艦隊これくしょん奇想戦記 ~それが世界の闇ならば~   作:西向く侍

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 この物語は、「リュウ@立月己田」さんが書いている作品『艦娘幼稚園』の第一部のエピソード、『~佐世保から到着しました!~』の章の第六話『その6「酒は飲んでも飲まれるな」』の裏で展開していたサイドストーリーから始まります。

 こちらの作品を単独で読んでいただいても問題ないように執筆していますが、今回のエピソードは元ネタとなった作品である『艦娘幼稚園』とあわせて読んでいただいた方がより楽しめると思いますよ。

 元ネタ作品を読んでいた方は“あの人物たち”がモブキャラとして登場する場面でニヤリとするかも知れませんね。


第一次ヤン鯨大戦 ~開かれるは狂気の宴~
第1話


 ここは舞鶴鎮守府の本館から少し離れた場所にある艦娘食堂……艦娘寮にほど近い場所に建つこの食堂は、事務管理棟や工廠区画などから通うにも都合の良い距離に位置しているという理由で人間の職員や工廠作業員たちもよく利用している大人気の食事処である。

 

 事務管理棟や工廠区画にもカフェテリアは併設されており、本館にも一流料理人が常駐する豪華な士官食堂があったのだが、舞鶴鎮守府の総司令官「京極」元帥をはじめとした多くの士官たちがわざわざ足を運んで頻繁に通い詰めるほどの人気ぶりを見るだけでも、この食堂の管理者・艦娘「鳳翔」の料理の腕がどれほど高く評価されているのか理解できるであろう。

 

 ある日の夕刻……いつもと同じようにほぼ満席状態となって混みあっている食堂の片隅では、普段は見掛けない1人の少女が周囲の様子を観察しながら食事をとっていた。

 

「ブリッツ、舞鶴鎮守府にはもう慣れた?」

「はい。 皆さんが良くしてくれるので、すぐに慣れました」

 

 翡翠色のロングヘアーで黒いドレスを着ている彼女の正体は艦娘とは少し違う異質な存在、普通の鎮守府では絶対に見掛けられる事の無い最新鋭兵器「モビルスーツ」の能力をもつ機動兵器娘「艦MS」の『ブリッツガンダム』というのが彼女の本名である。

 

 ブリッツがもうすぐ食事を終えようとしていた頃合に元気よく食堂の中に駆け込んできたフード付きパーカー姿の少女がブリッツと同じテーブルに着座し、ウェイトレスを務める艦娘「千代田」を呼び止めて食事を注文する、翡翠色の髪をショートカットにした明るい表情が印象的な彼女の顔立ちは向かい合って座る大人しそうな雰囲気のブリッツととてもよく似ていた。

 

「お腹すいた~! 千代田さん、日替わり定食とデザートにチーズケーキセットをくださ~い♪」

「ドリンクは何にしますか?」

「オレンジジュース~♪」

「注文は以上でよろしいですか? ……すぐお持ちしますので暫くお待ち下さい」

 

 ブリッツも同じようにチーズケーキとレモンティーを追加注文すると、向かい側に座った同型機の妹…ブリッツガンダム2号機・識別コードネーム『トゥローノガンダム』と会話を始める。

 

「お姉ちゃん、そっちはどうだった~?」

「僕の方は空振り、目新しい情報は何も見付からなかったわ」

「私もハズレだったよ~。幼稚園に最近赴任した先生の経歴は真っ白で接点は何も無かった」

 

 二人はため息をつきながら食堂の反対側を眺める、そこでは『先生』という愛称で呼ばれている新人保育士の青年「立月 己田(たちづき きた)」が、総司令官の専属秘書艦を務めている艦娘の高雄・艦娘幼稚園で保育士を務めている愛宕・佐世保鎮守府所属のビスマルク…の3人の睨み合いに囲まれてアタフタとしている。

 

 ブリッツは先生の周囲で巻き起こっている騒ぎを観察しながらも、すぐ近くの席から聴こえてくる会話の内容が気になって聞き耳を立てる、意識を向けた方向にあるボックス席では“舞鶴鎮守府のパパラッチ”という異名で有名な艦娘「青葉」が一航戦によく似た姿形の2人組の子供を取材していた。

 

「戸島鎮守府の安土で~す♪」

「……上総です」

「2人あわせて『チビッ航戦』で~す♪」

「……です(ペコリ)」

 

 楽しそうな笑顔でポーズをとるピンク色のスカートを履いた赤城にソックリな子供「安土」と、無表情でお辞儀している薄紫色のスカートを履いた加賀にソックリな子供「上総」を、青葉は質問攻めにしながら色々な角度から写真に収めていく。

 

「…トゥローノ、戸島鎮守府って聞いたことある?」

「戸島?……聞いたこと無いな~、ちょっと調べてみるね」

 

 ブリッツの妹トゥローノは何も無い空中を指先で叩いたりなぞったりするような仕草を始める、傍から見ていると考え事をする時に身体が無意識のうちに動いてしまう癖のようにも見えるが、これは彼女の脳内で視覚化されているバーチャル映像のコンソール画面を脳内イメージで見ながらタップ操作していたのである。

 

 周囲にいる人達には見えていないコンソール画面が彼女の脳の視角野にだけ映っている、本来なら指を動かさないでもイメージするだけで操作する事が可能なのだが、トゥローノは“コンソール画面を操作する”という脳内イメージを強く意識してより集中するためにあえて指を動かしながらのバーチャル操作を行っているのだ。

 

 鎮守府本館のサーバーにアクセスして目的の情報を探し出したトゥローノは、量子通信を使って今見ている仮想の映像を姉・ブリッツの視覚野に転送した。

 

 隠密活動特化型モビルスーツ娘「ブリッツガンダム」姉妹に与えられている特殊装備『量子通信』、"普通の"艦娘が装備している標準規格の通信機では受信する事が不可能なこの特殊通信システムは、彼女たちの諜報活動の任務には無くてはならない『ナイショ話できる秘密の通信回線』なのである。

 

「…コレかな~? 舞鶴湾の真ん中に浮かぶ無人島の戸島、以前は夏場にキャンプ場として使われていた島だったけど、今は民間人の立ち入りが禁止されて海軍の所有地になってるんだって~」

「あの島なの!? あんな近い場所に新しい鎮守府を建てる必要なんて無いと思うんだけど…?」

 

 何かがおかしいと感じたブリッツは2人の様子を観察する、先生たちの所で始まった飲み比べ合戦に興味を持った青葉が野次馬根性丸出しで走り去るのを見送ったチビ空母たちは、4人前以上はありそうな大量の食事を追加注文して仲良く楽しそうに食べ続けている。

 

 そこに1人の海軍士官が歩み寄ってきた、白い軍服の上から派手なデザインの「家紋入り陣羽織」を重ね着して腰には日本刀を大小二本差しにしている、服務規程に違反した奇抜すぎる服装の男性、どう見てもまともな士官だとは思えない怪しい風体をしているその男は舞鶴鎮守府の職員たちから『侍提督』というあだ名で呼ばれて最近噂になっている有名人であった。

 

 その人物の何となく女性的にすら思える顔立ちと軽やかな物腰を観察したブリッツは「アニメに出てくる戦国武将みたいな感じの人だな……」という印象を抱いたようである。

 

 都合が良いことに青葉が戻ってきて彼を質問攻めにし始めたので、ブリッツ姉妹は食後のデザートに夢中になっているかのような演技をしながら聞き耳をたてる。

 

「私の所属と階級? 舞鶴管区に所属、戸島鎮守府の基地司令「坂本 緋月(さかもと ひづき)」で階級は中佐だが……それがどうかしたか?」

「舞鶴鎮守府の青葉です!! あなた達の事を取材させて下さい!!」

「それは構わないが……戸島はつい最近活動を開始したばかりの新築の鎮守府だから話せる話題も少ないぞ? それでも良いかな?」

 

 坂本中佐と名乗った侍提督は、過去の経緯や詳しい経歴に関しては苦い表情を浮かべて言葉を濁していたのだが、青葉の質問に答える彼の話のなかの幾つかの単語がブリッツとトゥローノを大いに驚かせた。

 

「…!? いま「ラバウル」って言ってなかった?」

「言ってた!!「以前はラバウル海域の西小島鎮守府で基地司令を務めていた」って聞こえたよ~!!」

「ビンゴ!! やっと見つけたわ!!」

 

 彼女たちが遂行していた密命の手がかりになりそうな人物をようやく発見できた事に興奮し、二人は必死になって坂本中佐と青葉の会話を盗み聞きする。

 

「私達はこれから戸島に帰るのだけど……そんなに興味があるなら戸島を見学させてあげるよ、どうする?」

「ついて行ってもいいんですか!? 恐縮です、ぜひ突撃取材させて下さい!!」

 

「迎えの車を呼び出すからちょっと待っててくれ。 安土、デザートは龍鳳さんが用意してくれているから追加注文するのを止めなさい」

「え~。ここのクリームあんみつ食べたかったのに~」

「……心配いりません、お持ち帰りメニューのあんみつを事前に買い占めて車に積み込んでおきました」

「あの大きな段ボールの中身はそれか?…そういえば、あんみつはお前たちの好物だったな……」

 

 苦笑しながら上総の頭を撫でた坂本提督はスマホで部下を呼び出し、青葉とチビッ航戦の二人の飲食代の会計を済ませて食堂から出て行こうとしていた。

 

「!? トゥローノ、追跡するわよ!!」

 

 

 謎めいた男「坂本 緋月」が指揮する戸島鎮守府の秘密を探るため、舞鶴で諜報活動を続ける機動兵器娘ブリッツとトゥローノは追跡を開始する。


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