なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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願望

 

 

 

 

「............えっと」

「なに?」

「俺、勝ったよね?」

「ええ」

「割と頑張ったよね?」

「そうね」

「じゃあさ───なんでそんなに怒ってるんでせうか?」

 

視界の大半を閉めるのは鈍い輝きを放つ銃口。後頭部に感じるのは冷たい床の感触。

まぁ、要するにへカートさんで頭ぐりぐりされてるわけで。

 

「───別に、全く、これっぽっちも怒ってなんかないですけど何か?」

 

───あかん。何故か知らんがこの人めっさ怒ってらっしゃる。

 

ここ半年で一番の笑顔を浮かべるシノンを見上げて、俺は冷や汗を掻きながら乾いた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

「あのね? あんたが二挺拳銃とかいう馬鹿みたいなモノを使うのは知ってたからいいわよ。別に、それに関しては何も言うことないわ」

「お、おう......さいですか」

「問題はその後よ」

 

自覚症状はあるのか、と目で問われ───俺は首を傾げる。直後、銃口による眉間ぐりぐりがさらにぐりぐりぐりぐり、と回転数を増した。解せぬ。そして痛い。超痛い。

 

「な、ん、で───敵の目の前で寝てんの? 馬鹿なの? 死ぬの? むしろ死ね馬鹿」

「いやあれは寝てたんじゃなくてちょっと目を瞑っただけで痛い痛い痛いです大佐」

「うっさい黙れしゃらっぷ。敵見なくても撃てるならその目玉はいらないわよね? そうよね? はいかイエスか二択で答えなさい───10、9、8、はいゼロ」

「それ実質選択肢ないよね!?」

 

もはやろくすっぽカウントせずに選択を迫るシノンに、俺は殺気めいたものを感じてだらだらと冷や汗を掻く。ヤバい。なんかヤバい。というか目がマジだ。

どうにか風穴を開けられるのを防ぐべく、どう答えるのが最良かと俺は冷や汗を流しながら考えを張り巡らせ始める───が、唐突にその殺気が収まる。

思わず目をぱちくりさせながらシノンの顔を見つめると、そのつり上がり気味な猫目にじろりと睨まれた。怖い。

 

「......ま、勝ったからギリギリ許してあげるわ。良かったわね、あれで負けてたらただじゃ済まなかったわよ」

 

"次にあんな舐め腐ったような真似したら殺す"と目で語りながら、シノンは俺の額を銃口で小突く。

小突く。

小突く。

ひたすらに───ごすごすと額を小突き続けて。

 

「......あの。そろそろ退いてくれません?」

「なんかムカつくから嫌」

「えぇ......」

 

そんな理不尽極まりない理由でストレス発散に付き合わされることになった俺だったが、シノンがようやく周囲の視線に気付いて真っ赤になるまでひたすら額を攻撃されることになるのだった。

 

 

 

 

「よう、さっきは大変だったな」

「ん? ......ああ。確か、キリト......だったよな?」

「そうそう。そういうあんたはシュピーゲル、だろ?」

 

原作主人公の名前を間違うことなど有り得ないが、知り合って間もない人間がスムーズに名前を呼ぶのも少し違和感がある。そこで少しばかり演技を挟んで応じると、テーブルの向かいの椅子に美少女───に限りなく近い美少年が腰をかけた。

ちなみにシノンはさっき真っ赤になって何処かに行ったが、また戻ってくるだろう。予選の二回戦もあるのだから此処から安易に移動は出来ない。......というか、俺もさっきから色んな視線が突き刺さっているのだが、なんなのだろうか。

 

まあ、それはともかく。

 

「んで、何の用だ、美少年......少年なんだよな?」

「用がなきゃ声をかけちゃいけないのか?......あとこのアバターについては何も言わないでくれ。俺は男だ。男だからな!」

「男の娘ってやつですねわかります」

「おいバカやめろ」

 

呻く主人公───キリトを見て俺はくっくっと笑いを漏らす。まさかあのキリトとこうして軽口を交わすことができるようになるとは、なかなか感慨深いものがある。ひょっとしたら転生して唯一のメリットがこれかもしれない。

 

「......まぁ、本当に用はないぞ? あんたとちょっと話してみたかっただけさ。あの二挺拳銃を作った張本人と───」

「───ぐふ」

 

今度は俺がテーブルに突っ伏す番だった。見事に俺の黒歴史を抉ったキリトは「へ?」と声を漏らす。どうやら俺にクリティカルダメージを与えたことに気付いてないようだ。

 

「やめろ......その事は聞くんじゃねぇ.....!」

「え? でもあれ滅茶苦茶かっこよくないか?」

「おっふ」

 

なんでだ?と心底不思議そうに首を傾げる様を見てさらに俺は撃沈される。いや別に今のキリトの容姿がもろに俺の好みで明らかに女にしか見えないのも相まってちょっと見惚れちゃったりしてよくよく考えたらこいつって男なんだよな、って思って自己嫌悪と絶望の波に飲まれた───というわけではない。断じてない。ないったらない。

別にそういう訳ではなく、単にフラッシュバックした黒歴史によってSAN値をゴリゴリ削られただけである。

 

「......俺が悪かった。俺が悪かったからもう止めてくださいお願いします。俺をその名で呼ばないで......!」

「え? いや───」

「......"白黒十字の双銃士(モノクロス・ダブル)"」

「デュフ」

 

背後からぼそりとかけられた言葉に崩れ落ち、俺はうわああああああ──と叫びたくなる衝動を堪えるべく頭をテーブルの縁に打ち付ける。

だが、追撃は終わらない。

 

「"舞い降りし漆黒の堕天使"、"太極双銃(パラドックスガンナー)"、"混沌喰らいし銃剣(カオスイーター)"、"究極の白き闇(ダークネス)"、"絶†影"、"双覇の聖魔銃剣(ガンソードオブビトレイヤー)"、"黒天白鬼"───」

「ごふぅ」

「シュピーゲルぅ───!?」

 

厨二ネームのオンパレードを呪詛のように囁かれ、俺は吐血しながら崩れ落ちる。死にたい。

 

「あ、さっきスレッドみたら更新されてたわよ。読んであげましょうか?」

「..................死のう」

「やめろ! シュピーゲルのHPはもうゼロだ!」

「......ふん」

 

必死にキリトが俺を庇うが、もうすでに俺は死に体。というより死にたい。死のう。俺なんで生きてんだろ。

だが正真正銘の止めを刺す前に矛を納めたのか、背後から奇襲してきた犯人───シノンは鼻を鳴らして俺の右横の椅子を引いて座る。

 

「で、そこの変態二人組はなに密談してんのよ」

「え? いや、密談ってほどでもない......というか話す前にシノンが思いっきり腰を折ってきたんだろ」

「そうだったかしら?」

 

なんでだろう。いつの間にか俺も変態の仲間入りを果たしてしまった気がする。

 

「ほら、いつまで寝てんのよ。さっさと起きなさい」

「くぺ!?」

 

襟を思いっきり後ろに引かれ、強制的に覚醒を促される。まさに暴虐不尽。だが文句の1つでも言ってやろうと振り向くと、未だ頬を少し赤く染めて視線を反らす様を見てその気が失せる。うん......余程恥ずかしかったんですねシノンさん。ですが俺が完全に被害者であることも考慮してくれませんかね?

 

「......ふーん」

「いや、なんだよその意味深な"ふーん"は」

「いや、別に? ところで、二人はリアルでも......その、知り合いなのか?」

「あん? まあ、一応知り合いではあるな」

 

そう言って横を見ると、「そうね」とシノンが肯定して頷いた。

 

「誠に遺憾ながら、そこのロマンバカとはリアルでも関係があるわ」

「おい、誰がバカだ。バカって言ったほうがバカだかんな?」

「あんた何処の小学生よ」

 

そんなくだらない掛け合いをしていると、キリトは何故かふむふむと頷く。そして、かなりイイ笑顔で爆弾を投下した。

 

「じゃあ──二人は付き合ってるのか?」

「──ぶふぅ!?」

「はい?」

 

シノンは含んでいたジンジャーエールを吹き出し、俺は首を傾げる。何がどうなったらそんな結論に行き着くのだろうか。

 

「だ、誰がこんなバカと──!」

「そうだぞキリト。コイツと付き合うなんざありえるわきゃねーだろ」

「............」

 

何故か隣から視線がびしばし突き刺さってるがスルーし、俺は堂々と胸を張って答えた。

 

「──心は汚れても体は純水(ピュア)な童貞ぼっちゲーマーなめんな。そもそもこいつの胸部装甲じゃ話にならん、転生してやり直してくるがいい」

「ちょっとそこ退いてキリト、こいつ殺せない」

「お、落ち着けシノン!? 話せば、話せばわかる!」

「話してわかるなら軍はいらないのよ────ッ!!!」

 

ふしゃー!と唸りながらシノンが殺気すら乗せて此方を睨む。HAHAHA、何が起こってるかわからないなぁ。

 

「おま、ジンジャー飲んでないで止めろよ!?」

「逆に考えるんだ。あげちゃってもいいさ、と」

「意味わかんないんだけど!?」

 

ぎゃーすか喚く二人を見ながら、俺は若いなぁと思いつつジンジャーエールを口に含む。......あ、やっぱ嫌いだわこれ。コーラ寄越せコーラ。なにこれ薬みたいな味なんですけど。ドクペ?

 

「......楽しそうで何よりだ」

 

場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、俺はその様を見ながら笑う。主人公(キリト)ヒロイン(シノン)が取っ組みあってるのを端から見れる俺は、恐らく羨まれる立場にあるのだろう。それで十分なのだ。目の前で繰り広げられる物語を見ていられるだけで、俺は────

 

 

 

 

『本当に、そうか?』

「............あ?」

 

『本当は、くだらないと思ってるんだろう?』『とんだ茶番だと、思ってるんだろう?』

『どんなに自分が"物語"に深く関わっていても、所詮は部外者(イレギュラー)だ』『わかってるんだろ? (キミ)は一人だ。何処まで行っても──俺だけは爪弾き』

 

───。

 

 

『じゃあ壊せよ。このくだらない箱庭を。俺以外だけで完結してしまっている世界を。どうせ俺にとっては作りモノの世界だ』『壊して』『殺して』『犯して』

『破いて』『裂いて』『台無しにしてしまえ』『全てを粉々にしてひっくり返せ』

 

『そうすれば、きっと───

 

「───黙れよ」

 

自分でもはっきりわかるほどに、低い声が漏れる。指に力が加えられ、破壊不能オブジェクトであるグラスが僅かに軋んだ。だが幸いなことに、周囲の喧騒に紛れて誰にも聞こえなかったようだ。

......くそ、という言葉が漏れる。どうやら、俺は少し疲れているらしい。今日の所はさっさと落ち(ログアウトし)て、寝るべきか。

 

そう考えて、俺は席を立ち。首を鳴らしながら欠伸をして、一旦外に出るべく足を運ぶのだった。

 

 

 

「..................」

 

背後に突き刺さる、視線に気付かずに。

 

 





次から本選です。予選の他の試合はすっ飛ばします。
え、更新遅いわりに内容薄いし短い?......ほら、うん。それはスランプということでお願いします。繋ぎの回書くのに予想以上に手間取りました、はい。
ではまた。

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