その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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ナザリックNPC達の視点中心


正体不明の小話

 Case1.『デミウルゴス』

 

 聖王国領土内に近い、亜人種が常に争う荒地。アベリオン丘陵。

 その占領区画に建てた天幕内で、デミウルゴスは己の趣味に没頭していた。

 

「やはり、見立ては間違いではありませんでした。身長120cm前後の男、その大腿骨は最良の選択でしたね」

 

 新たな骨材を組み込んだばかりの、骨組み椅子を前にデミウルゴスは満足げに微笑む。

 このままいけば、敬愛する死の超越者に相応しいものが完成するだろう。

 封獣ぬえのアドバイスも参考にして、肘掛けにも新たな調整を施したが、そのアドバイスはまさに的確なものだったと改めて思う。

 

「さすがはウルベルト様の御親友で在られる至高の御方……次の報告会が待ち遠しい」

 

 別の製作途中である椅子に身体を振り向かせ、その空白の椅子に向かって深く一礼する。

 完成時に座るべき、偉大なる主に向けての敬意の現れであった。

 

 完成間近でもあるその椅子からは不定期に音が発せられていた。

 素材が奏でたものは耳に心地よく通り抜けてくれる。

 

 治癒魔法が死を強く望むものには効き辛くなる問題には、さすがのデミウルゴスも頭を悩ませたものだった。しかし、ぬえの提案したアートのなんと難しいことかと苦慮しながらも、高まる創作意欲はとても心地よいものだった。

 完成直前での防腐剤の投与タイミングを逃さないよう場を離れられない状態だが、警戒の都合で天幕内で仕事することになっている。仕事用BGMすら提供してくれるコレはとても有難いものでもあった。

 

 今度こそ、完成するだろうという期待。

 その時に得るはずの達成感を想像するだけでも気分が良い。

 創作とは、本当に素晴らしいものを与えてくれる。

 

 素材が出す音色を受けながら、デミウルゴスは回想する。最初に挑戦した時の失敗を。

 製作途中はもちろん楽しいものだったが、完成したそれはとてもじゃないが贈り物としての形にはならなかった。次も失敗した時は悔しい思いが去来した。

 

 そんな気持ちを含め、先日の報告会でぬえに私事として語った時、彼女は共感するように頷いてこう返してくれた。

 

『デミウルゴス。傑作というものはね、幾度も挑戦するから生まれるんだよ』

 

 ぬえは語った。トライアンドエラーはぬえはもちろんウルベルトも通った道だと。

 時には妥協という敗北を味わったこともあるが、勝ち取った達成感は安酒を美酒に変えたという。

 

『人間オルガンの製作者もね、常に諦めない姿勢で挑戦し続けたんだ。臓物を鍵盤にする苦労と努力は称賛されるべきだ、そうだろう? 死体をオルガンの建材にするのが一番簡単だ。だが彼は生きたままオルガンにすることを諦めなかったんだ!』

 

 その彼が誰か、とまではぬえは言わなかったが、自分の創造主も語っていた記憶がある。

 至高の41人である2人が敬意を向ける相手なのは間違いなかった。

 古代書物という単語も記憶にあるので、歴史上の天才芸術家辺りだろうと見当をつけている。

 

「そうか。決して諦めないからこそ、ウルベルト様達は脅威に立ち向かわれたのか……」

 

 はっとする。どれほどの頂に位置する存在なのだろうか。

 今の今まで捧げてきた忠誠でも足らない。更なる忠誠を、一層の忠義をとデミウルゴスは心に誓った。

 

「いずれ帰還するであろう、ウルベルト様に相応しい座も作らねばなりませんね……」

 

 牧場の機材ももっと増やす必要がある。

 デミウルゴスは、終わりがない愉悦を実感しますます笑みを強くするのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 Case2.『アルベド』

 

 ナザリックの運営に関して、アルベドは今日も忙しい時間を過ごしていた。

 平時であらば守護者統括の地位でありながらも余裕のある仕事量しかない。

 だが、シャルティア精神支配事件を受けての常時警戒態勢、現在進行中のリザードマン襲撃計画による守護者達の出張、これらに纏わる全てをアインズやぬえが報告書2,3枚読むだけで済ませるレベルに纏め上げるのは中々骨が折れる作業だった。

 

 しかし、至高の41人……特に絶対の支配者アインズの為ならば全ての苦労も喜びである。

 アルベドは、担当メイドが感心するほどに、文字通り完璧に本日分の業務を終えていた。

 

「後は、これをぬえ様に提出すれば良いわね。アインズ様は、またエ・ランテルでしょうし」

「ぬえ様も帰還されて日も浅いのに苦労されていますよね。デミウルゴス様の担当される部分がぬえ様の管轄、という話でしたのにアインズ様がナザリック外で活動されていますから」

「その御負担を少しでも軽減する事が、私達の務めと心得なさい」

 

 微笑みを絶やさず、しかし厳しくメイドに指導を入れる。メイドは恥じ入るように頭を下げた。

 アルベドの忠誠とそれを結果として示す能力はナザリックでもトップクラスだ。

 

「ああ、アインズ様早くお帰りにならないかしら? パンドラズアクターにあんなご寵愛を与えたのですから、私には、く、くふふふ……!」

 

 これさえなければとメイドは内心で肩を落とした。

 アインズへの狂愛がアルベドの魅力も能力も台無しにしているが、彼女にそれを直接進言できる部下はナザリックにはいない。

 ぬえですら、半ば公認のようにアルベドの愛をフォローしているのに誰が彼女を止められようか。

 

 そういえば、とメイドは以前より感じていた疑問を思い出す。

 実務も一段落して妄想に耽る守護者統括を引き戻すのは躊躇われたが、最後は好奇心が勝った。

 

「アルベド様がアインズ様とぬえ様の事での態度に疑問が1つあるのですが」

「あら、なにかしら」

「その、至高の御方同士の交流を明らかに推奨されていますよね? 不敬故はっきりとした表現は用いることができませんが、アルベド様はアインズ様がぬえ様の寝室に足を運ばれるたびに何かを期待しているような……」

「ああ、そのこと?」

 

 メイドの疑問によって現実に帰ってきたアルベドは「そういえばこの計画はまだ、デミウルゴスとしか纏めてなかったわね」等と呟きながら彼女の疑問に答えた。

 

「目的だけ言えば、アインズ様とぬえ様が婚約されることを狙っているわ」

「えっ!? マジ!?」

 

 立場も忘れた声がメイドから飛び出てきた。

 窘めようとして、もし自分が何も知らない立場なら、と考え直してアルベドは話を続ける。

 

「私達が敬愛してやまない至高の御方々の真実は貴方も知っているわね?」

「はい。レベルキャップを突破した存在を相手に今も戦っているとか」

「そうよ。ぬえ様ですら殺されてしまう世界。それらが今もナザリックに侵攻してないということは、至高の御方々が止めている証拠でもあるの」

 

 2人の認識は合っているとも間違っているとも言えた。

 現実世界にレベルの数値化は適用されてない。というか適用されればアインズもぬえもレベル100など絶対に自称できない生活環境なのは確かだった。

 しかしアルベド達にとっては、ユグドラシルでの姿が前提である。人間鈴木悟など存在すら知らなかった。

 

 ちなみに至高の41人が戦っている世界のイメージがNPC視点でどんどん悪化している原因はぬえである。どのような脅威と戦っていたのですか? というNPCからの質問に、一瞬悩んだぬえはとっさにこう答えていた。

 

『あれはなんと言えばいいか……既知の存在に当てはめればゴーレムだよ。あの世界で比較的平和だった日本でもあんな抗争が起きたから、あのままいけば』

『そ、そんな強いゴーレムなのですか!? レベルは!?』

『強いよ。あれにレベルはない……いや、100レベルの壁を突破できる力があった』

 

 自分や同僚の命を奪った人型決戦兵器のトラウマをそのままにぬえは語り、結果『5~10m程だが、レベルキャップを無視する特性があり、しかもわんさかいる。ナザリックどころかユグドラシルを異世界側から滅ぼそうとした。闘技場であれだけ強さを見せたぬえでも殺される』という脅威があるとNPCに周知されてしまった。

 

 現実世界の方も『環境も壊滅的であり、アーコロジーを形成している状態。ナザリックのような地下都市をいくつも形成する計画が進められていた。あのままいけば、国家という概念は消滅し、ゴーレムを量産する企業がそれを支配するだろう』というぬえの推測含んだ解説のおかげで、荒廃した神の世界などという認識が広まっていた。

 

「……ぬえ様は奇跡的に御帰還された。けれど、他の御方々はもしや、という可能性。そしてアインズ様とぬえ様が今度は2人で再び助けに行く可能性……0ではないわ」

 

 微笑みを消し、真剣な表情で語るアルベドの目にあるのは恐怖。

 メイドはそんな想定をするだけで泣きたくなってしまうのだから、しっかりと話し合ったアルベドとデミウルゴスが感じた恐怖は比類なきものだったに違いない。

 

「だから、後継者が必要だとデミウルゴスが言ったのよ」

「お、御止めされないのですか?」

「もし、もし御二方がタブラ様達を助けに行くと言い出されたとして……貴方止められる?」

「……」

 

 アルベドの言葉に、担当メイドは強張り何も答えられない。

 

 無理だ。

 至高の41人の言葉は絶対というだけではない、ナザリックの為に命を賭けている至高の御方々の元へ行くと言われたら、どうしようもない。

 

「だから、一番脈があるぬえ様なの。もし、アインズ様の子を身籠りになられたら、その間はぬえ様が行く事は絶対にない。そして生まれるのは至高の血を100%引く新たなる絶対者よ。そういう計画なの」

「な、なるほど……アインズ様はぬえ様に好意を示されていますし、ぬえ様も……」

 

 そこでふと、先日聞こえてしまった単語を思い出したがメイドは記憶の奥底に封印し直す。アルベドとデミウルゴスが進めている計画に期待を添えるような単語だったが、あの場で聞いた全員の秘密だ。

 

「わかったなら貴方もそれとなく御二方の仲をサポートしなさい」

「かしこまりました」

 

 姿勢を改めて正して一礼するメイドに、アルベドは満足げに微笑む。

 メイドは今の言葉を鵜呑みにしたようだが、アルベドの真意には気付いた様子はついになかった。

 

 

 

 彼女は1つ嘘をついた。後継者を求めているのは嘘ではない。

 嘘ではないが、それはデミウルゴスの目的であり、アルベドの目的ではない。

 

(アインズ様はナザリック最高支配者……後継者を望まれる場合、妃が1人は有り得ない……)

 

 頂点に座する絶対の王は子孫を繋ぐ義務がある。

 アンデッドに寿命はないが、不滅ではない事が想定されている以上、アインズが後継者作りに励んでくれるとアルベドは確信している。

 しかし、この世界に転移した当初からあれほど求愛してもアインズが応えることはなかった。それでもいずれは御寵愛を得られるに違いないと第一妃を目標にアピールを続けていたのだが。

 

(ぬえ様……そうよ、ぬえ様をアインズ様が堂々と正室に迎え入れたならば……)

 

 ここでぬえが帰還した。更にその際知らされたのは至高の41人の真実。見捨てられたとなどという考えがいかに愚かで許しがたい不敬だったかを自害したいほどに痛感させられたのだ。

 アルベドは第一妃の目標を破棄した。資格がないという自責、至高の存在には至高の存在が伴侶に相応しいというシモベとしての価値観だ。

 だがそれは、アインズへの愛を諦めた訳では全くもってこれっぽっちも一切ない。寧ろより現実味の強い可能性に惜しげもなく食らいついただけだった。

 

(私もシャルティアも寵愛を受ける願いと正当性は強くなり、アインズ様も抱いてくださるに違いないわ!! それに第二妃……いや側室であれば、ぬえ様より先に孕んでもいいってことよね! 教育さえしっかり施せば後継者争いも起きずにアインズ様の子供を……くふ────!!)

 

 守護者統括アルベド。その頭脳はナザリック運営の為だけには使われない。己の狂愛を実現する為にも使われるのだった。至高の41人を利用するような思考回路への歯止めなど、彼女には存在しなかった。




「肉を削った後見える骨あるでしょ?その状態のまま彫刻を掘るなんて魅せ芸術が古代書物にあってね」
「さすがはぬえ様!」

デミウルゴスと会うたびに、ウルベルトと盛り上がった邪悪な会話をしてるぬえ。おかげで今回も犠牲者が増えました。
椅子から聞こえるBGM?耳を澄ませれば、死なせてだとか嫌だとか痛いとか聞こえるかもしれません。はい、SANチェックです。


・アルベドが何を考えているか。
はい、デミウルゴスが抱いた計画を悪用しております。アルベドはナザリックNPCの中でも異常だと思うんですよ。見捨てられたと思っていようが、普通、アインズ様以外要らないなんて思考入らないと思います。原作の捜索部隊もめっちゃ不穏だし。
彼女の計画にはアインズとぬえの心情が入っていませんが、上位者としてなら当然という思い込みと、仮に恋愛感情無くとも外堀完全に埋め立ててしまうか既成事実作ればいいという外道思考が入っています。だから完璧!(キリッ

ちなみに原作ではアインズは設定を書き換えた事を責めるようにして、肉食獣オーラを抑えた懇願すれば抵抗しない可能性があります。攻略法を知らないって大変ですよね。

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