なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。 作:あぽくりふ
放たれた二発目の弾丸。それが寸分違わず
直後、滅茶苦茶な体勢から放たれた返礼の弾丸が狙撃銃側面にぶち込まれ、機関部を破壊する。あの体勢から撃ってこの精度とは──やはり色々人間やめてるとしか思えない。
「そうこなくちゃ、な」
元よりあの程度で倒せるとは欠片も思っていない。今のはほんの挨拶程度の応酬。だがあの怪物染みた反射速度は、ともすればキリトにすら匹敵するのではなかろうか。
膨らむ期待と戦闘意欲──それを笑みとして表しながら、俺は円形のスタジアムから跳んだ。色んなものを代償にした
「......ッ」
先手必勝、とばかりにFALによる連射を叩き込む。だが光学迷彩を起動しているため"どちらも"視認不可──故に俺は土埃と響く音から割り出して攻撃する他にない。
──だが、それは完全に悪手だった。
「んな──ッ!?」
何もない筈の空間。そこから覗いた銃口が火を吹き、まるで此方の位置がわかっているかのように正確無比な弾丸が空気を裂いて飛翔する。俺は眼を剥きながらサイドステップでそれを寸でのところで回避。唖然としながら前方にいるであろう敵を睨む。
......おかしい。今のは明らかに此方が"見えている"攻撃だった。だが光学迷彩は問題なく起動している。ならばなぜ悟られた?
「チィッ──」
舌打ちしながら再び引き金を引く。だが再びカウンターの如く弾丸が此方を付け狙い、やむなく攻撃を中断して回避に移る。
だが、今のでわかった。
「成る程、悟られた──じゃなくて、単に反応速度がダンチなだけか」
要するにキリトと全く同じタイプだ。人間としての限界ギリギリの反射速度で"後の先"を取る、技術も経験もなく才能だけのカウンター。単純故に最悪──今のように半端な攻撃であれば回避された挙げ句、位置を割り出されて攻撃を叩き込まれるハメになるということだ。
面倒な、と呻きながらも俺は絶え間無く攻撃を続ける。このシュピーゲルというアバターの強みが速射性能とアバター自体の移動速度である以上、攻撃し続ける他に手はない。
──普通ならば一旦引く、という手もあるだろう。だがここで死銃を逃すという手はない。そしてなにより、
「......さっさと下がれよ馬鹿野郎ッ」
「ちょ、えっ」
二転三転する状況に着いていけず、目を白黒させているシノンに向けて怒鳴る。それで位置が割り出さて飛来する弾丸をステップ回避するまでがワンセットだ。
「スタンも解けただろうが、すっこんでろ」
「あ、あんた──」
僅かに息を飲むと、シノンがようやく再起動して動き始める。隙だらけだが、死銃にシノンを攻撃する暇はない。そんな暇は与えない。
ちらり、と。死銃の視線がシノンに向かったのを察知し、俺はすかさず引き金を引く。
「おいおい、妬いちゃうだろうが。テメェは俺だけ見ときゃいいんだよ──ってなぁ!」
廃墟の壁も利用し、高速の三次元機動をしながら銃口だけは死銃に向ける。体がぶれようが重心が移動しようが、常に吐き出される弾丸は死銃へと放たれる。たが、それでも避けられるというのだから笑えない。
──というか早く逃げてくれませんかねシノンさん。割とそろそろ限界なんだが。
「くッ──」
弾丸が上腕を掠め、照準が狂うのを知覚して顔を歪める。今まで規格外のAGIにものを言わせて回避を間に合わせていたが、やはり"当ててきた"。此方の速度も込みしてぶっぱなしてくるのを文字通り肌で感じ、これはヤバイな、と他人事のように口の中で呟く。
「......まだ、無理か」
『"読み込み"が足りないよ。それに、姿が見えないせいで余計に時間がかかる』
役立たずめ。
自分のことながら、不便なものだと舌打ちする。ピトフーイ戦でも"視える"までかなりかかった。やはり即席で使えるようなものではない。
『けど、このままじゃ【超反応】には対抗できない。退くべきだ』
「うっさい黙れシャラップ。此処まできて退けるかよ」
ここで見失ったらどうしてくれる。幻聴は大人しく引っ込んでろ。
『............』
やはり主導権はこちらにあるのか、すぐに静かになる。慣れたものだが、これも端から見たらただの精神疾患なのだろうな、とも思う。正直、これがただの精神的なアレなのか。もしくは本当にありえることなのか、俺にもまだわからない。
だがこれが所謂二重人格に近しいものだと仮定して──果たしてどちらが"新川恭二"なのだろうか。
「......ま、今考えることじゃねぇな」
最優先が死銃との戦いなのは自明の理。今までの敵とは格が違う。気を緩めた瞬間に喰われるだろうことは明白だ。
「さて。んじゃま、場所を移すかね」
残弾を確認しつつ、側面へと回るようにして地を駆ける。戦闘音を聞き付けたプレイヤーに横槍を入れられてはたまらない。
──だがそんな俺の呟きが聞こえたのだろうか。次の瞬間、死銃はとんでもない行動を取った。
「............はひ?」
透明人間が懐から取り出すのは、銀色の缶のような見た目の物体。ころころと転がるそれは見事に俺と奴との間に転がるが早いか、凄まじい勢いで煙を吐き出し始める。そう、すなわち──
「
あまりにも予想外。完全に想定外。あんまりにもあんまりなその行動に一瞬思考を停止させた俺は、さらに起きた次の
「え、ちょ、おま────!?」
さらに投擲された球状物体を視認してようやく状況に気付き、死ぬ気で逃走を始めた。
──3。
投擲された球状物体、つまり
──2。
嘲笑うかのような赤いランプの点滅。それに頬を引きつらせ、必死に足を動かし砕けたコンクリートを踏んで蹴る。
──1。
ヤバイあかん間に合うか。というかなんでそんなもんいきなり投げてんだよあの野郎絶対許さねえ。
0。
「くぁせdrftgyふじこlp─────!?」
自分でもなに言ってんのかさっぱりわからないまま爆風を背中に食らい、そのまま頭から地面に突っ込みかける。ギリギリで受け身をとったものの、視界が揺れて吐き気がするのはどうにかならないものか。
「......あんの野郎ぉ、」
口の中に入った埃とか砂とかを吐き出し、ぎりぎりと歯軋りしつつ拳を握る。くそったれめ、ふざけんじゃねぇぞ死銃。
「逃げやがった─────!!!!!」
白煙手榴弾による煙幕と、爆発によって舞い上がった埃。もはや人の気配のしないその向こうを見詰めて、俺は地団駄を踏むのだった。
※※※※※※※※
「っ」
轟き渡る爆発音。先程までいた場所から響いたその音に、私は思わず振り向いた。
「死銃の仕業......なのかな」
「どうでしょうね。あのバカがそう簡単にやられる筈はない......と思うけど」
どうしても不安になるのは抑えられない。相手はあの骸骨仮面のプレイヤー、死銃なのだ。目の前でペイルライダーが苦悶の表情で死んでいった──そう、連鎖したかのように現実の死を迎えたのを見た身としては、死銃と相対することにすら恐怖を覚えてしまう。
もし。そう、もし彼が死銃との戦いで敗北し、あの因縁の銃によって心臓を貫かれたなら。
「っ......」
思わず、キリトの肩を借りている右手に力が入る。想像すらしたくない。だが、そんな相手とたった一人で戦っているのだ。
そんな私の葛藤を悟ったのか、キリトは囁くようにして言った。
「......助けに行きたいのはわかる。だけど、ろくに動けない今の状態じゃ──」
「わかってる。足引っ張るだけって言いたいんでしょ」
そうだ、今の私では邪魔にしかならない。ヘカートの引き金を引くことすらできなくなった私には、何の価値もない。ましてやただの拳銃を目の前にして、一歩も動けなかったようでは。
「............っ」
悔しかった。自分が求めていた"強さ"なんかには到底届いていないという事実が。過去のトラウマに蹴りをつけられていないという事実が。彼に助けられたという事実が。
──あろうことか、彼に"逃げろ"と言われて、這々の体で逃げだしたという事実が。
「ざけんじゃ、ないわよっ......」
何が本当の強さだ。恩を返すどころか助けられた身が何をほざく。
たった一人、孤独しかなかった世界から救い出してくれた人。そこに打算しかなく、私を見ていなかったとしても、アイツが私を救ってくれたという事実は変わらない。朝田詩乃が新川恭二の助けになりたいという感情はなんら変わらない。
──だからこそ。弱い自分が、何よりも腹立たしく、悔しかった。
「......というか、何よあれ。メタマテリアル光歪曲迷彩があったなんて聞いてないわよ」
アイツが私に何か隠し事をしている。それだけで苛ついてしまう単純な心に嫌気が差す。だが沸き上がる感情に栓をすることは出来ず、気付けば口から文句が飛び出ていた。
「大体、いっつも何の相談もなしに突撃して。少しくらいは相談なりなんなりしなさいっての......」
語尾がまるで拗ねたようになってしまうのは何故だろうか。自覚しないままに、私は愚痴を溢していた。
「シュピーゲルのこと、よく見てるんだな」
「え?───あ」
苦笑を多分に含んだ声音。それによってようやく今の自分の言動の意味を理解し、一気に顔に血が集まるのを感じる。
「これは、その、ちがっ」
「別に隠すようなことでもないだろ。減るもんでもないし」
「減るわよ! 色々と精神的なのが!」
主に私のSAN値とかが。
......薄々自覚こそしていたものの、改めて面と向かって指摘されると、その、色々と死にたくなる。ぶっちゃけ自分でもなんであの
考え無しで、ぼっちで、ゲーマーで。人当たりが良さそうに見えて素っ気なくて。此方を見てるようで見てなくて、なのに肝心な所だけはしっかり見てくれていて。デリカシーなんて欠片もないくせに本心を晒さず、ただのバカに見えて根っこには歪んだモノを抱えている。
本当、面倒くさいにも程がある。全く、どうしてあんな男に引っ掛かってしまったのだろうか。
まぁ──面倒くさいところも含めて、良いのかもしれないけれど。
「..................」
「なんで一人で赤くなってるんだ......?」
「うっさい黙れシャラップ」
「理不尽だなぁ」
澄んだソプラノの声がぼやく。痺れは完全には取れてないが、段々と体が言うことを聞くようになってきた。足取りがしっかりとしてきたことをキリトが察知し、足を早めて遺跡エリアを北進していく。
「......このままじゃ、他のプレイヤーに見つかった時になぶり殺しにされるわよ。どうするの?」
だが、やはり足取りは遅い。此処でも私が足を引っ張っていることを理解し、自己嫌悪に似た感情が胸を満たす。
「......まぁ、そうだな。何処かに足でもあったらいいんだけど」
「そう簡単に見つかったら苦労しないわよ───って」
ふと視界の端に映った看板を見て、私は口をつぐむ。ほぼ同時にキリトもそれを見つけたらしく、ニッと──実に癪なことだが、女の私から見ても見惚れてしまいそうになるほど可憐な笑みを浮かべていた。
「苦労しないで済んだな?」
「............そうね」
まさに渡りに船ではあるものの、何処か釈然としないのはどうしてだろうか。
『Rent a Buggy&Horse』。半ば壊れたネオンサインは不気味さを醸し出しているが、首都グロッケンにもあったものと同じ無人営業のレンタル乗り物屋だ。モータープールに停めてある三輪バギーは、そのほとんどが全損状態だが、中にはたった一台まだ走れそうな奴が残っている。
しかし、乗り物はそれだけではなかった。看板通り、バギーの隣に、四つ足の大型動物──ウマが数匹繋がれている。とは言っても、生きた本物ではない。金属のフレームとギア類を剥き出しにしたロボットホースだ。
ようやく立てるようになった私を置くと、キリトはモータープールに駆け込んだ。そして三輪バギーと金属馬のどちらを選んだものか、と迷うように視線をさ迷わせるが──。
「......その馬は、無理よ。踏破力こそ高いけれど、扱いが難しすぎる。とてもじゃないけど素人に乗りこなせたものじゃないわ」
マニュアルシフト操作が必要な三輪バギーも乗りこなせる者は数少ないが、ロボットホースの気難しさはさらにその上を行く。ぶっちゃけ、あんなじゃじゃ馬を操れる奴は一人くらいしか心当たりがない。
「......そう、だな。わかった、バギーで行こう」
一瞬名残惜しげにロボットホースに視線をやると、キリトは頷いて、一台だけ健在の三輪バギーに走り寄る。始動装置のパネルに触れてエンジンを駆けるまでの動きに躊躇いはない。リアステップに乗るように手招きされ、以前と同じようにキリトもシートに跨がってアクセルオン。太い後輪が甲高く鳴き、足元から直に伝わってくる振動音に思わず身震いをした。
だがこのまま遺跡エリアを突っ切るか──と思いきや。フロントが道路の北側を向いたところでキリトは一瞬マシンを停め、轟くエンジン音に負けじと叫んだ。
「シノン、ヘカートであの馬を破壊できるか!?」
「え......っと、そうね。出来ないことはないと思うわ」
ようやく痺れの薄れてきた右手で、左腕のスタン弾を引き抜いて眉をひそめる。この距離ならばスキル補正だけでも必ず命中するだろう。後は、構えて引き金を引くのみ。
肩口に立て掛けていたヘカートの銃口をロボットホースへと向け、トリガーに指を掛ける。そして目を細めると、未だ痺れの残る人差し指を一気に引く──
「っとあぅあ!?」
ことができなかった。
突然急発進したバギー。危うく振り落とされそうになったという事実に頭に血が昇る。なにしてくれてんのだ、この女装変態は。
「ちょっと、なんのつもりよ!?」
「ッ、すまなかった。けど後方を見てくれ......!」
「はぁ?」
タイヤ痕を残しながらひた走るバギー。揺れる視界に顔をしかめながら後方を睨むと──そこに奴がいた。
「っ」
激しくはためくぼろぼろのマント。右手に下がる長大なライフル。すなわち、"死銃"だ。
思わずぎゅっと冷たい手で心臓を握られたかのような感覚に陥り、唾を飲み下す。ぐんっという加速感によってバギーから引き剥がされそうになるが、キリトの細い胴にしがみつくことでなんとか回避する。やはり、追ってきたか。
──だが。そこでふと、違和感に気付いた。
「......なんで、死銃が此所にいるのよ」
死銃と戦っていたのはアイツだったはずだ。だがアイツの姿は見えない。足止めをしていたのではなかったのか。
──爆発音。そして、死銃が此所にいるという事実。
「あ......」
有り得ない。有り得るはずがない。だが、わかってしまった。理解してしまった。させられてしまった。
死銃が、此所にいる。それはつまり、シュピーゲルは──
「あ、ああ」
嘘だ。認めない。絶対に認めない。あの飄々とした男が敗北したなんて。あの忌まわしい拳銃で止めを差されたなどと。有り得てはいけない。だって、私は、まだ彼に何も──────
何も
できて
いないのに。
「ッ、ああああぁぁぁああぁああァァアアアア─────!!!!!」
感情が爆発し、脳が沸騰する。ふざけるな。認めてなるものか。ああ認めない。彼があんな骸骨野郎に殺されたなど、認められるはずがない。そんな馬鹿なことなど許さない。
溢れだす憎悪と憤怒。食い縛った歯が嫌な音を立てる。キリトが息を飲むが、知ったことか。
「......ろす。絶対に殺す、殺してやるッ!!!」
「っ──、落ち着けシノンっ......!」
落ち着いてなどいられるか。
ロボットホースに跨がり、此方に迫ってくるぼろマント。それを見て、丁度良い、と私は笑った。あの金属馬を何故制御できるのかなどどうでもいい。
──奴を、殺せるのなら。
「ァ......!」
抑えきれない憤怒が唸り声となって漏れる。自分でも過去最速であろう速さでヘカートを照準し、悪路で揺れるスコープ越しに死銃を睨む。
──それに気付いたのか、死銃も懐から
ああ、そうだ。この手で奴を殺せるのなら、私は殺人者でいい。
だから、力を寄越せ──"
「......シュピーゲル」
零れ落ちるのは喪った名前。吼え立てる憤怒に身を任せて、私は嗤う。
──今から始まるのは戦いではない。ただの、一方的な処刑だ。
シュピ「ッ!? (なんか今悪寒が......)」
キリト「(ふぇぇ......後ろが怖いよぉ......)」
アスナ「なんかキリトくんの後ろに般若が!?」
ユイ 「やっちゃえ、バーサーカー!」
クライン「おい馬鹿やめろ」