なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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最初に言っておきます。
申し訳ありませんが、今年の更新はかなり遅々としたものになります。下手したらこれが今年で最後かもしれません。と言うのも、作者実は今年で受験生なのです。勉強せにゃならんのです。辛い。ほんと辛い。

というわけで、全く話が進まない十九話です。




愚者の鏡像

 

 

 

「──一つ、昔話をしようか」

 

 

 

 

 昔々、ある所に。一人の少年がいました。

 少年は一人でした。いつも一人でした。誰も少年に近寄らない。誰も少年に触れようとしない。

それには理由がありました。少年は、異常だったのです。

 

「それは、精神的な異常だった。いや、より正確に言うならば──魂、霊魂に関わる異常。そう、輪廻転生と言ったら良いのかもしれないね」

 

 少年には、前世の記憶がありました。

 ただ、知識としての記憶だけならばよかったかもしれません。ですが、少年は人格を──知性までも、引き継いでしまっていたのです。

 

「......それがよくあるネット小説のようなチート転生だったなら、どれだけ幸せだっただろうに」

 

 ですが、そうはいきませんでした。

 少年は、全てを知っていました。

 あらゆることに既視感を伴いました。泣くこともほとんどなく育ち、何の感慨もなく離乳食を卒業し、そして赤子らしからぬその動きから............彼は疎まれました。

 

「本来なら、それは悲しむべきことだ。嘆くべきことだ。誰からも愛されないなんてことは、普通の感性なら泣き叫んでもおかしくない」

 

 ところが、彼はただ、こう考えたのです。

──"失敗した"、と。

 

 失敗。親から疎まれることをそう受け取り、彼は学ぶことにしました。どうすれば愛されるか。どうすれば受け入れてくれるか。親の愛を──より正確を期すならば、親の援助(・・・・)を手に入れるべく、彼は学習を始めたのです。

 冷静に、冷徹に、確実に。まるで赤子とは似ても似つかない、何処までも合理的な思考で。

 

「明らかに、異常だった。異端だった。何かが何処かで、間違いなく狂っていた」

 

 死にたくない、という一心での学習行動。

 彼はそれ自体が致命的に間違っていることを知りませんでした。間違っていると認識することすらできませんでした。それが全ての原因だということがわからなかったのです。

 

 彼には、全てが灰色に見えました。

 何もかもがつまらない。

 何もかもに既視感が伴う。

 ただ機械的に、作業的に生きていく日常。

 

「人間が全て人形に見えた。のっぺりした顔で、かろうじて区別がつくのは親と兄だけ。他は誰一人として判別できない。例えるなら、それは無数にいる蟻の顔をいちいち区別できないようなもの」

 

 彼は早々に壊れかけました。自分以外に、誰一人としてこの世界に人間はいないことに気付いて絶望しました。いるのはニンゲンだけ。ヒトガタのニンゲンが灰色のセカイで無数に群れて、彼以外に色のある人間はいなかったのです。

 生きる目的もありませんでした。

 セカイに居場所はありませんでした。

 理解してくれる人も、理解できるヒトもいませんでした。

 

 彼は、狂気に蝕まれながらも幼少期を過ごしました。

 

──しかし。ある日、唐突に彼は笑顔を浮かべるようになったのです。今まで無表情で生きてきたことが、嘘のように。

 

「......それは、一種の防衛機構だった。少年の精神を維持するための防衛システム。このままでは壊れてしまうと理解した少年は──演じることに、したんだ」

 

 彼の知識の中にある、とある男。何処かのライトノベルのキャラクター。

 そんな、主人公の友人の一人であるキャラクターを──彼は模倣(トレース)することにしたのです。

 

「耐えられないのならば、自分も人形になってしまえばいい。何も考えず、何も受け入れず、少年は愚かな道化を必死に演じることにした」

 

 それはすなわち、役割演技(ロールプレイ)でした。

 自分でない誰かの仮面を被り、それが自分であると必死に思い込もうとした哀れで愚かな道化。

 初めは演技と見抜かれることも多かったそれも、周囲の反応から"最適解"を学習し──その拙い演技は年を重ねる毎に違和感を無くしていきました。そうして、ついに小学校を卒業する頃には、彼の分厚い仮面の奥を見抜くことが出来るヒトは居なくなったのです。

 

「時折仮面の綻びから本来の少年が覗くものの、その程度のもの。既にロールプレイは定着し、少年自身もその仮面が自分そのものだと、かつての自分を忘れるまでに至った」

 

 平和で安穏とした、欺瞞と錯覚に満ちた日常。何処か腐臭のする、そんな日々を中学で過ごしていた彼でしたが──ところが、唐突にそれは崩壊しました。

 

「............ソードアート・オンライン。その名を聞いた瞬間、少年は理解してしまったんだ」

 

 いわゆるVR技術とやらがあるのは知っていました。ですが、それは彼の前世でも研究されていたものです。だからこそ、そこまで違和感を抱くことはありませんでした。

 そして大々的に報道されるソードアート・オンラインのCMと茅場昌彦の名前を聞いた時に、漸く彼は気付いたのです。

 

 

──なんだ。俺がおかしいんじゃなくて、最初から全部ニセモノだったんじゃないか。

 

 

「あんまりな結末だった。どう足掻いても、本質的にこのセカイに居場所はない。何故なら"ソードアート・オンライン"という物語はそれだけで完結してしまっているから。主人公もヒロインも、脇役も悪役も──名もないモブキャラクターまでもが定められている。真に定められた場所がないのは、少年だけだったんだ」

 

 彼だけが異物でした。何の因果かこんなセカイに放り込まれ、苦悩しながらも生きてきたというのに──全てが最初から無駄だったのです。生まれ落ちたその瞬間から異物であり、有り得ざる人物。最初から踏み外しているのなら、元のレールに戻ることなどできません。

 彼の行動も、思考も、人生も......その"死"にすら割り振られた役割も意味もなく、無価値だと悟ったのです。

 

──何処までも、孤独。何時までも、虚構。

 

存在意義(アイデンティティー)の崩壊は、少年に大きな衝撃をもたらした。周囲が真の意味で物語(運命)に踊らされる人形なのだと気付いたその瞬間から、灰色のセカイは本当に無価値となった。

............だけどね、少年は半ば狂いながらも気付いたんだ」

 

 

「『ならば。物語(原作)に関わることで、無理矢理にでも自分の役割(ロール)を創ればいい』、とね」

 

 これは、自らに価値を見出だせず、世界に求めてしまった愚者(フール)の昔話。

 他者に映る鏡像( Spiegelbild )でしか自己を証明できない、哀れな道化の物語だ。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「──ま、よくわからんが。死にたくないなら捕まってろよ、シノン」

「え、あ............うん」

 

うちのラムレイ二号(仮名)は狂暴だ。隙あらば主を振るい落とそうとしてくる──いや意図的かはともかく、そうしようとしているとしか思えない程に揺れるのだ。本当、これ作ったやつ乗せる気さらさらねぇだろ。乗馬経験者でもこれはキツい。俺でもかなり練習しなければ乗りこなすことは出来なかった。

............ごめんなさい嘘です。普通に騎乗(ライディング)スキルないと乗れませんでした。

 

そう誰とは言わず謝罪混じりに言い訳していると、ふと視界の端で発砲炎が瞬いた。

 

「ひゃ!?」

「早速撃ってきたか、あんにゃろ」

 

金属馬に拳銃弾が命中し、跳弾の甲高い音にシノンが身を竦ませる。数十メートル先で嗤う赤い目を睨み返すと、俺は小さく舌打ちした。撃ち返したいのはやまやまだが、さすがにお荷物(シノン)を抱えたままでは無理だ。

 

「............(重い)

「今なんか言った?」

「なんでもないですはい」

 

落としたらどうなるんだろう、とか考えたからだろうか。ぎろりと睨み上げてくる空色の瞳から逃れるように視線を水平に固定する。しょうがないだろ、俺筋力値(STR)上げてねーんだよ!重いんだよ!マジで!

 

「............ふん。ばーか」

 

そう小さく罵倒し、某お荷物さんが猫のようにぐりぐりと額を押し付けてくる。その感触にくすぐったさを覚えながら、俺は必死にラムレイ二号の手綱を制御してアスファルトの上に散らばる大小様々な障害物を回避していく。

 

............というか。よく考えなくてもこの状況って色々と不味いのではなかろうか。

馬上という不安定な場所であるため仕方なくはあるのだが、シノンが真正面から俺に抱きついているに近いこの構図は不味い。これの相手が男ならネタになるし無名のプレイヤーならまだいいのだが、シノンはこの見た目とプレイヤースキルの高さから恐ろしく人気が高い。ただでさえネタにされて精神的にダメージ食らっているというのに、これ以上スレ民達を煽るような真似は──────うん、もう手遅れだな。

 

「これも全て死銃(・・)の陰謀............!」

 

各所からヘイトを集めているであろう原因を全て骸骨野郎に押し付け、廃墟の配置から現在位置を割り出しながら廃墟群を駆け抜ける。キリトが乗っているバギーは百メートルほど先を疾駆しており、このままならそこまでかからずに砂漠地帯へと到達するに違いない。

そうすれば他に生き残っているプレイヤーも巻き込んで乱戦となり、死銃の魔の手から一旦は逃れられるだろう。実際キリトがそう考えているのかはともかく、俺はそう考えて手綱を繰り─────

 

「............ちょっと。あんた、今"死銃"って言ったわよね?」

「........................あ、やべ」

『馬鹿じゃないの?』

 

口軽すぎるだろ、俺。

 

普段から独り言を呟いてしまう癖が仇となり、冷や汗が背を伝う。呆れたような声の主が溜め息を吐き、シノンは詰問するかのようにこちらを再び見上げる。

............さて、どう誤魔化したものか。

 

「あー、うん。説明したほうがいいか? できれば後がいいんだが────」

「そうじゃ、ないわよ」

 

ぎり、と。背後に回された手の爪が立てられ、俺は驚いて目線を下ろす。

そこにあったのは、怒気の籠った瞳で。

 

「別にあんたがどうやってその事を知ったとか、なんであいつが死銃だって気付いたのかとか──そんな事はどうでもいいのよ」

「へ?」

 

吐き出されたのは、弾劾の言葉だった。

 

「あんた────死銃だってわかった上で、あんな真似したの?」

「............あー、まぁ............うん」

 

あんな真似。その言葉が指す意味はわかる。そしてシノンがなんでキレてるのかも、まぁなんとなくわかった。

 

「もう二度と、あんな事しないで。............あんたに死なれると、夢見が悪いのよ」

 

そう押し殺したような声で続けると、シノンは再び猫のように額を擦りつける。その様を見下ろしながら、俺は困ったようにへらりと笑う。

 

 

──この世界には、配役(キャスト)がある。

例えばキリトは主人公。そしてシノンの役目は花形(ヒロイン)で、俺は本来ただの有象無象(モブキャラ)。ならば、どちらが優先されるべきかは自明の理だろう。切り捨てられるべきは、俺に決まっている。

 

『........................』

 

押し潰し、圧縮し、踏みにじった感情から、目を逸らしながら。

そう、胸中で呟くのだった。

 









うーん、なんか書きにくい。スランプかしら。ひょっとしたら後々修正するかもしれません。

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