艦隊これくしょん奇想戦記 ~それが世界の闇ならば~   作:西向く侍

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共同制作者「suryu-」さんの作品『東方 幻想の世界に作者達が集うと… 』のキャラクターが登場します。

キャラクターのイメージがまだ掴みきれていないので性格や口調などの描写が違っていて違和感を感じるかも知れませんが、予めご理解したうえでの閲覧をお願いいたします。

他の人が作ったキャラクターの使用は、思っていた以上に難しい作業ですね……


第3話

 日本近海の某所……ここは所在地を知る者がほとんどいない隠された鎮守府、周囲には強力な魔術結界が張り巡らされているために誰も近づく事が出来ない海域の中央部に、世界水準をはるかに超えた未来のオーバーテクノロジーによって守られた軍事施設『オーバースペック艦娘研究所』が存在していた。

 

 大本営の記録によると、この施設に与えられた任務は主に2つ、1つは他の一般的な鎮守府と同じ「近隣の哨戒警備と敵勢力の排除」を目的とする精鋭部隊としての側面、もう1つは「次世代の艦娘を試作開発する研究機関」としての側面、この2つの役割を併せ持つ特務機関として設立された軍事兵器研究所だという事になっている。

 

……だが、この鎮守府(研究所)が実際にどんな活動をしているのかを知る者は誰も居ない、海軍の上層部や大本営のごく一部の限られた幹部だけが、この研究所から定期的に送られて来る報告書を通じて表向きの活動内容を知らされるだけであった。

 

 ある日の早朝、「オーバースペック艦娘研究所」の所長を兼務する実験部隊司令官『suryu-』提督は一人の青年と所長室で密談を重ねていた。

 

 彼が名乗っている「suryu-」という名は本名ではない、彼の経歴や本名を知る者はかなり少なく、部隊に所属する艦娘や部下たちも彼が対外的に名乗っている…『suryu-』提督…という仮の通名しか知らないというほど謎に包まれた人物である。

 

「“研究員”の手掛かりは何も見付からないか……」

「そちらの件は相変わらずですが、ブリッツから気になる報告が届いています」

「ブリッツから…? 舞鶴の京極元帥に何かあったのか?」

「ラバウル・西小島鎮守府の元司令官が、京極元帥の部下として舞鶴に転属していたとの事です」

 

 飄々とした仕草で書類を流し読みしていたsuryu-提督は青年の言葉に驚いた様子で書類を投げ出し、執務机の上に手をかざす。

 

 机の上の空中にホログラムのスクリーンが投影され、ブリッツの映像メッセージと報告書の画像が彼の目の前に並んで表示された。

 

「坂本元帥の息子だと!? 大本営の人事記録には載ってないぞ!!」

「海軍・軍令部の人事異動記録を追跡調査したところ、記録を改ざんした形跡がいくつか見つかりました。 改ざんは“研究員”と深いかかわりのある“中将”あたりの差し金ですかね?」

 

 suryu-提督は、ブリッツからの報告を食い入るように見つめながら青年からの問いかけに答える。

 

「…いや、あの男にはそこまでの権限は無い、父親の坂本元帥が怪しいな」

「坂本元帥の周囲は別のチームが探っていますが、そっちも俺のチームでやりましょうか?」

「その必要はないよ、お前たちは今のまま潜入調査に専念してくれ」

 

 スクリーン上に坂本元帥の経歴と家族構成を呼び出してみたが、そこには「坂本緋月」の名は記されてはいない、出生届の記載を調べてみると母親の欄が空欄のままになっている。

 

「家系図にも記載が無いな」

「坂本家の使用人や親戚筋に探りを入れた調査報告には『愛人に産ませた私生児』と書いてありますね、ブリッツからも『名門「坂本家」の後継者候補から外された妾の子』だという内容の報告が上がってきています」

 

 海軍の名門「坂本家」の現当主『坂本龍一郎』元帥の家族構成は、海軍で将官クラスにまで昇進している次期当主候補の長男と次男、同じく海軍で佐官クラスの指揮官となっている一人娘、妻は映画やドラマで活躍する有名な女優……末っ子の三男坊である戸島鎮守府の司令官「坂本緋月」中佐の名は両親や兄弟の経歴書には記載されていなかった。

 

 先代当主の祖父が生きていた頃に撮られた集合写真でも坂本緋月は家族から少し離れたところに写っていた、父・義母や兄・姉の仲の良さそうな笑顔とは距離を置かれ、艦娘「叢雲」に手を引かれて立っている幼い頃の緋月はとても寂しそうな表情をしている。

 

 緋月の実の母の情報はどこを探しても見つからない、唯一見つかった写真も顔の部分が不鮮明で人物の特定が不可能な状態となっていた。

 

「名門一族から追放された“妾の子”か……」

 

 ブリッツからの報告書を読み進めていたsuryu-提督は、坂本緋月中佐の“ある発言”を目にすると突然笑いだした。

 

「…所長?」

「『身体を強化改造された子』や『試作品』の行く末に心を痛めてるのか。……まさか“あの件”に深く関わる関係者の口からそんな言葉が飛び出すとは思わなかったよ、メッセージ映像でブリッツの様子がおかしかったのはこれが理由かな?」

「潜入調査をネブラ姉妹に交代させますか? 旧型機のブリッツでは性能的に見劣りしますし、あいつの優しすぎる性格は諜報員には向きません」

「……ちょっと様子を見てみるかな」

 

 suryu-提督はホログラムスクリーンを操作してブリッツ姉妹のプライベート回線を開いた、2枚のスクリーンにブリッツとトゥローノがそれぞれ個別に表示される。

 

「ブリッツ、調子はどうだい?」

《戸島の警備体制が予想以上に厳重で、潜入するのに手こずってます……》

「俺が心配してるのは君の身体の方だよ。 ごめんねブリッツ、不具合改修の手術を受けたばかりの君に無理をさせて済まないと思ってる」

《僕は大丈夫。 提督に修理してもらったおかげで調子がすごく良くなったから心配ないですよ♪》

「そっか。……潜入方法はこちらでも検討してみるから、次の定期連絡まで2~3日ゆっくり休んでてくれ、無理しちゃダメだよ!」

 

「トゥローノ、ブリッツの様子はどうだい?」

《こないだの追跡の後からチョット元気が無くなったよ~、なんか考え込んでるみたいな感じかな?》

「体の調子が悪いのか?」

《体調は良さそうだよ、体術のキレとかも私やネブラ姉妹たちとあんまり変わらないレベルまで向上してたからね~》

「何かあった時には君の独断で動いてくれて構わないから、舞鶴の事は頼んだよ」

《了解~♪ いざとなったらお姉ちゃんを引き摺ってでも脱出するから心配しないでね~》

 

 通信を切ると同時に笑顔を消したsuryu-提督は、腕組みしながら眉をひそめてしばらく黙考すると、ブリッツ姉妹に対しての新たな指示を決定した。

 

「…よし、2人を技術交流の担当技官として戸島に派遣しよう」

「正規ルートで潜入させるのですか?」

「あの男を間近で観察するなら、堂々と滞在して直接会話するのが一番手っ取り早いからね」

 

「技術交流という事は、うちの機密情報をいくつか提供するつもりなのですか?」

「近いうちに大本営に提出する予定の技術を先行して渡すだけだよ、機密レベルはそれほど高くないから心配ない」

「そうですか…。 報告は以上です、俺は任務に戻ります」

 

 suryu-提督が舞鶴鎮守府の京極元帥とホットラインを繋ぎ、ブリッツ姉妹を派遣するために根回しを行っていた頃……所長室を退出した青年、男性型・艦MS「ネロブリッツガンダム」の『ネロ』は部下の艦娘の1人を従えて廊下を歩いていた。

 

「…アルファ、姉妹を全員呼び戻しておけ」

「全員? 調査の方はどうするの?」

「他のチームに割り振っておけ、俺達は別件で動くぞ」

「ブリッツとトゥローノは?」

「あいつらは所長の特命で動いてるから呼ばなくていい、トゥローノには後で伝文だけ送っとけ」

 

 不審に思ったアルファが指示された内容をネロに問い質すと、不機嫌そうな表情で振り返ったネロから吐き捨てるような言葉が返ってくる。

 

「……トゥローノだけでいいの?」

「ブリッツには知らせるな、敵かも知れない男に心を乱される女など使い物にならん!!」

 

 アルファをその場に残して廊下を進むネロは、ニヒルな冷笑を浮かべて歩き続けていた。

 

 (俺と同等性能のトゥローノが手間取るほどの相手か、久しぶりに楽しめそうだな…)

 

 

――――――――――――――――――――――――

……数日後、戸島鎮守府。

 

 大本営の正式な命令書を携えたブリッツ姉妹は、艦娘「叢雲」に案内されて鎮守府・本館の廊下を歩いていた。

 

 本館の内装は“侍提督”の異名をもつ戸島の司令官「坂本緋月」中佐の趣味を反映した大正ロマン溢れる和風モダンの落ち着いた雰囲気、オシャレで明るい現代的な雰囲気を好む妹のトゥローノは「古めかしくて何となく暗いね~」などと言っているが、大人しくて控えめな性格の姉・ブリッツにはその古めかしい内装がとても心地よく感じられる。

 

「叢雲さん、どうして部隊章を2つ付けているのですか?」

「私もあんた達と同じで他所から派遣されてる駐留武官なのよ、中佐のお父上「坂本」元帥の命令で中佐のお目付け役をやってるの」

「金縁の部隊章ってことは大ベテランの『教導艦』資格保持者だよね、なんで改二になってないの~?」

「艤装は改二タイプを使ってるわよ。 戸島には叢雲タイプの娘が他にも何人かいるから、見分けが付きやすい服装をしてるだけ」

 

「司令官から『その服が一番似合う』って言われたから、着替えたくないダケでしょ?」

「ち…違うわよ!? 性能の良い新型装甲服を他の子に譲ってあげただけなんだからね!!」

 

 書類を抱えて一緒について来た艦娘「暁」にツッコミを入れられて慌てる叢雲の後ろ姿を、ブリッツは複雑な思いで見つめてた。

 

 suryu-提督から送られてきた資料によると…目の前にいる叢雲もブリッツとよく似た境遇で建造されたデータ収集用の試作実験機、基本スペックの低い旧式システムが体内に埋め込まれているという理由で、性能が向上した量産タイプの“改良型『叢雲』”が坂本元帥の鎮守府に配属されると同時に予備役入りして実戦部隊から外されてしまったらしい。

 

 (この人が資料写真に写ってた“坂本緋月の育ての親”みたいだね~)

 (第一世代型の旧式艦娘がいまだに現役なんて、珍しいね…)

 

「緋月、お客さんを連れて来たわよ!」

 

 坂本中佐は、返事を聞かないでいきなり扉を開けた叢雲を咎める事なく、にこやかに出迎えた。

 

「ようこそ戸島へ、私が戸島鎮守府の基地司令を務める坂本緋月だ」

「秘書艦の龍鳳です、よろしくお願いしますね」

 

「オーバースペック艦娘研究所の艦MS・ブリッツです、こっちは僕の妹のトゥローノ」

「トゥローノで~す! 研修生としてお姉ちゃんに付いてきました~♪」

 

 坂本中佐の執務机には旧式のコンソールと安物の電話機が置かれているだけで最新機器はどこにも見当たらない、suryu-提督が使っているホログラムスクリーン内蔵のハイテク執務机を見慣れているブリッツ姉妹の目には古風な調度品の数々がむしろ新鮮に映ったようである。

 

 最新鋭の設備を完備した鎮守府だとは思えない質素な執務室だったが、その古めかしい内装は部屋の持ち主“侍提督”の戦国武将のような雰囲気にはとてもよく似合っていた。

 

「着いた早々で悪いのだが……うちの幕僚たちが技術資料の説明を待ち望んでいるのだよ、部屋を移ってもいいかな?」

 

 坂本緋月中佐は、総司令官室の向かい側にある応接室『司令公室』にブリッツ姉妹を迎え入れた、ここは上級将校や政府関係者のような賓客をもてなしたり幕僚たちの極秘会議に使ったりする部屋なので、本来ならば下士官扱いの艦娘を迎え入れるような部屋ではない。

 

 部屋に居たのは戸島の副司令官と、艦娘部隊を率いる5人の分隊指揮官、海兵隊の司令官、工廠長……戸島鎮守府の幹部クラスが総出で出迎えていたのである。

 

 新型兵器や最新艤装の技術資料に飛びついて次々と質問する幕僚たちの相手をトゥローノに任せたブリッツは、別の資料を真剣に読み耽っている坂本中佐の近くの席に座って彼の様子をさりげなく観察する。

 

「…ブリッツ、これの詳しいデータを見せて貰えないか?」

「どうぞ、試験データフォルダの3番のファイルを開いてください」

 

 ブリッツはsuryu-提督から送られてきたメッセージを思い出しながら坂本中佐の様子を観察し続ける、坂本中佐が興味を持った資料は彼の人柄を試すために用意された物だったのだ。

 

 (提督…坂本中佐は、僕が思ったとおりの人間だったみたいだよ)

 

 

「中佐、この子が試供品の動作テストをしてくれるそうです、演習場に移動して実物を見せてもらいましょう!!」

「……そうだな、実物を見るのが一番いいか…」

 

 トゥローノが幕僚たちを相手に新型兵器のデモンストレーションを行っていた頃、坂本中佐はブリッツを連れて艦娘区画の入渠施設にやって来ていた。

 

 入渠施設の責任者を務める元・敷島型戦艦の工作艦「朝日」と、その妹で戸島鎮守府の武術指南役を務める敷島型戦艦の4番艦「三笠」がブリッツから技術説明を受けている姿を横目で見ながら、坂本中佐は集中治療室のベッドに横たわる駆逐艦娘「菊月」にそっと話しかける。

 

「菊月、頼みがあるのだが…」

「臨床試験の被験体だろ? 構わぬ、役立たずとなった私に相応しい“任務”だ」

「…すまん」

「この菊月にそのような気遣いは無用だ。 司令官、私の臨床データを使って他の子を救ってやってくれ」

 

 坂本中佐は、体内の制御システムが異常暴走して内臓器官に致命的な損傷を受けていた菊月の身体を、suryu-提督から提供された最新医療技術を使って修復しようと考えていたのだが……朝日と三笠はそれに異議を唱える、ブリッツが持参してきた技術資料の内容が信じられない2人は坂本中佐の決断には反対だったのだ。

 

「生体制御を外部のシステムに繋いで維持しながら、体内の制御機構をコアごと全部入れ替える……? こんな無茶なこと本当に出来ると思ってるの?」

「朝日の言うとおりだ、コアの入れ替えは危険すぎる。 普通の解体処理で体内システムを全部除去して人間化した方が安全性も高いはずだぞ?」

「菊月の身体は制御コアが無いと生命を維持できない、人間化した瞬間に死んでしまうんだぞ!!」

 

 騒ぎを聞きつけて覗きにきたもう一人の工作艦「明石」が、3人の睨み合いを仲裁しようと割って入る。

 

「まずは生命維持には関係ない部分で機器の入れ替えを試した方がいいんじゃない? ぶっつけ本番は危険すぎるでしょ?」

「それでは間に合わん!! あの子のコアはあと数日で崩壊してしまうんだぞ!!」

「全システムをロックして冬眠状態にすれば2~3ヵ月は持ち堪えられるわ、早まっちゃダメ!!」

「……暴走してる制御コアをどうやって止めるんだ? 止める方法が見つからないから体細胞の自己破壊が続いているんだぞ?」

 

 坂本中佐の指摘に反論できない2人の工作艦は絶句してしまい、室内に重い空気が漂う、その様子を見かねたブリッツが遠慮がちに声をかけた。

 

「この手術方法は僕の身体を使って何度も成功してます、適切な手順さえ守れば成功するはずです」

「貴女が被験体だったの?……わかった、工作艦の誇りにかけて必ずやり遂げてみせるわ」

 

 朝日は彼女の顔をしばらく見つめた後で根負けしたようにため息をつき、オーバースペック艦娘研究所から提供された外部生命維持システムを手にして踵を返す。

 

 同僚の明石は、不安げな表情で見守っていたブリッツの肩を叩くと、片手で軽くガッツポーズを見せながら朝日の後を追うようにして手術室に向かって歩いていった。

 

 坂本中佐は手術室の前のベンチに座ったまま動こうとはしない、1時間後にトゥローノを連れて戻ってきた副司令官と叢雲が声をかけても反応しないまま手術室の扉をじっと見つめ続けている。

 

「司令、デモンストレーションの結果報告ですが……」

「たぶん聴こえて無いわよ、あとで私が報告しとくわね」

「頼む、部隊の指揮はしばらく俺の方で代行しておくよ」

 

 坂本中佐の様子をしばらく眺めていた叢雲は肩をすくめて振り返り、ブリッツ姉妹の所に戻ってきた。

 

「ブリッツ、あんた達の部屋に案内するからついて来なさい」

「いえ、僕はしばらくここにいます」

「私もここにいていいかな~?」

「そう? なら、そこの控室に夕食を運ばせるわね。…緋月、あんたもちゃんと食べなさいよ!」

 

 数時間後……菊月の手術の成功を見届けて居室に戻ったブリッツは、心の隅に引っかかっていた事柄を妹に問いかける。

 

「ねえトゥローノ、僕が改修手術を受けていた時の提督はどんな様子だった?」

「suryu-提督は自身満々だったよ~。手術は必ず成功すると言い切ってドンと構えてた」

「そっか……坂本中佐とは全然違うね」

「そりゃそうだよ、うちの技術力はここよりも遥かに進んでるから、あのくらいの手術なんて100%成功するもんね~♪」

 

 (そうだよね…あの人は、成功するかどうか確信を持てなかったから苦しんでたんだよね……)

 

 自分達の故郷であるオーバースペック艦娘研究所の楽園のような日常と外の世界の過酷な現実との違いに衝撃を受けたブリッツは、気楽に笑いながらアイスクリームを食べる妹の顔を眺めながら深く思い悩む。

 

 調査任務に就く前にネロやsuryu-提督から教えられた“研究員”の過去の陰謀や“例の件”の情報から想像していた“西小島の司令官”のイメージが、あの優しい姿を見せる坂本緋月の姿とは全く結びつかない事にブリッツは困惑していた。

 

 

……坂本中佐の過去に隠された秘密が、後に起こる大事件に繋がる事になろうとは、この時はまだ誰も気がついてはいなかった……

 

――――――――――――――――――――――――

同時刻……戸島鎮守府・艦娘入渠施設。

 

 菊月は細胞修復溶液に満たされた再生槽の中で目覚めると、自分の手を握っている人物に声をかけた。

 

「司令官……私は、生き延びたのか?」

「ちゃんと生きてるぞ、手術は文句無しの大成功だ」

「そうか…。正直いうと怖かった、何も出来ないまま轟沈するのは嫌だからな」

 

 そういって苦笑する菊月の手にすがりついていた坂本中佐は、部下たちの前では絶対に見せない泣きそうな表情でうつむきながら弱音を吐く。

 

「君の勇気がうらやましいよ……私は恐怖に耐えられなくて逃げ出す寸前だった、“あの時”の光景が目に浮かんで気が狂いそうだよ……」

 

 菊月は身体の上に掛けられていた目隠し用のシーツを撥ね除けて起き上がり、再生槽の横にひざまづいたまま震えている坂本中佐の身体をそっと抱きしめる。

 

「西小島の事をまだ悔やんでいるのか? あれはもう終わった事件だぞ?」

「…私はあそこから逃げた卑怯者だよ、何も出来なかったし、誰も救えなかった…」

「そんな事はない!! 私を救ってくれたではないか!!」

「…………」

「もう1度やり直せばいい、私が支えてやる、安土や上総だって支えてくれる、仲間を信じて私たちを導いてくれ…お願いだ!!」

 

 坂本中佐は拾い上げたシーツで菊月の小さな身体を包み込むと、彼女を抱き上げながら冗談めかして呟いた。

 

「…こんな情けない事を言ってると、また叢雲に叱られるかな?」

「その時は私も一緒にお説教を受けてやるから心配するな。……共に行こう」




  【キャラ設定の補足説明】

艦MS姉妹・ブリッツ&トゥローノの外見は、アニメ「機動戦士ガンダムSEED」に登場するキャラクター『ニコル・アマルフィ』が女性化した姿で想像してみて下さい。

姉のブリッツは、ニコル・アマルフィがロングヘアーになって黒いドレスを着ている感じ、ドレスの上からブリッツガンダムに似たデザインのプロテクターと武装を身に着けています。

妹のトゥローノはショートヘア、服装はフード付きパーカー&スカートでプロテクターと武装は姉と同一デザイン、性格や雰囲気は艦娘の雷にちょっと似ている感じ。

姉の名前「ブリッツ」はドイツ語で「電撃・稲妻」という意味、イタリア語で「雷・雷鳴」という意味になる名前をもつ同型機の妹「トゥローノ」と二人合わせて艦これ原作キャラの第六駆逐隊(暁型姉妹の雷と電)のイメージに少し重なる感じでキャラ設定を作ってあります。

ネロブリッツガンダムの擬人化キャラ、男性タイプ艦MS『ネロ』の外見は「機動戦士ガンダムSEED」の『ダナ・スニップ』です。

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