「はぁぁぁぁ!!」
「これでっ!!」
シトリー眷属との戦闘が長めに続く。威力の高い攻撃を得意とするグレモリー眷属とは違い、時間やテクニックを使用して、俺の体力をそいでくる
グレモリー眷属はここぞと言う時の攻撃に備え、自分の最大の攻撃をため込んでいる。俺はその様子を横目で見ながらも、シトリー眷属の相手をする
「はぁ……!! はぁ……!!」
「どうした。息が上がってきているぞ…………それとも、俺の体力を削ぐ前に、お前らの体力の方が消えてしまったのか?」
「(厳しい状況ですね。ですが、此処で足を止めるわけにもいきません。少しでも、相手の足止めをし、リアス達の攻撃につなげる……!!)」
やっていることを否定はしない。奴らなりに考えた良い作戦だ。自分の力の差を埋める為、弱い物が時間を稼ぎ、強い物がその間に倒せる手を用意する
だが、それは相手に悟られては意味をなさない。そして、悟られなくとも…………そこに、勝ちと言う文字が浮かぶわけでは無いのだ
「……準備できたわ!! ソーナ!!」
……何故なら……それは……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
俺を中心に半径10メートルを消滅の魔法が覆い尽くす。どす黒い魔法が俺を覆いつくし、勝てなくとも傷位はと思ったグレモリー達
「……っ!!?」
「攻撃を悟らなくとも、不意打ちに気付かなくとも……それは俺に何の支障もない。お前ら如きの技、俺にはかすり傷一つ付けられないのだから……」
悟らなくともいい理由は、その圧倒的力の差。それにより、相手の攻撃の全てを無効化していた
「……リアスの魔法でも、効かない……!!」
「いいや、本来の場合ならば効くだろうさ。効かないのは、本人の使い方と、魔力の質だ。リアス・グレモリーの消滅の魔法の使い方と質が、俺の体に傷をつけるには及ばなかっただけの事だ」
その原理は、サーゼクスの攻撃によって証明されている。あいつの攻撃は、俺の体に傷をつけるだけの威力がある。それは年月をかけ、生まれ持った資質と、その使い方を完ぺきにしたからだ
まだ、俺とそう変わらない歳しか生きていない存在が、あれと同じような質の魔法を撃ち放てるわけがない。それこそ、俺の様な特殊な人生を送らない限りは、な
「貴様らの偽善の貫きようは、本当に面白い。むしろ感心する……それほど無駄に、助ける意味もない者共を助け、そして助けるべき『はぐれ』を殺す。本当に面白く…………そして醜い」
俺は指を一人のシトリー眷属へと向けて、その指先からある物を撃ち出す。それは黒い閃光……だが、先程とは違い、黒い炎ではない
それは只、相手の体を……
「うっ!!?」
「っ!!? 桃!!」
貫き、消し去る物だ
「神威閃光。指先から撃ち放たれる黒き閃光で、撃ちぬいた部分を空間ごと消し去る。治療は可能だが、臓器まで貫通してたら……治る前に死ぬかもな」
血を吐きながら、膝をついて倒れそうになるシトリー眷属の一人。それをヴリトラが支える。先程、雷光を浴びても元気とはな
だが、相手の精神は削れたな
「光牢」
「っ!!? アーシアっ!!」
「聖女様には、それなりの物でジッとしててもらうよ。仲間を庇いながら、そのまま俺と戦えるほど、お前らは強くないからな。お前らの本気と、今の俺がぶつかれば……彼女は衝撃に耐えられると思うか?」
「お前……!!」
ああ、そう言う目だ。その眼で俺を見ろ、そして俺を憎め、呪え、嫉め……俺はお前らを殲滅し続ける。この世に悪魔と言う種が全員、消え去るまでな
「…………ああ、遅かったな。はぐれの者達にすら、同情でもかけていたのか?」
「そうだ。誰一人として……聞き入れてはくれなかったがな」
俺の背後にアザゼル、バラキエル、そしてタンニーンの三人が立つ。俺は驚きもせず、慌てもせずにそのまま彼らの方向に振り向き、言葉を述べる
「当然だろうさ。何せ、あいつらは悪魔全体に裏切られたんだ。今更和解だと? 信じるものなどいない。今の現状を創り出し、自分の状況が悪くなれば仲直り。馬鹿のする事だろ」
「そそのかしたのはお前か?」
「いいや……俺が好き好んで塵と共に生きる訳がないだろう」
「仲間をそのように言うか、外道のする事は何時でも変わらないな」
「自分の娘と妻が殺されそうになった時、仕事優先で妻を見殺しにしたお前の言える立場か? バラキエル」
「父様の事を悪く言わないでっ!!」
「事実だ。お前もそれに対して恨みを感じ、あまつさえ家族ではないと語ったのではないか? 姫島朱乃。バラキエルが助けに来ていれば、ライザーの時、自分の力をフルに使い、自分の王を全力で助けられたかもしれないと言うのに……いや、それは結果論だな」
いずれにしろ、リアスを狙うライザーの事だ。姫島を無視して、王を狙っただろう
「逆に言えば、グレモリーの望まない結婚よりも、その力を使わない事を望んだ辺り。その程度の想いしかなかったという事か」
「おしゃべりはもういいか? 悪魔街の一つは壊滅。サーゼクス達は、はぐれの対処。だが、お前をここで捕まえれば、それで終わりだ」
アザゼルは光の槍を、バラキエルは雷光を、タンニーンはブレスを準備。他も、俺に集中攻撃できる魔法を用意していく
「あ~あ……思ったよりも早かったな」
「そうだな。お前が想像したよりも、俺達は成長してるんだ。多くの犠牲は出たが、お前を捕まえれば、後はヴァーリ達だけだ。捕まるのは確かに早かった……」
「……俺は一言も……『捕まった』とは言ってないぞ、アザゼル」
早かったとは、俺が捕まる事ではない。その言葉に意味は、直ぐに分かる事となる。一匹の聖獣の声、その声を聴き、視線を向ける
そこには……
「っ!!?」
「ミリキャス!!!」
サーゼクスとグレイフィアの息子、ミリキャス・グレモリーが気絶して捕まっていた
「早かったって言うのはさ、彼が捕まる事と……グレモリーの全滅だよ」
「まさか……!!」
「気づかなかったのかよ。何でサーゼクスの所には戦力があるのに、アザゼル達は簡単にここまで来れたのか。お前らを何故ここで待っていたのか……」
戦力のほとんどを、グレモリー邸に集中して、俺は奴らの交換カードを得た。こちらは、命を捨ててでも抵抗するため、人質交換などはない
「グレモリー家は既に、リアス、サーゼクス、そしてミリキャスのみ。人質としてならば、ミリキャスを使うと言うのも当然だ。さて、俺を攻撃したければするといいし、捕えたければするといい。ただし、そのどれかの行動を一つ、もしくはその他の行動をした場合。俺はあの聖獣を爆発させる」
「……チッ、俺らの動きを読んでたのか」
「いいや、コントロールしただけだ。何、直ぐには死にはしないさ。いずれ殺すが、まだあれは死なせないから安心すると言い」
此処に居る意味もなくなった。この場から消えるとしよう……俺はそう思い、ミリキャスを連れ、そのまま自分の基地へと向かった
まず、第一段階は終了だ。これでカードの一つを手に入れた。後はどのタイミングで、相手をどのように動かすかだ……気を抜いていられない
「さて……こちらの聖獣の0.2%が消えるのは予想外だったな。流石、ヴェネラナ・グレモリー。実力は素晴らしいが、あれだけの量を倒す事は出来なかったか」
グレモリー邸に送り込んだ聖獣達は、良くも悪くも弱くなく強くないと言った程度のレベル。だが、それでもこれだけの数を消された
その点は、感心するほかない。だが、それでもミリキャスを守る事は出来なかったがな。既に、冥界に設置したシステムの起動準備は完了
後は、それを発動させるだけの物を用意する必要がある。その前に、ミリキャスのデータ分析と滅びの魔法の解析、そして時間を考えて置かなければならない
現在は冥界に攻め込んでいた連中は全員避難。既に基地に居るはずだ。次の指示がるまで動かないよう忠告はしておいた
「さて……データ収集が終わり次第……次の手に移る」
悪魔 side
先日の悪魔襲撃により、多くの転生悪魔の裏切りが起こった。それにより、他の転生悪魔と純血悪魔が大量に死亡、既にある意味壊滅状態の冥界
それは、アザゼル達堕天使陣営にも言える事だった。アザゼルがいない間に、堕天使の本部を奇襲、そこもかなりの被害を受けた
幹部はシェムハザと一緒に居たバラキエル以外は死亡。死んでいない幹部もいたが、誰もが重傷で動けないでいた。今は病院内だろう
天使側には何の被害も出ていないが、いくつかの裏切りがあった事。そして、教会が少し燃やされていたことが発覚している
天使側の被害とは、天界の事であり、教会の事ではない。つまり、天界以外にはかなりの被害が出ているという事だ。それは、裏切った者達により、確信できる
「まさか……此処までとは」
「サーゼクスの所のはぐれ悪魔と転生悪魔、ミカエルのとこははぐれ悪魔祓い、俺の所ははぐれ堕天使と神器使い……それぞれの陣営から裏切りが出た。こりゃあ、俺らのミスだな。奴らが裏切らないだけの事を、俺達はやれていなかったってとこか」
魔王達が集まる場所に、堕天使総督に熾天使、そして颯真と戦闘をしていたグレモリー眷属とシトリー眷属、転生天使のイリナ。さらにはタンニーンにバラキエル、そしてオーディンが参加していた
「サーゼクス、お前は別に参加しなくても良かったんだぜ?」
「いいや、そう言うわけにもいかない。僕は父親であり……魔王であるのだから」
心の中ではミリキャスの事で頭がいっぱいのサーゼクス。自分のミスで、自分の子を奪われたのだ。苦しく、悲しい事でしかない
現に今、この会議にグレイフィアは参加していない。だが、サーゼクスは家族も失っている。その時点で、悲しみを通り越しているだろう
それは、リアスも同じことだった
グレモリー眷属は、ミキャリスを連れて帰った颯真が消えた後、直ぐにグレモリー邸へと向かった。そこには、体中から血を流している家族の姿
リアスは泣きながら話しかけるが、そんなものは既に届かない。その場に倒れている物すべて、既に死んでいたのだから
その悲しみを愛する一誠に頼る事で少し精神を回復、現在会議にも参加できている。只、今あの場で一誠を失えば、必ず精神は崩壊するだろう
颯真の天照を受けたロスヴァイセ、神威を受けた桃はこの場にはいない。ロスヴァイセはアルジェントの回復により、命に別状はないが意識がない
シトリーの桃は、体の貫通により空間事撃ちぬかれたために、いまは病院で集中治療を受けている
「私達の所の悪魔祓いも、何人か裏切りをしました」
「ま、神が居なくなって、自分達を騙し続けていた天使に嫌気がさしたってことはあるかもしれねぇな。しかも、聖剣計画の事もある。裏切りはある意味分かっていたことだ」
この場で誰もが……鳴神颯真と言う人物に恨みを抱いているだろう。いや、被害を受けた者達すべてが、そう感じているはずだ
だが、会議に参加している者達は、誰一人として颯真の所為で死んだとは口にしなかった
それは、彼が正しい事をしているしていないの問題では無いからだ
彼のしたことはこの世にとって、許される行為ではないのは分かっている。どんな理由があれ、どんな過去があれ、生き物を殺す事が認められるわけでは無い
だから、彼が正しい事はない。だがそれは、同時に自分達にも言える事だった
彼を支持して、今戦争を起こして反抗している者達は、全て自分たちの不手際の所為で生み出した者達。そして、彼らが戦う理由は自分達がしてしまった罪
強制的な眷属化。聖剣計画の被害者。神器の強制奪取……数えて行けば、きりがないほどにあった
だからこそ、三大勢力は彼らを全力で否定する事が出来なかった。現状を創り出したのは彼であり、そして自分達であるが故に……
「おそらくだが、奴はミリキャスは殺さねぇ。こっちへの交渉材料として、生かしておくだろうな」
「その辺は僕も理解している。殺す気ならば、あの場で直ぐに出来ただろうからね」
利用すると言う手段が一番だと、サーゼクスとアザゼルは言う。それも当然だろう。彼は慎重にこの作戦を進めてきたはずだ
そう簡単に崩せない事も、ちゃんと理解しているつもりだ。だが、負けるという事はあってはならない。曲がりなりにも、彼らも王である
「………………」
『お前は優しい……優しすぎる』『俺はお前らと相容れない』
「っ…………」
木場裕香の心はぐちゃぐちゃだった。誰よりも優先すべき王の主語を貫いた彼女は、悪魔から見れば素晴らしいだろう。だが、彼女にとってはそうでもない
彼を……颯真を止められなかった自分の情けなさ、彼を理解することの出来な無力さが、彼女の心の中で渦巻いているのだろう
助けてもらったから、今度は彼を助けようと意気込んでいた。だが、その想いは泡のように消えた。自分が受け入れようとも、そこに意味はない
悪魔と言う社会そのものが、彼を受け入れはしないだろう。何千、何万という悪魔や人、堕天使に天使を殺した人物を、誰も受け入れはしない
そもそも、彼自身がそれを望まない。だからこそ、何が正しいのか、今の木場には分からなかった
他の作品なども、見て下されば嬉しいです
これからもよろしくお願いします