その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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5・6巻目の内容に入ります。今更過ぎますがネタバレ前提ですのでお気を付けください。
あ、それとオバロの円盤特典小説読まれた方へ。アルベド嘗めてました。最終話までのプロットは修正できないというか特典のコレ順守するとぬえが不味いので、小話アルベドのままをお許しください。


正体不明の審議

 ─ナザリック地下大墳墓第九階層・ぬえの私室─

 

「モモンガさん、パンドラにしばらくモモンやらせるって本当?」

「え? ええ。私の設定通りに演じ切れたのでこれはいけるなと。宝物殿管理もあるので、日程はこれから組むと言った段階ですが」

 

 アインズとぬえのいつもの団欒。

 互いの報告会や反省会も兼ねているので、仕事の話も頻繁に飛び交う。

 今日はやけに上機嫌な様子のぬえがアインズに喜々として質問するところから始まった。座っているベッドから身を乗り出すようにしている辺り、相当興味津々といった様子だ。アインズが肯定すると、ガッツポーズを取り翼も上機嫌に伸びる。

 

「じゃあしばらくナザリックにいるってことだよね!」

「そうですね、可能な限り羽を伸ばそうかなと」

「私王都行っていいかな!?」

「駄目です」

 

 あ、ずっこけた。

 見ていて実に面白いリアクションにアインズが笑う。

 最近、ぬえの翼がどういう感情を表しているかわかってきた気がする。本人に教えたら面白くないので黙っておこう。こないだの椅子黙ってた仕返しに丁度いい。

 

「なんでさー!」

「大体予想着くんですよね、ぬえさん王都にほっぽったら王都で怪奇現象の噂が広まるとか」

「うっ」

「図星ですか。安全面以前にセバスの任務に支障が出たらどうするんですか」

「ぬ~~」

 

 アインズの言葉に言い返せない様子で、ぬえが悔しそうに唸る。

 上位者としての振る舞い意識だとか、若干の幼児化(種族や性別だけでなく、見た目少女の肉体というのも精神を変質させているのではないかとはぬえの自己分析)も垣間見えるのでアインズもすっかり忘れかけていたが、こいつはるし★ふぁーのコンビだったのだ。

 

 正直、かけられた迷惑はあげればキリがない。RPしてない時は真面目な男性だというのにRP開始したとたんただのクソガキ迷惑プレイヤーと化すのだから。

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカを本物とすり替えようとしたドッキリは未然に防いだが全員で叱り飛ばしたほどだ。

 

 そんなわけで王都にコレを開放すれば「封獣ぬえっぽくいこう」と派手に暴れることは想像に難くなかった。ぬえからすれば聖に入門した後だから少しは大人しいと反論はするだろうが、アインズはそんな設定もちろんしらない。

 

「そういったわけですから、デミウルゴスの所かカルネ村程度にしてください」

「カルネ村は悪戯禁止じゃないか……」

「ちゃんと父親のいう事は聞きましょうね。ヌエ・ホージュ・ゴウンさん?」

「げっ、どこから!?」

「ルプスレギナは優秀ですよ」

「おのれルプー! 失望したぞ!!」

 

 カラカラと笑う骸骨に、弁解しようと必死な妖怪。人間からすれば異様だが、ナザリックからすれば微笑ましい平和なひと時だ。モモンの名声をアインズ・ウール・ゴウンに移す時、余計なハニートラップを防止する目的に役立つだの更なる囮として役に立つだのといった言い訳をアインズが楽しく聞き流していると、不意に糸が繋がるような感覚がした。〈伝言(メッセージ)〉が届いた証拠だ。

 

≪アインズ様、ソリュシャンです≫

≪どうした? 一体何事だ?≫

 

 〈伝言(メッセージ)〉の送信相手は、今王都でセバスと情報収集の任務に就いているソリュシャンからだった。彼女には緊急連絡用の〈伝言(メッセージ)〉のスクロールを所持させている為、それが使われたことは間違いない。

 そしてアインズが想定している緊急とは、シャルティアを洗脳した組織の手の者による接触だった。アインズの雰囲気は自然と厳しいものへと変わり、目の前のぬえも驚いている。

 

≪異常事態なんだな? 何があった≫

≪実は──≫

 

 一瞬、言いよどむかのような沈黙。緊急であるならばその一瞬は許されない無駄だ。であるならば、アインズが想定している要件ではないのか。僅かな間でアインズがその可能性に至った時、そんな思考全てが吹っ飛ぶほどの衝撃がソリュシャンより伝えられた。

 

≪──セバス様に裏切りの可能性がございます≫

「はぁ!?」

「うわっ何!? 何!?」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ソリュシャンからの報告は次のようなものであった。

 

『ある日セバスがツアレと名乗る女性を保護した。彼女はただ生きてはいるというほど酷い状態であったのでセバスがソリュシャンに治療を命じた。しかし、ナザリックへそれの報告をすることを差し止め、そのまま彼女を無断で庇護下に置いた。結果、その女性の所有権を主張する男に館に踏み入れられ、恫喝を受けた。しかしセバスはそれでも報告することなく、解決するとして独断行動に走っている。任務を半ば放棄しているとも言える状況に、セバスの忠義に疑問を抱いた』

 

 報告を聞き終えたアインズは真っ先に玉座の間へ向かった。玉座に着いてマスターソースを表示し、セバスの名前を確認し終えると、安堵の息をつく。

 

 シャルティアのように、セバスの名前は変色していなかった。

 つまり、精神支配を受けている線はこれで消えたということだ。しかしその場合の裏切りとは、セバスが自らの意思で離反したということになる。ありえない、とアインズは思った。

 

(セバスはたっちさんが造ったNPCだぞ。裏切るなど設定でもあるとは思えん。やはり、たっちさんの性格が反映されただけとしか)

 

 困っていた人を助けただけ。

 たっち・みーの性格とソリュシャンの報告を併せて、アインズが行きついた結論がそれだった。

 報告として挙げなかったのは問題だが、私情で行動してしまった故に仕事と無関係と判断したならば、ある種納得も行く。守護者やぬえの反応が過敏なだけだとアインズは思う。

 今、緊急事態であるとしてぬえがデミウルゴスに帰還要請を飛ばし、セバスが提供した資料を改めて確認している。到着したデミウルゴスは憤怒と殺意に塗れており、正直ぬえが応対してくれている事が有難かった。そのぬえも明らかに苛立った様子だったのが気になるが。

 

≪モモンガさん、確認が終わりました≫

≪ぬえさんですか。どうでした?≫

≪デミウルゴスとここ数日分の報告を再度確認していましたが、報告を怠ったという意味においてはクロです。王都内の噂レベルまで記載されているというのに拾ったという女性については一切明記されていません≫

 

 ぬえのRPが剥がれている。

 アインズの前では別に珍しくはないが、事態を深刻に受け止めている証拠でもあった。

 

≪セバスに直接確認を取った方がよさそうですね≫

≪はい。それとですね、その審査は厳格にした方がよろしいかと≫

≪ぬえさん、セバスを作ったのはたっちさんですよ?≫

≪わかっていますよ。私だってセバスを疑ってはいません。疑っていませんがこれは明らかに彼の失態です。そして今回の疑惑を知った者が凄まじくピリピリしています。相応の形式がなくては、その場で納得されたとしても不和を残す危険があります≫

 

 アインズはようやくぬえの苛立ちが理解できた。

 セバスの罪は、シャルティアの一件があるにも関わらずこうして『ナザリックのシモベが離反する可能性を至高の存在に認識させてしまった』と他のNPC達に思わせてしまった可能性。アインズが一番悲しむであろう、NPC同士が殺し合う危険性を作り出してしまったことだ。報告したのはソリュシャンではあるが、ソリュシャンがそういった疑惑を抱いてしまうほど、今回のセバスの行動は悪手だったと言える。

 

≪ぬえさん、ちょっと落ち着きましょう≫

≪……ナザリックが内輪で争うなんて嫌ですよ私は≫

≪本当豆腐メンタルですね。たっちさんとウルベルトさんの喧嘩も当初本気で怖がってましたっけ≫

≪……≫

 

 返事がない。あんまりつつくと、デミウルゴスの前で泣きそうな予感がしたので自重することにする。なによりこれ以上はぬえの地雷になっていてもおかしくない。ウルベルトの引退に最も傷付いたのはぬえだったからだ。

 ともかくぬえの意見も正しいので、しっかりとした審査は必要だろう。ただの問答で済ませるわけにはいかず、テストが必要であった。最高支配者として、ぬえが恐れる種を解消せねばならない。

 

「……全く思いつかん」

 

 行き当たりばったりがほとんどのアインズだが、だからといって即興でそういった事を考えることが得意というわけでもない。5分ほど、アインズが懸命にその頭脳を──頭蓋骨の中身は恐らく空っぽなのだが──回転させていると、扉が開かれ、ぬえが入ってきた。その後ろにはヴィクティムを抱えたデミウルゴスが、更にコキュートスにパンドラズ・アクターも続いている。

 どうやらアインズが考えるまでもなく、ぬえ達の方でセバスへのテストは決まったようだった。

 

「アインズ様、件の事でご提案が」

「……なるほどな、面子を観ればわかる。考えたのはぬえさんか」

「方針は。ただ、念の為とデミウルゴスが譲らなかったので」

「不敬は承知の上で、パンドラズ・アクターによる影武者とヴィクティムを併せた保険を進言させていただきました」

 

 アインズは別に、何もわかっていない。支配者として知ったかぶっただけだ。だが、面子だけをみて全てを察したようなその発言はデミウルゴスらに感嘆を抱かせるに十分なものだったようだ。非常事態故に、ピリピリとした雰囲気こそ消えていないがアインズには守護者達の目が輝いているのがわかった。何故かその中にぬえも混じっていたが。

 

「影武者か……」

「やはり、裏切りの可能性がある以上、アインズ様やぬえ様に万一の危険が及ぶ事は防ぎたく存じます」

「……」

 

 アインズは30回以上練習した動作でゆっくりと玉座より立ち上がる。

 そのままぬえの正面まで歩き、守護者達を見回した。

 

「お前たちの恐れは全て理解している。その上で言わせてもらおう。お前たちは心配しすぎだ。セバスが裏切るなどソリュシャンの誤解にすぎないだろう」

「しかしアインズ様。セバスが無実だとしても」

「ぬえさん、それ以上は言わなくていい。何より、貴方らしくない」

 

 ぬえの肩に優しく手を置く。らしくないというのはRPの話だ。素の状態もよく知ってはいるが、RPをやりたがる調子に乗った状態がアインズにとって好ましい。ぬえがシリアスしてくれるせいで空気が一段と重くなっている。

 

「デミウルゴス、私は杞憂だと確信しているがお前たちも安心が必要だろう」

「恐れながら、危険因子は全て排除したく」

「わかっているとも。パンドラズ・アクター!」

「ここに」

 

 アインズに呼ばれたパンドラが、カッ、と良い靴音を響かせて姿勢を一層正す。当初はあれほどやめろと念押しした敬礼を結局変わらずしているが、今のアインズはさほど気にしてはいなかった。生きた黒歴史という印象が強かったが、今では本当に息子の様な気分になっているのだから不思議だ。

 

 ドイツ語だけは禁止しているのだが。

 

「お前ならば、完全に私を演じ切れるだろう。私が信じているセバスの忠誠、その確認を頼んだぞ」

「承りましたアインズ様! 完璧に、実行して参ります!」

「ではぬえさん以外はセバスがいる館に待機しろ。ソリュシャンにも連絡を怠るな」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 パンドラがアインズの姿に変身し、デミウルゴスらと共に転移した後、アインズとぬえは2人で玉座の間に待機していた。移動が面倒だった訳ではなく、マスターソースを終始確認する為だ。変化が起きない事を祈りながら待つ。しばらくして、アインズの頭に≪伝言≫が繋がる感覚が響いた。

 

≪アインズ様、セバスが戻ったようですのでこれよりテストを始めます≫

 

 声はアインズ自身ではあったが故にパンドラだとわかる。

 今のパンドラはアインズの8割方の力を発揮できるので、威力はともかく魔法もアインズが修めたものを自由に使えるというわけだ。

 

≪任せたぞパンドラ。それとデミウルゴス達が独断でセバスに攻撃する事態は防げ≫

≪承りました。慈悲深き主君として振舞えば当然の事でしょう、独断専行は許させません≫

≪……どちらも俺の声というのは違和感があるな≫

≪今の私はアインズ様でございますから≫

≪そうか、さすがはアインズ様だな。重ねて言うが、任せたぞ≫

≪お任せくださいアインズ様≫

 

 〈伝言(メッセージ)〉が途切れるとアインズは玉座に体重を傾ける。無意識に上半身を浮かせていたからだ。そして自画自賛する。会話だけで精神が削られた頃と比べたら、素晴らしい進歩だと。ギルドの仲間以外で多少素で話してもよく、更に絶対的に信頼できる存在がいるのだと認識を改めてからは、アインズにとっての黒歴史などパンドラの個性として受け止められる。全く刺激されないと言えば嘘になるのだが。

 

「パンドラから?」

「ええ、後は彼らがしっかりやってくれるでしょう」

 

 そのパンドラとの関係を改善させた切っ掛けは落ち着きがなくそわそわしていた。

 いや、上位者らしく落ち着こうと努力しているのは表情でわかるのだが、翼が全く落ち着きがない。

 

「ぬえさん、大丈夫ですから。気にしすぎです」

「うー」

「それ封獣ぬえじゃないですよね? 絶対」

 

 この数分後、最寄りに転移し急いだのだろう、アインズの姿を取ったままのパンドラが玉座の間までやってきた。元の姿に戻って跪いたパンドラから報告される。

 

 セバスの忠誠に偽りなし、無罪であると。

 

 ぬえがその瞬間パンドラに駆け寄り、肩を掴んで繰り返し確認。

 鬼気迫る様子のぬえに驚きながらもパンドラは、全員が無罪を確信したと改めて報告した。アインズが止める間もなくぬえは歓喜のあまり彼に抱き着きはしゃぎだし、パンドラは生涯二度目の完全硬直を起こすこととなる。なお、どこから漏れたかわからないがこの出来事がナザリックのシモベに伝わった結果、ナザリック非公認番付組織にて『思わず殺意を抱く同僚』堂々のNo.1にパンドラの名前が記されることとなったのだが、それは別の話である。





こういう絶対という言葉が頻繁に使われる組織は、疑惑を生んだというだけで許されないものです。トップが言葉でだけ無罪を通達しようがしこりが残る為、相応の形が求められます。原作でデミウルゴスがあのような形で審査したのはその万一もないという状況に戻したかったというのがあるでしょう。ある意味でセバスを信じていたのかもしれませんね、セバス有罪となった時がナザリックNPCにとっての地獄ですから。

ウルベルトとたっち・みーの喧嘩はアインズの感傷から楽しい思い出と悲しい思い出の2つがあるっぽいんですよね。やっぱりこの2人から絆ブレイク起きたんだろうか。

あとパンドラは役得。このSSではパンドラを優遇しております。

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