「やっはろー!」
能天気そうなその声に加えてそのアホ丸出しの挨拶をされると、どんな崇高な考えも吹き飛ぶのではないかと思わせられる。現にさっきまでの俺のネガティブな考えが吹き飛んだ。
しかも、ハローの和訳が「やあ!」であることを考えると由比ヶ浜が言っているのは「やっやあ!!」となるのだ。
どもってんじゃねえかよ、友達作ろうとした時の俺かよ。まあ、言いたいことはひとつだ。由比ヶ浜結衣はやはり天性のアホである。
「こんにちは、由比ヶ浜さん」
雪ノ下はいつも通り完璧で、由比ヶ浜はいつも通りアホだが良くも悪くも優しい奴だ。...この時間は続くとしても長くて一年ほどだと考えると、不思議な気持ちになってしまう。
そんなセンチメンタルなことを考えて自分の世界にトリップしていると、由比ヶ浜もまた探るように聞く。
「小町ちゃん、どう?」
何も雪ノ下に教えたのだから由比ヶ浜に教えるくらいどうってこと無いはずなのに、俺は答えられなかった。一瞬、考えてしまったのだ。「この心地良い時間がいつまでも続けば」と。「彼女達に暗い話をすることでその空気が伝染してしまうのではないか」と。
「ヒッキー、聞いてる?」
「ああ、聞いてる。小町は今日学校休むってさ」
「あちゃー、まずいね。小町ちゃん、何か言ってた?」
「一応、それらしきことは、言ってたが」
今、ここで嘘をついてしまったら小町は失望するだろう。既に望みはないかもしれないが。彼女達もそれに気付いた時には失望するだろう。両方失う可能性もあるのだ。
その感情が勝ったおかげでなんとか本当のことが言えた。
「...小町の今の状況は、俺のせいだ。小町の行動を否定して、拒否した俺のせいだ」
結論を言えばそうなるのだ。この場合、責任者を探せば小町の行動を否定した俺か、その行動をしてきた小町自身しか選択肢はない。
今回の目的は小町を助けることなのだから後者は無くなる。消去法で俺が責任者である。そうすれば、誰の心にも傷を残さない。
「あなたは小町さんの行動に対して自分に嘘をついて今まで通りに振る舞って。嘘をついて、それでもいいの?」
雪ノ下は知っているのだ。分かっているのだ。
「あたし達も、小町ちゃんとしっかり話した方がいいんじゃない?」
由比ヶ浜はそう言うが、小町はそもそも話すだけの気力がないだろう。遅すぎたのである。
小町は今までの自分の計算が無意味であると否定され、同時にその意見を否定する程の自信も持ち合わせていなかったのだ。
計算とは言っても、要は気ままに生きてきて、その結果に一喜一憂してきただけなのかもしれない。
始まったからにはいつか終わるのだ。小町と仲直りしたあのぽかぽかした夜も終わり、無意味なものとなってしまったのかと思うとそれだけで涙が込み上げてくる気がする。
まだあの日々は続くのだろうか。俺にはきっと続くと思うくらいしか今は出来ない。
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