レーティングゲームの開始日、俺は駒王学園に来ていた。理由は当然ながらもレーティングゲームを見る為だ……だが、俺のような犯罪者が簡単に見れる事は無い
システムへの侵入は簡単だが、バレる可能性がある。だからと言って、バレないように試合を見るのは難しい。なら、バレない環境をつくるだけだ
俺はそう思いつつ、駒王学園へと入る。途中警備員に何か言われそうになるが、俺のただならぬオーラを感じてか、俺に向かってくることをやめた
俺の姿を確認する奴らは、俺の異様さまでは感じ取れないようだが、自分から俺に近寄ろうとする者は一人としていなかった。それほどまでに、俺が歪に感じたのだろう
俺はある部屋の前で立ち止まる。そこの廊下には誰も居らず、中には二人の気配しか感じない。それを知っているからこそ、俺は此処を選んだのだ
俺は迷うことなく、その部屋へと入る。その扉の音に気付いた存在は、俺の姿を見るなり警戒し、戦闘態勢に入ろうとするが……
「やめておけ……今のお前ら如きにどうにかできるほど、俺は弱くないんだからな……」
「……何が目的ですか?」
「なーに。この場でなら静かに、レーティングゲームを見る事が出来ると判断したまでだ。魔王を呼ぶなら呼ぶと言い、その瞬間……お前らの命は消えているだろうがな……」
俺はそう言うなり椅子に座る。俺と対面しているのは、この学園の生徒会長であるもう一人の悪魔、ソーナ・シトリーだ。その横には、女王が居る
メガネをかけたスレンダーな体型をしていて、知的美人と言われれば誰もが納得するだろう容姿。普通なら二度美するだろう見た目にも、颯真は反応しない
「……椿姫。魔力を押さえなさい」
「ですが会長っ!!」
「無駄ですよ……私達がどう足掻こうと、勝てる相手ではありません」
「良い判断能力を持っている……自分の力量と相手の力量を比べる事が出来、自分の弱さを自覚出来るものこそ、本当に強いものだ。誰であろうと警戒する……将来、素晴らしい王となれただろうに……」
「……最後の言葉、どういう意味ですか?」
「言う必要もあるまい。貴様らに話したところで、何一つ変わらないのだから……何、レーティングゲームを見に来ただけだ。誰も殺しやしない……」
俺はそう言いつつ、レーティングゲームの映像を見る。現在は準備中なのか、各王と眷属は部屋でゆっくりと待っているようだ
その様子を見て、颯真は言葉を漏らす
「餓鬼共が、リラックス一つまともにできないのか……」
颯真の言う事は事実であった。お茶を飲んでいるグレモリーと姫島は手が震え、赤龍帝の兵藤はソファーに座りながらそわそわしている。アルジェントは兵藤の横で落ち着こうとするが、成功するに至っていない。唯一、まだ落ち着きのある木場も、少しだけ焦りが見える
そんな素人臭い様子とは裏腹に、ライザー陣営はゆったりとしていた。自分の眷属の女王とディープキスなどをしながら、ゆっくり時を待っている
自分が負ける事は無いと言う絶対的な自信に満ち溢れているのだろう。その様子を見る限り、遊び感覚でしかいないようだ
「サーゼクスも下らない事をする……妹に負け戦をさせて楽しいのか?」
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ、シトリー。このレーティングゲームは簡単に言えば、逃げ道を塞ぐための戦い。ようは最後の仕上げだ。現在の実力でグレモリーおよびグレモリー眷属がライザーを倒す事は出来ない。つまり、やるだけ無駄な試合という事だ」
「……ですが、リアスも修行しています」
「たった10日そこらでフェニックスを倒せるだけの実力を持てるわけがないだろ。倒されれば、諦めもつくだろうと考え、こう言う事を行ったのだろう」
「………………」
「だが、奴らがお前の言う通り修行して、奴を倒すだけの作戦があるのならば、勝機はあるだろうさ」
俺はそう言い、そのままモニターへと視線を移した。俺の今回のレーティングゲームの目的は赤龍帝の可能性を測る為……そして……
「少しは楽しませてくれよ……ライザー・フェニックス……」
サーゼクス side
「やられたね……」
僕はそう言って、苦虫を噛み締めるような表情する。彼がレーティングゲームを見に来ると、グレイフィアから聞いた時に、直ぐに判断して動けるようにアジュカとセラフォルーを連れてはきたが……
「ソーナちゃん!! ソーナちゃん!!」
見ての通りの有様。彼がレーティングゲームに参加するとばかり思っていたのが仇となった……駒王学園の生徒会室に居るのは分かっている
だが、我々に動くことは許されない。そう……特に今叫んでいるセラフォルーにとっては、何倍もの責任感が押し寄せているだろう
ソーナ・シトリーは、魔王の一人であるセラフォルー・レヴィアタンの実の妹。そして、セラフォルーにとって、妹はどんな物よりも大切なのだ
私がリアスを大切にするように、彼女にとってもそう……だからこそ、彼女が許すまでは我々も行動が出来ないでいた……
「どうする、サーゼクス。もう既に相手のクラスはSS級だぞ……もしかしたら、SSS級かもしれない……そんな存在に近くに誰かいられては我々も動くに動けないぞ……」
「分かっているさ。だが、ソーナちゃんが近くに居る限り……」
「ソーナちゃん……」
手詰まり……警戒しすぎたことによる現状に、自分たちの無力さを感じざるを得なかった。そこへ……
『おいおい、四大魔王が三人揃ってお手上げか?』
「っ!!?………………魔狩り」
『久しいな、サーゼクス。お前の女王の体は大丈夫か? あれだけやったんだ……体への負担はデカかったはずなんだがな……』
立体映像として、魔狩りがこちら側に言葉をかけてきた
「ソーナちゃんは無事なんでしょうね!!」
『ん……? お前は、セラフォルーレヴィアタンか……ああ、無事だ。何せ、殺す気は無いんだからな』
「信用できる話ではないな、貴様は悪魔狩りで有名な存在。ソーナ・シトリーを殺さない保証もない」
『ほう、言うじゃないかアジュカ・ベルゼブブ。頭の回転速度だけならば、サーゼクスよりも上だな……安心しろ、今回は観戦が目的だ……目的が終わり次第、シトリーは返してやる』
別にいらないがな、と付け加える魔狩りを見ながら、自分たちは歯軋りをしそうになるほど、悔しさでいっぱいになっていた
『王様らしく、シトリーを切り捨てるのかと思いきや、しっかりと助け出そうとしているとはな……貴様らも、王の器ではなかったか……』
「ソーナちゃんは死なせない!! 私の大事な家族なんだから!!!」
『……く、くくくくくくく……!!』
………………何だ……? 何がおかしい……家族を大切に思う気持ちの、どこがおかしい……!!
『はーはっはっはっはっは!! 他種族を無理矢理眷属化させ、家族と引きはがしている悪魔どもの王が、大事な家族を守ると言いやがる……!! これが笑わないでいられるか……!!」
っ!!………………その言葉に、魔王である僕たち全員が、ばつが悪そうな顔をする……
『……はぐれ悪魔となる者には様々な種類があるが、大抵は三つに絞られる……一つは自分の力に溺れ、他種族全てを蹂躙しようとする純血悪魔。二つ目は主を裏切り、自分の欲望に溺れる転生悪魔……一つ目はほとんどないにしろ、二つ目がほとんどだな……三つ目は……主に強制眷属化をさせられた者の反抗……』
…………僕らは何も言えない。それは真実であり、否定できない事であるから……
『家族を大切にとほざくお前らが引き裂いた家族の元へと帰る為、主を殺して逃げようとする転生悪魔……それを追いかけて殺すお前ら……どっちが屑だと思う?』
……言わなくても、我々はその答えにたどり着いていた
『一貯前に家族が大事だと言うなら、それが言える立場になってからにしやがれ……不愉快だ』
「……今の発言……お前はどう思う? シトリー」
「私が言う事はありません。貴方が言ったことは事実であり、目を逸らすことの出来ない現実です」
「ほう……」
俺は魔王達との会話を終え、そのまま先程の発言についてシトリーに問うと、それが正しいという答えが帰って来たのだ。正直、否定がほとんどだと思っていたが……
「俺の根拠は、その現状を見たからだが……お前は何故、それが正しいと言える……?」
「……純血悪魔の転生悪魔への差別……それを見たからです………………純血が少ない悪魔社会において、転生悪魔はある意味スープで言う灰汁のようなもの……純血と言う綺麗なスープに浮く、灰汁そのものだという解釈が多い……事実、転生悪魔はひどい仕打ちを受け、悪魔の知識を主以外から受ける事は無い……」
なるほどな、それを直に感じたことがあるからこそ、俺の発言を受け止める事が出来たのか……それでもなお、自分がその場に居るという事は……
「お前……悪魔社会を変えるような事を……しようとしているな?」
「……上層部の悪魔の皆様は否定するでしょうけど、私は転生悪魔のレーティングゲームの学校を設立するつもりです。差別を受けてきた転生悪魔の……」
………………初めてだな………………俺が悪魔の言葉を聞いて、感心したという感想を持ったのは………………悪魔の現状を見つめて、それが少しでも改善される方向にもいき、尚且つ悪魔社会に貢献できる夢……
「……俺が言うのもなんだが、素晴らしい夢だな……初めて悪魔に感心した」
「……私も、犯罪者に感心されたのは初めてです……」
「……だが、それが叶うかどうかは分からないがな……」
俺は最後にボソッと、そう言葉を漏らす。確かにすばらしい悪魔だ。俺と言う存在が居なければ、そのような学校が作れていただろう……
悪魔が好きであれば、俺はその夢を応援しただろうが、生憎と運命という物はそう簡単には変えられない
「……そろそろか」
『これより、レーティングゲームを開始します』
「……どのくらいの確率で、リアスは負けますか……?」
「……どう転ぼうが、良くて1割の可能性で勝てる……実質、勝てる見込みなしだ」
体育館へと走る赤龍帝を見ながら、シトリーの質問に答える。奴らの質は、10日前に比べて上がっている。特に赤龍帝は見ての通り、前よりも格段に成長した。だが、それは良くて下級悪魔の上の下程度……
他の奴らも成長はしているが、ライザーを倒すに至るまでにはなっていない。しかも、倒せる力を持っていながらも、それを使わない愚かな存在が居るからな
「……堕天使の力を持っていながらも、それを使わないで戦うか……使えば勝てるくせに、主よりも自分の力を隠すほうを選ぶとは、何とも滑稽だ……」
女王である姫島朱乃を見ながらそう言う。奴が堕天使の幹部、バラキエルの娘だと言う情報は既に得ている。バラキエルは光と雷の混合技を使う戦いをする
二重攻撃は強力であり、堕天使幹部でも指折りだ。そんな存在の娘が、自分の力を嫌ってい封印しているとは、愚かな物よ……
「体育館の戦闘は……何をしたんだ? 赤龍帝は……」
「はぁ……どうやら、服を弾き飛ばす魔法を使ったようです……」
「服を弾き飛ばす……?」
「見ていればわかります……」
俺は頭に疑問しか浮かばなかった。服を脱がす事は戦闘で注意を向ける事は出来るが、それをどうやってやったのかが気になる……
『行くぜ、俺の煩悩の技!!
赤龍帝は、双子の体に触れた後、その部分から魔法陣が出てきて、赤龍帝が指を鳴らすと……
バンッ!!
双子の服が……弾け飛んだ……
「………………」
俺は思わぬ技に絶句……心の中にあったどういった方法なのだろうか、どんな効果が得られるのか……そのような考えが、一瞬にして真っ白になった
『『きゃぁぁぁぁぁぁ!!/////』』
その叫び声で、俺は現実へと引き戻される……想像していたこととは違い、あいつの……赤龍帝の欲望がそのまま表に出ているだけだと判断した
悪魔は欲望に忠実だという事は、何人もの悪魔を殺してきた俺が良く知っているが……あそこまで性欲に忠実な悪魔は見たことがない
「……個性が強いな……今代の赤龍帝は……」
「……あの子の所為で、私達生徒会がどれほど大変だったか……」
ほう、日常生活でもああいう感じなのか……いや、悪魔になって強化されたんじゃないのか?
「毎日毎日、どれほど注意しても次の日にはまた覗きをしているし……しかも、今度は女子更衣室に入るようになってしまうし、生徒会への頼み事はほとんど彼らの物だし……遂には退治の為に生徒自身で彼らに体罰を与えるようになってしまうし……」
………………思ったよりも重症だな……
「止めなくていいのか、副会長?」
「あの状態になった会長は、しばらく何を言おうと意味はありませんから」
溜息を吐く副会長を見て、俺も溜息を吐いてしまった。悪魔は嫌いだが、此処まで来ると同情しか出て来なくなってしまうな
『いやっふぅぅぅぅ!!! 成功したぁぁぁぁぁ!!』
当の本人は、女子の裸を見て嬉しがっているのを、俺は馬鹿馬鹿しいと思いながら見ていた