なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。 作:あぽくりふ
……え、なに? お前そんな事言いながらロクアカSS好き放題書き殴ってたろって? 何をそんなまさかハハハ──何故バレたし。
そんなわけで、ちょっと時間軸が飛んだ短めの閑話です。
「俺が思うにだな、桐ヶ谷」
シャーペンをくるくると回しながら、俺は対面に座る黒髪の少年に言う。
「お前の武器はかっこいい。技名もまあ及第点だろう。だけどな、お前には致命的に足りないものがある」
桐ヶ谷和人は神妙な顔をして先を促す。ちなみに手元にあるのは解きかけの二次方程式の基礎的な問題だったりするのだが、そんな本来の目的とも言える高校一年生レベルの宿題は放置してあった。
そんなものはどうでもいい。どうでもいいのだ。
「──口上だ」
「こう、じょう……?」
……わかっていなさそうなので、ルーズリーフに大きく"口上"と書いておく。そうすると、ああ、と合点が言ったのか桐ヶ谷は頷いた。
「成る程。要するに決め台詞ってヤツか」
「その通りだ。お前には決め台詞が欠けている。だから決めるべき場面でもソードスキルの名前を叫ぶくらいしか出来ないんだ。あのな、技名叫んでかっこいいのは初回だけなんだぞ? 毎回叫んでたら微妙だろ?」
「でも月牙天衝って毎回叫んでるじゃん」
「あれはオサレだから許されるんだ。お前のは長すぎる」
えぇー、と桐ヶ谷は口を尖らせる。男がやるとうざったいから止めとけ。
「てか何だよスターバーストストリームって。なげーよ。文字数にして十文字越えるじゃねぇか。せめてルビにしろよ。何より名前が安直すぎるししかも最強技じゃねぇとかどういうことだゴルァ!」
「ステイ! ステイ!」
俺の荒ぶる厨二魂が茅場の安直に過ぎるネーミングセンスと、加えて何故かジ・イクリプスを用いない桐ヶ谷への怒りによって覚醒する。ふざけんなよあのデジタルゴースト、何が
「ともかく、だ。これじゃあまりに格好がつかん。決め台詞的なのを考えろ」
「とんだ無茶ぶりな気がしてきたぞ……」
うーむ、と桐ヶ谷は腕を組んだ。だが決め台詞があるとないではかなり違うのだ。
「例えば『テメーは俺を怒らせた』とか」
「あー、『ここから先は一方通行だァ!』みたいな」
それ悪役だけどな。最近主人公してるみたいだが。
「牙突!」
「お前それヴォーパルストライクしながら言うんじゃねぇぞ」
そっくり、というかパクリ元な気がするから。
お茶請けとして置かれている饅頭をもそもそと二人して頬張りながら、数学のノート上に様々な案を書き殴っていく。
「『未だかつて、我が二刀を見て生き延びた者はいない』……ってのはどうだ」
「そりゃ安直に過ぎんだろ。ここはストレートに『このオレに二刀を抜かせるとはな』で」
「オレってそんなキャラじゃないと思うんだけど」
微妙な顔をする桐ヶ谷に対して、え?と声を洩らした。
「いやだってSAO事件全録とやらには──」
「あれは!違う!」
頑として認めず桐ヶ谷が吠える。確かにあの本は半ば憶測で書かれている節とかあるし、某モヤっとボール頭の男が取材元で何処まで信用していいのかわからないのだが──しかし原作知識と照らし合わせて読んでみたところ、全部が全部ウソっぱちというわけでもないのである。むしろ大体合ってるまである。
特に事件の度に黒の剣士キリトが様々な女にフラグを立てていくところとか。
「いやぁ黒の剣士はかっくいーなぁ! 本当憧れちゃうぜ! 敵を斬った後はフッて剣に息を吹き掛けるんだって? それで黒いコートをばっさばっさはためかせるんだろ? ヒューッ!」
「こ、このクソ野郎……!」
羞恥に声を震わせながら、桐ヶ谷は歯を軋らせ──そして俺に指を突き付けて叫んだ。
「というか、お前も同じようなもんだろ!?
「あれはゲーム内だから恥ずかしくないんですぅー! 黒の剣士くんみたく
ぐぬぬ、と桐ヶ谷が唸る。この少年、未だに厨二病真っ盛りなのである。まあ全く以て俺が言えたことじゃないし男はいつになっても厨二病ではあるのだが──いつでも何処でも上も下も真っ黒、黒い服があると衝動的に買ってしまうのは流石にどうかとは思う。
「そういうお前は服はどうなんだよ……!」
「ん、俺か? 俺はまぁ、うん──」
ジーパンによくわからない英字が印刷されたTシャツという、何処にでもあるような服装が平凡な容姿にこの上なくマッチするのが俺だ。加えて使い古されたジャケットにヤンキースだか何だかの野球帽を装備してしまえば──。
「あら不思議。何処にでもいるアメリカの少年の完成だ」
現実では没個性という言葉を体現したような俺だ。地味すぎず派手すぎない格好をすればたちまち雑踏に紛れてしまうだろう。ドヤ顔でその空気感をアピールすると、桐ヶ谷は呆れたような顔を向けてくる。
「何というか……目立たなさすぎて逆に違和感があるような」
「え? 目立たないのが俺の特徴だろ?」
「あんだけ暴れた奴が何言ってんのよ」
そんな声が台所の方から聞こえてくる。次いで響いてくるのは溜め息である。
見れば、ビニール袋を手にした制服の少女がそこに立っていた。どうやら桐ヶ谷とわぁわぁ騒いでいたお陰で帰ってきたことに気付けなかったらしい。
「あんた達、勉強するんじゃなかったの? というか教える側の新川が邪魔してどーすんの。あと、ただいま」
「おかえり──いや、ちょっと脱線しちゃって」
てへぺろ☆ とポーズを決めてみると、更に盛大に溜め息を吐かれた。解せぬ。
「……まあ勝手になさいな。それよりあんた、今日はどうするつもり?」
「あー、今日は外食しない感じで。というか最近金欠でな」
「あんだけゲームやPCに注ぎ込んだ上に、クラスの連中と馬鹿騒ぎしてたらそりゃ金欠にもなるわよ。少しは考えて使いなさいっての」
じゃあ、と。すっかりウチに馴染んでしまった朝田は告げる。
「夕飯は適当に作っておくから。外に出るなら最低でも八時までには戻ること──いい?」
「了解っす」
返答に頷いた朝田は台所に引っ込んでいった。俺は掛け時計を見上げ、もう五時を回るのかと驚く。そしてさっさと桐ヶ谷の勉強を終わらせるかとテーブルに向き直り──眉をひそめた。
「なんだよ」
「いや……何でもない」
桐ヶ谷は何故か、何とも言えない顔をして座っていた。何とも言えない──しかし、例えるなら『ブラックコーヒーを飲んだと思ったらしこたま角砂糖をぶちこまれてました』とでも言いたげな表情であった。何だよそれ。
「……一応言い訳しとくが、友人だからな」
「いやそれは通用しないって、流石に」
ですよねー。
「というか、むしろその方がタチ悪いだろ。何だよあれ、オレだってアスナに夕飯作って貰いたいわ」
「うるせえテメェは妹の飯でも食ってろ」
睨み合いながら互いに小声で罵倒する。
……だが。確かに、俺としても今の状況に思う所がないわけでもないのだ。
退院して二週間ほど経過し、俺は菊岡とかいう仮想課に所属する役人に用意して貰ったアパート──何処から情報が漏れたのかは知らないが、元の家はマスコミやらで溢れているため戻る気にはなれない──で独り暮らしをしている。
本当に何処から沸いてきたのやら、と溢したくなるが……まあ実の兄に殺されかけた(実際死んだような気もするが)弟、しかもその兄がSAO事件の渦中で殺人ギルドに所属していたとなれば格好の的となるのだろう。VR全盛期の今、そうしたスキャンダルやSAO関連のものはよく売れる記事になる。
──その前に、あのファッキン電子幽霊と繋がる菊岡によって政治的圧力をかけられ、揉み消されるのだろうが。
まぁ、それはともかくとして。
俺は独り暮らしを謳歌していたわけなのだが……うっかり学校でその事を漏らし、そして朝田がいる前で「いやぁ毎日カップ麺暮らしだぜ!」とか言っちゃったのが原因なのかもしれない。
何でも朝田は数年間独り暮らしをしてきた経験からか、自炊がいかに健康的で節約になるのかに関して謎の拘りがあるらしく──その後ゲーム内まで追っかけられた挙げ句に説教され、何やかんやでもうこんな状態になってしまっているのだ。
「外堀が埋められるどころか、新川自身埋められてないか……?」
「言うな。最近ちょっとやべぇなって感じてるから」
「それでいて未だに名字呼びとかちょっともう」
そっと目を逸らした。しゃーないだろ、もう今更って感じしかしないんだから。
……何故だろうか。このままなあなあで済ませて結局始まりも終わりもせず、ずるずると関係が続いていく未来が見えた気がする。
「……ま、まあ、何というか、頑張れよ?」
「おう……」
肩を落として応じる。そもそも目の前の妖怪剣術狂いのように、良家のお嬢ちゃんをいい感じに口説いて、しかも喧嘩すらなく円満なのがおかしいのだ。いっそ気持ち悪いくらいに何時でも何処でもハッピーセットである。なめとんのかこの野郎。
ちなみに俺と朝田の場合、すぐ熱くなって口論になる事など日常茶飯事だ。しかし熱くなりはするが冷めやすくもあり、後で冷静に自分の言動を見直した結果平謝りすることになるのが大半だ。
というか、大体後から考えたらかなりしょーもない事が発端となっているケースばかりだったりする。
「とりあえず、勉強するか……」
「おう……」
暗くなった雰囲気でアホな話を続ける気にもなれず、粛々と本来の用事である桐ヶ谷の数学に移る。カリカリとシャーペンの音が響く中、俺も自分のノルマをこなすべく教科書傍用問題集を開き──。
「何でッ! 因数分解がッ! 出来ないんだよッ!」
「しょーがないだろ、俺は中二から高一まで勉強なんてしてないんだって!」
悲鳴にも似た声を上げる桐ヶ谷の襟を掴んでがっくんがっくん揺さぶる。まさかこのレベルとは思わなかった。これでは二次方程式の判別式など覚えているはずがあるまい。
結局俺は桐ヶ谷に八時までみっちり因数分解や二次関数の基礎等を叩き込み、二人揃って朝田の作った夕飯を食うことになったのだった。
「やーっと帰ったか、あいつ……」
溜め息混じりに散らかった机の上を片付ける。結局あの後VRでないハードのゲームを幾つか遊び、キリトがアスナからのメールに気付いたのが午後九時半のこと。顔を青くして帰っていく様は見物ではあったが、片付けをするのが俺だと気付くと渋面にならざるを得ない。
……
「OSSをもっと増やしたいんだけどなぁ」
GGOでは一躍有名人になった──何も書き込んでないのに勝手に攻略サイトを炎上させてしまった俺は現在、ALOにデータをコンバートしてプレイしている。朝田によると、更に二つ名が増えて二挺拳銃がGGO内で流行りだしているとのことだ。何でも増えすぎた二つ名がネタ化して某大百科にページが作られているレベルらしく。
二つ名が増え過ぎたが故に付けられた名前こそ──"
……うん、まるで意味がわからなかった。それ自体も二つ名だろーが。
ちなみに。そもそも俺に赤要素なくね、と聞くと、どうやら二挺拳銃を乱射した際の赤いダメージエフェクトが由来らしい。どう考えても後付けだと思う。語感だけでつけただろテメェ。
とは言え、そんな二つ名をスレ民が使う筈もない。結局俺の呼称は『銀髪のやべーやつ』『銀色のゴキブリ』で通っているそうだ。それはそれで嫌だが……まぁ、他よりはマシだ。自他共に認める厨二病患者の俺だが、流石にわけのわからない二つ名で呼ばれることは許容できない。というか悶絶して死ねる。
「てか何でALOは銃がねぇんだよ……こちとらAGI極振りなせいで直剣なんざまともに振れねえっての」
ぶつくさ呟きつつ片付けを続ける。そして三つ転がっていたリモコンを拾い上げたところで、ふと思い当たった。
──あいつ、何処行った?
ひょっとして気付かない間に帰ったのだろうか。だとしたら本当に猫みたいなやつだな、と考えて立ち上がり──。
「あ、ごめん。一人で片付けてたんだ」
「別にこれくらいならッとぶぇっふふぉい」
喋ってる途中で噎せたついでに舌を噛んで蹲りかけ、慌てて体勢を維持する。痛い。ちょー痛い。これは恐らく治るのに暫くかかるに違いない。だがそれ以上に、目の前の少女が早急に解決すべき問題だった。
「ちょっと、何してんのよ。大丈夫? 」
「いや大丈夫だから。超大丈夫だから。それよりさ、お前……」
濡羽色、というのが比喩でもなく的確な表現となってしまっている湿った黒髪。僅かに上気した頬。普段つけている伊達眼鏡は外してあるからか、その比較的整った顔立ちからは初めて見るかのような印象を受ける。
……間違えようもない。まさしく彼女は風呂上がりなのだろう。また、鼻腔を擽るシャンプーの香りは普段俺が用いているものであり──その事実を認識した瞬間、何故か背筋をぞくりとしたものが這い上がる。だがそれは決して嫌悪やそういった類のものではない。
「……ん? お風呂借りてたけど、いけなかった?」
「いや、そりゃあ別にいい……よかねぇけど、その服はどうしたんだよ」
今の朝田は非常にラフな格好だった。具体的に言えば動きやすいTシャツに短パンといったものである。
しかしラフということは非常に防御性能が低いということであり──その華奢でありながら丸みを帯びた肢体が見てとれる様に、朝田詩乃という少女が十分に過ぎるほど"女"である事実を、強制的に意識させられてしまう。
……不味い。これは何というか、非常に不味い。
「あぁ、これね。今日みたいに遅くなる時もあるかと思って、前々から洗面所に置いてたのよ。気付かなかったの?」
「……全く以て欠片も気付かなかったが、それよりさ……まさか泊まる気なのか、お前」
「何よ、別にいいじゃない。文句ある?」
少しむくれた様子で朝田は俺をぎろりと睨み上げる。恐らくそこに俺の拒否権はなく、猫の気紛れに従う他にない。
「布団の予備、押し入れにあったでしょ? 敷くの手伝いなさいよ」
「……イエス、マム」
半ば呻きに近い形で応じる。そしてお前ひょっとして下着とかも置いてんじゃねぇだろうな、と言いかけて口を閉じた。これは恐らく賢明な判断だったのだろう。それがイエスと返されようがノーと返されようが、彼女が撤去するはずもない。俺の心労が増えるだけだ。
──外堀を埋められるどころか、こりゃ古墳にされてんなぁ恭二!
「……言ってろ、馬鹿野郎」
何処からか聞き覚えのある男の声がした気がして、俺は静かに苦笑するのだった。
第一章のテーマ曲は、言わずと知れた「カルマ」だったり。バンドリにあるあの曲です。
そして驚きの新事実! アニメ化決定したアリシゼーションでは、銃が使えない!\デデドン/
というわけで新章からは二挺拳銃ではなくなるという。新たなシュピーゲルの戦闘スタイルは──"斬刑に処す"。