アザゼル side
おいおい、恐ろしいな。これが俺よりも若く、経験の薄い存在の出せる殺気か? 思わず、光の槍を構えちまったぜ……これが、魔帝・鳴神颯真
ヴァーリをあしらっただけの事はある
「……ぐ……うぐっ……!!」
「……なるほど……流石はソーナ・シトリーの眷属を名乗るだけある。膝をつき、体の自由が効かなくなっても……俺に取り付けたこの拘束を外さないとは……口先だけの悪魔とは違う……」
よく言うぜ。拘束なんてのは言葉にしただけだろう……お前ほどの実力者が、その程度の物を拘束と呼べるはずがねぇ……殺気一つで、コイツ等の自由を奪うくせに……
「それに……他にも優秀なのが居る……」
奴の視線の先……あれは、教会の所のデュランダル使い……あいつ、ギリギリで立ち上がってやがるな……
「当然、だ……お前の殺気は……昔一度……受けたことがある……!!」
「そうだったな。あの時、お前が聖剣を回収しに来たんだったな。もっとも、あの聖剣は何の役にも立たなかったが……」
デュランダルの効果を利用して、その力を纏って立ち上がってるのか。やるじゃねぇか……
「俺と対峙したことのあるデュランダル使い。そして、俺が王に相応しいと感じたシトリーの眷属。目的は果たせそうだが、デュランダルのデータは回収済みだ」
なんだと……!! あいつ既にデータ回収を済ませてるのか……!!
「あのハーフヴァンパイアは後にして……お前からにするか」
「な……に……!!」
「万象天引」
「うぐっ!!?」
何だよあれは……あいつ、シトリーの所のヴリトラの小僧を自分の所に引き寄せやがった……!! 一体どういう原理でやったんだよ……!! 重力を操るにしても、相手そのものを引き寄せるなんて……
「……お前の
「……匙を……離せよ……颯真……!!」
「少し黙れ、赤龍帝……貴様のような
「がっ!!? あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「っ!!? 匙……!!」
「心配しなくてもいいさ。こいつの
この場を簡単に見逃す訳にはいかないよな……!! 俺はそう思って、もう一度光の槍を構え直そうとするが……
「ぐっ!!? 動けねぇ……!!」
「お前に動かれると、こっちは迷惑なんだ……そのまま、その場にとどまっていてくれ……」
くっそ!! こっちの動きは把握済みかよ……!!
「元々、お前の
「がぁぁぁぁぁぁ!!……ああ……」
「データ回収完了。赤龍帝……貴様の言う通り、ヴリトラの餓鬼は返すぞ……」
糸の切れた人形の様に、ヴリトラの小僧は、地面へと倒れ込んだ。糞が……!!!
「らぁ!!!」
「っ!!…………驚いたな。お前が俺の天道を無視して攻撃するとは……アザゼル」
「これ以上、未来ある者達を傷つけるわけにもいかねぇだろ。悪いが、これ以上暴れるなら……」
「いや………………元々、先程のようにデータ回収が目的だ。今回の目的……ハーフヴァンパイアを諦めることになるのは癪だが、致し方ない……だが、アザゼル。お前とて……自分の所は被害がなかったなどと思っていないな?」
「何……!!」
それはどういう意味だ……!! 魔帝……!!
「俺は元々、全勢力に対して監視を出していた。特に、貴様の所の堕天使陣営にはな……お前のおかげで、様々な武器のデータなどが手には入った……感謝するぞ、アザゼル」
「お前……うちにスパイを……!!」
「いいや、スパイなんかじゃない。只の幻術だ……貴様の所の堕天使を操り、データを手に入れただけの事……何、その堕天使は殺していないから安心しろ」
もっとも、そいつが生きているかどうか……そんなの俺には分からないがな……たとえ、そいつが死んでいたとしても、俺には関係のない事だ……
だが、俺も少しミスをしたな。此処にこれ程までとどまる気は無かったのだが……
「……まぁ、いいさ。此処で貴様と会うのも、悪い事でもないだろう」
「そうかしら? あなたは此処で倒されるかもしれないわよ」
「ありえない過程だな。アザゼルはともかく、貴様ら如きに負けるほど、俺は弱くないんでな」
話しすぎた所為か、奥の方からリアス・グレモリーが来る。殺気を押さえていることもあるのか知らないが、他の奴らも立ち上がれるくらいにはなっているな
それにしても……愚かな王は、これ程時間が経とうと何も変わらないんだな……その相手に勝てると思い込んでいる頭、どうなっているのか気になるくらいだ
「私達は只の雑魚だ……そう言いたいのかしら?」
「ああ、そうだ。俺からすれば貴様ら等、その辺に転がっている石ころ同然」
「言ってくれるわね」
「事実だ。たかがコカビエル如き、一人で倒せない存在は俺にとって塵でしかない……それにしても、赤龍帝。これが貴様の王か? レーティングゲームで見た時よりも、愚かさが増したな。貴様らに助けられて、調子に乗っているのか?」
前のレーティングゲーム以降、この場に居る者の質は上がっている。だが、それはドングリの背比べ。そこまで変わってなどいない
またライザーと戦っても、赤龍帝が禁手に至れていない時点で、その結果は見なくても分かる
「王として失格の愛情深きグレモリー。貴様にとって……王とはなんだ?」
「……眷属を守り、そして導く者よ」
「そうだ。王とは民を……眷属を守り、そして眷属を導かなければならない。だが、その点で言えば貴様は不合格だ。何故だか分かるか?」
「……力が不十分……」
「いいや、そんなものは関係ない。王は非力であろうとなる事が出来る。貴様が不合格なのは、眷属の想いに答えられていないと言う点だ。あのレーティングゲームでそれが俺には分かった。貴様は自分の為に努力してきた自分の眷属の想いをぶち壊したんだ」
「……!! そんな事……!!」
「していないと? なら、貴様は自分の汚点に気付けない塵だ。あの時、何故棄権などしたんだ?」
「それは……一誠がボロボロになるのを、見ていられなくて……!!」
「見ていられない程度で、貴様はそんな事をしたのか? なら、貴様が間に入り、戦えばよかっただろう。その間に、アルジェントが赤龍帝を回復させることもできた。何故、お前の眷属がお前の為に戦った? お前があの雛鳥との結婚を嫌ったからだ。その為に修行し、そして挑んだのではないのか?」
「………………」
「そんな眷属の事を無視して、自分は戦わずに諦めて棄権した。眷属の想いを踏みにじった。危険するくらいなら、最初からレーティングゲームをする必要はなかった。それが分からないお前ではなかっただろう」
事実、自分と相手の都の力の差が分からないグレモリーに、このようなことを言っても無意味だろうがな……
「間違っていると思うか、俺の言い分は?」
「………………」
「沈黙は肯定。だが、安心しろ。お前よりも自分の力を隠すことを優先した屑もいるからな……お前も、それについては知っているだろうがな……」
姫島朱乃。堕天使の光の力を受け継ぐ存在。しかも、父親は堕天使陣営のバラキエル。なのに、あいつは光を使う事を嫌った
過去に何があったかは知らないが、その力を使わない代わりに、グレモリーの婚約を取ったような物だ
「知りもしないくせに知ったような事を言うなと言いたいだろ? だが、事実だ。お前の婚約よりも、あいつは自分の力を隠す事を選んだ。だが、それが普通だ。誰であれ、自分よりも他人が大切なんて事は無い。今回の婚約でそれが分かっただろ……いや……二人だけ、それが違うと証明した奴が居たな」
俺はグレモリーの後ろに居る兵藤一誠とアーシア・アルジェントを見てそう言う
「……長居をしたな。本来なら、ハーフヴァンパイアをもう少し見たかったが、もう時間切れだ」
俺は神威を使う事により、その場をすぐに退いた。言われたことの事実により、グレモリーはしばらくその場から動かなかったらしい
「これでいい……」
最終確認であるその存在を見て、俺は研究室を出る。ようやく、その時が来たと、周りはそう感じただろう。だが、奴らを向かわせはしない
「お前らには言って置く。今回の襲撃は俺一人で行く。奴らは俺一人での戦争だと思っているだろうからな。時が来るまで、お前らにはまだここに居て貰うぞ」
全員が驚くが、誰一人としては反対する者はいない。それは俺が決めたことに従うと、そうコイツ等が勝手に決めただけだ
「俺の長年の願いだ。この世から悪魔と言う存在を根元から消し去る。只……只それだけだ……この戦争で俺は死ぬだろう。勝ったとしてもだ……俺は悪後いう存在を消し去った後、自分で死ぬつもりだ。生きる意味はない……この世界に他に興味がわく者もない。お前らが死のうと悲しみはしない……だが、死んだらあの世で会えるかもな」
俺はその場に居る者すべてを見渡しながら、その言葉を宣言する
「宣戦布告だ」
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
空へとその雄叫びは舞い上がり、大地は震える。誰よりも世界を否定し続ける男の、戦争の開幕が始まろうとしている
会談……この間データを手に入れた場所で、それは行われる。そう聞き及んでいた。だから、俺はその場所へとゆっくり進んでいた
だが……既にそこは戦争状態の様な物、それを予想できなかったわけではない。
だが、攻撃している顔を見て思う事がある。ある魔術師の集団であることは当然だとしても、その場に居る悪魔どもは何なのか……
いや、魔法陣だけを見ればわかる事だが……相手は旧魔王の物だろう。
「中にも数人いる……カテレアが侵入したようだな」
旧魔王は、正直いう所眼中にない。あいつら昔の事を出してくるだけで、実力だけで言えば現在の新魔王の方が勢力的にも強い
オーフィスという後ろ盾を得られたから、今こうやって争いを続けられるのだろう。普通ならば、魔王に殺されて終わりのはずだ
あの甘い魔王達の事だ。どうせ、彼らを殺せはしないとかいう理由で、攻撃をしていないのだろう。だが、現在の状況ではそうも言っていられない
だからこそ、もう見逃せはしない。プライドの高い旧魔王は投降などしない。つまり、殺されて終わりというだけだ。外に居る者も同じ
カテレアだけならば、こんな事が出来ないのも頷けるが……中にスパイがいるな……
「どのみち、死ぬ命に興味はないが……」
俺は手を上に掲げ、それを合図と受け取り、空間が歪んだ場所から聖獣達があふれ出てくる。聖魔剣を参考に作り上げた下級聖獣。毛並みが黒と白で作られている。聖魔獣とでもなずけようか
「っ!! 誰っ……」
「がぁぁぁぁぁ!!」
「ひゃぶ!!?」
攻撃をしている魔術師共も巻き込むが、此方に被害が無いのならば構わない。少しして、窓の外へとアザゼルとカテレアが現れる。その様子を見ながら、俺は聖獣達を出し続ける
連れてきた分はすべて出した。後は、俺が増やす
だが、創り出していた聖獣達が目の前で一瞬にして消えた。その原因を見た俺は、ため息をつきつつ質問をする
「俺に何の用だ? ヴァーリ」
「あの時の再戦だ。あの時は逃げられたが、今は逃げないのだろう?」
「貴様を消せば、少しは楽に仕事ができるだろう」
「そう来なくてはな、赤龍帝は期待外れだったからな。お前以外に、楽しませてくれる奴が居ない」
「そうか、俺にはどうでもいいことだ。お前がどういう存在であれ、関係がない。さっさと倒されてくれ……お前らみたいな雑魚共の相手は嫌いなんだ」