なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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同級生の女子に家に来ないか誘われた件について。

 

 

 

 

「…………」

 

 夏休み前の期末テスト。その結果を見て、俺は僅かに眉をひそめた。悪くはない。むしろ、良いとすら言えるだろう―――総合的に見れば、の話だが。

 

 まず数学、英語、古典。これは良い。非常に良い。

次に化学、生物。これもまあまあだろう。

そして世界史に現社。まあ、及第点ギリギリと言うべきか。

 

だが―――現国、テメェはダメだ。

 

「12点ってむしろすげえなおい」

 

 漢字しか取れてない。壊滅的な点数の国語を見て、俺は頭を抱えた。毎回のことだが、なんでここまで現国が苦手なのだろうか。せめて記号問題ならば良かったのだが、今回は全てが記述かつ作中の人物の心理の変化を答えるような問題ばかり。模範解答と見比べてみると、見事なまでに俺の解答は間違っている。というか反対のことを書いてるやつまであった。

……見なかったことにしよう、うん。

 

「来月から本気だす」

 

 そんなフラグを立てつつ、俺は返却された答案を丁寧に畳んで鞄の奥へシューッ!超、エキサイティンッ!と(内心で)言いながら叩き込んだ。ふぅ、いい仕事したな……。

 そうして意識からテスト結果を締め出して携帯端末(スマートフォン)を取り出す。が、呆れたような声とともにそれは奪われてしまった。

 

「おい」

「なに現実逃避してんのよ」

 

 呆れたような声。俺の端末を奪ったのは、前の座席に座る朝田だった。というか、こいつくらいしか俺が話せる奴がいないのが現状である。なにそれ悲しい。

 

「ばっかおま、スマホつつくのが現実逃避だとしたら俺常に逃避しちゃってることになるだろうが」

「……なんかごめん」

 

 デフォルトが逃避しかないとか何処のはぐれメタルだよ。

 少し哀れむような視線を朝田が送ってくる。が、よく考えたらこいつも今じゃ似たようなもんだろ。何をやったかは知らんがあの……、……、……ビッチちゃん(名前思い出せなかった)達に過去を暴露された挙げ句ハブられてるんだから。

 ……とは言っても、弾き者にされてるのはあいつらがいる間だけであり、あいつらの目が無ければ会話程度はする友人はいるらしいが。なんだこいつぼっちじゃねぇじゃねえか。

 

「で、何の用だよ」

「用が無きゃ話しかけちゃダメなの?」

「ダメって事はないが、何も無いよりはあったほうが望ましいな」

 

 主に会話が途切れた時の絶妙な気まずさで俺が死にかけるから。その点事務連絡という奴は楽で良い。……なんだろう、俺がぼっちな理由はここにある気がしてきた。

 

「……あんたに会話を楽しむって気がないことがよくわかったわ」

「会話を楽しむ……ねぇ」

 

 スレの議論は楽しかったりもする。前なんかアサルトライフル最強決定戦だったはずが何故かマシンガンの使い道のなさについての話になっていた。中にはマシンガンのみで戦っている猛者もいるらしいが。もはや愛だけで戦ってるとしか思えない。確かにロマンだからわからなくもない。

 ……よくよく考えたら、俺の本職もなかなかにロマンだしな。今はどうにも行かなくなって《FN・FAL》を乱用してるけど。

 

「―――って、ちょっと。聞いてるの?」

「ん……ああ、うん。聞いてる聞いてる」

「絶対聞いてないでしょうが。人の話くらいはきちんと聞きなさいよ」

「わかった善処しておく。で、何の話だったんだ?」

 

 はぁ、と朝田が溜め息を吐く。どうやら俺の適当極まる返事がお気に召さなかったらしい。

 

「……はぁ。だからさ。今日うちに来ない? って聞いてるのよ」

「………………え、なんだって?」

 

 

 

 ―――うん。

どうやら俺は女子の家に呼ばれてるらしいんだが、どうしたらいいと思う?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アパートに住んでんのか」

「そ、一人暮らしなのよ。ほら上がって」

 

 よくある集合住宅の一画。それが朝田詩乃の住居であった。

 俺ん家よりかなり狭いな、と滅茶苦茶失礼なことを考えながら勧められるがままに玄関で靴を脱いで上がる。他人の家というものに上がることはなかなかない。少々―――いやかなり居心地の悪いものを感じつつ、俺は朝田の背を追った。

 

「……一人暮らし、ねえ」

「実家は東北。仕送りをして貰ってるのよ」

「へぇ……」

 

 いらん情報が増えたな、と思いながら廊下を抜けてリビングに出る。座っといて、と言われて手頃な位置にあった椅子―――ではなくカーペットの上に胡座をかいた。

 リビングを見回せば、テーブルに椅子、ソファーやその横に最近出たばかりのテレビが置いてある。が、それくらいしか物がなかった。

 ……ちなみにうちには色々絵や壷、親父が買ってきた謎の甲冑まであったりする。うん、俺ん家が異常なだけだな。さすが二代前から医者やってるだけあって金持ちである。……まあ、だからこそ「医者になれ」というプレッシャーが凄いのだが。

 

「おまたせ。今日はうちで食べてくのよね?」

「ああ……一応家には言っといたしな」

 

 着替えてきたのか、部屋着というか制服ではなく比較的ラフな格好で、朝田がリビングと繋がっているキッチンから尋ねてくる。それに肯定で返し、俺は溜め息を吐いた。

 

 電話で"今日は夕飯は外で食って帰る"と黒雪さんに一報いれてある。突然どうしたのか、とかなり驚かれていたため帰ったら根掘り葉掘り聞かれるに違いない。言い訳というか、どう誤魔化すかが面倒だった。

 

「なによ、人ん家で溜め息を吐いて」

「お前のせいだ、お前の。というか、お前も一応女子なんだからそう簡単に男を家に上げるなよ?」

「…………はぁ」

 

 善意からの忠告。だが朝田は心底呆れたかのように息を吐き、こちらをジト目で見てくる。

 

「な、なんだよ」

「……うん、あんたがそういう奴だっていうのはわかってたしいいけどね」

「あれ? 俺が悪いの?」

「うん。全面的に新川が悪い」

 

 解せぬ。

 

「……それに。別にあんた以外を上げる気はないわよ」

 

 ……それは男として見てないということだろうか、と俺は首を傾げる。まあそもそも朝田(シノン)はキリトのヒロイン3号くらいの立ち位置だし、俺は眼中にないのだろう。良くて友達か。

 まあ、俺としてもそういうのに興味ないため好都合とも言える。そういう愛だのなんだのは主人公の周りでぎゃんぎゃんやってくれ。当事者でさえなければ、ああいうのは見ててさぞ楽しいだろう。

 

「というか。よく考えたら、俺って原作でどんな立ち位置だったんだ……?」

 

 何度目かわからない疑問に頭を捻る。ぶっちゃけ、SAOとか流し読みしかしていないのである。しかも多分十二巻くらいまでしか読んでない。とりあえず"キリトくん凄い" "反射速度さえあれば現実でも仮想でも無双できる" "東京醤油ラーメン"しか頭に残ってなかった。クラインやエギルのリアルネームなんぞさっぱり頭にないし、大まかなストーリー展開しかわからない。

 "GGO編"……つまりファントムなんとか編についても、今わかっていることと言えば

 

死銃(デス・ガン)とかいうやつに撃たれたら何故か人が死ぬ。

②政府の依頼かなんかでキリトくんが来る。

③銃弾だろうがなんだろうがキリトくんの前では無意味。全部悪・即・斬して死銃も斬る。アカメもといキリトが斬る。

④みんな解決ハッピーエンド。ついでにキリトくんはシノンをゲット。やったね。

 

 ……これもうわかんねえな。うん。

 だがこれでも比較的覚えてる方だと言うのだから驚きである。GGO編はまさかの対物ライフルの弾を斬るとかいう非常識っぷりがかなり衝撃的だったため、割りと頭に残っているのだ。

 そして転生し、実際にGGOの弾の速度を見たプレイヤーの視点から言わせて貰おう。―――キリトくん人間じゃねえわ、やっぱ。

 

「そもそも腕振る速度より弾のほうが速くないっすかね……」

「なんか言った?」

「いや、何も」

 

 朝田が首を傾げる。それを見て、俺は誤魔化すように咳払いをして再び口を開いた。

 

「で、なんだっけ。スナイパーの立ち回りを知りたいんだったか?」

「ええ。……あ、でも今から作るから食べた後にでも教えてね」

 

 そう言いながらも朝田はすでにてきぱきと動き始めている。さすが一人暮らしをしているだけあって動きが機敏というかなんというか。俺なんかカップラーメン作れるレベルでしか料理なんぞ出来ない。……これ料理じゃねえな、多分。まぁ韓国だとラーメン屋でカップラーメン出されるらしいしワンチャン。

 

「暇ならそこでテレビでも見てて」

「あいよー」

 

 ……ま、同級生の女子の手料理を食べれる機会など早々ない。役得かどうかは知らないが、GGOの立ち回りを教える程度で経験できるのなら儲けもんというやつだろう。

 

 そう考え、俺はテレビのリモコンを探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走さまでした」

「お粗末さま。……どうだった?」

 

 少々不安げな朝田の声。俺はサムズアップしながらそれに答えた。

 

「普通に美味かった。いやほんと」

「そう。それは良かったわ」

 

 朝田が安心したように息を吐く。俺は苦笑しながら食後の茶を啜った。

 

「……ま、余程のことがない限りカレーで失敗することはないしな」

 

 いわゆるアンパイというやつである。それでいて料理した人間の性格やらが具材に反映されるため、それでいてなかなか楽しい料理だったりするのがカレーだった。

 

「野菜類がかなり多かったけどな。結構甘かった気がする」

「しょうがないでしょ、一人暮らしだと自然とそうなるのよ」

 

 そう言って朝田は肩を竦める。まあ実際、野菜類をいちいち盛るのも手間だしカレーに全部ぶちこむというのは良い手だろう。腹も膨れるし。……カレー万能説を真剣に唱えたくなってきた。

 

「んで、スナイパーの立ち回りだったか」

「ええ。アサルトとかなら結構使えるようになったんだけど……」

 

 夏休み直前、期末テストの結果が返された七月上旬。朝田がGGOを始めてからすでに1ヶ月経っている。今や中級プレイヤーとして、それなりに名前も通っているだろう。ただでさえ目立つ女プレイヤーなのだから、そりゃ積極的に狩りに出ていれば名前が知られるのも当然ではあるが。

 

「……うーん。そろそろ一人立ちするべきかねえ」

「え……」

 

 驚きに目を見開く朝田。俺はそこまで驚くことか、と思いながらも続ける。

 

「ソロに戻ってもいい頃合いな気もするしな。お前も結構強くなってきたし―――」

「だ、駄目!」

 

 話をぶったぎるようにして、朝田が声を上げる。俺は目をぱちくりさせて、眼鏡なしのその顔を見つめた。

 

「そりゃまたなんで?」

「いや……えっと……ほら、あなたもAGI特化でソロはキツいでしょ? 私もスコードロンに所属してるわけでもないし」

「まあなあ……」

 

 AGI特化の弊害の一つに、まずそこまで火力を出せないというのがある。STRに振ってないお陰か、そこまで重い武器を持てないのだ。ミニガンなど論外である。M60もギリギリ無理、というレベルだろう。

 ……というかよく考えたら、AGI特化型のメリットってなくないか? という疑問が頭に浮かんだが、黙ってジャーマンスープレックスをかまして叩き潰した。多分、そこは気にしたら負けだ。

 

「ま、とりあえず俺がソロに戻るかは置いといて。スナイパーの話するか」

「え、ええ。そうしましょう」

「……うん。まあスナイパーは基本的に"見つからない"という前提の立ち回りを意識する必要があってだな―――」

 

 何処からか取り出してきたメモを片手に持つ朝田。そんな彼女に、俺は基本的なスナイパーの在り方やスナイパーに適したスキルなどを説明していくのだった。

 

 

 

 ……なお、話があらかた終わった後に時計を見ると10時を回っており、歩いて帰った後に黒雪さんにこってり絞られたのは余談である。

 






リアルで定期テスト近いので、更新遅れるかもしれません。早くキリトくん出したいなあ......。

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