GGO編、始まります。
51.新しい日常-prologue-
正直に言おう。教職ってこんなに大変なのか。なーにが「電子化された教育のモデルケースだから多少は楽だと思うよ」、だ。毎日資料作りに追われるわ、質問もあるからちゃんとコメントには目を通さないといけないわ、半分趣味レベルになるっつっても課外活動もあるから、それで時間を奪われるわで結構大変だ。だがそれを、機械の扱いをたまに俺に聞きながらも平然とこなしてしまう再任用の先生方には本当に頭が下がる。
教職についてから少しして。結構俺は大変だ。資料がなかなかうまいこと作れずに帰ったら日付が変わってた、なんてこともそこそこ以上にある。
「よっし、終わった」
だから、今日のように思いのほか筆が乗ったりして資料作りがさっさと終わる日は貴重だ。こういう日に限って誤字脱字祭りになってたり、自分でもよくわからんことを書いていたりするから注意なのだ。
「あれ、天川君、資料作り終わったの?」
「あ、はい。一応ですけど。今は、セルフチェックです」
「ふーん。こっちにも転送してくれる?手伝うわ」
「すいません、ありがとうございます」
それだけ言うと、俺はその先生に今できた資料を転送する。この先生も、御多分に漏れず再任用のおじいちゃんである。だが、亀の甲より年の劫とはよく言ったもので、俺がなかなかできないことをあっさりとやってしまったり、気づかないところを気付いて指摘してくれたり、表現などのアドバイスをしてくれたりと、本当に助かる先生である。それでもしっかりと自分の仕事はしてしまうのだから、本当に頭が下がるというか、上がらないというか。
(誤字はなさそうだな)
「誤字はないし、悪くはないけど、色の説明は言葉だと分かり辛いんじゃないかな?その代り、映像資料とか、画像資料を持ってくればいいと思うよ」
「となると、実際に一回実験したほうがいいですかね・・・」
「可能であるならそうだねー。実体験が入れば、授業もやりやすいし。まあ、大変だから難しいとはと思うけど。どっかから映像資料もってきたほうが楽だと思うよ」
「・・・がんばります」
「ま、悩め悩め若人よ」
はっはっはー、なんて笑いながらその先生はマグカップ片手にどこかへと行ってしまった。たぶんコーヒーでも注ぎに行ったのだろう。
(ま、やるか)
そう思った俺は、学校のネット回線につなげた。
あれから、結構速攻で動画は見つかり、家で何とか授業のプランニングを終えると、俺は近くに置いてあったアミュスフィアを手に取った。これはここでの労働、それからナーヴギアの回収の対価として、国から支給されたものだ。俺はそれを頭につけると、
「リンクスタート!」
いつも通り、その言葉を口にした。
降り立った場所は、SBCグロッケン。今俺は、ガンゲイルオンラインというゲームにログインしている。これは、簡単に言ってしまうと、銃のMMOだ。普通、MMOというとファンタジーなものがほとんどだ。だが、このガンゲイルオンラインは、その名前にある通り、銃を使う。舞台は、宇宙まで巻き込んだ世界大戦の末に滅びた地球をイメージしているらしい。そのため、登場するのは実在する銃ばかり。最も、そうでない銃―――光学銃と呼ばれるレーザーを撃つタイプのものなんかはその顕著な例だ―――もたくさんあるが。
SAOの後、ALO事件と呼ばれるその一連の騒動は、かなり世間を揺るがせた。
まず、VRに関して。これは、須郷に対してだけでなく、これを利用しているすべてのVRゲーマーにとって大スクープと呼んで差し支えないものだった。俺が見た通り、半ば精神崩壊まで言っている人間もいたのだから、ある種自明の理ともいえるが。とにかく、これでVRの火は完全に消えた。―――かと思われた。
だが、ここで一つの変化が生じる。世界中の様々なサーバーに、あるフリープログラムがアップロードされたのである。その名前は、ザ・シード。種子の名を持つこれは、VR世界のひな型ともいえるものだった。そこから一気にまたVRは盛り返し、今となってはあまたのVRゲームが世界に産み落とされた。そして、ザ・シードの基礎規格が同一であることを利用し、コンバートのネットワークが成り立っている。その陰にはまた例によってあのまっくろくろすけがいるらしいのだが、ま、真相は本人に聞くしかない。聞く気はないが。
その火種となった須郷はいまだに裁判中である。いったんは釈放も考えられていたらしいが、懇意の医者と結託して精神鑑定を申請しようとしていたことが明るみになり取り消されたとか。ざまぁ。
レクトはいったん倒れかけたものの、何とか持ち直した。が、それは相当数のリストラやらなんやらを行った末だ。それを行ったレクトのCEO、結城彰三氏は敏腕と言わざるを得ない。それを間近で見ていたアスナに言わせると、本当に辛そうだったらしい。毎日毎日家で頭を抱えていた、という話は、虹架と永璃ちゃん経由で聞いた。まあ、あんだけの不祥事が起これば当然か。
ちなみに、キリトこと桐ヶ谷和人を含めた一団は今、新しく生まれ変わったALOの中で大暴れしている。この辺は元SAOトッププレイヤーの面目躍如といったところだ。そうそう、俺を助ける時に一枚噛んだ、ドッグアンドキャッツの面々は、レインを通じて親しい付き合いになっている。俺のほうも、半分傭兵のようなプレイングをしているし。共同戦線を張ったこともあれば、逆に敵対したこともあれば。どちらにせよ、相手は俺レベルとはいかなくとも、そこそこ以上のレベルのメンツがそれなりの数でいるため、ほとんど相討ち状態になる。お互い“こいつ(ら)とは戦いたくないと思っている”というは、結構親しくなったリーダーのフカことフカ次郎とのゲーム内での会話からだ。最も、会話の言い回しから、フカは道産子であることが判明したため、リアルでそうそう簡単に会うことはできない。
俺がこうしているのは、何か新しいゲームを始めたいと思って、休日に足を運んだゲームショップでこれを見つけたからだ。ちょうどFPS系も始めてみたいと思っていたところだったからちょうどよかった。
コンバートのシステムは、コンバート先のステータスは元のゲームのステータスに依存する。それに関しては、俺と永璃ちゃんがうまいことやらかした結果、俺のアカウントを二つ作ることに成功。俺はSAOのステータスが大きく反映されたアカウントで、今GGOにログインしている。これにはちゃんと理由があって、コンバートするとアイテムの類は一回リセットされてしまうからだ。所有権がリセットされるということと同義のため、一度どこかに預ける必要がある。ギルドなどの共有外部ストレージや信頼できるフレンドがいる場合は問題ないが、自身が購入したホームなどに預けた場合どうなるかは実験してみないと分からないため、その危険回避という意味合いもある。はいそこボッチ乙とか言わない自覚あるから。
が、まあ金額は初期金額の時点でお察しというわけで。だがこれは全く問題がなかった。
GGOにログインしてから、俺は習慣のようにあるところに通っていた。というのは、
「よっし、荒稼ぎするかね」
早い話が、カジノである。対人戦で飽きるほど心理戦や読むことに慣れてしまった俺にとって、これはもう楽勝だった。つか、あの場所顔に出るやつ多すぎ。ま、最初は安パイで手堅く稼いだんだが、ある程度手持ちが増えると思い切った手を打つようにもなった。で、俺をカモと思ってやらかす馬鹿が続出。俺が読み勝ちを続け、やつらが懲りたころには、もう手元には十分すぎるほどの軍資金が集まっていた。ま、でもカジノは結構稼ぎがいいから、今でも入り浸ってんだけど。
カジノに入った瞬間、俺に目線が集中する。ま、ここで俺はちょっとした有名人だからな。席に着けば、何人かが続いて席に座る。誰もいないところを狙ったのにもかかわらず、だ。
「今日こそ勝ってやるぜ、ギャンブルメイジ」
「勝てるものなら勝ってみるっぽい」
それだけ言葉を交わすと、俺は規定通りに配られたカードを手に取って思考に入った。
「さーて、今日も稼いだ稼いだ」
カジノから出てきた俺はホクホク顔だった。ま、いつも通りほぼ負けなしだったからである。これをいくらかリアルに送り、弾を補充。ゲーム内でのマイホームに転移して、準備を整えると、俺はフィールドへ繰り出した。
今回は、適当にモンスターを狩ることにした。そのため、装備もそれなりだ。俺は大口径の銃でも容易に扱いきれるが、今現時点ではそこまで大口径の武器はあまりない。噂だと、超絶レアドロップで対物ライフル、つまりは50口径、もしくはそれ以上の大口径弾を使用する、超強力なライフルが手に入る、らしい。だがあくまで噂は噂。ドロップなんぞせんだろうと、俺も思っていた。そう、
(まっさかほんとにドロップするたぁねぇ・・・)
しかも、FPSに関しては素人に近い俺に、だ。
最初はモンスター狩りで腕を磨こうと思っていた矢先、トラップに引っかかってダンジョンの奥深くに迷い込んだ俺は、明らかにボスとみられるデカブツに遭遇したわけだ。そこからは無我夢中。当時のメインアームはおろか、こういうゲームだからか耐久値が異常なほど高めに設定されていたナイフと、そこまでに倒したMobからのドロップ銃、それから自分で弱点と思しき部分をぶん殴るという、そういうゲームじゃねえからこれを地で行くプレイでなんとか倒した。そうしてドロップした銃が、今背中に担いでいるこいつだ。名を、「アキュラシーインターナショナル AS50」という。セミオートの対物狙撃銃だ。弾はNPCショップで調達できたから問題なし。試し撃ちはもう済んでいる。
サブアームとしてはレッグホルスターで収められるSMGサイズの銃ということでMP7A1になった。似たような性能のP90はホルスターがないため、スリングで使うか、ホルスターを作ることになるからだ。スナイパーを主武装とする俺だとスリングが邪魔になる。ホルスターを作る手間も考え、MP7A1を採用することで落ち着いた。
「お、いいところに」
と、遠方に敵影を見た。周囲に何もないことを確認すると、すかさず背中から得物を抜いて伏せ撃ちの姿勢を取る。
(距離は、1000ってとこか。・・・やってやる)
はっきり言おう。いくらスナイパーといっても、一般的なスナイパーライフルの射程は精々800くらいが限度。1000は遠すぎる。だが、こいつは違う。
息をつめ、引き金を静かに引く。凶暴な咆哮とともに.500BMG弾が空を裂いて飛び、哀れ何もわからぬままその頭部に直撃したモンスターを一撃で爆発四散させた。
「うっし、ヘッドショット!」
リザルトを見つつかすかにガッツポーズ。そのまま、俺はもう一度背中に得物を背負った。ちなみに、スナイパーに関してはいちいちストレージにしまうのも面倒なので、背中に固定できるように特製の代物を用意している。狙撃銃はボルトアクションであることも珍しくないのだが、さっきも言ったようにこの銃はセミオートだ。連射がしやすい点が最大の利点だ。その分整備もしっかりしなくてはいけない。このでかさの銃で排莢不全が起きたことに気付かず撃ったらなんて、考えるだけで恐ろしい。・・・ったく、わざわざジャムなんざ再現しなくていいっての。ま、その分連射できるからいいんだけどね。・・・と、そこで、俺の耳はかすかな音をとらえた。この音から察するに、後方、距離にして200くらいか。
(しつこいなあ・・・)
内心ため息をつきつつ、俺は自然な動作で右足の太ももあたりと左の腰を探る。そこに、現在のサブアームであるMP7A1とトーラス・レイジングブルが入っていることを確認して、俺は再び歩き出した。グロッケンへ引き返す道の途中にある市街地まで引っ張ったのち、曲がり角を曲がる。角を曲がってすぐのところで呼吸を押さえていると、俺の想像通りプレイヤーが来た。すかさず、すでに抜いてあったMP7A1を足に軽く連射。MP7A1はPDWだからこそ、最初期から俺を支えている一丁だ。奇襲をかけるつもりが奇襲をかけられ、その上機動力を奪われて泡を食っているところを、左腰からレイジングブルを引き抜いて、足で頭を固定したうえで眉間に一発。どうやらソロのようで、完全にこれで終わりのようだ。
「懲りないねえ・・・」
俺がさんざんカジノで荒稼ぎした金を狙ってきた奴は本当に後を絶たない。さすがに至近距離からスナイパーをぶっぱなす趣味はないから、弾をよけつつサブアームでさっくりと殺すことが多い。これはクロスレンジで瞬時の判断を求められるSAOで培ったものが大きいと言って差し支えない。特に俺はPvPを多く経験しているし。そもそも、分かる人ならわかると思うが、対物ライフルを普通に立って振り回してぶっ放そうもんなら肩が外れかねない。銃の重さが重さなので、銃自体が吹っ飛ぶというシュールな光景はないだろうが、確実に肩や腕はしばらく使い物にならない。というか、そもそも重さ10kg、長さ1mは当たり前のように超えるデカブツを立った状態で撃とうと考える人間もなかなかいないだろうが。ま、俺ならやれそうだけど。SAOで鍛えたSTRと技術なめんな。いくらスコープ覗かないとどこ行くかわからない代物でも両手持ちしてゼロ距離射撃なら問題ない。はいそこ、そういう銃じゃねえからって言わない。やらないし。
えっと、ドロップはっと、・・・これまたレアなものを。なんだってトンプソン・アンコールなんざ持ってんだこいつ。まあ欲しい銃だったからいいんだけど。
トンプソン・アンコールは、トンプソン・コンテンダーの後期型だったか、再販売だったかのモデルだ。中折れ式の単発銃で、装填して射撃したら、空の薬莢を手で一回抜いてもう一度装填する必要がある銃だ。だがこいつ、拳銃くらいのサイズでありながら、カスタム次第でライフル弾も普通に撃つことができる。もちろん銃身を変更する必要はあるもの、世の中には60口径を撃てるようにした馬鹿もいる。まあ、さすがにそこまでしようとは俺も思わないが。そこまでは。
というのもだ。わかる人にはわかるとは思うが、今、俺が主力で使っている銃は全部銃弾が違う。せめてどれか一つ、というか二つでも弾頭を共通化したかったのだが、BMG弾を扱う拳銃などあるはずもなく、MP7は使用弾薬が特殊なせいで使用する拳銃がなかった。P90にはFive-seveNがあるのに、なんでMP7で似たようなのがないんだよと思って調べてみると、どうやら弾が特殊なせいで拳銃サイズだとうまくいかなかった。で、結果的に台数もほとんどない超マイナー銃になってしまった、ということらしい。もちろんそんな銃がGGOに採用されるはずもなく、結果的に違う弾薬の銃を何種類も持ち歩くという、あまり効率的ではないことになってしまった。・・・.45ACPっていう拳銃弾を使うことでマガジンまで一緒になって、しかもホルスターもある、なんてモン知ったのはこれよりさらに先の話だったりする。
時間を見てみると、って、もう2時間以上もたってんのか。こっちに潜ってると時間がたつのが速くて困る。と、俺はさっさとホームへとやや急ぎ足で帰った。
これが、俺の新たな日常の一コマだった。
はい、というわけで。
冒頭にも書きましたが、大変長らくお待たせいたしました。正直に言うと、これはあとがき的な何かでも言った気がしますが、あそこまでif編が長引くとは思ってなかったです。よもや本編の話数を大幅にオーバーすることになろうとは・・・。
ついでに、卒研の余った時間を使って書いていた書き溜めがかなり溜まっていたので、登校です。
さて、GGOについてなんですが。
はっきり言って、分からないことも結構多いので、独自設定多めで行きます。銃に関しては調べながら書いていますので、間違っていたらなにとぞご容赦を。
主人公の容姿は、ここでは書きません。次で分かる人は絶対分かるっていう書き方をします。まあ、この時点ですでにヒントがあるので、もしかしなくともアレか?って思う人は多いのではないでしょうか。
さて、自分でも若干どうしてそうなった、という展開になったGGO編、お楽しみいただければ幸いです。
ではまた次回。