の前に立っている父ちゃんはしっかりと足もある幽霊じゃなかった。チャクラも九喇嘛のおかげで補充できたみたいでしっかりと存在を認識できる。

 あまり戦うことは出来ないようだけど、そんな事はどうでもいい。居てくれるだけで嬉しかった。

 

 

「さて、話はこれから幾らでも出来るってばよ」

 

「ああ、そうだね。感謝してるよ、九尾」

 

『ふん、勝手にしろ。それよりもナルト、準備はできているか?』

 

 

 九喇嘛の言葉に頷き歩を勧める。もう檻は完全に開ききっている。改めて見ると九喇嘛の大きさが解った。すっげえでかい。いつも寝そべってたから解りにくいけど、見上げないといけないくらいのサイズだった。

 

 

『拳を出せ。とっとと終わらせるぞ』

 

「おう!」

 

 

 俺の拳と九喇嘛の拳がぶつかり合い、九喇嘛のチャクラが流れ込んできた。

 真っ黒な、どす黒く濁っているチャクラ。真っ赤で怒りに染まったチャクラ。

 

 けれど、それは唯の外面。その中には九喇嘛の金色で気高いチャクラが感じ取れた。

 

 

 

――私が抑えるから負けちゃダメよ!ナルト!!

 

 

「へ?」

 

『む?』

 

 

 突然言葉が響いたと同時に九喇嘛の上に鳥居が現れた。

 その数は5個、凄まじい勢いで落下し始め、九喇嘛へと迫ってくる。

 

 

「おっと」

 

 

 だけど、俺の肩に触れた父ちゃんが九喇嘛ごと飛雷神の術で移動させ、鳥居はそのまま地面に突き刺さった。

 何が起こったのか解らなくて、呆然とした俺はチラリと九喇嘛の方に視線を向ける。

 九喇嘛も解っていないらしく、怪訝そうに鳥居を見ていた。

 

 

「ちょっと!何で邪魔するんだってばね!」

 

 

 背後から声が聞こえる。女の人の声だ。

 振り向くと赤い髪の毛をわなわなと震わせてこちらに歩いてきた女の人がいる。何だかちょっと寒気を感じた。

 

 

「ははは、いや、いきなり現れて混乱してるかもしれないけど、その必要はないよ。クシナ」

 

 

 女の人は父ちゃんの言葉に頭を傾げ九喇嘛へと視線を向ける。

 九喇嘛はまだ解らないようで、ただ唖然と女の人を見て、少し眉間にシワを寄せた。

 

 

『……いきなり奇襲とは、随分なご挨拶だな。うずまきクシナ』

 

「へっ!当然だってばね!」

 

「クシナ、口調口調」

 

 

 女の人はうずまきクシナというらしい。九喇嘛も知ってるみたいだけど、うずまき(・・・・)クシナ……

 

 

「父ちゃん、その女の人って……」

 

「ああ、彼女はクシナ。お前の母さんだよ」

 

「か、母ちゃん!?」

 

「そうよナルト。大きくなって………思ったより小さいわね」

 

 

 どうやら母ちゃんも俺の中にチャクラを残していたらしく、九喇嘛のチャクラを貰おうとしたことを引き金に現れたようだ。

 いきなり押さえつけられそうになったことに九喇嘛は少し怒っていながらもチャクラを母ちゃんに渡していた。

 

 

「それにしても九尾も随分と丸くなったみたいね」

 

『………』

 

「はは、俺達の息子のお陰って所かな」

 

 

 まだ状況をあんまり理解できていない俺はただ黙って母ちゃんを見ていた。

 父ちゃんと同じようにその存在をしっかりと認識することが出来る。それがなによりも嬉しかった。

 

 

「………あれ?九喇嘛?」

 

 

 九喇嘛から送られてくるチャクラを感じられなくなり、九喇嘛はゆっくりと拳を離した。

 その瞬間にチャクラがぐるぐると身体を駆け巡り、溢れ出してきた。

 

 

『まだ、全ては使いこなせないだろうが、これで儂とお前のチャクラは繋がった』

 

 

 掌を見ると黄色いチャクラの衣が纏っているのが解った。

 それは暖かく、俺の中を巡っているのが分かる。

 

 

「これが、九喇嘛の力……か」

 

『ああ、そうだ』

 

 

 これが俺の目指すべき場所。とてつもない程遠いけど、決して辿りつけない場所じゃないと思う。これに追いついた時、俺は初めて九喇嘛の隣に並び立てるようになるのだろう。

 

 

「おお、格好いいよ。ナルト」

 

「名づけて、極式・禍津九尾ノ衣って言った所かな?」

 

「父ちゃん、それはださいってばよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 目を開き、眩しく感じる視界を確認する。

 見覚えのない天井、ベッドに寝かされているようだ。窓からは赤い夕焼けが差し込んできている。

 

 いっぱいいろんな事があった。胸の中に感じる大きな力に、それが夢ではなかったと実感できる。

 

 身体を起こし、伸びをして固くなった筋を動かす。

 窓の外には校庭が見えている。ここはアカデミーの医務室なのだろう。部屋の中には包帯とか消毒液なんかが見える。

 

 少しボーッと夕焼けを眺めていたら、ガラガラと扉を開く音が聞こえた。

 

 

「ん……目を覚ましたのか!ナルト!!」

 

 

 入ってきたのはイルカ先生だった。やっぱり俺は眠っていたみたいだ。まあ、意識をあっちに持って行ったから当然といえば当然なのだけど。

 

 

「心配したぞ……眠っちまったお前をヒナタが発見して起こしてみても起きなかったんだからな」

 

 

 息を深く吐いているイルカ先生は心底安心したといったような様子だった。

 うん、正直悪かった。今回のことは完全に俺の我儘だったんだし、眠っちゃうことも予想できたことだった。

 

 

「明日ヒナタに礼を言っとけよ?ナルトが目を覚まさないのに涙を浮かべてたからな」

 

 

 それは悪い事しちゃったな。あした謝っとかないとな……ってそれより大事な事があった。

 

 

「イルカ先生」

 

「ん?何だ?」

 

「三代目のじっちゃんの所に連れてってくれってばよ」

 

「………」

 

 

 俺の顔を見てイルカ先生は一瞬驚いたようだったが、すぐに真剣な顔つきで俺を一瞥した後、ため息を吐いた。

 

 

「会えるか解らないぞ?」

 

「おうってばよ!」

 

 

 父ちゃんからの言葉を伝えないといけない。

 九尾襲来事件の時、九喇嘛を操っていた存在。

 

 

 

 仮面の男の存在を……


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