楽天家な忍者 作:茶釜
「それでさ、そのラーメンがまた美味えんだよ」
『………』
「俺は決めたね。あのラーメンを宝物にするって」
『……おい』
「あ、でも他に美味いものとかってあるのかな」
『…おい!』
「なに?どうしたんだってばよ」
『儂は言ったはずだぞ?二度とその顔を見せるなと』
「仕方ねえじゃん。寝たらここに来ちゃうんだし」
俺はあれから毎晩眠ると九尾のいる場所にきていた。最初は驚いたけど、これでいつでも九尾と話せると思い喜んだ。まあ、大抵はその日あったこととかちょっとした訓練をしているだけだけど。
ここでも何故か訓練の成果は反映される。立派な忍者になりたい俺はそれにも大いに喜んだ。まだアカデミーにも入っていないけど、爺ちゃんがアカデミーの教科書を貸してくれたからそれで簡単な忍術は練習し始めている。まだ全然上手く行かないけど。
『……ならばせめてその五月蠅い口を開くな』
「いいじゃん。お前も話し相手くらいほしいだろ?それに本当に鬱陶しいと思ってるなら殺せるはずだし」
『……お前が死ねば儂も死ぬ。下らぬ事で命を落とすのもバカバカしいだけだ』
「さいですか。まあいいや。お前のこと教えてくれよ」
『………消えろ』
まだまだ厳しいなぁ。でもさいつか俺の相棒になってることを信じているんだ。
だってお前は俺の中にいてくれたんだから……
◇
それから俺はずっと九尾に語りかけた。あの時と同じように、返事のないあいつにずっとその日のこととかを聞いた。
「俺ってばどうして忍術うまく出来ないのかなぁ」
『………儂の力が邪魔でもしているのだろう』
「なにぃ!?それは本当か!?」
あいつはたまに返事をしてくれる。それが物凄く嬉しかったんだってばよ。
なんだか少しでもあいつに近付けているみたいで。
「いやぁ、今日は大変だったってばよ。ぶっ倒れるくらいまでチャクラ使っちった」
『………』
「まあ、お陰で分身の術も出来たってばよ。ありがとな、九尾」
『……何故礼を言う?儂は邪魔しかしていなかったと思うが?』
「原因さえわかっちまえばなんてこと無いことだってばよ。意識してお前の力に同調すればちゃんと出来た」
『………そうか』
もう里では一緒に遊んでくれる子供はいない。多分親が子供に言い聞かせているのだろう。仕方ないことだ。俺が受け止めなきゃいけない現実なんだ。
俺はより一層鍛錬に時間を費やした。
そうして、一年が経過した。
「なあ九尾。お前って九尾って名前なのか?」
『………いきなりなんだ』
最近はこいつも大抵返事してくれるようになった。いつも寝転がって面倒くさげに返答するだけだけど。
「いや、なんか九尾って役職?みたいな感じに思えてさ。本当の名前があるんじゃないかって思ったんだってばよ」
『………くだらぬことを聞くな』
「いやいや、大事だってばよ。相棒の名前を知らないなんて大問題だ」
『………』
もしかしたら本当に九尾って名前なのかな。それだったら悪いこと聞いたかなぁ……
『……なあ小僧』
重々しい口調で九尾が俺に語りかけてきた。
珍しいこともあるもんだ。いや、初めてじゃないかな。こいつから話しかけてくるのは。
「なんだってばよ」
『何故お前はそこまで儂を相棒と呼ぶ?何故儂を憎まないのだ』
「……うーん……俺ってば頭良くないから難しいことはわかんねーけどさ。俺はお前がいてくれたほうが嬉しいんだ。お前がいて、里の皆がいて、俺がいる。それが一番見てみたいんだ」
『………』
どれかが欠けてたら嫌なんだ。
お前を犠牲に里の皆が喜んでいるのは見たくない。里の皆を犠牲にお前と生きて行きたくない。
傲慢だろう、我儘だろう。でもそれが俺が夢見ていること。
「俺は、絶対に里の皆に認めさせてやるんだってばよ。お前っていうちょっと生意気でふかふかした九尾をな」
『………』
九尾は目を少しだけ開いて俺の方をじっと見つめてきた。まるで何かを見定めるように真っ直ぐと……
『………勝手にしろ』
「……へ?」
今、もしかして……いや、もしかしなくても。
「認めてくれるのか?」
『………ふん』
否定の言葉がない……ってことは!
「ぃやっっほぉぉぉぉい!!!!ありがとな!!九尾!!」
『ええい!しがみつくな!鬱陶しい!!』
「へへへ、絶対に離さねえからな!」
『………ちっ』
それから九尾は小さな声で名前を教えてくれたんだ。
【九喇嘛】っていうかっこいい名前をな。
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そいつは初めて会った時からおかしいやつだった。
里の者に暴言を浴びせられ、殴り蹴られ差別されようとヘラヘラと笑っている。
それでいて思慮深く自身の現状を理解し、儂という存在にたどり着いた。
毎晩毎晩儂に呼び掛けてきて鬱陶しい存在だった。
流石に一年を超えても諦めないのに我慢できず呼び込んでしまった。それが間違いだったのかもしれない。
あいつは儂を憎んでいないと言い切り、笑っていた。
毒気が抜かれ、もう姿を見せるなとまで言ったのだがそれから毎晩向こうから来るようになってしまった。
それからはずっとあいつは儂に語っていた。こいつの中にいた儂が知っていることを嬉しそうに話すこいつは本当におかしなやつだ。
儂のせいで忍術がうまく行かなくてもそれを知ってからは自分で克服し。
同じ年の者と隔離されようとそれを期に鍛錬に集中する豪胆さ。
あいつは、不思議なやつだった。憎しみの塊であり憎悪の矛先でもある儂にいつまでも笑いかけ相棒と口にする。
本当に、変なやつだった。
憎しみを人一倍しっているだろうに、憎しみを抱いていない人間。
うずまきナルト………
少しだけ、少しだけこいつを見てやってもいいと思えた……
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