【完結】ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れない兄になって死にたくなってきた   作:食卓塩准将

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仕事でゴタゴタ、新型コロナでゲホゲホ、モチベがボトボト
以上が数か月更新が止まった事の言い訳です、すみません

あまりにも長い間更新止まってたので、今回は直接の続きではなく、総集編みたいな回です。
ここまでの流れを忘れてしまった方が思い出してくれればな、と願ってます。

9月中に本編の続きも更新するので(絶対)、お待ちください


閑話 これまでと、これから

 俺の名前は、野々原縁。

 

『緑』は『みどり』ではなくて、『よすが』って読む。

 他人が見たら、まず一発でそう読んでもらえる名前じゃ無いって自覚はある。

 だが断じてキラキラネームの類ではない。

 一応、昔からある読み方の範疇に収まった名前だ。

 ……まぁ、それにしたって義務教育の範囲では基本教わらない読み方だから、まず読み間違えられる(またはどう読むか聞かれる)名前だけどね。

 

 両親は海外で物を売る仕事をしてる都合、よく家を空けがちだ。

 小学生の時は母親が家に居てくれたが、俺が高校生になる頃にはもう家に居ないのが当たり前になっていた。

 思春期の多感な時期に、親の温もりを感じられない。当然寂しさはあった。幸運な事に両親は毒親ではなく子供が素直に愛情を求めたくなる人間だったから、尚更ね。

 それでも俺がグレたり病まないで居られたのは、妹の渚が居たからだろう。

 俺に懐いて、信頼と愛情を無条件に向けてくれる渚は、兄にとって大事な存在だった。

 それだけじゃなく、幼なじみの綾瀬とそのご家族、親友の悠と、周りの人間関係にも恵まれていた事も大きい。

 これからも、みんなと一緒に何事もなく日常を過ごしていくんだ。なんの疑いも無く俺はそう思い、生きていた。

 

 4月某日。

 突如、俺のそんな考えは、常識では図れない状況に身を置かれると共に崩れ去る事になる。

 オカルトの範疇で収まっているはずだった『前世の記憶』を思い出したその日、俺を取り囲んでいた『恵まれていた人間関係』のすべてが、俺を脅かす存在に豹変した。

 

 自分ではない人間の記憶なんて、通常なら信じるわけもない。やけにリアリティの高い夢を見たか、自分に統合失調症の疑いがあるか心配するか、いずれにせよまともに受け入れるのはあり得ない。

 だが、そんな『記憶』の中にあったとある情報が、俺に『これは夢だ』と跳ね除ける事をさせなかった。

 渚や綾瀬の存在が、記憶の中に出てきた。それもとある会社から発売されていた『ボイスドラマCDのキャラクター』という形でだ。

 

 俺が──野々原縁が生まれて育ってきたこの世界は、ある創作物の世界だったのだと、無理やり理解させられた俺が、どんなにパニックになったのかを他人に理解させるのは不可能に近い。

 妹が、幼なじみが、クラスメイト達が、みんな人じゃなくてキャラクターだったなんて、どうして『はいそうですか』と納得できるだろうか。

 だが残酷な事に、世界は俺にアイデンティティやレゾンデートルについて思索するための余裕を与えてくれなかった。

 何故なら、前世の俺が記憶していたこの世界を形作っている作品の主人公──渚の兄であり、綾瀬の幼なじみである男は、その作品内で死ぬ(ないし生きる上の尊厳を失う)ことが確約していたから。

 そう、その作品の──『ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れないCD』の主人公のポジションに、俺は居る。つまり、このまま何も考えず呑気に生きてたら、まず確実に俺も死を迎える事になるわけだ。

 

 何処の世界に、病気じゃないのに死を約束された人間が居るだろうか。それも、人ではなく世界そのものから。

 前世の記憶を思い出してしまったその瞬間、俺はこの世界とそこに生きる人たちを『人間』か『キャラクター』かを悩む間もなく、生きるためにどうするべきかを考える戦いに投じられたんだ。

 

 それが、今日まで続く苦難の日々の始まり、第一弾だった。

 死なないため──ヤンデレヒロインである渚や綾瀬に殺されないための立ち回りや、活路を見出すために今までした事のない行動を取っていく中で、同級生でありヤンデレCDヒロインの一角でもある柏木園子と出会ってしまい、彼女がいじめられている事を知って助ける事になった。

 渚と綾瀬は知らない女の子のために、自分が行動するリスクは計り知れないものだと分かっていたが、それでも園子の力になろうと、悠の力も大いに借りて頑張った。

 その甲斐もあっていじめは根本の原因を消し去ることに成功して、ついでに園子が所属してて廃部寸前だった園芸部に入部した。

 それでもやっぱりうまく立ち回りきれず、園子のいじめは何とかなってもその直後に、渚とあわや大惨事になりかけた大兄妹喧嘩をした。

 

 本当に、いつどのタイミングで死んでもおかしくない綱渡りな日々だったよ。

 

 しかし今になって思えば、この頃はだいぶイージーモードだったなって思ってしまう自分が居る。

 なんでそう思ってしまったのか、主な原因は夏休み明けに現れた少女の存在が大きい。

 

 綾小路咲夜。親友の悠の従妹であり、この世の中で1番ワガママな女の子。

 そもそも、綾小路家って言うのは日本はおろか世界でも有数の金持ち一族で、咲夜はそこの中でも1番現当主に愛されてる箱入り娘だ。

 そんな咲夜の目的は、家族関係的に政敵である悠を貶めて学園──ないしこの街から追放する事。

 実は俺が生まれ育ってるこの街は成り立ちから綾小路家が絡んでいて、都市開発の利権やら実績やらを巡り、咲夜の家族と悠の家族は対立していたらしい。

 

 学園に来たばかりの頃は音沙汰無く、何も無いまま平和な学園生活が続くのかも、なんて思ったりしたけどそんな事は無かった。

 咲夜は知らず知らずのうちに学園の管理者や教員、生徒の中に自分の息のかかった人間を用意して、『査問委員会』なる物を作り出した。

 学園内の生徒が校則に反した行いをした場合、その生徒に対して罰を与えるかを全校生徒による多数決で決める。そんなでたらめな組織。

 普通の学校ならまずありえないそんな組織も、綾小路咲夜という存在は作り出せてしまう。しかもこの組織の恐ろしい所は、生徒が何かしらの部活動や委員会に属してる場合、それらの活動停止や廃部まで可能という事。そして、誰が何をしていたかは査問員会の監視以外に、生徒の密告も情報源になるという事だ。

 

 いきなりスケールがデカい話になって当時の俺はワケも分からず、困惑するばかりだった。

 それまではヤンデレの女の子を病ませない様に、殺されない様に気を配る事にだけ意識を向けてたが、今度は咲夜の手によって危機を迎えた悠や、園芸部のみんなを守る為にどうするべきかを考える必要も出てしまう。

 

 ……うん、無理だろそんなの! 笑っちゃうよ。別ジャンルの話を急に持ち出さないでくれ。

 さっきも言ったように、あまりにもスケールが違い過ぎる話に、巻き込まれるばかりだった俺だが、咲夜は俺にまさかの発言をした。

 

 咲夜がこの街に来た原因を作ったのは、俺なのだと。

 園子のいじめをどうにかしようとした時、悠の力を借りたと言ったが、実は園子のいじめの裏には綾小路家の息がかかった人間が関わっていた。いじめを無くすにあたり、悠の力を借りてその人物を学園から追放処分にしてもらったのだけど、その人物が咲夜側の人間だった。

 経緯はどうあれ、学園にいる咲夜派側の人間を悠が追放したという事実は変わらない。今までは目立った対立や行動が無かったから静観されてたが、もうそういうワケにもいかない。

 俺に協力した悠の行動を政的行為だと判断した咲夜は、この街に来て悠を潰し、そこからこの街の都市開発利権も掌握しようと画策したのだという。

 

 意味が分からないよ。

 巻き込まれた被害者だと思ってたら、元凶は俺自身にあった。そんな話ってあるかよ。

 

 学園を支配した咲夜は裏工作で園芸部に対するヘイトを作り出し、悠は為す術もなく学園に居られなくなった。俺達も悠側に着いたままでは次第に学園内での立場を失い、新しいいじめが始まるかもしれない。

 だからと言って悠を裏切るなんてありえ得ない。でも庶民にすぎない俺にできる事は限られてる。袋小路に陥った俺は僅かな間、咲夜を殺す事すら考えてしまった。

 そんな俺を止めてくれたのは、他ならぬ渚だった。俺が苦しんでいる事を察した渚は、俺に別の視点で咲夜に対抗する手段を見つけようと提案する。

 

 渚の言葉を受けて俺が協力を仰いだのは、咲夜がこの街に来たのと同時期に俺の前に現れた、『塚本せんり』と名乗る自称情報屋。

 俺が一人でいる時に限って、決まって現れては馴れ馴れしい態度と人を食ったような言動を見せていたこの男を俺は嫌っていたが、こいつは情報屋を自称するだけあって俺じゃ絶対に知り得ない咲夜の情報を集めてみせた。

 その中には、咲夜のプライベートを侵害する物も多々含まれており、ぶっちゃけ犯罪行為そのもの、罪悪感もかなりあったモノの、コイツに追い詰められて苦しんだ分の仕返しだと正当化。

 最後には、俺を含めた園芸部員全員を弾劾するための査問委員会主導による全校集会の場で、俺は園子と協力して咲夜を集めた情報を人質にして文字通り脅迫……うん、脅迫。最低だな俺。

 

 ──手段はともかく、最終的に査問委員会の解散、悠との和解、綾小路家の問題を学園に持ち込ませない事、そして咲夜の園芸部への入部。これら4つを全校生徒の前で約束させた。

 咲夜を入部させた理由だが、これは咲夜に恨みを持つ生徒が、裏で咲夜に手を出す可能性を減らすためにある。

 あの咲夜に正面から対立した俺は、その時点で一定数の生徒から支持を受けていたし、何より『関わったら何しでかすか分からない奴』という一種の腫物扱いされる様にもなった。そんな俺が咲夜を園芸部に入れる=身内扱いにすれば、咲夜を恨んでも下手に手は出せなくなる。

 かくして、ヤンデレの女の子に恐怖する日々とは全くタイプの違う恐ろしい日々は、解決したのだった──のだが。

 

 

 一難去ってまた一難。……いや、次に起きた出来事を『一難』とは言いたくない。

 ここまで俺はヤンデレの女の子を病ませないように生活するのに加えて、身の回りで生じるトラブルに悪戦苦闘しつつも、親友の悠や妹の渚、園芸部に入ってからは仲間になった園子の力を借りて解決してきた。

 心と胃壁が擦り切れるような生活をそれでも送っていけたのは、俺がヤンデレとか関係なく、みんなを好きだったからだ。

 その中でも、幼なじみの綾瀬と過ごす時間を、俺は愛しく感じていた(……と、はっきり自覚したのはつい最近だったけど)。

 自分を殺すかもしれない存在だって言うのに、変な話に聴こえるかもしれないが、俺にとってみんなは──特に綾瀬は、居てくれるだけで意味があった。

 

 しかし、綾瀬は同じようには思っていなかった。

 周りの人間と違って、自分は何も力になれていない。そんな事を考えていた。

 当然俺は否定したけれど、綾瀬とわだかまりのある渚が、綾瀬を煽るようにその通りだと言った。

 

 そこから、今まで俺と一緒にいるのが当たり前だった綾瀬は、露骨に俺を避けるようになっていく。

 更にはそこに拍車を掛けるような出来事も起きて、パンク仕掛けていた俺達の関係は一気に破裂する。

 ヤンデレCDでは互いに殺意を向け合っていた渚と綾瀬。この世界では園芸部と言う一種の中立地帯で共に過ごすうちに、ある程度真っ当な関係を築けていたのに、いつ血が流れてもおかしくない状況になっていく。

 

 だけど、そんな中だからこそ、俺も自分の中で膨らんでいた綾瀬への恋心を、はっきり自覚していった。

 そんな俺の心境を誰よりも理解していた渚が取った行動によって、話は一気に進んでいき……。

 最終的には、俺と綾瀬が付き合うって形になりつつも、死者が出ないと言う奇跡的な結末を迎える事ができた。

 

 俺1人じゃとてもこうはならなかったと思う。

 みんなと園芸部と言う括りの中で過ごしてきた時間が、綾瀬と渚、互いの間に情を生み、ヤンデレCDの様な悲惨な結末を避ける事が出来たに違いない。

 

 兎にも角にも、もう渚が綾瀬を、綾瀬が渚を、互いに殺し合う様な未来は消えて無くなった。

 俺が不誠実な事さえしなきゃ、血が流れる事なんて無いだろう。

 

 

 そんな風に、人間関係の不安要素も消えて、とうとう俺の人生にも普通の高校生らしい日々が来るんだろうと思うようになり。

 

 彼女──小鳥遊夢見が現れた。

 

 元々、中学生の頃まで向かいの家に住んでた俺と渚の従妹。

 12月に戻って来た彼女を、俺は当然の様に家族として迎え入れた。

 それが、全ての破滅の始まりだとつゆにも思わないまま。

 

 何が起きたのかを、克明に思い出す事は苦痛でしか無いので、端的に述べていく。

 

 悠が殺された。

 渚が殺された。

 綾瀬が殺された。

 園子が殺された。

 

 そして、俺自身も死んだ。

 

 死んだ奴がこうやってピンピンしてるのはおかしいって思うかもしれないが、もっとおかしい事が俺の身には起きた。

 

 俺自身が死を迎えた時──何故か、次に目が覚める時には自分の部屋のベッドに居る。

 日付は悠が死んで葬式をした翌日。

 俺は、何かしらの理由で死んだらその数日前にタイムリープしていた。

 あり得ないと思った。信じられなかった。自分は何か嫌な夢を見たのだと思う事にした。

 

 だけど、同じ様なタイミングで綾瀬は死ぬし、そこから何度も周りの人達が殺されるのを見た。

 綾瀬がゴム毬みたいに階段から転げ落ちて、頭から流す血の匂いを嗅いだ。

 園子が首を切り裂かれて、滴り落ちる血の熱さを感じた。

 渚が物言わぬ人形の様に崩れ落ちる様を見た。

 そうして、最後に俺の体に刃物が突き刺さる異物感を、この上なく思い知った。

 

 死んでは生き返り、生き返っては死ぬ。

 そんな地獄の繰り返しを経て、俺は最初、咲夜が俺達を殺そうとしたんじゃないかと思っていた。

 咲夜にはそういう事を考えるだけの理由が無いワケでもないし、何より咲夜が用心棒として連れてきた2人の人間──ゴスロリや執事服を着た双子の姉妹、ナナとノノ──に、俺は一度殺されていたから。

 だが直接咲夜と会話する事で、それは誤った推理だと判明する。それと同時に俺は、咲夜との会話の中で最悪の事実を思い出した。

 

 小鳥遊夢見。

 彼女もまた、ヤンデレCDの登場人物として前世の俺の世界にいた事を。

 1作目にあたる渚達と違い、前世の俺がろくに触れてない2作目のキャラクターに、彼女は居た。

 こんな状況になってようやく思い出す無様さを呪ったが、2作目の──夢見の情報を得た日に前世の俺は、とある理由で人生最悪の目に遭っており、それ以外の事を記憶から消していたのだから、仕方ない。

 

 繰り返す方の原因は不明なままだが、身の回りで起こる死は全て夢見が原因だと分かった。

 でも、分かったところでもはや手遅れ……と言うよりも、夢見の行動力を理解しきれていなかった。

 

 今まで俺が相対してきたヤンデレ達──つまり、渚や綾瀬、園子達の事だが。彼女たちは『ヤンデレCD』の中で殺人行為を働いているが、いずれも恋敵を相手にした場合のみに限る。つまり、文字通り恋の敵とみなした相手にだけ手を出して、無関係な人たちにはノータッチだ。例を挙げるとするならば、園子はCDの作中では渚や綾瀬はおろか主人公すら殺しているけど、自分をいじめていたクラスメイトには無抵抗だった。

 ところが、夢見は違う。俺が何度か繰り返した死の中で、夢見は恐らく恋敵達を一掃するために校内にで大規模な爆発を起こして渚たちを殺そうとした事がある。その企み自体はナナとノノの乱入によって失敗し、あわや自分も殺されそうになっていたが(とどめを刺そうとした2人の攻撃を俺が庇って死んだ。もっとも、その後あっさり夢見も殺されていただろうけど)、何を言いたいのかというと夢見は目的を果たすうえで障害となる人間が居れば、それが恋敵じゃなくても殺すのを躊躇わない思考の人間だという事。

 

 俺が夢見をヤンデレCDの登場人物だと思い出したのは、咲夜と中等部校舎の屋上で話をしていたお昼休み。

 まだ夢見が犯人だと分からずにいて、それでもお昼休みという学園内で多くの生徒が自由に行き交う時間帯なら、犯人も行動しないだろうと思っていた俺は、お昼ご飯もそこそこに渚や綾瀬達と別れて行動していた。そこには当然、夢見もいる。

 俺が繰り返してきた中で、何度も夢見が標的にしてきた存在が目の前に居て、犯行を隠したい対象である俺が別校舎に居る。そんなタイミングを、夢見は見逃さなかった。

 

 夢見は、学園内の無関係な人間──咲夜が犯人探しのために学園内に配備していた人員──を殺害し、その死体を敢えて一般生徒らの目に晒す事で、パニックを引き起こして見せた。

 学園の昼休み、もっとも生徒が出歩くタイミングで突然起きた殺人事件。異常事態の中で咲夜が用意した監視の目など、機能するはずも無かった。

 混乱に乗じて夢見は綾瀬を、繰り返しの中でいつも必ず最初に殺そうとした綾瀬を誘拐して、自身も消息を絶つ。

 

 学園内で自衛のため手配した人間を殺された事が綾小路家の当主(咲夜を溺愛してる祖父)に伝わった結果、咲夜は強制的にこの街から離れる事になり、ナナとノノという武力面で夢見に勝てる2人もいなくなった。別れ際にナナから『お守り』と称した自身のリボンを渡されたが、気休めにしかならない。

 夢見による殺人と誘拐に、警察も当然のことだが動き出す。学園は機能しなくなって俺達はオンライン授業すらしない自宅待機となり、文字通り袋小路となった。

 

 だけど、そう素直に黙っていられるハズが無い。

 このタイミングで仮に自殺でもすれば、また夢見が行動を起こす前まで戻れるかもしれないが、繰り返しが起きる理由が不明な以上、そんな暴挙に走る気にはなれない。

 綾瀬は今もどこかで生きている可能性がある、それなら何があっても助けようとしなきゃダメだ。綾瀬の命は死んでも巻き戻らない、リセットすれば良いなんてゲームだけの話なんだから。

 必要なのは夢見が潜伏していると思われる場所の心当たり。それは既に1つ思い当たる場所があった。

 問題はいつ行動するか。日中は警察に補導されるので不可能、ならば夜に動くしかない。それも大人数では目立つので、少人数──というか、俺だけで向かうしかない。

 我ながら無謀にしか思えないけど、夢見はどの繰り返しの中でも決して俺を殺そうとはしなかった。つまり、大人でも殺せる夢見に対して対話するチャンスを持つのは、この世界で俺だけ。

 もしかしたら、夢見を説得できるかもしれない。そんな淡いなんて言葉じゃ足りないほんのちょっぴりの希望を抱いて、俺は夜中にこっそり家を出ようとした。

 

 そんな俺の行動を先読みしていた渚は、俺が部屋を出ようとした矢先に待ち構えて、自分を連れて行けと言い出した。

 危険な事を充分に理解している渚は、それでも一緒に行くと言って聞かない。

 渚の中にも、俺と同じくほんの少しだけ夢見を信じたい心があった。そしてそれ以上に、俺が万が一帰ってこなかった時に迎えるだろう孤独の方が、夢見よりも怖かった。

 

 悠から始まり、繰り返しの中で何度も何度も失う恐怖を味わってきた俺に、渚を突っぱねる事は出来なかった。

 次にこのドアノブを手に掛ける時は、俺と渚、そして、綾瀬の姿も一緒なのだと心に固く誓って、俺は渚と一緒に家を出た。

 

 そして──玄関の外灯に照らされた夢見に、『こんばんは』と底抜けて明るい声色で声をかけられる。

 

 俺が状況を読み込む前に、何か見覚えのある物を持った夢見の手が伸びて……それが俺では無く、背後に立っていた渚に向かっていたのだと気づいた時には、もう全部手遅れだった。

 ぷしゅ、と渚の首から血が噴き出る音がした。夢見が持っていた鋏の切っ先が渚の首を刺し貫く。

 その瞬間、渚は死んだ。俺の背後で、俺のすぐそばで、驚くほど呆気なく肉と骨の塊と化した。

 

 俺もまた、夢見が用意していた何かで意識を失い、野々原兄妹はものの1分足らずで夢見の手に落ちたのだった。

 

 

 

 ……とまぁ、以上が俺の、野々原縁のこれまでだ。

 いかがだったろうか。自分から見ても波瀾万丈に満ちた人生を過ごしてると思うが、代わりに誰かやってみたいと思ったりする人はいたりしないかな? 

 もし、いるとするなら。どうか、本当に代わって欲しい。

 もう、こんな風に目の前で何度も何度も何度も何度も大切な人が死んでいくのを見るのは、無理だ。無理なんだ。キツい、苦しい。やってられない。

 夢見が来て何もかもが崩壊した、仮に今回また死んだとして、次の繰り返しで夢見を止める事に成功したとしても、繰り返しの起点になった日より前に殺されてる悠は帰ってこない! 

 もう既に、終わっているんだ! 俺が前世の記憶を思い出して、綾瀬と付き合うまでにあったすべての時間と培ってきた関係や思い出、全部がめちゃくちゃになって、今にも頭がどうにかなってしまいそうになる。なんで俺がこんな苦しい目に遭わなきゃダメなんだ。俺が今受けている苦しみは、相応の報いなのか? もしそうだとしたら教えてくれ、俺は何をした。なんで夢見はここまでためらいなく誰もかれも殺せる? なんで夢見は俺を殺してくれない? 

 頼む、誰でも良いから、もう俺を楽にしてくれ、何もかも無かったことにしてくれ、ヤンデレでも良いから、夢見に壊される前の渚や綾瀬達と過ごしたあの日々を返してくれ! 

 それが出来ないならもういっそ、俺を殺してくれよ!!!! 

 

 

 ……なんて弱音も、意識を失ってる泡沫の中でしか吐き出せない。

 きっとこれから目を覚ませば、その時に自分がどんな状況・状態だとしても、きっと打開しようと足掻くんだろう。

 それが野々原縁の──生まれ変わったオレの、数少ない美点であり同時に馬鹿なところだからな。

 

 もはやオレが持ち得る知識ではどうしようもない領域に達してる今、オレにできるのは最後までコイツの味方で居続ける事だけ。

 だから、ここまでオレの長い回顧に付き合ってくれたアンタも、同じように見てやってくれ。よろしく頼む。

 

 ……ん、急に語り部が変わってないかって? 

 別に代わっては無いよ。オレは俺だし、その逆もしかりだ。

 ただ、これだけ最後に。自己紹介を。

 

 オレは、野々原縁の前世をしていた、頸城縁だ。

 どっちも同じ縁でヨスガって読む名前だが、ご縁に恵まれない点も同じらしい。

 いや、本当……笑えないよ、全くね。

 

 

 ──to be continued





新型コロナで苦しんでる間、0年代アニメを見漁ってました
主に目の大きさが今と違いますが、やっぱ良いですね0年代アニメ
とらドラ!とefは人生のバイブルになったかもしれません
今度、true tearsを見ようと思います。おすすめ0年代アニメあったら教えてください

ではでは

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