ストライク・ザ・ブラッド~赤き弓兵の戦記~   作:シュトレンベルク

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お久しぶり!(約1年ぶりの投稿です。本当にすいません(m´・ω・`)m)

これからは積極的に投稿していこうと思うんでなにとぞご容赦を…何でも(何でもとは言っていない)しますんで、許してつかぁさい!ハハー_○/|_ 土下座

では、どうぞ!


弓兵と騎士の団欒

 その後、ランサーや第四真祖と別れた俺たちは俺の持ち家にやってきていた。セイバーとガレスは簡単に髪と瞳の色を変える魔術具を使って街中を歩いていた。ちなみに、大河にはランサーの忠告とセイバーがうちに来ていることを伝えてある。

 暗に、俺には極力接触するなという意味だ。俺はともかく、ランサーやセイバーの存在は間違いなく厄ネタだ。少なくとも、何の武力もない一般人にとっては。戦う術を持っていても命の危険があるというのに、戦う術のない奴を巻き込むべきではない。

 

 なにより、ランサーのあの忠告はあれが今の立場でできる最大限のフォローなのだろう。敵である以上はこちらの味方など出来るわけがない。それでも何もせずに一般人が殺される、という行為をあいつは嫌う。戦場にいれば何人であろうと容赦なく殺すが、その辺りの線引きはきちんとしているのだ。

 

 戦場にいる者には容赦しない。ただの一般人だろうと、情け容赦なく殺す。それはランサーの育った国柄的にもそうだが、甘く見た結果として死にかけた事があるからだ。弱者と強者の区別を見ただけでつけるというのはとても難しい。だからこその判断なのだろう。

 そんなことを考えていた俺のところに、銀髪の青年────この地を訪れた最後の円卓の騎士であるベディヴィエールが来た。円卓としては下から数えた方がいい実力だが、普通の騎士と比べれば十二分な力量を持っている。

 

「アーチャー殿。ランサー殿はどういうお考えをお持ちなのだと思われますか?」

 

「知るか……と言いたいが。今回の立ち位置としては傭兵と同じなのだろうさ。何かの報奨を貰う代わりに、キャスターと手を結んだんだろうさ」

 

「私もそうなんだろうと思っています。しかしながら、それはとても……」

 

「らしくない、か?」

 

「ええ。かの御仁もまたあなたや我らが姫と同じく、世界にその名を知らしめる英雄です。そして私の知る限り、あの方が傭兵のようなあり方を受け入れるとは考えがたい」

 

「そんな考えを曲げるくらいには上等な報奨を約束されたんだろうさ。例えば、コレ(・・)とかな」

 

 俺はそう言いながら左手を見せつけるように示す。ベディヴィエールは俺の行動の意味を最初は理解できていなかったが、すぐに理解した。俺が言いたい物、それは参加者であれば誰もが有する物────即ち、令呪である。

 

「……!キャスターがランサーに令呪を譲渡すると?」

 

「可能性の話だ。しかし、可能性としては高いと認識している。なにせ、相手は空間転移を使いこなすほどの相手だ。何かの魔道具を渡されるよりも、令呪の重要性を理解しているだろう」

 

 令呪の使用用途の一つとして挙げられるのが、空間転移だ。と言っても、俺たちが令呪を介して行う空間転移は南宮那月やキャスターが使う魔術とは異なり、純粋に魔力によるごり押しだ。方向性だけ決められた魔力によって、指定座標へ転移する。魔女や魔術師が見れば噴飯もの間違いなしの方法なのだ。

 

 もう一点理由をあげるとすれば、昨夜のランサーはあまりにも簡単に令呪をきってきた事だ。令呪は俺たちの能力を飛躍的に上昇させる事ができる。しかし、令呪は三画しかないのだ。それを切るタイミングは慎重に決めるべきだ。令呪は俺たちを強くしてくれるサポートアイテムであると同時に、聖杯戦争に参加するために必要不可欠なチケットなのだから。

 先ほど挙げた空間転移もそうだが、令呪は使い方次第で幾らでも戦況を一転させられる強力なアイテムだ。俺だって早々に使いたいとは思えない。無論、使うべき時には躊躇いなく使うつもりではある。しかし、必要がないならこんな序盤の戦いで切るべき物ではないのだ。

 

 聖杯戦争の参加者は七名。目の前でガレスと一緒に美遊とおしゃべりに興じているセイバー。あの憎たらしいランサー。そして、そんな世界的に有名な二人に並ぶとか訳分からん評価を受けている俺ことアーチャー。他に四人も参加者が存在しているのだ。それも戦闘が一回で済むとは限らない。昨夜のランサーのように一度退いて、また戦うことになる可能性もある。

 一対一の決闘でもなく、撤退することもできる戦闘を繰り返すのだ。ご先祖様様から引き継がれた使命であるとはいえ、聖杯に興味のない輩がいないとは限らない。少なくとも、セイバーは聖杯にかける願いなど持ち合わせていないだろう。聖杯をただの資材として見ている。

 おそらく、その点はランサーも変わらないだろう。いや、もしかすればあいつは願いを持っているかもしれないが、肝心要を聖杯に願うつもりはないだろう。アレは約束を果たすのならば自分の意志で果たす。そういう矜持を持っている奴なのだから。

 

「参加者の全員が聖杯に願いを持っているわけではない。俺たちはあくまでも、ご先祖様の力や素質を多く引き継いだから参加者として選ばれただけに過ぎない。それこそ、あの魔女さんのような奴が選ばれるさ」

 

「アーチャー殿……」

 

「勘違いすんな。俺自身はあの魔女さんに思うところはない。俺を巻き込むなとは思うが、あの魔女さんもそれなりのプライドを持ってる。俺みたいな部外者に何かを言われるのは好まんだろうさ」

 

 聖杯を強く望んだあの魔女――――姫騎士王が姉、モルガン・ル・フェ。ペンドラゴンの名を継げなかったあの魔女こそ、使徒として選ばれるべき存在だ。少なくとも、俺のような輩を選んだ時点で聖杯の選定基準が聖杯を望むことではないことが分かる。俺はあの魔女ほど聖杯を願ったものを知らない。

 ペンドラゴン王家は唯一、総ての使徒の血統を有する家だ。だからこそ、あの家の血に連なる者は全員が聖杯戦争に参加するための第一前提『初代使徒の血統』をクリアしている。総てはより多く聖杯を手に入れる可能性を増やすため。騎士王ペンドラゴン家を永続させるためだ。

 

 それ故に、より多く参加させるために多くの血族を用意した。その中でも傑作に近いとされたのがモルガンだ。その魔術の冴えは古老世代ですら手を焼く。準備ができていれば、古老世代の打倒すら成し遂げるだろう。聖杯戦争が起これば、彼女が『キャスター』だろうという呼び声が高かった。

 しかし、セイバーが……次代騎士王『アーサー』が生まれた際、その事情が変わった。彼女が生まれながらにして、その胸元に令呪を持っていたからだ。

 

 濃すぎる使徒の因子を持って生まれた子。令呪を持って生まれた『予言の子』と呼ぶに相応しい存在。ある意味、セイバーが特別すぎただけ。元来、令呪は聖杯戦争が起こる期間に前後して発現するのが当然なのだ。しかし、王家の連中はセイバーが令呪を持って生まれた事実でモルガンを切り捨てた。

 いや、この表現は正確ではないだろう。たとえ、令呪を持っておらずともモルガンは優秀な魔女だ。だからこそ、『参加者』ではなく『協力者』としてセイバーの力となるようにしようとしたのだ。しかし、そんな事をあの魔女が受け入れる訳がない。いや、あの魔女ではなくとも受け入れられる訳がない。

 

「散々持て囃しておいて、いざ別の者が生まれれば切り捨てる。そんな事をする家に協力しろなんて言われて協力する方がどうかしている。あの魔女でなくても家を出ていくというものさ。夢を捨てることになるとしても協力などしたくないに決まってる」

 

 コンプレックスと接し続けなければならないなど、ただの地獄だ。そんな物を強要するなどふざけ散らかしているにも程がある。あそこには神代の魔女と言われるマーリンがいることも加えれば、もはや嫌がらせに等しいだろう。そんな話をしていると、セイバーが近づいてきた。美遊の相手はガレスに投げたらしい。

 

「……やけにあの人を庇うのですね、シロウ。確か、あなたはあの人に誘拐された記憶がありますが」

 

「その事実はさておき、あの魔女の想いも理解はできるという話だ。お前だって分かっていることだろう。だから、あの魔女に手を出さないんだろう」

 

「事実として、あの人の方がよっぽど上手く国を繫栄させられますから。私がどうこうするよりも、あの人の方が適任だ。宰相に据えるか、或いはあの人を次期後継者にした方がいい。私は何度もそう言っているんですが」

 

「周りからも当人からも受け入れられる訳がない。ブリテン聖王国はペンドラゴン王家は、そういう場所だ。それはお前自身だって分かっているだろう、アルティア(・・・・・)

 

「……あなたがそうして私の名前を呼んでくれるのも、久しぶりですね」

 

「ふん、他人の目があるところで呼べる訳ないだろ。俺はただの平民でお前は王族なんだから。次期アーサー王に対して、俺が馴れ馴れしくする事ができる訳ないだろ?」

 

「……だから嫌なんですよ、王様になるの。私は王様なんて柄じゃないのに」

 

「そんなことはありません、アーサー様。御身こそ、ブリテン聖王国を守る『赤い龍』そのものでしょう」

 

「べディヴィエール……古いんだよ、そういうのは。ご先祖様は確かに、今日まで続く国とそれを守護する『龍の血脈』を作った。でも、いつまでそんな伝統に縋るの?本当に国を想う者が国を守り導く。そういう流れが最も好ましいあり方なんだと思う。力なんてなくてもいい。力ある者が力なき者を守ればいいんだから」

 

 そのために騎士があるのだと。アルティアはそう言いたいようだ。素質だけで『王』になる事を強要されているからこその意見なのだろう。俺個人としてはそういうありかたがいいと思うが、周りはそうは思わないだろう。それが歴史の重さなのだから。

 

「勿論、だからと言って退く気はありません。私が『王』になる事を期待している者たちがいる。何より、私はあの人に恥じぬ者にならなくてはならない。あの人が『王位を譲っても仕方がない』とそう思ってくれる存在にならなければ、私は胸を張って生きることなどできないのですから」

 

「だから、まずは手始めに聖杯を、か?とんだ強欲姫様だな」

 

「……あなたのことも諦めてはいませんよ、シロウ?あの人も懐柔してのけたあなたがいれば、あの人ももしかしたら協力してくれるかもしれませんしね」

 

「懐柔なんてしてねぇよ。あれはただ……同情かなんかだろうさ」

 

 必要とされなくなった彼女と必要であるとは思えない俺。似ているようで違うその在り方が、あの魔女の何かを刺激した。多分、それは感傷か同情かなんとも言えないがそういう方向性の何かだろう。少なくとも、好意とかそういう感情ではない……筈だ。

 

「同情、ね……」

 

「何が言いたいんだよ。俺がそんなおかしなことを言ったか?」

 

「いえいえ、気にしないでください。……言っても理解できないでしょうし

 

「何か言ったか?」

 

「だから、気にしないでください。それより、お腹減ったのでご飯作ってください」

 

「ガレスがいるだろうが。あいつは料理得意なはずだろ」

 

「せっかくここまで来たんですから、シロウが作ってください。久しぶりにシロウの手料理が食べたいです」

 

「この傍若無人姫が……」

 

「おや、知らなかったんですか?私、手に入れたいものはどうやっても手に入れようとする強欲姫なんですよ?」

 

 そう言いながら笑うアルティアの姿は、まさしく年相応というべき物だった。ちなみに、この後作った飯をもりもり食ってた。おかげで冷蔵庫の中はすっからかんの開店休業状態に陥ることになった。食いすぎだろ。

 

シロウside out

 

アルティアside

 

「同情かなにか、ですか……本当にシロウはあの人のことが分かってないんですね」

 

 そんな理由であの人が態々浚った相手を解放するわけがないのに。シロウは私にとってもペンドラゴン王家にとっても重要な逸材だ。私は恋愛的な意味で重要だが、ペンドラゴン王家にとってシロウは――――アーチャーは聖杯に捧げる贄として重要な意味を持っている。

 聖杯戦争における参加資格たる令呪。これは膨大な量の魔力を有する魔力リソースであると同時に、ご先祖様の魂ともいえる。私で言えば『セイバー』。シロウで言えば『アーチャー』。それぞれのご先祖様の魂を魔力として利用できる形にした物――――それが令呪だ。

 

 そして、それを宿す者たちによる殺し合いこそが『聖杯戦争』。聖杯戦争において重要なのは選ばれた者じゃない。選ばれた者が宿す令呪こそが重要なのだ。『バーサーカー』の令呪を発現させた叶瀬夏音は令呪を総て神力に変え、そしてそれを根こそぎシロウの手で断ち切られた。

 この過程をもって、『バーサーカー』は脱落の判定を受けた。すでに叶瀬夏音は聖杯戦争の参加者ではなくなり、他の参加者から狙われる理由はなくなった。無論、彼女自身が強力な霊媒である事実は変わらないので、アルディギア王家と協力して護衛を派遣することが決まっている。

 だが、正直この件は数少ない例外と言っても相違ない。普通は令呪を使えばその魂は肉体と同化していく。同化していった魂は殺されでもしない限りは離れることはない。だからこそ、原則的に聖杯戦争は殺し合いなのだ。叶瀬夏音が殺されなかったのは彼女が令呪を総て力に変換して、それをシロウの手で断たれたからだ。

 

 ……話がそれたが、私が言いたいのは聖杯戦争には令呪を宿す者が開始時点で七名いなくてはならないということだ。聖杯戦争の参加者に代わりはいない。参加者は生まれた時点で決定される。ただ、令呪として発現するのが聖杯戦争の前後であるというだけなのだ。

 そして、シロウが浚われた当時、シロウが聖杯戦争の参加者即ち令呪をその身に宿す者であるという事実は、王家の者であれば誰もが知っていた。それはもちろんあの人――――我が姉モルガン・ル・フェも知っていた。だからこそ、あの当時は皆が大慌てだった。

 

 なにせ、モルガンが私を恨んでいるのは有名な話だったのだから。令呪を宿せなかった、聖杯に選ばれなかった姉のことだ。聖杯戦争その物を破壊してやろうと考えてもおかしな事ではないし、その最も手っ取り早い手段である令呪の保有者を開始前に殺すことは効率的と言ってもいい。

 そうすれば、聖杯が完全な形で顕現することはできなくなり、『万能の願望機』としての機能は完全に失われることになる。ただそれだけを必死になって求め続けていた王家の人間からすれば、寝耳に水どころの話ではなかった。だからこそ、姉自らシロウを連れてきた時は安堵と同時に困惑していたものだ。

 

 何故、と誰しもがそう思ったものだ。そして同時にシロウに姉に似た魔力の流れを感じた。――――姉はシロウに加護を施したのだ。妖精としての加護と自らの血脈にも宿る使徒の加護を。これによって、姉はどこにいてもシロウのことが分かるし、いざとなればシロウの力となれる。

 シロウはランサーとキャスターの同盟を私が危惧していると思っているようだが、そんな事はない。キャスターの攻撃は私の対魔力をもってすれば恐れるに足りない。ランサーの速度や槍の冴えは確かに素晴らしいもので、私も一筋縄ではいかないだろう。それでも、倒しきれないとは思わない。

 

 しかし、シロウはそうはいかない。ランサーには矢除けの呪いがあるし、キャスターは空間転移の使い手だ。些か以上に苦戦することは間違いないだろうし、ランサーに対しては重傷をおってもおかしくはない。しかし、死ぬことはないだろう。その度に姉の施した加護が発動するからだ。

 その加護の内容は――――不死と使徒の血脈の活性化(この場合は力)だ。しかし、この加護が発動する毎にその心はモルガンに支配されていくという代物だった。正直、モルガンがシロウに何を見出したのかは分からない。純粋に私の嫌がらせの可能性も多分にある。だが、私は彼の心が誰かの者になるのが嫌だった。

 だからこそ、今回『同盟』という体を使ってシロウと共同戦線を結ぶことにしたのだ。シロウが加護を使う機会をなくす、悪くても減らすために。シロウを手に入れるのは私だ。ラ・フォリア(腹黒王女)にもモルガン・ル・フェ(引き籠もり魔女)にも渡してなるものか。昼間にあった少女――――姫柊さんも怪しかったが、彼女は獅子王機関の人間だ。こちらからどうとでも手を入れられる。最悪は側室として迎えればいい。

 

「そう、私は負けない。たとえ、何があろうとも必ず勝利してみせる」

 

 聖杯戦争も女の戦いも私が譲ることなどありえない。欲しいものは必ずこの手に収めてみせる。たとえ、誰が目の前に立ちはだかろうと私こそが絶対の王者なのだから。シロウが私以外の物になるなど看過できない。

 

 

――――あなただけは逃がさない


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