なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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修学旅行から帰還、ようやくの再投稿。ふへへ、徹夜でスマブラしてたぜ......ルフレ可愛いよルフレ。

それでは、全く話が進まない十話です。






予選開幕は混沌とともに

 

 

 

 

浮き足立つ心を抑えようとするも、それは徒労に終わる。いつもの倍は弾んでいる足取りに苦笑し、俺はエントランスに戻る。......声を掛けたくはあったが、今はエントリー締め切りまで時間がない。それに、今は姿を確認できただけで十分だ。

 

「ふぅ......」

 

総督府(ブリッジ)一階のホール。その正面奥にいくつも並んでいる昇降機(エレベーター)のボタンを一つ叩き、スライドした扉の中へ足を踏み入れる。ずらりと並んだボタンの中から"B20"と表示されているものを選んで触れ、暫しの浮遊感を全身で味わう。

そして、十五秒ほど経過して扉が開くと―――奇妙な空間がそこには広がっていた。

 

「ハッ......」

 

戦意の充満した大気を吸い、浅く息を吐く。

構成するのは黒光りする鋼板と赤茶けた鉄網。一階ホールと同等か、もしくはそれ以上の大きさの半球形の空間は予選に出場するプレイヤーの待機場所だ。一回戦の開始時刻まで残り30分弱、天頂部に浮かぶ巨大な多面ホロパネルにはでかでかとそのカウントダウンが深紅のフォントで表示されている。

 

......これがゼロになったら爆発したりして。

そんなアホな考えが頭に浮かんだ。最近は見てないが、よくある時限爆弾のフォントにそっくりだった。

 

まあそれはともかく、そこらでたむろしてる連中と同じように俺も装備を整えなければならない。ぶっちゃけいちいち控え室に行って着替えるのも面倒臭いのだが、こんな公衆の面前でマッパになったとなればHENTAIの汚名を受けることは避けられない。俺は何処ぞの痴女でもドクペ好きのタイムリーパーでもないのだ。

 

こちらに好奇の視線を向けてくるプレイヤー達の間を抜け―――時折見たことのあるプレイヤーに会釈しつつ―――ドームの奥に並ぶ鉄の扉へと向かう。上には緑色のインジケータが点灯しており、俺はそれを確認して無造作に扉を開いた。そのまま中へ入ると、鈍い音を立てて背後で扉が閉まる。振り返って扉の隣に備え付けられた操作パネルに手を当てると、軋んだ施錠音と共にインジケータが赤へと染まる。それを確認すると、俺はウィンドウを開いて一気に全装備を解除した。

 

―――うむ、謎の解放感。アーマーパージとはこんな感覚なのだろうか。絶対違うな、うん。

全裸(下着はある)のままでウィンドウを操作し、羅列される装備欄から手早くいつもの戦闘服(ファティーグ)を選んでプッシュする。選択するのは密林用のミリタリージャケットに軽めの防弾アーマー―――そして動きやすいぴっちりとした改造ジーンズ。最後にコンバットブーツを装備し、指貫グローブにするりと手を滑りこませてきゅっと引く。

更にマガジンを実体化させると、ベルトにくくりつけるようにして二個ほどセット。大腿部にアーミーナイフを忍ばせ、まだメインアームは実体化させずにストレージに突っ込んだままにしておく。

 

―――準備完了。僅か三十秒もかからずに戦闘の準備が終わってしまった。とは言っても俺が軽装なのは必然だろう。下手にフルフェイスのヘルメットや分厚いプレートでも装備しようものなら、俺の持ち味であり唯一の武器とも言える速さ(アジリティ)をわざわざ捨ててしまうことになる。故に最低限急所を庇うプロテクターのみを装備し、後は自分の足で翻弄するしか活路はない。......いや、というか―――

 

「AGI一極型自体が割と地雷なんだよな......」

 

そもそも、メリット自体が非常に少ないのだ。確かにアバター自体の速度と照準(サインティング)速度には目を見張るものがあるが、それと引き換えに"強力な銃が装備できない"という致命的なデメリットが存在する。加えて、STRのぶんまでAGIに振っているため、総重量が15キロ程度でもう重量オーバーになってしまうのである。これではろくに銃を積むこともできやしない。精々アサルト一挺とハンドガン、そして弾薬とグレネードを積むだけでストレージは満杯だ。

故に、AGI特化の唯一の活路は―――

 

「近距離及び超近接戦における電撃的制圧、か」

 

スナイパーやマシンガンなど論外。唯一にして無二の高速軌道を生かすには近距離戦闘にて敵を翻弄する他にない。よって俺のスキル構成も近距離にのみ特化している。精密狙撃などは捨てて軽業(アクロバット)軍用格闘術(マーシャルアーツ)、さらに装填速度高速化や反動軽減を取ることで近距離戦においては無類の強さを発揮するのが俺のスキル構成(ビルド)だ。

 

「......ピトフーイか」

 

一回戦の対戦相手にして、一番の難関であろうプレイヤーの名前を呟く。

過去に何度か交戦経験があるが―――あいつはあらゆる武装を使いこなすオールラウンダーだ。というよりも、奴は基本的に敵の武器を奪うことで弾薬切れを気にすることなく戦場を引っ掻き回すゲリラ戦術を最も得意とするプレイヤーだ。つまりピトフーイは集団戦で真価を発揮すると言ってもいい。そう考えてみると、奴とタイマンというのはそこまで悪い条件ではない。最悪なのはスナイパーを持ち出されて遠距離からの狙撃をされることだったが―――数分前の会話でスナイパーは控えてくれると宣言したばかりだ。要するに舐めプされてるわけだが、今回に関しては我慢するしかない。

 

残る不安定要素は一回戦で選ばれるステージだ。最高は草原、次点で遺跡、まぁ普通に戦えるのが市街地で最悪なのが山岳地帯......といった所か。天候としてベストなのは遠距離狙撃が封じられる雨天であり、それ以外は微妙だ。レアな天候である暴風雨であれば着弾地点が容赦なくずれるため近距離以外の選択肢が潰されるが......こちらとしてもそんな悪条件の中で走り回るのは避けたい。下手すればスリップしてちゅどん、というのすら有り得る。

 

まあともかく、その時はその時だ。各地形や天候の対処法は頭の中に叩きこんであるし、その程度の有利で簡単に勝たせてくれるほどピトフーイは甘くない。罠も地形もアバターの性能も、その全てを駆使しなければ勝ちは拾えない。

 

「初戦からハードすぎんだろ......」

 

深々と溜め息を吐き、俺はロックを解除して控え室から退出する。全身を睨み付けるような視線が四方から突き刺さるが、生憎とメインアームは装備していない。すぐに視線が外れるのを肌で感じながら、俺は近くにあった手頃なテーブルの席に腰を下ろした。

 

「ふぅ」

 

一息吐き、注文を選択した直後にテーブル中央部から排出されたジンジャーエールを手に取って口に含む。ぴりぴりとした炭酸の味わいを口内で転がしながらきょろきょろと辺りを見回してみるが、予想に反して見慣れた水色のショートと黒髪ロングのセットは見つからない。あれだけ目立つ美少女二人組なのだ、見落とすなんてことは有り得ない。

そして、一体何をしているのだろうか―――と疑問を抱いた直後のことだった。

 

「うぉわ!?」

 

その答えは扉の向こうから転がり出てきた。

 

「............」

「............」

 

即座に閉じられる扉、蹴りだされたように床に顔から突っ込む美少女―――否、美少年。

 

「あの、なんかすいません」

「ああ、うん......」

 

情けない表情で謝る美少年(キリト)を前にして、俺は何があったのかを一瞬で悟るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「............」

「............」

「............」

 

なんだこのカオス。

思わずそんな言葉を内心で吐き、俺はちらりと前の席に座るプレイヤーを見つめる。

 

一人は、ひたすらそっぽを向きながら無視に徹する水色髪の少女。不機嫌そうに歪められた口許はいつか俺がプレゼント......というよりはトレードしたマフラーが覆い隠し、傍らには彼女の代名詞と言っても過言ではない"ウルティマラティオ・ヘカートⅡ"が立て掛けられている。

そしてもう一人は、気まずそうに隅に座っている美少女、もとい美少年キリト。こうして見るとかなりの美少女であることがよくわかる。だが男だ。ついでに怪物じみた剣の使い手だということはよく知っている。

......うん、だからこっち見んな。お前がどうにかしなさいよ。俺関係ないじゃん。

 

だが、このまま険悪な雰囲気というのもアレだ。俺はげんなりとしつつ、ストレートに質問を放った。

 

「......お前らなにしてんの?」

「別になにも」

 

素っ気ないシノンの返し。どうやらまだ激おこらしい。

溜め息を吐き、俺は他のことを尋ねることにした。

 

「にしても、えらく遅かったな。なにしてたんだ?」

「......そこのヒトを案内してたら遅くなったのよ」

 

言外に「私のせいじゃない」というニュアンスを匂わせつつ、シノンがキリトに冷たい視線を寄越す。ようやく存在を認められたキリトが肩を竦め、こちらを見ながら言葉を紡いだ。

 

「どーも、そこのヒトです」

「あー、うん......よろしく」

 

先程見たばっかだが、とりあえず挨拶しておく。すると、シノンが吐き捨てるように短く言い放った。

 

「騙されないで。そいつ、男よ」

「うん知ってた」

「「えっ?」」

 

左右両サイドから驚愕の視線が突き刺さる。それに肩を竦めて答えつつ、俺はジンジャーエールのストローをくわえる。うん美味い。ちなみにここのメニューにはドクペがあったが、ぶっちゃけ不味かった。だってあれ、薬みたいな味がするんだもの......某タイムリーパーや引きこもり探偵はよく飲めたもんである。

 

「なんでわかるのよ」

「いや、胸見たらわかるだろ。キ......そっちの人が真っ平らなのに対して、シノンはある.....きっとある.......あるといいな、うん」

「死ね!」

 

若干憐れむような視線を向けると、シノンが顔を真っ赤にしながらコーヒーの入ったカップをぶん投げてくる。伏せるようにそれを回避しつつ、俺は口を尖らせて苦言を呈した。

 

「危ねえなおい。物は投げちゃいけないぞ? お兄さんとの約束だ!」

「うるさい死ね! 箪笥の角に小指ぶつけて死ね!」

 

ふー!と威嚇するように息を荒げるシノンを前にして、俺はどうどうと言ってそれを宥めにかかる。

 

「まあ落ち着け。具体的には胸に手を当てて深呼吸するんだ......それで全てがわかる」

「こいつコロス」

 

完全に戦闘モードに突入したシノンがヘカートⅡをフルスイングし、俺は再び伏せてそれを回避。キリトが唖然としながら此方の様子を見ているのが視界に入った。ついでに巻き添えを食ってふっ飛ぶのも見えた。南無三。

 

「あっ......」

「―――ごふ」

 

キリトが床に沈み、シノンがやっちまった的に顔になる。そして周囲のプレイヤーの視線が此方に集まる中、俺は頷いて言い放った。

 

「―――犯人はこの中にいる!」

「全部あんたが元凶でしょうがああああ!」

 

シノンの叫びがフェードアウトするようにして響き、俺の視界を青い転移光が満たす。

 

かくして―――混沌とした状況のまま、予選が開幕するのだった。

 





ピト「私まだ?」

次はピトさん専用なので暫しお待ちを。

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