楽天家な忍者 作:茶釜
序章 -1-
ずっと疑問に思っていた。何で俺は皆に嫌われているのだろうって……
爺ちゃんに聞いても教えてくれない。父ちゃんや母ちゃんに聞きたくても生きていない。ずっと不思議に思っていた。
俺は何もしていないのに石を投げられる。お小遣いでお菓子を買おうとしても店から追い出される。
いっぱい嫌なことを言われた。死ねって事も言われた。そして、化け物って言葉も聞こえてきた。
そんな里の皆を俺は何だか自分とは違う生き物のように思えてしまった。恐怖してしまった。
そして気付いてしまったのだ。里の皆はどうしてかわからないけど俺を怖がっているって。今俺が里の皆に抱いているような感情、恐怖。
理解できないものを怖がり消し去りたいという気持ち。そう考えると俺は里の皆から向けられている感情に納得できた。
皆怖がっているだけなんだ。理由はわからないけど、怖くて子供達から遠ざけているだけなんだ。
心がスッと軽くなった気がした。怖いのならば仕方ないのだと……
◇
ずっと考えていた。里の皆に怖がられる理由を……
考えて、考えて、考えぬいた。
まず思いつく言葉は化け物って言葉。里の皆は俺が知らない俺のことを知っているのだと思う。それが恐怖の理由なんじゃないかと俺は考えた。
爺ちゃんに聞いてみても教えてくれなかった。だから調べたんだ、俺が生まれた時に何があったか……
九尾襲来。尾獣である九尾が木の葉を襲って四代目火影がその命と引き換えに撃退したって話。
爺ちゃんの家にあった書物にはその襲撃のあった日付が俺の誕生日で俺の生まれた年にあったことが記されていた。
それからは里の皆の暴言を熱心に聴きとった。
それでやっと聞きたい言葉を得たんだ。化け狐って。
言った人は直ぐに他の人に咎められたけどバッチリ聞こえた。
俺は自分が化け狐だって理解したんだ。
◇
考えた。俺の嫌われている理由を。
化け狐、九尾の妖狐。もし俺自身が九尾ならばあるいはそれに近い存在であれば里の皆が恐怖するのは理解できる。
問題はそう仮定した時の俺の立場が2つあるってこと。
一つは九尾が俺だってこと。四代目火影が命をかけて俺の九尾としての記憶を封じ込めて人間の姿にしたって所かな。
二つ目は俺の中に九尾がいる。またはそれに近い力があるってこと。その場合だと四代目火影が命をかけて俺に封印したって所か。
出来れば俺の中に九尾がいてくれたほうがいいかなぁ。俺って友達いないし……
◇
あれから俺はずっと問いかけた。俺の中にいるかもしれない九尾に。
確信はない。でも可能性はある。いつまでやっても答えないのならば諦めるしか無いだろうけど、なんとなくいるんじゃないかと思っている。
寝る前に九尾がいるかを聞いてみる。もしいたとしても答えてくれるかもわからない。でも、俺がそうしていたかったからしたんだ。
そして、それから一年後、俺は大きな檻の前にいた。
中にいるのは巨大な狐。鋭い目つきでこちらを睨みつけている。
『一体何のようだ?』
九尾は問う。
まるで鬱陶しい存在を見るような目つきでこちらを見下ろしてくる。
俺にはその九尾の姿に只々圧倒されていただけだった。あの腕が振るわれれば簡単に俺は死んでしまうのだろう。あの口を開けば簡単に食べられてしまうだろう。
それと同時に思った。随分と檻の中が窮屈そうだって。
俺が生まれてから四年。その間ずっとこんな所にいたんだ。随分と鬱憤がたまっているだろう。
『おい、聞いているのか!』
檻の隙間は人ならば通れるくらいの間隔だった。俺は九尾をもっと近くで見たくて檻の中に入る。
圧迫感を感じる。九尾が怒っているのだろうか。そうだよね、こんな所に閉じ込められてちゃ怒っちゃうよね。
『小僧、一体何のつもりだ?』
ぎょろりと大きな目玉がこちらを見る。いつでも食って掛かってきそうだけどどうして我慢しているのだろうか。
書物のような化け物ならば俺はもう既に死んでいるはずなのに……
『………』
「………」
沈黙、九尾は怪訝そうにこちらを見つめている。
その様子に何だかおかしくなってしまって少し吹き出してしまった。それに九尾が憤怒の表情を浮かべていた。
「こんばんは。俺はうずまきナルト、よろしくだってばよ」
『小僧……お前頭がオカシイのか?』
失礼だな。俺は全然おかしくなんてないぞ。
『儂が九尾だっていうことは理解しているのだろう?』
「勿論だってばよ」
『ならば、何故悠長に挨拶をしている?儂のせいでお前は里で迫害を受けているのだろう?憎んでいるのだろう?』
まるで俺に言い聞かせるような言葉を九尾が話す。
俺は静かに頭を横に振った。
確かに里の皆は九尾が怖くて俺を嫌っているのだろう。九尾が憎くて石を投げてくるのだろう。
でもさ、九尾は俺が生まれてからずっと側にいた存在なんだぞ?お前のせいで嫌われても関係ないよ。
「俺はお前の相棒になりたいんだ」
『……力を望むのか。くだらんな』
首を横にふる。
力なんていらない。俺はただ、目の前にいる存在に、生まれてから一緒にいる存在と対等になりたいだけなんだ。
「俺は力よりも、お前という相棒がほしいんだってばよ」
『……何を言っている?儂は化け物だ、お前が迫害を受ける原因だ。憎かろう?消えてほしいだろう?』
「確かにどうして俺が嫌われるのかって思ったこともあるってばよ。理由もわからずに殴られるのが嫌だよ。でも、知ったんだよ。九尾っていう原因を」
『………』
「俺はお前を憎んでいない。寧ろお前がいなかったら憎んでいたかもしれないってばよ。だって、俺が嫌われる理由がわからないままだったかもしれないから」
それにさ。九尾は俺が生まれてからずっと一緒にいるんだ。それで九尾が憎まれるっていうんだったらさ……
『狂っているな、小僧』
「どうだろうね。でもさ、俺ってば友達もいないからさ。相棒になって欲しいんだってばよ」
『断る。消えろ、二度と顔を見せるな』
俺もその憎しみを背負わなきゃいけないよな。