デミえもん、愛してる!   作:加藤那智

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気がつけば、恋のキューピッドだった

 たっちさんのイン率がへって前衛職が少なくなった。ウルベルトさんと仲よくなったのはこのあたりからだった。

 元々パーティはちらちら組ませていただいていたけれど、歳も離れてるしそんなに絡むことがなかった。

 デミウルゴスを作った人だから、やっぱりデミウルゴスと似ているところがあるのかな?と興味はとてもあったのでたくさん話しかけた。

 最初は一線引かれていた感じがあったけれど、いつのまにかパーソナルスペースに入れてくれるようになりお互いに長時間話し込むこともよくあった。

 

 特に悪について話すときウルベルトさんは熱かった。

 

 まず、東洋と西洋の悪の概念の違いからはじまり世界の宗教について、そしてそれぞれの宗教が悪と規定するもの、言動、行動、思想、存在の定義を教えてくれた。

 ところと時代が変われば悪は変わる。

 日本は仏教、神道の影響で、光あるところに影が生じる、二つで一つという生命一元の法則を基本とし、悪は必ず打ち倒すべきものという西洋の思想はない。

 それゆえに日本人は騙されやすくまた自身の邪悪さに気づくことが少ないそうな。

 ウルベルトさんは、無知が悪なのではなく人が普段目をそらしていること、自身の心の奥底を見ないことが悪だという。根幹を、淵源を、覗き、認めた者は悪ではないといった。

 面白い考え方だ。目をそらせば悪であるという。だからウルベルト自身は「良い」ことをしているつもりなのだが、他人からは悪と断じられることが多いという。

 様々な国、様々時代の悪であるということはどういうことかと研究しつくしているウルベルトさんの話は奥深い。ゲームにとどまらず、社会、芸能、スポーツ、ビジネスと多岐にわたる。

 

 そんな話題豊富なウルベルトさんとの会話で唯一話題にでないテーマは【恋愛】

 

 悪を説明するために愛の話は出るのだけれど、ウルベルトさん自身の恋愛観の話を聞いたことはなかった。やまいこさん、餡ころもっちもちさん、お姉ちゃん(ぶくぶく茶釜)と集まれば恋愛話は必ずといっていいほどする。男性陣でもノロケ話、彼女ほしー話、みーにはまだ早い許さんとかいろいろ聞くなかで、ウルベルトさんは話すことがなかった。

 

 話したくない事情があるのかなと思い、恋愛に流れそうな話題はあまり突っ込まずにいた。人間話したくないことは誰でもあるし心の柔い部分は好奇心でつついちゃいけない。わたしだって聞かれたくない告白をして56戦全敗という前世の歴史がある。ダメ、絶対、わたしからは聞かない、うむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなある日。いつも通りパーティを組んで狩りをし休憩していたらウルベルトさんが珍しくほんとーに珍しく、自身の恋愛についてポロリともらした。それを聞いた時わたしはわかった。

 

 この人、もっっっっそ、理系!あったまいいから、頭がよいからこそ、女性の感情の動きや、考え方がわからないんだー!わからないからリアルで女性に近寄らないのか……つまり免疫がない。興味がないわけじゃない。

 

 ーーギルドオフ会したときの記憶を思い出す。ウルベルトさんはどんな容姿だったっけ……えーと、長細い身体に表情の薄い顔。服装は全身上から下まで真っ黒だった。汚れも目立たない、着替えの組み合わせに迷うこともない実に効率的っていっていた。同じ服が家に20着あるとか。

 んー。やっぱり女性に対してはあんまり近寄ってなかったなー気後れしているように見えた。わたしはなんかかまってもらった気がする。なんでだろ。あ、そうか、子供だから女性のうちに入ってないんだな。そいえば、オフする前はゲーム内でたっちさんに対する敬語みたいな話し方で接されてたけど、オフ後はモモンガさんに対する接し方になった気がする。一人称が「私」から「俺」になってた。

 でも女性に慣れていないからといって話さないってことはなかったし、みんながゲーム内の話をはじめたら表情は薄いままだけど楽しそうな雰囲気だった。

 うん、全然問題ない。前世のわたしの就職前の会話のキャッチボール壊滅さを考えたら彼女がいないほうが不思議なくらいだ。フツーフツー。

 

 話の流れにのった勢いで「いい人がいたら結婚したいとか思います?」と聞いてみたら「理解できるなら」と言われた。おーー!

 これはウルベルトさん語翻訳すると「俺と相手がお互い分かり合えるところがあれば結婚したい」だ!ウルベルトさんにとっては、価値観が合うかどうか以前に女性脳が理解できないのかー。

 

 理系かあ、しかも突き抜けた理系かあ……。

 

 子供の図々しさを発揮しもうちょっと聞き出すと「自分が求めてるものはわかっているけれどどうやったら手に入るかわからない。わかったふりをして自分を偽ってまで偽物の愛は手に入れたくない」みたいだった。

 

ーー人の陰を悪を受け入れることができるのか?悪を理解しないで愛というのか、悪を受け入れず、愛せるのか。

 

 だからたっちさんのことを偽善といいながら羨望と嫉妬と好意と嫌悪を抱いていたんだ。

 善性への問いかけの裏にはそんな思いがあったのだろうと察した。

 デミウルゴスをピュアだと思ったけれど、つくったウルベルトさんもピュアだ。愛深きゆえに愛を捨てた男……ウルベルト。

 

 たっちさんは脳筋ではないけれども良くも悪くも肉体派なので、考えるより先に行動することが多く、拳で語ろう、やってからみんなで一緒に考えようという感じ。

 ウルベルトさんは頭で考えて考えて納得し理解できたと確信してから1人で行動する感じ。

 

 この違いを自分でもわかっている気がする。ここはひとつ手助けできないかな。ゲーム内でもお世話になっているし。なんか心配なんだよね、モモンガさんみたいに口に出して「寂しい」て言えない人っぽいし。本人が彼女なんかいらん!と思っているならともかくそうでもなさそうだし。傷つけないように押し付けにならないように……。

 

 そうしてわたしの勝手な「ウルベルトさん婚活計画」が始動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出会いだ!ウルベルトさんには出会いが必要!」

 

 デミウルゴスの膝の上で、ピチピチ飛び跳ねながら叫んだ。

 独自に(お金の力で)調べたところウルベルトさん仕事柄女性との出会いも少ないみたいなのがわかったのである。

(わたしはギルメン全員に人をつけていて、事故に遭わないように、日常生活に困ったことはないかフォローしていた)

 

 実はわたしは今世も仕事中にたくさんの女性と知り合う機会があった。才能もある容姿もいい、でも結婚相手が見つからない……という前世のわたしに似た人たち。自分の短所が相手から見たら長所と気がつかず空回りする人たち。

 前世のわたしを見ているようで、わたしのような無駄な努力で時間を消費して欲しくないと思い、ゲームと仕事で忙しいけれど時間をつくってアドバイスーー婚活相談に乗っていた。

 女性達は最初わたしのいうことに半信半疑だった。

 当然だよね、だって子供だし。でもわたしが伝えたように男性の思考に合わせたアドバイスを実行するとすぐに結婚成立する人が続出。その後口コミで相談が増え多数の方からお悩み相談を受けることに。そのなかでウルベルトさんと合いそうだなーという女性に何人か心当たりがあり、その人達と会う機会をつくってみようかと思った。

 

 女性とウルベルトさんとの接点を作るべく、女性とウルベルトさんを誘いゴシック美術絵画展に行くことにした。

 わたしは様子を見つつソフトクリームやレストルームへ席を立ち、女性とウルベルトさん2人の時間を作れるようにしてみた。

 

 どうだったかな?と帰宅後ドキドキしながら速攻インしてウルベルトさんに感想をきいたら……ツン感想をいただいた!

 

 ツンか、ツンかー。そうかー。ウルベルトさんのデレはなかった。うーあーダメだったのかなー。あー。

 

 彼女のほうにも感想を聞くと彼女は話題が面白かったとのことで好感触。おー。

 この彼女理系で研究一色。研究に夢中なあまり外見を気にすることなく生きており(前髪ぼっさー、眼鏡ドーン、スカートはかない)、そのせいで素地(割と胸があり眼鏡をとるとぽんやり潤んだ目をしている)を見抜けぬ男子に女子的な扱いを受けてこなかったため女性らしい扱いをされなくても不満を持たない(不憫)。

 このままいくと一見スマートなその実甘言で女を騙す男性既婚者にヤられてしまうのではないかと不安な女性だった。

 彼女は真剣に人の話を聞くという才能があるので、ウルベルトさんが多少乱暴な言い方をしても(えてして男性は照れるとなりがちである)職場で男のように扱われているから気にしないだろうし、ピュア同士ウルベルトさんに合うのではないかと思ったのだが……。うーんウルベルトさん……。

 

 ダメかなーどうかなーと思いつつ一週間後、

「またこないだの彼女と絵画展いくんですがいきませんか?」

 と、ウルベルトさんにおそるおそるジャブで誘ってみたら、

「行く」とのこと。

 

 お、おー!?こ、これは……っデレの未来がある……??

 

 何回かわたしをダシ二人をあわせることを繰り返しているうちに、わたしがいないときも2人は会うようになっていった。

 

 ヤッター!よかったー!

 ウルベルトさんのツンはツンじゃなかったー!照れてたんだな!もー!わたしにはデレなかったけど彼女にはデレたんだきっと!よかったよかったーー!

 

 ウルベルトさんが幸せリア充な道を進んでいったせいか、たっちさんとの会話が丸くなってきて、たっちさんも「お、おう……っ」て驚いてた。他のギルメンもウルベルトさん熱でもあるんじゃないか?と心配してた。ひどい。

 

「ウルベルトさんも幸せでよかったねーデミウルゴスも嬉しい?」

 

 定位置のデミウルゴスの膝の上にのりつつ、顎を机の上に乗っけながらデミウルゴスに聞いた。勿論返事はない。

 

「『抱っこ』してー」

 

 ウルベルトさんリア充化したら悪的言動行動減るのかなーと思ったらますます悪化した。リアルで彼女さんと良いことがあると照れてしまい表に出せず、その分ユグドラシルに発散しにくるのだ。こないだは笑顔モーションでとても楽しそうに前にやまいこさんにちょっかいかけた人間種ギルドをぶっ潰してたなあ……。超火力で焼き払うのではなく、MPKをしかけて疲弊させて仲間割れさせて「喜べ、お前たちに自身の邪悪さを見つめる機会をやろう」とかいってた。良いことしてると思っている悪の伝道師ウルベルト。南無南無。

 

 モモンガさんもリアル彼女どうでしょ?と思って女性と会わせようとしてみたけれど、ゲームと仕事に忙しくて時間がないとのこと。なによりユグドラシルで遊ぶのが一番楽しいらしい。パンドラズアクター作った時は「必殺技みたいなかっこいいドイツ語教えてください」て言われたもんなー。パンドラと一緒に敬礼したり、ギルメンと遊ぶのが楽しいならしょうがないっか。

 

 ギルメンが幸せならわたしも幸せ。

 

「はーしあわせー」

 

 

 




あなたーはー悪をーしんジーマースかー?

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