ストライク・ザ・ブラッド~赤き弓兵の戦記~   作:シュトレンベルク

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弓兵とテロリスト2

 あのコードはどうやらナラクヴェーラの起動コードだったらしい。無秩序に暴れる以外に選択肢のない兵器など邪魔の塊だ。制御の効かない兵器など壊す以外に選択肢はあるまい。

 

「蛇遣い……やはり貴様は疫病神だ。覚えていろ」

 

「怖いね。まぁ、覚えておくとしよう」

 

「あの、どうするつもりなんですか?」

 

 姫柊さんがそう訊いてきた。どうすると言われても選択肢などそう多くはない。どんな事になっても、テロリストを始末する事に終始するだけだ。

 

「あの船を落とす。そうすれば船の中にあるナラクヴェーラは出てこれないだろう」

 

「……この距離からですか?」

 

「そうだが。何か問題でも?」

 

「いえ、問題というか……可能なんですか?」

 

「それぐらい出来ずに俺は英雄などとは言われていない。流石に視力は強化するがな」

 

「……紗矢華さん、できますか?」

 

 姫柊さんがご同輩の舞威姫に恐る恐る訊いていた。訊かれた舞威姫はブンブンと首を振っていた。

 

舞威姫()は暗殺と呪詛の専門家であって、彼のように殲滅能力には長けてないのよ?まぁ、不可能とは言わないけど、それでも周りに被害を出さずに一人の敵を殺すなんてできないわよ」

 

「当然だ。そうそう真似できてもらっては困る。こちらもそれが食い扶持の一端なのだからな」

 

「そうして話を進めて貰っているところなんだけどねぇ。僕の船を落とされると困るのだけど」

 

「知るものか。文句を言いたければ、貴様の船を預かっていた管理会社に言えば良かろう。元々、そちらの不手際なのだからな」

 

「にべもないね。でもまぁ、時すでに遅しのようだけどね」

 

「なんだと?」

 

 そういわれて視線を向けてみると、船の後ろから何か大きな物が出てきていた。ずんぐりとした巨体の機体――――ナラクヴェーラだ。会話に時間を割いていた所為か、すでに動き出している。

 

「チッ、大空を羽ばたく靴(タラリア)!」

 

 すぐさまその場を離れる事にした。これ以上、ここに留まっていても仕方がない。相手は神々の兵器と呼ばれた遺物……とんでもない被害を生み出す前に片を付けなければならない。

 

 距離はあるが、対神用の宝具を矢にして弓に番える。それを今暴れている一体に向かって放つ。数本の矢がナラクヴェーラに突き刺さり、次の瞬間には爆発する。

 

 それが連続して放ち続け、その攻撃本数が数十本に及ぶと攻撃が集中していたナラクヴェーラは木っ端微塵になっていた。その光景に誰もが唖然としていると、漸くその場に辿り着いたアーチャーが剣を投げつける。

 

 暴れていたナラクヴェーラの腕の関節部分に直撃し、爆発によって両腕が肘部分から崩れ落ちた。止まる事のない瀑布のような連続攻撃を前に、敵は動くともままならなかった。

 

「そのまま砕け散れ、過去の遺物」

 

 武器を手元に出現させ、それを次々と投擲しながらまた新しい武器を手元に出現させる。その一本たりとも同じ武器は存在せず、総てがまったく違う性質の武器だった。それを見た黒死皇派の一員は冷や汗を掻いていた。

 

 しかし、その連続攻撃も長くは続かなかった。ナラクヴェーラの有する学習機能が投擲武器に対する耐性を身に着けたからだ。投げた武器が弾かれるようになった。

 

「いや、それは正確じゃないか……こいつは俺の使用する宝具の性質を理解したんだ」

 

 先ほどから放たれていた武具は一つだけ共通点を持っていた。それが対神という特性。神格を保有する存在を殺すために存在する宝具。神々の兵器と呼ばれたナラクヴェーラの弱点でもあった物。

 

 ナラクヴェーラ自体には神格はない。しかし、九千年にも及ぶ長い時間と神々に使用されたという経歴を持つナラクヴェーラは神格(偽)とでも呼ぶべき物を持っていた。持っていた、というよりも染みついていたと言うべきだろうか?

 

「効かなくなったか。さて、次はどうした物か。さしもの俺でも、対界宝具なんて創れないし……」

 

 世界に対する絶対の力を持つ宝具。人間に揮う事のできる宝具の中でも最上級の宝具。そんな物イメージする事すら難しい。そもそも、世界を壊すほどの宝具とかイメージできる訳がない。

 

 とはいえ、こいつらにこれ以上の攻撃手段がないのもまた事実。質量で押し潰そうにもそれだけの物体を創造する魔力と時間はないだろう。ならば、どうするべきなのか?

 

「確実性に欠けるからやりたくなかったが……仕方があるまい」

 

 ナラクヴェーラが次々と俺に向かって光線を放ってくる。手元に小型の盾を創りだす事で攻撃を受け流し、回避し続ける。そして一番近くにいたナラクヴェーラの頭部に昇り詰める。そして頭から股まで射貫くようにまっすぐに矢を番える。

 

「――――螺旋矢(カラドボルグ)

 

 まっすぐに頭から射抜かれ、穴には獣人の死体が残っていた。次にどう動くのかを確認すると、膝をついて倒れ込んだ。これで頭を潰せば何とかなる事が証明された。これならまだ何とか……っ!?

 

 足元に次々と光線を放たれる。直接狙うのは無駄と感じたのか、足元を潰す事から始めたらしい。弓兵(アーチャー)にしても、剣兵(セイバー)にしても、槍兵(ランサー)にしても足場はとても重要な物だ。それが基本といっても良い。

 

 そこから潰しに行く辺り、本気で俺を潰す気だな。まぁ、全七機中既に二機潰している。これ以上潰されるのは本意じゃないからだろうが。

 

 しかし、手詰まりだ。こんな制御の効かないガラクタを動かそうなんて考えるあたり、相手も手詰まりなんだろう。両方とも完全に八方塞がりだな。

 

疾く在れ(来やがれ)、五番目の眷獣――――獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

 

 後ろから響いたその声と獅子の如き雄叫び。そして災害と同レベルの破壊がその場を蹂躙した。俺も、ナラクヴェーラを操る獣人たちも、齎された唐突な猛威に唖然としていた。

 

 改めて見るととんでもないな。これが真祖。災害の化身とも呼ばれるほどの存在。こんなの、そう何度も目の当たりにはしたくないんだがな。真祖の戦いなんて一生に一回見なくったって十分だ。

 

「待たせたな」

 

「誰も待っていない。貴様のような危険因子を誰が待つものか」

 

「素直じゃねぇな。まぁ、どっちにしてもだ。こいつは俺の喧嘩でもあるんだ。俺も混ぜろよ」

 

「……ハッ。勝手にしろ。俺はもう貴様には何も言わん」

 

 何を言っても無駄なんだろう。忠告したって首を突っ込んでくるなら、俺にはもうどうしようもない。もうどうにでもなれだ。俺にはどうせ何もできないんだからな。

 

「すいません、アーチャーさん……」

 

「もう知らん。やりたいようにやれば良かろう。俺が何を言おうと無駄な事は分かったからな」

 

「本当にすいません……」

 

 申し訳なさそうにされてもなぁ……俺はもう諦めの境地に達している。姫柊さんもそう思うなら留めて欲しいとは思うんだが、きっと無駄だろうしな。姫柊さんもそういう節があるしな。

 

「俺の忠告を無視してここまで来たんだ。協力してもらうぞ」

 

「……はい!」

 

「一つ情報を教えておく。奴らはこちらの攻撃を学習し、それによって耐性を持った装甲に作り変える。強大な一撃で破壊するつもりで叩くしかない」

 

 ナラクヴェーラの面倒な特性。長期戦はこちらが圧倒的に不利な状態になる。だからこそ、圧倒的な威力で行動不能にするのが一番簡単だ。もしくは頭である司令官機を潰す。

 

「ナラクヴェーラの指揮官機……女王と呼ばれるあの機体を落とせば、こちらの勝ちだ。だが、そのためには周りの機体が邪魔だ。そちらではどうにか……」

 

 俺がそう言った瞬間、地面が揺れた。そして後ろの方から衝撃を感じた。チラリと視線を向けると、そこにはニヤニヤとした表情を浮かべたヴァトラーがいた。そしてその後ろには一体の眷獣と煙が上がっていた。

 

「あれが、ヴァトラーの合成眷獣か……」

 

「合成眷獣?」

 

「……ヴァトラーが真祖に最も近い男と呼ばれる理由。それはあの男が、眷獣と眷獣を合成させる能力を持っているからだ。二体以上の眷獣を混ぜ合わせ、真祖に匹敵する眷獣を生み出す事ができる」

 

「そんな事が……?」

 

「できるからこそ、あの男は有名なのさ」

 

 と言っても、俺も話でしか聞いたことはなかったが。あの男の能力は昔、とある吸血鬼に聞いた物だ。完全に疑っている訳ではないが、本当だとは思っていなかった。

 

「さて、手早く終わらせたいところ……っ!?」

 

 ナラクヴェーラが背中から虫のような翼を出現させ、それによって飛び立とうとした。そのナラクヴェーラを撃ち落そうとした瞬間、強大な魔力の高まりを感じた。姫柊さんを抱き寄せ、その場を離脱した。

 

「アーチャーさん!?」

 

 驚いた姫柊さんがそう言った次の瞬間、圧倒的な雷の暴威がナラクヴェーラを撃ち落す。それと同時に、あまりに高すぎる威力によって人工島に巨大な穴が発生する。あと飛び退くのが数瞬遅かったら間違いなく消し炭になっていた。

 

「第四真祖め……見境なしか」

 

 その破壊に巻き込まれる形で、第四真祖と舞威姫も一緒に落ちて行った。自分の放った攻撃の余波に巻き込まれるとか間抜けか。それに巻き込まれる舞威姫も中々不憫……いや、そうではないのか。

 

「先輩!?紗矢華さん!」

 

「待て!今から追っても無駄だ。二重遭難になるだけだぞ!」

 

「でも!」

 

「慌てなくても大丈夫だろう。それより、自分の身の心配をした方が良い」

 

 残っているナラクヴェーラが一斉に照準をこちらに向けてきた。一体の砲に向かって剣を投げつけて炸裂させる。その間に距離を取って弓を引き続ける。

 

構築(セット)開始(オン)――――軍神五兵(ゴッド・フォース)射撃形態(シュートシフト)

 

 手元の弓が巨大化し、奉天画戟を番える。それを引くために腕を強化し、それでも負担が大きすぎるのか腕の血管から血が噴き出す。それによってただでさえ赤い外套が更に赤黒くなっていく。

 

「アーチャーさん、それ以上は……!」

 

「黙って、いろ……!敵を一掃するためにはこれしかないんだ!」

 

 対軍・対城宝具に匹敵するこの宝具で敵を一掃する。それが一番の近道だ。傷など後でどうとでもなる。今勝てなければ何の意味もない。他の宝具だとこの島自体にも大きな被害を生み出してしまう。それをより少なくしなければ仕方がない。

 

 対軍宝具も対城宝具もその名に見合う被害を齎す。ただでさえ、第四真祖の眷獣によって多大なる被害を被っているんだ。せめて俺だけでも被害を抑えなければならない。

 

 矢となった奉天画戟を放つと、その衝撃波によって後ろに吹き飛ばされた。壁に激突し、それでも必死になって矢を見た。二体のナラクヴェーラの胴体を貫き、衝撃波によって粉微塵になっていく姿。そしてその二体を犠牲にして、生き残った女王機の姿を。

 

「チィッ……これでも駄目か」

 

 すぐさま立ち上がり、筋肉で無理矢理止血する。腕の動きはまだ鈍いが、戦えない訳ではない。戦えない訳ではないのなら、何の問題もない。二本の剣を手元に出現させて踏み出そうとした瞬間、地震じみた衝撃に襲われる。

 

「これは……?」

 

 そう呟くと、あまりの衝撃に倒れそうになった。そんな俺を抱きしめる形で支えてくれたのが姫柊さんだった。その事に礼を言おうとした瞬間、穴から出てきた者が見えた。――――第四真祖と舞威姫、そして第四真祖の眷獣だった。

 

「この、疫病神が!」

 

 思わずそう叫んでしまった。俺が被害を出すまいと必死になっていたのを嘲笑うかのように、第四真祖の眷獣が人工島を破壊していくからだ。舐めてんのか、あいつは。

 

「二体目の眷獣……ということは」

 

「舞威姫の血を吸ったんだろう。それより、もう大丈夫だから離してもらえないだろうか?」

 

「え?……あ、はい!ごめんなさい!」

 

「いや、大丈夫だ。ありがとう、助かった」

 

「本当に大丈夫ですか……?」

 

「ああ。……申し訳ないんだが、頼みがある」

 

「なんでしょうか?」

 

「第四真祖がいる以上、要らないとは思うが……囮になってくれ。その間に、こちらでこの局面を打開する一手を打つ。頼めるか?」

 

 これから使う技は俺にとって、神経を使う技だ。少なくとも集中する時間が必要となる。それほどに魔力と神経を必要とする。一応は奥義だからな。

 

「分かりました。それではお願いしますね」

 

 疑う事もなくそう言って、第四真祖の方に向かった。信頼されてるのかそれとも向こうが心配なだけか。どちらにしても応えない訳にはいかない。

 

 普段使っているサイズの弓に光の矢を番える。武器に変換される事なく、純粋に矢として用いられる魔力の塊。これ自体にはさほどの威力はない。しかし、これから使う技によって莫大な威力が生まれる。

 

 しかし、ただの魔力を形にしてその技に当てはめるのは中々難しい。当てる事ではなく、その前準備に膨大な神経を消費するのだ。魔力によって構築された光の矢を固定し、威力を上昇させながら収束させる。

 

 第四真祖と姫柊さんたちが足止めをしているのを見ながら、何とか構築する事に集中する。そして完全に溜まりきった瞬間、叫んだ。

 

「そこをどけ、剣巫ぃ!」

 

 そう叫んだ瞬間、ようやくこちらに気付いたのかナラクヴェーラがこちらを向く。そして姫柊さんたちが退いたのを確認すると、弦を離す。

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!」

 

 神話の創造神の武器の名を課された奥義が放たれた。インド神話の創造神であるブラフマーが保持したとされるどんな敵をも必ず滅ぼす投擲武器と同じ名を冠するその技は、財宝神の息子の名を冠する兵器を穿った。

 

 コックピットを穿たれ、女王機が完全に動きを停止すると辛うじて生きていたガルドシュが出てきた。明らかに重傷であるにも関わらず、それでもこちらに向かって歩いてくる。

 

「お前の目論見は失敗に終わったな、ガルドシュ。女王機の機能が停止した事で、ナラクヴェーラは完全に止まった。お前にはもう、打つ手は残されていない」

 

「……確かに。貴様の言う通りだ。だが、それは私が諦める理由にはならんな。せめて、同志の仇だけは取らせてもらう……!」

 

 そう言うと、腰に吊るしてあったナイフを手に取り突っ込んできた。たとえ重傷であろうと、獣人の脚力ならこれぐらいの距離はすぐに埋められる。ただまっすぐに走るだけで良い、というのも大きいだろうが。

 

 だが、俺が態々協力する必要はない。一本のナイフを生み出し、ガルドシュのナイフを受け止める。ガルドシュのナイフを受け止めたナイフを一閃する。すると、ガルドシュのナイフは折れた。

 

 そしてガルドシュの身体を蹴りあげ、持っていたナイフで一閃した。右肩から左腰まで袈裟懸けにするように斬られ、新たな傷口から血を流しながらガルドシュは倒れるのだった。

 

「……ああ、胸糞悪いな」

 

 にこやかな表情を浮かべながら地面に倒れているガルドシュを見ながら、俺はそう呟くのだった。


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