なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。 作:あぽくりふ
※超展開警報
端的に言おう。どうやらシュピーゲルは外れくじを引かされたらしい。誤算も誤算、大誤算だとシュピーゲルは己の想定の甘さを呪う。
キリトの強さは想定範囲内。本来狙撃不可能である筈のシノンが回復したのも、まあ誤差の範囲と言えるだろう。そこまでは良い。驚かされはしたが修正可能......ここまで来ればキリトに倒されるか、或いはキリトとシノンの連携によって倒されるかの違いしかない。ひょっとすると劇中の
──だが
「............
対
経験に裏打ちされた直感、そして仮想世界に浸りきったことによる常人を遥かに越えた反応速度。加えて黒鉄宮にてアインクラッド崩壊に至るまで、何千何万と振るい続けた剣技が加われば──それは容易く未来予測を崩し、生半可な業など鎧袖一触とする必殺、或いは確殺へと到達する。
「冗談じゃねぇ──手ぇ抜いてやがったな」
そう吐き捨てる。
異常だ。あまりにも異常に過ぎる。シュピーゲルの知っている限りでは、作中でキリトに伯仲する程の実力──いや、越える実力を持つ存在などヒースクリフを含め数える程もいないはず。あれはそういう
だからこそ、シュピーゲルは強烈な違和感を抱く。この男は何かが違う。決定的に、"歯車"から逸脱しているような──。
「っ!」
そんな思考を抱いた瞬間、意識の間隙を突いて死神が接近する。振るわれるは本来の
滑るようにして迫るそれを寸前で見切り、右手の拳銃に付属した白剣を用いて捌く。金属同士が擦れあい軋む音に眉を潜めた。
「
目的がまるで見えない──原作における死銃の立ち位置、単なる個人の復讐とも違う何かで動いていることは確かだが、わからない。そもそも三人もの死銃を投入すること自体がおかしいのだ。
キリトを確実に殺すためか。そう考えるも即座に破棄する。明らかに矛盾しているのだ。ゲームの中で殺すのと同時に現実の肉体も殺す、そこまでなら個人の復讐としてデスゲームを再現したのだろうと納得できる。
『だが、そこに"三人"という条件......そして手を抜いていた事実が加わるとおかしくなる』
三人も使い、確実に殺そうとする合理性を持つならばそもそも現実のキリトを殺せば終わる。だがわざわざ奴等は手間をかけてキリトを誘い出し、この舞台を作り上げたのだ。その矛盾した行動は決して両立しない。
『つまり、彼等の目的は』
「キリトじゃない。少なくとも、キリトの殺害が主な目的というわけじゃなかったのか......!」
第三勢力の出現。自身の知り得ない、原作の枠外にある敵の存在を明確に意識したシュピーゲルは僅かに動揺する。だがすぐにその動揺も収まり、呼気を吐き出し落ち着ける。
「"
何処から運命が狂ったのかはわからないが、取り合えずこの男を殺せば済むだけの話だ。
瞬時に構築される予測演算のパラダイム。数十もの予想から取捨選択、ゼロコンマ数秒後の
「
「
「..................」
チート──有り得る筈のないその可能性を想起させるほどの異常性がそこにある。
純粋な技術の問題などではない。本来の
「あの茅場昌彦が構築したセキュリティを突破できた奴はいない。......どうにも腑に落ちないな、そりゃ何だ?」
「......答える義理が、あると思うか?」
「成る程、確かにそうだ」
片手と口を利用することで器用に
だが──。
「その
言うは易く、行うは難し。
計算外を含めて再演算するなど、はったりもいいところだ。そこまで都合の良い能力ではないことはシュピーゲルも百は承知、しかしそうでもしなければ勝つことは不可能だと分かっていた。
「......無駄だ。お前では、勝てない」
「うるせぇ殺すぞ」
ストレートな罵倒がシュピーゲルの口をついてでる。それが無意識からくる焦りによるものなのか──それは本人すら自覚する所にない。
「ちィ──ッ」
吐き気すらするほどに脳を酷使し、色すらあやふやな世界で演算が未来を掌握する。だが次の瞬間、その確定した未来はエストックにより切り裂かれる。
防御にやり骨が軋む音すら置き去りにして前へ。元よりシュピーゲルという
なればこそ、此処に全てを置いて逝け。絶望も希望も、怯懦も蛮勇も、憎悪も愛情も何もかも棄て去って────
「っ、ァ────」
瞳から光が消えた。
其はただ演算し、未来を掌握するべく突き進む悪鬼。刹那を永遠へと引き延ばし、何もかもを置き去りにして
「......ああ、そうか。"あの人"の、言っていた意味を、理解した」
『......!?』
だが、刃は容易く死神に受け止められる。常軌を逸した膂力は信じられないことに、僅か二本の指で刃を止めることに成功していた。
「認めよう。その刃は、その瞳は、その
『離れろッ!』
「......っ、く──!?」
その言葉に咄嗟に正気を取り戻し、シュピーゲルは側頭部へと蹴りを放つ。当然のようにそれは防御されるが、その反動を利用してどうにか距離を取る。
「......何だ、今のは」
寒気が背筋を這い上る。一瞬だが、彼は確実に意識が飛んでいた。いや、より正確に言うならば"意識はあるが制御出来ていなかった"。
記憶はある。何を成そうとしていたのかもわかる。だが、体が勝手に動いていたのだ。そしてその事に違和感すら抱かなかった。
それはまるで、意識が肉体の伝達速度を越えたかのような──。
『......そうか。そう言うことか』
「何一人で納得してんだ、よッ!」
システム的に有り得ざる速度で迫る死銃を見据え、【
「本格的に詰んだか......?」
『いや、まだ手はある。......でも、これは非常に分の悪い"賭け"だ。向こうが使えるのに此方が使えないなんて道理はない──だが正直に言うと、これは恐らく君には制御できない。
「つべこべ言わず結論だけ言ってくれねぇか?」
溜め息と共に、声は告げた。
『向こうがチーターなら、こっちも同じ手を打ってしまえばいい。......結果は、どう転ぶかは保証しないけど』
「......マジかぁ。垢BANとか食らったら嫌なんですけど」
『その点は安心してくれていい。これは公式だよ、試験体の試作体のβ版のプロトタイプの初期型みたいなシステムだけど、ね』
「それ絶対ヤバいやつじゃないか......?」
その言葉に、声は同意した。
『だからどうなるかわからない、って言ってるんだ。【
「お前、何か知ってるな?」
『ああ、知ってるよ。......あれの名前もね』
うっすらとだが血のような紅いエフェクトに身を包み、死銃は突貫してくる。GGOでは見たこともないそのエフェクトが原因なのだろうか。
そんなシュピーゲルの思考を肯定するかのように、彼は苦々しげに呟いた。
『アレの名前は"
「シンイ? ......万華鏡写輪眼か何かか?」
『それは神威だ。だがそれに比肩するほど厄介な代物でもある。......おかしい。何故死銃がそれを使える?』
明らかに物語が狂っている。何処かで決定的な歯車が外れているのだ。死銃がこんなにも悪辣かつ容赦のない殺人鬼と化しているのにも、何か理由が──。
「戦場で、考え事とは余裕だな?」
「な」
回避は不可能。心意を用いた全力の身体強化により既に二十メートル近い距離は無と帰した。骸骨の奥の紅い瞳と視線が交錯し、シュピーゲルは眼を見開いた。
『"耐える"ことを"想像"するんだ、恭二ッ──!』
瞬間。
腹に突き刺さる衝撃を感じると同時に、シュピーゲルは呼吸すらままならない状態で空へと打ち上げられる。ただ
「終わりだ。ここで死ね、シュピーゲル」
「......冗談。まだこれからさ」
むしろ此処からが本番だ、と凄絶な笑みを浮かべる。タネは割れた。模倣こそシュピーゲルの真骨頂、目の前に手本が存在するのならその悉くを奪い尽くしてみせる。
「
「......戯れ言を。わかった所で、貴様には──」
「要は妄想想像、思い込みが力になるってんだろ。──真性の厨二舐めんなよ?」
『......!? おい馬鹿やめろ、君の場合は本気で洒落にならないっ......!?』
仮面を被ることには長けている。自己暗示などお手の物だ。だからこそ、ごく自然にそれは口をついて出た。
──其は加速する魂
「貴様には......何だって?」
「............ッ!?」
──我は加速する魂
『ああ畜生絶対停まるなよ、恭二! ......くそ、こんな
「向こうが正気じゃないんだ、こっちも同じことをやるしかないだろう」
『......呑み込まれないようになるべく僕が制御する。演算に
「わかってるさ。......こいつに出来るんだ、
全てが高次元へと至った世界で、
だが、心意とやらが与える万能感はそれ以上のもの。詠唱する度に体が軽くなる。要らないコトを忘れていく。全部忘れて、忘れて、
「何故、お前が
「さぁな。
"もう一人"による提唱で強制的に発動させたプロトタイプシステム──"心意システム"。それを何故ザザが使っていたのか、どうしてこんなものがGGOに搭載されているのか、そしてどうやって"もう一人"がそれを知ったのか。何もかもがわからない事だらけだが、その全てをかなぐり捨ててシュピーゲルは目の前の敵の打倒へと集中する。
......長くは持たない。ただでさえ狂ったように演算を繰り返していたのだ、この状態を維持できるとしても三十秒が精々だと理解していた。
「......危険などという領域ではない。お前の不安定さは、黒の剣士を越える
「そりゃ随分と高評価をどうも。ついでに死ね」
加速した意識、加速したアバターによる超高速の剣撃による応酬。一瞬にして十数の刃が交わり合う様は常識を遥かに越えている。溢れる全能感、まるで空を飛ぶかのような疾走感──加速は未だ止まらない。
「は──はは」
──加速するカソクするカソクスル
「はははははははははは」
笑う。奥底から溢れる力に感覚が呑まれていく。
死神が握る刺突剣にはどす黒い赤の炎が舐めるように纏わりつき、シュピーゲルが振るう銃剣には銀の混じる紫電が蛇の如く這っている。どちらもそれは、茅場昌彦がひた隠しにしていたとあるシステムによる産物。かの怪物的天才ですら完成させることの出来なかった不完全なシステムの産物──。
── 架ソクすル過息する化そくスル
「......がァ」
『不味い......制御出来ていない......!』
視界が歪む。意識が飛ぶ。しかし加速は止まらず、強制的に詠唱が溢れ出す。
端的に言って、それは暴走だった。
心意システムとは人の
だがそれは善意──正の心意によってのみ目覚めるものでは決してない。ベクトルがどちらを向いていようが関係なく、常識を越えた意志によってそれは発動する。そして発動したが最後あらゆる優先順位を超えてプログラムを
つまり、それは人によっては押し止めていた心の栓を外されるのと同じであり。
「──『私ハ加塞スル魂』」
暴走した
「こ、れは」
剣撃は更に速度を増し、サーバーの処理速度すら越えるのか、僅かにラグすら見せながらザザを吹き飛ばす。
そして、吹き飛ばされたザザを
「『翠光を零し/追い縋って/奔り続ける魂』」
ザザは同じように心意による殺意の衣で防御を図るも、加速する剣は容易く貫通する。だが止まらない。止まることを最早知らない。意識は加速する悦楽へと呑まれ、自身そのものを魔弾として死銃へ食らいつく。
「『死を孕みて/尚疾く/奔り続ける魂 』 」
詠唱は、溢れ出す心意による暴虐は既に音速にすら到達しかけている。回避は不可能、心意の防壁すら貫いてHPは削られていく。
「『夢を失い/空と也て尚/奔り続ける魂』」
「............そうか。オレは敗けるのか」
腕を、脚を、耳を、眼を、喉を、肺を、心臓を。
全てを銀閃により切り裂かれ、十七に分割されながら、男の口から言葉が零れる。
「強くなったな。あぁ────」
「お前の勝ちだ、
「『この身は地獄路を疾走す ....................................え?」
その言葉に、砕けていた思考が停止し。
新川恭二の意識は白光に呑まれた。
??「それ童の詠唱ぅぅぅ──!?」
はい、というわけで一話分(大体6000字)にコンパクトにカットされた超展開ラストバトルでした。正直設定の羅列にしか見えなくて非常に心苦しいかつ申し訳ない気分になったのですが、なまじ引き延ばしても無駄な話が長引くだけなので早々に切り上げることにした次第です。ついでに詠唱は某最深部を目指す系の作品からパク......リスペクトしました。魔弾繋がりだからね、是非もないネ!
そんなこんなであと二話くらいでこの第一部は完結(予定)です。その後後日談やら閑話やら挟んで第二部に突入する予定です。もちっとだけ続くんじゃよ。