「申し訳ありません、サーゼクス様」
「いや、良いんだ。もう少しくらいは、席を外しても良かったぞ、グレイフィア」
会議の途中、グレイフィアが戻ってきた。その眼が赤くなっている辺り、かなりの時間泣いていたのだろう。辛さはあれど、それはサーゼクスも同じ
だからこそ、自分も会議には出席しなければならないと言う意志があるのだろう。グレイフィアはサーゼクスの後ろに立ち、そのまま見守る
「でだ、対策なんて言っても、また隕石を落とされればたまらないぞ。タンニーンのブレスが何回も撃てればいいが、あれはデカすぎる。タンニーンのブレスでも消し飛ばせるかどうか……」
「確かにそうですね。それに、彼がまだ本気で戦ったと言う可能性もない以上、此方の手が通じない事も視野に入れるべきです。それに、裏切り……いえ、我々の不手際の所為で裏切るような行動をさせてしまった者達にも、腕利きが数人いるはずですし」
「その点は、あいつは信用してないから、戦力増強とすら思ってないだろうな」
数少ない情報を合わせて、颯真の対策を練って行く。だが、策を考えれば考えるほどに、颯真に通じないと思うようになってきてしまっている
それだけ、颯真のやったことが規格外だという事だ。ガルダは追放したが、奴からはほとんど情報を得られなかったのだから、これ程苦しい事は無い
情報は時に、どんな武器よりも強力な物となる。こちらにはその武器はなく、相手側には情報と人質がいる。戦況は絶望的な状態だった
だが、諦めるわけにもいかない。彼が言っていることは正しい、だが彼がやっていることが正しいわけでは無い。本人も正しいと思っていない
だからこそ、自分達と彼は相容れない。自分が醜く愚かな事をしているのだと、理解しているからこそ、同じ道を歩む事が出来ないのだ
そのことは自分達も分かっているし、彼に協力している者達も理解している。だからこそ、彼らの反乱は止まらない。否、止められない
彼に対抗できるだけの力を持つのは、おそらくこの場ではサーゼクスとオーディンのみ。だが、魔法を捻じ曲げる事が出来るのなら、サーゼクスと手敵わない可能性がある
「奴を止めるには、儂らが正面から受け止めるしかないのかもしれないのぅ」
「オーディン様!! ご自分が何を言っているのか分かっているのですか!!」
「ほっほっ、怖いのぅ。だがのぅ、サーゼクスの妹よ。では、お主に奴を殺す、もしくは止める方法があるのか?」
受け止める。つまり、正面衝突という事だ。大将である颯真を倒せば終わりというわけでは無いのは、この場に居る者たち全員が分かっているはずだ
颯真が死んだとしても、奴らは止まらない。逆に、死兵となってでも自分達を殺しに来る。だったら、全員もろとも殺すしかないのだ
だが、そんな事をすればたとえ成功したとしても、自分達の勢力にも甚大な被害が出ることになる
「無いだろう? ならば、儂ら全員で倒すしかなかろう。たとえ拠点が見つかろうが、人質を得ようが、奴には関係のない話じゃからな」
その通りだ。颯真にとって、この世界のどんな存在も自分以上に大切な者ではないのだ。颯真にとって、悪魔が殲滅できれば、それで終わりなのだから
「………………」
『颯真様、準備が完了しました』
「………………」
『…………颯真様?』
目の前に映し出された部下の姿を見ずに、下を向いて精神統一でもしているのだろうか? 颯真が微動だにせずにいるのを、部下が不思議そうに返す
「……ああ、聞こえてる。あの隕石で多くの悪魔が死に…………世界の『星核』へと吸い込まれた。もう直ぐだ……もう直ぐ、俺の計画は完成する」
『あなたの盾として、我々も全力を尽くします』
世界の歯車はもう止まらない。ヒビが入り、既に元に戻せなくなったそれは、おかしな音を立てながら崩れていく。誰にも……それを変える事は出来ない
颯真は空を見上げ、満天の星空を眺める。きらきら光り、暗闇に満ちた地上を照らしてくれる星を、颯真は険悪な表情で見つめる
そんな颯真の後ろから、カシュッ!! という音が響く。その方向には、水の入ったカプセルに閉じ込められているミリキャスの姿があった
意識がないのか、微動だにせずにいる。先程の音で、颯真はようやく体を起こした
「……完成か」
そう言った颯真の表情は、生まれて今までしたどの表情よりも……憎悪に満ちていた
「おい!! サーゼクス!!」
「……どうしたんだい、アザゼル。何か問題でも……」
「ああ、これだ!!」
いきなり入ってきたアザゼルを少し落ち込んだ声で出迎えるサーゼクス。ミリキャスの事が心配でたまらない所為で、まだ一睡もできていない
その事を知っているからこそ、アザゼルは急いでここまで来た
「ミリキャスの事に関して、魔帝から連絡が入った!!」
その言葉に生気が戻ったのか、サーゼクスの顔が元に戻って行く。その様子を見て、アザゼルも話を進める。手紙の内容はこうだ
『ミリキャスを引き渡す。もう用済みだからな……大空洞の深奥に置いておく。取りに来たければ来ると良い……只、何の障害も無しに連れ帰れるなどと、思っていないよな? 来るメンバーはこちらで指名する。一人でも違うメンバーを選べば、ミリキャスの命はない』
警戒に警戒をして、この手紙を出したんだろう。メンバーは四大魔王、熾天使全員だった。四大魔王が眷属を連れて行くのは許可してある
「どうする気だ、サーゼクス。文章からして、罠があるのは当然だ。ミリキャスにたどり着くまでは大丈夫だとしても、そこから戻るのが難しいぞ」
「ああ。だが、ミリキャスを死なせるわけにもいかない。ここは、相手に従うさ」
サーゼクスは直様、四大魔王と熾天使に連絡。指示された大空洞へと向かう事になるが、それこそ、颯真の狙う事だった
アザゼルは、残った者たち全員での防衛に入る。最強を名乗るだろう者達を集め、防衛を強化しようとする
そこへ……
「忙しそうだな、アザゼル」
「……っ!! お前は意外と暇そうだな……『ヴァーリ』」
「颯真さん……」
グレモリー邸。現在はメイドも執事もいない壊滅状態。リアスの母と父は殺され、ミリキャスは人質へ。精神的には全壺うしか残らない状態だった
リアスは部屋に閉じこもって顔すら出ていない。そんなリアスを慕う眷属達は全員、グレモリー邸で休んでいる
兵藤一誠は、自分の王であるリアスが心配過ぎて、部屋の前でずっと主が出てくるのを待っている。姫島朱乃は、バラキエルとの修行をしていた
ゼノヴィアは、自分の情けなさを悔やみながら聖剣を振るい続けている。ロスヴァイセはまだ治療が住んでいないので、部屋で休憩
ギャスパー・ヴラディは、自分の力の制御に全神経を研ぎ澄ましていた。木場裕香は、修行と恩人である颯真を助ける方法を探し続けていた
そんな中、アーシア・アルジェント一人だけが、何もせずに……只、部屋の中で悩み続けていた
「私は……」
今の自分の中には、一体何が残っているのだろうかと、そう考え続けていた。生物は皆、必ず自分の中に本物の『何か』を持っている
兵藤一誠には『自分だけの王道』。ヴァーリには『最強になる為の覇道』。そして、颯真には『悪魔の居ない平凡な世界への架け橋』
どんな人間にも、自分の中で生み出された道が……目指すべきものが存在する。でも、自分はどうなのだろうか? 今の自分の中には、それが無いのではないだろか?
最初に貰った偽善も、颯真の言い分を着てからは自分の体から抜け落ちて行った……既に、この身には何一つとして、ありはしないのではないだろうか?
「………………」
『—————————』
「えっ? 誰、ですか?」
そんな彼女に、ある『声』が届いていた。だが、周りには誰も居ない。自分以外の気配も感じない。ならば、一体何者なのだろうか……?
その声を聴き、アルジェントが声を出そうとした瞬間……それは起きた
ドガァァァァァァァァァァ!!!!
「「「「「っ!!!?」」」」」
グレモリー邸にいるすべての存在が、それを感知した。山の中へと入り込んでいくその青緑の魔力……それを見て、全員が駆け出す
外へと全員が集まりだした時、そこへアザゼルが飛んできた。後ろにはタンニーンがいる
「全員、良く聞け。あの山の近くから魔帝……颯真の魔力が感知された。サーゼクス達はミリキャスの救出でいない。狙うには絶好の機会だな……だが、魔帝がここまで来るって事は、奴の準備が完了したって事だ……この意味、分かるよな?」
全員が息をのむ。颯真の準備完了。それはつまり……悪魔殲滅の準備が整ったという事に他ならない
「幸いこっちにはオーディンの爺もいる。サーゼクスの帰りを待ってちゃ間に合わねぇ。俺達でかたを付ける」
自分達で……あの化け物を相手にしなければいけない。だが、それはしなければならないのだ。しなければ、自分達は全滅。颯真の勝ちとなる
「作戦なんて考えるまでもない。あいつをぶちのめして、俺達で目を覚ます」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
全員がしっかりとした返事を出す。全員が山の頂上をめざし、そのまま走り出していく。戦争は世界を越え、星の命運を背負っているとも知らずに……
「………………」
颯真は只、目の前の光景を見て立ち尽くしていた。黒い髪は風でなびき、赤と紫の瞳は今までで一掃輝きを増している
目の前に広がるのは、青白い魔力の塊のような物。それも、星の規模ほどの魔力の塊であろう、存在感を放って居る物であった
颯真の周りには、誰一人としていなかった。いつも傍に居る黒歌に白音、はぐれ共。自分が創り出した聖獣までもが居なくなっていた
戦争の為に集めていたその勢力は、一体どこへ向かったのか。それは本人しか知らない。いや……もしかすれば、もう既にいるのかもしれない
「………………お前は何で、俺を否定したんだ……? 何故俺に、普通の生活を送らせてくれなかったんだ……? 俺が不幸にならなければ、世界を保てなかったのか?」
目の前のそれに話しかける。当然、返事など帰ってくるはずもない
「………………世界に平等がないのは知っている。世界に平和が訪れないのも知っている。それでも……人並み程度の人生を送りたかったと……昔は思っていた」
だが、もうそれも終わりだ。これでようやく、役目を終えて死ねる。もう……俺のような存在が生まれないように……人間が巻き込まれない世界であるために……
誰が死のうと知った事ではない。だが…………俺のような存在を生まない世界に変えるために……
「俺はお前達を殺そうと思う……兵藤一誠」
「……いいや、俺は絶対に止める。お前を……この戦争を止める」
「まだ、現実を分かっていないようだな。俺を殺すと言えない所が、お前の弱さだ。俺を殺し、世界を救うと言えないのが、お前の優しさだ」
反吐が出る。俺はこの場に来ている物すべて、その眼で見つめていた。グレモリー眷属にシトリー眷属、アザゼルにタンニーンにバラキエル、オーディン
そして……ヴァーリチーム
「……貴様が来るとはな、ヴァーリ。傷はいいのか?」
「ああ、お前のおかげで俺はまた強くなれた。だが、俺が戦う存在を消されては困るんでな……お前を先に倒させてもらうぞ」
「やってみるがいい……結果は目に見えているがな……」
最後に俺は……アーシア・アルジェントを見据える
「……己の中にある者すべて消え去った者が、まだ俺の前に立ち塞がるのか」
「……答えはまだ出ていません。でも、やる事だけははっきりしています!!」
ああ、そうだ。お前はそう言う存在だよ、アルジェント。誰にも染まらず、己の道を突き進むその姿、あの屑に似ていて吐き気がする
「さぁ、最後の晩餐と行こう……お前らが最後に見る、戦闘だ!!!!!!」