楽天家な忍者   作:茶釜

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 顔合わせ、及び演習に向けての準備を終えたナルト達は、何事も無く演習の日を迎えた。

 母より口酸っぱく言われてる通り朝食をしっかりと済ませ、軽く食べられるようにおにぎりを幾つか作ってかばんにしまう。

 ホルスターには手裏剣とクナイを幾つか収納し、昨日購入した忍刀へと手を伸ばした所でナルトは動きを止める。

 

 この忍刀。昨日帰ってから調べた所、唯の忍刀ではなく、チャクラ刀と呼ばれる代物であった。その刃にチャクラを通すことが出来るため、とても貴重で強力な武器として扱われている物。チャクラを流すことにより戦術の幅を格段に広げることも可能といえる。

 

 しかし、この忍刀の使い方をナルトは理解していない。いかに強力であろうとも使いこなせないのであれば足を引っ張る要素になってしまうだろう。

 ナルトは伸ばした手をそっと戻し、額当てをしっかりと頭に巻き付け家の扉を開いた。

 

 

 まだ時間も早いため、人の気配をあまり感じない里をナルトは駆ける。冷たい風が頬を撫でる感覚に少し身震いしながらもその速度を落とすことはない。

 指定された演習場は普段使っている場所とは違う。そこであるならば自分の勝手知ったる場所故に色々と出来ることもあるだろうが、今回ばかりはそれは通用しない。

 

 頭のなかで今日行われる演習の候補を作り上げシミュレートしながら駆ける。

 少し気持ちが昂ぶり、心地の良い緊張感を抱いたナルトはその速度を上げ、演習場へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 誰ひとりとして指定された時間より遅れてくることはなく演習場には第八班のメンバーが集まっている。

 紅は手に持った時計をちらりと見て、指定時間になったことを確認すると演習場にある丸太の前にコトリと時計を置いた。

 

 

「では、これから演習を始めるわ。ルールは簡単。今から2時間以内に私から鈴を奪うこと」

 

 

 紅はポケットから鈴がついたヒモを掴みナルト達へと見せる。

 赤い紐に金色の鈴。左右に揺れながらチリチリと小さな音を鳴らしているそれは紅の手には二つしかないように見える。

 

 

「ただし、数は2個。即ちこの中で最低でも誰か1人は演習失敗とみなし、アカデミーに戻ってもらうことになるわ」

 

 

 その言葉に、ナルトは何か違和感を感じた。

 昨日に成績を参考に幾つもの班に卒業生たちを分けたのだ。それなのに次の日には確実にバラけることにすると言うのは違和感を感じる。

 

 

「質問があるならなにか言って頂戴」

 

「……んじゃあ俺から」

 

 

 まだまだ疑問は尽きないが今はこれからの演習に集中しなければならない。

 手を上げてナルトはチラリと鈴へと視線を送り質問する。

 

 

「先生から奪うというのはどんな手を使ってもってこと?」

 

「ええ。勿論私もそれなりに反撃するから生易しくはないわよ?」

 

 

 ナルトはなるほど、と呟いて上げた手を降ろした。条件に制限はない。ならばナルトは鈴を奪取するにあたっていくつもの方法を瞬時に頭に描いた。

 数にして7つ。奇襲から正面突破に至るまで幾つかの条件を更に自身に課した状態での手法。

 

 失敗することは特に感じられることもない。ナルトは息を吐いて心を冷やしていった。

 

 

「ヒナタ達は質問がないみたいね。ではこの時計の秒針が12を刺したと同時に始めるわ」

 

 

 カチリ、カチリと秒針が時を刻む。それに同調するようにナルトは集中していく。

 まずは様子見から始める。開始と同時に距離を取り、クナイで牽制し、隙があれば鈴を奪う。只それだけ……

 

 残り3秒……2秒……1秒……

 

 

 チャクラを練り上げ。足へと集めていく。

 

 

 ――0秒

 

 

 

 ナルト達の眼前に紅い木の葉が舞った。

 一瞬居を付かれ、距離を取ることも忘れその光景を視界にいれてしまう。不規則に揺れる紅葉に、紅の姿を見失った。

 

 

『しっかりしろ』

 

 

 しかし、自身のうちにいる九喇嘛の声によってナルトは我に返る。紅葉は既に舞っておらず、紅も姿を消したわけではない。

 なんてことはない。開始と同時に紅はナルト達に幻術をかけたのだ。集中していたからこそ術中にはまることは一瞬だった。幻術を行使する素振りすら見せずに発動した幻術は紅の技量の高さを物語っている。

 

 ナルトは直ぐ様クナイを紅へと投擲し、幻術にかけられ棒立ちになったヒナタとシノの背中を掴み、飛雷神の術で離脱した。

 紅も幻術を直ぐ様解いたナルトに驚愕し、クナイを避けるのも紙一重になってしまった。故にナルト達の離脱を許してしまったのだ。

 

 

「……やりすぎと思ったけど、まさかあの短時間で破るとはね……それに……」

 

 

 ナルト達が立っていた場所を一瞥した後、周囲へと意識を巡らせる。

 

 

「なんて隠遁よ。全く気配を感じない」

 

 

 ナルトだけならまだ解る。だが、紅にはヒナタやシノすらも気配を感じることが出来ない。

 幻術を解かれたとしてもすぐに状況を判断し隠遁術を使用できるとは思えない。それにナルトはあの2人を持ってこの場を離れたのだ。それも紅が一瞬目を離した隙にだけ……

 

 

「全く……カカシの言うとおり、心していかないといけないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「ここは……」

 

「あれ?ナルト君?」

 

「何とか逃げれた。いきなり不意打ちで幻術かけてくるとか、手加減が無いってばよ……」

 

「幻術……なるほど。俺達は幻術にかけられていたってことか」

 

「そ、そっか。でもナルト君が助けてくれたんでしょ?あ、ありがと」

 

「礼なら後だ。時間に限りがある以上、無駄に話してる暇はないってばよ」

 

「……いや、これだけは聞かせてくれ。ここは一体……」

 

「俺の家だってばよ。どうやってここに来たかは後で話すから今は俺の提案を聞いてくれ」

 

「提案?」

 

「……共闘しようぜ!二人共」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

「(3人が隠れてから20分が経過。特に行動している気配も感じられない。一体どういうこと?私の隙を狙っているとすればわざと隙を見せている以上、既に行動して居る筈だ。なのに3人の誰も姿を見せない……)」

 

 

 ちらりと視界に映る茂みを見つめても、何もいない。正直この事態は紅にとって想定していない事であった。

 まだ新人といえど上忍である紅に下忍の隠遁術を見破れないわけがないのだ。なのに見つからない。カカシの言っていたナルトだけならば納得できるのにヒナタとシノもこの20分間行動を全く起こさず紅に気取られることもない。

 

 

「(少し、妙ね……)」

 

 

 流石にここまで音沙汰が無いのはあり得ない。演習の目標である鈴の奪取を行うならば、少なくとも紅に接触しなければならない。

 土遁の術で地面に潜っている気配も感じ取れない。近くに姿を隠せそうな水もない。茂みの中であれば少しでも動けば察知する事はできる……

 

 

「(……一体何処に……)」

 

 

 紅は仕方がないと溜息を吐き、チャクラを感知するために集中する。ここまで動きがないのであれば自分から動くしか無い。それが罠だったとしてもそれらを打ち破り、上忍としての力を……

 

 

「影分身の術!!」

 

 

 突然チャクラが背後に現れた。

 紅は弾けるように地面を蹴り、距離を取る。

 現れた場所はそこまで近くはなかったが、何の前兆もなくそこには4人が立っていた。

 

 紅の姿を確認したのであろうヒナタが日向一族の血継限界である白眼を発動させながら紅へと駆けていくのが解る。

 背後に居る3人……いや、2人と1体のナルトの分身はこちらへと迫ってくる様子はない。ナルトの片割れが地面に刺さっているクナイを引き抜いているだけだ。

 

 ならばヒナタを迎え撃つまでと、紅は手にクナイを持った。

 

 

「ふっ!」

 

 

 しかし紅は小さく聞こえた声と、ナルトの行動に目を見開く。丁度紅とナルト達の直線を駆けるヒナタめがけ、真っ直ぐと手裏剣を投げたのだ。

 ヒナタはそれに気付くこともなくこちらへと走ってくる。

 

 流石に放っておけないと、紅は駆け出しヒナタとの距離を詰める。

 

 

 それが罠だと知らずに……

 

 

 

「影分身の術・遠の陣!!」

 

 

 手裏剣を投げたナルトとは別のナルトから声が聞こえた。手裏剣の軌道がヒナタと重なり、手裏剣が見えなくなった瞬間に不可解なことが起こった。

 金属がぶつかる音が聞こえ、手裏剣が弾けるようにヒナタの左右に背から現れたのだ。

 

 

「な!?」

 

 

 手裏剣は弧を描くように曲がり、紅へと迫る。

 ヒナタより手裏剣の方が速く到達する。それを瞬時に判断した紅はクナイをもう一方の手に持ち、左右から迫る手裏剣へと振るった。

 

 タイミングは完璧。手裏剣の軌道に反発するように垂直な角度でクナイを突き刺……せなかった。

 

 

 クナイと手裏剣が接触する直前。手裏剣がボフンという音と共に白い煙に包まれ、ナルトが姿を表した。

 

 

「チッ!」

 

 

 左右から現れたナルトがそれぞれ蹴り下ろしてくるのを紅は腕を盾にすることで受け止める。

 ナルトからの蹴りで腕が少し傷んだ。それにより、ここにいるナルトは唯の分身ではないことを理解する。

 

 確かに自己紹介の時に分身系統を得意としているといったが、まさか影分身の術を習得しているとは思っていなかったのだ。

 しかも变化を組み合わせるというチャクラコントロールの必要なこともやってのけている。

 

 下忍で片付けていいレベルを超えていると感じながら、片方のナルトの足を掴み、そのまま前方を薙ぎ払った。

 

 

「もういっちょ!遠の陣!」

 

 

 直ぐ近くまで迫っていたヒナタにナルトがぶつかり、白い煙が発生した。

 それは影分身が消えたという証。反対にいたナルトごと薙ぎ払った為、これで少なくとも奇襲を一度凌ぎきることが出来た。

 

 

 

 

「柔拳!!」

 

 

 

 白い煙を切り裂くように現れたヒナタを目にするまでは……

 攻撃後の無防備な状態で日向一族の柔拳を食らってしまえばいかに上忍といえど唯では済まない。

 紅は体をねじり、内臓への攻撃を意図してずらしてみせた。

 

 ヒナタの掌が腹部に突き刺さり、チャクラが流し込まれる。

 その衝撃で紅は少し後ずさり、体勢を立て直した。

 

 

 追撃するヒナタを一瞥し地面を蹴り、大きく距離を取る。

 

 近接戦闘において最強の日向。だからこそ距離さえ離せばだいぶ脅威は薄れる。

 

 

 

 

「シノ!」

 

「任せておけ」

 

 

 

 しかし、紅はそこで自らの失態を悟る。紅を中心に地面から蟲の大群が竜巻のように現れたのだ。

 

 

「これは、シノの蟲!?」

 

 

 油女一族の操る蟲。口寄せとは違い、己の体内で蟲を飼い使役する技法。

 蟲達は見事なまでに統率された動きで紅の身動きを封じる。

 

 

「仕方ない……」

 

 

 紅は懐より小さな袋を取り出し、握りつぶす。

 途端に広がる甘い香り。次いで口笛を二回吹いた。

 

 

「何?」

 

 

 突然何十匹かの蟲達の制御が効かなくなり、シノは少し声を焦らせる。命令もしていない。それなのに一匹、また一匹と地面に落ちていくのだ。

 

 

「幻術……か。蟲達にも作用するとはな」

 

 

 幻術。それは何も視覚に作用させることだけが条件ではない。聴覚、嗅覚等の5感に作用させるものなのだ。

 ただし、視界が最も作用すると言う事は事実である。故に紅は嗅覚と聴覚の二つの感覚器官へと作用させ幻術を発動させてみせた。

 

 

「はっ!!」

 

 

 しかし、それでも一斉に全ての蟲相手へ幻術をかけることは出来ずに、周囲の状況を確認仕切る前にヒナタに接近されてしまう。

 まだ制御下にある蟲の集団がヒナタを避けるように散らばった。

 

 

「行くってばよ!」

 

 

 次いで紅の背後からナルトの声が響いた。ヒナタが現れた方向とは真逆の方向の蟲達も散らばり、そこにいるナルトの姿が紅の瞳に映る。

 

 

「クッ!!」

 

 

 前方よりヒナタの掌底。後方よりナルトの拳が迫る中、紅はその場で跳び上がる。

 蟲に囲まれている以上、避ける方向は絞られている。蟲の壁を突破する方法もあるが、油女一族の蟲はチャクラを餌としている。容易に触れることは避けたかった。

 

 見事に紅はナルトとヒナタの攻撃を避けることは出来た。ヒナタは焦った顔で掌底を突き出している。対してナルトはヒナタの攻撃を交わし、笑みを浮かべ、紅へと視線を向けた。

 

 

 そのまま空中にいる自分へと攻撃してくるのかと予想し、紅はナルトの動きを注視する……

 

 

 

 

 

 背後より、ボフンという音が聞こえた。

 ハッとするように紅は顔を上げ、その存在を見つける。

 

 それは金色の髪に青い瞳を持った少年であった。

 紅の背後。いや、上空に突如現れた5人のうずまきナルトは、紅の両手両足を掴み、最後に胴体に抱きついてそのまま落下した。

 

 

「カハッ!」

 

 

 地面にドサリと落とされ、そのまま身動きを封じられてしまう。

 いかに上忍といえど、手足を抑えられ、地面に押さえつけられてしまえば抜け出すのは困難である。

 

 閃光玉などがあれば対処の仕様はあったのかもしれないが、紅は今回の演習にそんなものを用意していなかった。

 

 いかにカカシに忠告されていようと頭の何処かで下忍を相手にすると舐めていたのだ。その結果、ナルトに完敗してしまった。

 

 

「ニシシ!鈴取った!」

 

 

 押さえつけられたままの紅にナルトは近付き、紅の腰につけられた鈴を取る。

 二つの鈴を手に持ったナルトはそのままヒナタに一つ、シノに一つ鈴を渡し、紅を拘束していた影分身を解いた。

 

 

「……正直驚いたわ。まさか本当に取られるとはね……」

 

 

 紅は悔しさを感じつつ、立ち上がり、ナルトへと視線を向ける。

 

 

「な、ナルト君。こ、この鈴はナルト君が」

 

「いやいや、大丈夫だって」

 

 

 ナルトに渡された鈴を手に持ちオロオロと狼狽えるようにナルトへと返そうとしているヒナタを横目に紅はナルトへと話しかけた。

 

 

「本当に良かったの?正直ナルトがいなければまだ鈴は取られてなかったわよ?」

 

「ん?紅先生何言ってんだってばよ」

 

 

 この演習、ナルト達に与えられた条件は鈴を手に入れること。その数は2個しかないため、3人いれば争いになってしまう。

 本来の目的はそんな状況下においてもチームとして動けるかの検討なのだが、余りにも迷いなく他の2人に鈴を譲ったナルトには疑問が残った。

 

 当の本人は何がおかしいのかいまいち解っていない様子であった事も疑問の一つだ。

 

 

「貴方、下忍になれなくても良かったの?」

 

 

 思わずそう問いかけてしまう。既に3人はチームとして紅に挑んでいるのだ。故に3人とも合格であり、この質問は意味のないことのはずであった。

 しかし、まるでその質問は見当はずれなのだと言うようにナルトは首を振った。

 

 

「だからさ、俺も鈴取ったってばよ!」

 

 

 ナルトの手には先程2人に渡した物と同じ鈴が握られていたのだ。




演習中に帰宅する主人公

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