32.理
「で、俺をどうするつもりだ?」
その俺の問いかけに、アスナは暫く黙り込んだ。その後で、アスナはゆっくりと言葉にした。
「確かに、あなたのとった方法は間違っているわ。でも、それによって救われた人もいるというのは紛れもない事実よ。だから―――」
「許す、と?」
「そういうわけじゃないわ。でも、ここであなたを見限るつもりはない」
「目的は手段を正当化しないぜ」
「分かってるわよそんなこと!」
どこか達観したような俺の正論に、アスナはこらえきれなくなったように声を上げた。
「それでも、今ここであなたを放っておいたら、悲しむ人がいるわ」
「俺みたいな外道のためにか?ハッ、それこそありえねえだろ」
鼻で笑い飛ばしながら目をつむった俺は、アスナとの会話に集中しすぎたことも相まり俺の目の前に一人回り込まれたことに気付かなかった。その人物は、俺の目の前に回り込むと、そのままの勢いで思いっきりひっぱたいた。
突然ひっぱたかれたことに驚きながら目を開けると、そこにはプラチナブロンドの長髪をした少女がいた。少なからず驚きを感じていると、その本人はあけすけに抱き着いてきた。
(次から次へとなんなんだよ、ちょっとくらい喋ってくれても―――)
そう言おうとした矢先、少女の体から伝わる震えに気付いた。それに交じって聞こえる、微かな泣き音。どうやら自分は、この少女に想像以上に心配をかけていたらしい。ゆっくりとため息をつくと、俺はそのままの体勢で言った。
「心配する必要なんてなかったのに」
そう言うと、レインは片腕を外してぽかぽか殴ってきた。身体的にはまったく痛くないが、精神的には来るものがあった。
(ああ、そうか。そういうことだったのか―――)
そこまで来てようやく俺は悟った。俺がレインたちを暗闇に堕としたくなかったように、レインも俺を光の中に戻したかったのだ。
「俺にはもう、光の中で生きる資格なんてないぞ」
「資格なんて関係ない。私はもう、あなたに人殺しをしてほしくないだけ」
ようやくレインが口を開いた。自虐的な俺に対してそのまっすぐな声は、俺にとっては羨望の対象になりえるものだった。
「もう俺は散々殺したんだ。そんな俺が先頭に立つ資格はない」
「そんなことはないと思うけど」
後ろから聞こえた声。そちらに振り向くと、そこにはアスナがどこか呆れた表情をして、こちらに歩いてきていた。
「それに資格なんて関係ないでしょ。攻略組は常に人員不足なんだし、あなたほどの腕前の人物が一人増えるか増えないかで大きく変わってくると思うけど。それに、」
そこでいったん言葉を区切ると、アスナはレインの頭を優しく撫でた。
「この子をこれ以上悲しませることに、あなたは何も感じないの?」
そう言われると反応に困った。俺だって血も涙もないわけじゃない。だが、
「これ以上、巻き込むわけにはいかない」
ポーチの中には煙幕がある。この状況なら、煙幕を炊けば離脱には充分だろう。腕を外してポーチの中に手を突っ込んだ瞬間に、俺を強烈な眠気が襲った。
(睡眠の、デバフ、だと・・・)
そのまま、抗うこともできずに俺の意識は眠りに落ちた。
「ごめんなさい」
新たに表れたもう一人の少女は、それだけ短く呟いた。その手には、かなり細身の剣が握られていた。
「何をしたの?」
アスナが驚いたように声をかける。問いかけられた当人であるエリーゼがしたのは、ただロータスの背中を切っただけだ。それだけで、あんなことになるとは誰が思おうか。
「この剣ね、ハイオプティマスって言って、蓄積じゃなくて確率で一発睡眠にするの。デバフ耐性全部抜きにして。だからこそちょっとした賭けだったんだけど、うまくいってよかった」
ある意味いつも通り、どこか飄々と話すエリーゼに、アスナは軽くため息をついた。が、ともかく。
「何はともあれ、助かったわ。結果オーライなところはあるけれど。ここにいる三人なら、無理矢理でも運べるでしょう」
「大丈夫なの?討滅戦のほうは」
「もう下火になってきてるし、大丈夫でしょう。それに、彼が混乱を生んでくれたおかげで、少しではあるけれど時間を稼ぐことができた。今更私がいなくとも、どうにかなるわ」
それだけ言うと、少女たちは戦いの終わった広間に、敵なのか味方なのかわからない青年を運び出した。
予想通り、討滅戦は完全に終了の様相を呈していた。敵勢力のほとんどは撤退か、捕縛されていた。捕縛され、監獄送りになった中には、頭陀袋を被った麻痺短剣使いであるジョニーブラック、凄腕のエストック使いであるザザも含まれていた。ボスであるPoHは逃亡、そしてもう一人の幹部であるロータスも今、攻略組の花+女傭兵の三人が抱えて持ってきたので、これで少なくとも悪くはない結果にはなった、と言える。
「さて、撤収しましょう」
撤退ではなく、撤収。その言葉が差す意味も、もう分かっていた。
護送中に、俺は目を覚ました。背中や腕の感触、自分の姿勢から察するに、俺は縛られてどこかに運ばれているのだろう。一瞬どうしてだ、と思い、すぐに思い出した。
(そうだった。俺は確か、睡眠のデバフにかかったんだったか)
ま、アスナがああいっても、俺の処罰は彼女の独断で決められるものではない。何かしらの会議が必要だ。それまでは、ということなのだろう。周りを探ると、俺に対して数人がいるようだ。VIP待遇というわけか。ま、一応俺はラフコフの中でも幹部格であったのだから、当然と言えば当然ではある。
「起きたか」
俺の様子に気付いたのか、しんがりを務めていた剣士から声がかかった。この声は、
「リンド、か」
「ああ。いつぞや以来だな、ロータス」
「そうだな。モルテの一件以来、ってとこか」
まさかこんな形になるとは。ま、俺の想像通りといえばそうなのだが。
「こんなこと企んでやがったとはなぁ」
「誰から聞いた」
「キリトからな。あのまっくろくろすけの後ろから斬りかかったザザと、ジョニーブラックをあんたが行動不能にした、ってのを見てたやつがそこそこいてな。で、あとはあの白黒夫婦の言葉からの推測だ。でもま、あんたのやったことはやったことだから、無罪放免というわけにもいかんがな」
「そもそも、俺は人殺しだぞ。それも、最悪の殺人ギルドの幹部だ」
「元攻略組で、現時点での攻略組最強クラスを相手にして、簡単にコケにできるレベルのな。そんな実力者はそうはいない」
ああ言えばこう言う。それは、雰囲気からしても分かった。
「分かった」
どういう意味なのか、それだけでは分からない。だが、リンドにはきっと伝わる。それは、何となくだが分かっていた。
はい、というわけで。
いやはや、あとがき的な何かがそういえば昨日予約投稿してあったなー、と思い出し、情報からアクセス解析に行こうとしたら、なんかお気に入りもUAもめっちゃ伸びてて驚きました。しかも、評価欄見たら☆10評価つけてくださった方もいらっしゃる。え!?って本当になりました。
まさかランキング載った?まっさかねー。ってノリでランキングをスクロールしたら、見つかったんです。しかも一桁。2017年9/30、23:00頃時点で6位。本当にありがとうございます。いやはや、人間本当に驚くと完璧に固まるんですね。パソコンの前であそこまで見事に凍り付いたのは初めてでした。
まあそういうこともありまして、かなり前倒しで始めます。正直、いつも通り一月後くらいに投稿する予定でした。
あと、これの投稿寸前でお気に入りが150突破しました。100突破から150まで早!作者、かなり驚いております。本当にありがとうございます。
今回の分岐は、彼が攻略組に合流するルートでした。正史32話にも書きましたが、こっちへの分岐条件は「アスナの好感度一定以上、かつ、レイン、アスナ、エリーゼの好感度一定以上の場合」、です。早い話が女の子に好かれとけ、って話ですね。
サブタイトルに関しては、感情的に考えれば到底受け入れがたいが、実利面で考えれば、ということです。感情と理性、ということで、こういう意味になりました。・・・誰か主にネーミングセンスをください。
ナンバリングに関しては、32からの分岐なので、32から新たに連番で書きます。いわばパラレルワールド的なものだと考えてくだされば。
このストーリーを書いているとき、たまたま突発的にエースコンバットにハマっていたので、結構エスコンネタが出てきます。できるだけチェックして書くことにしますが、見落としていたらごめんなさい。わかる人には、あれこれセットで書くのでわかるかもしれません。
それと、感想でご指摘があったことについて。
この書き方は変えるつもりはありません。テイルズの術技やモンハンの狩技などを使っていくことに関しても、です。それを承知で読んでくださっている、とこちらで踏まえたうえで書いていきます。できるだけどんな動きなのかは、書ける範囲で正確に書くつもりです。
次からの更新はまた月一くらいになる予定です。あれこれガラリと雰囲気が変わったこのルート、ついてきてくださると幸いです。
ではまた次回。