俺はテストの召喚獣R 作:琥珀
さて、そんなこんなで数分後。
「本当にごめんなさい、遅刻してしまって……」
「ハハハ、気にすんな。本当なら遅刻しかしないバカの集まりだしな」
「姫路も大変じゃったのう、まさか試験当日に病気とは……」
「あ、そういえばそうね。身体はもう大丈夫なの?」
「あ、はい。……えっと、そのことなんですけど……このクラスに吉井明久くんっていう――」
(今すぐ起きろ明久ァアア!! 戻れなくなっても知らんぞ――!!)
(うごぼごげはぁ心臓に唐突なショックががッ!? ……は、ぼ、僕は何を……)
――なんとか明久を蘇生した俺達は、犯罪者の烙印を回避することに成功していた。
「――――はぁ……ギリギリだったぜ……」
一息。
区切りをつけるように呟いた俺の言葉で、ようやくFクラス内部の時間は正確に動き出していた。
まさか新学期初日の朝から早くも犠牲者が出そうになるなんて、この学校はいつからこんな世紀末空間になってしまったのだろうか。Anot○erなら死んでた。
……いやぁそれにしても本当に大変だった。正直な話、特に問題もなく蘇生が成功したのは奇跡と言ってもいいだろう。
経験則になるが、恐らくは『普段の明久』なら30分くらいは死んだまま物言わぬ屍になっていたに違いない。
もしその状態でFクラスに免疫のない
……本当に島田ほか大勢は面倒なことしてくれた。あとで覚えてろよ。
まあ、終わった話を掘り下げても仕方がない。
そのことはこの一年ですっかり把握してしまったので、改めて俺達は自分たちの席(……とはお粗末にも呼べないちゃぶ台)に座り直すことにする。
そしてそのまま、自然とFクラス一同の視線は先程来た
こんな反応を俺達がしたのは、彼女が実質的な『Fクラス最後の生徒』だったからというのもあるが、それよりも――彼女が校内での
彼女の名前は、姫路瑞希。
振り分け試験の日に、明久が助けようとした少女だ。
『あ、あの時はありがとうございました、吉井くんっ』
『え? ああ、うん……でも、結局僕は何もできなかったよ?』
『そ、そんなことありません! 私、すごく嬉しかったですっ』
『そ、そうかな。ハハハ、もうちょっと頭がよければなんとかなったんだけどね――』
そんな彼女はFクラスに入ってまず、明久の下へと直行していた。
ぼんやりと聞こえてくる会話の内容から察するに、姫路は振り分け試験の時のことで礼を言っているらしい。
実際のところ、こうして姫路がFクラスに来てしまった時点で明久の抗議は失敗に終わってしまったことは確かなのだが――どうやら彼女は、それでも明久の行動が嬉しかったようだ。
そんな二人を見て、思わず俺は近くにいた秀吉に愚痴る。
「また明久くんがフラグ立ててるんですけどどう思うよ秀吉先生」
「誰が先生じゃ。しかしまあ、また明久は
「本当に無自覚な状態だとモテる奴だよな。バカのくせに魅力全振りとか引くわ」
「言葉に節々が棘まみれじゃな。……まあ、何か有ったら被害がお主に来るし仕方ないのかもしれんが」
「そういう秀吉はやけに落ち着いてるな。アレか、ハーレムも許容するタイプのヒロインなのかお前?」
「待つのじゃ。何故ワシは攻略されている前提になっておる」
「秀吉、超頑張れよ。俺、お前が本妻になるのが一番平和だと思うんだ……!」
「前提条件がおかしいじゃろ!? ワシは男! お、と、こじゃっ!!」
何か喚く声が聞こえたが、そこはスルーすることにしよう。俺は校内に数ある学説の中でも『木下秀吉自覚してない女の子』説を推しているんだ。某ラノベでそんなキャラ出てきたし、正直お前は女子でも別にいいと思うよ。
さて、そんな秀吉イジリを俺がしている一方でクラスの連中はと言うと、
「あれが姫路か……振り分けで倒れたって噂は本当だったんだな」
「ほうほう、彼女がAクラスの霧島に性的に狙われているという噂の」
「誰か詳しい情報持ってるヤツいねーか? 正直噂のレベルしか知らん」
「…………姫路瑞希。学年成績三位、保有属性は天然、病弱、ピンク髪、おっぱい、美少女、巨乳、そして爆乳――といったところ」
「「「「歩く萌えキャラじゃねぇか!?」」」」
己のモテなさっぷりを全力で晒しているところだった。
あぁ、なんて恥ずかしい奴等なんだろうか。アレでよく『どうして俺はモテないんだ……!』とか言えるよなまったく。ひくわ。同姓でもさすがにドン引きだわ。
……ちなみに、Fクラスの大半が欲望にまみれたヒソヒソ話に忙しくて、明久を処刑する機会を逃していた。いつもいつも下らないことに全力なくせにこういうトコロで詰めが甘いなお前ら。
そうして俺が溜息をついた瞬間、ガラリと扉が開く音がする。
福原教諭が帰ってきたらしい。
▽▼▽
「それでは皆さん、それぞれ自己紹介をお願いしますね」
担任の声が響く。
と、同時に、目の前のモニターに『祝・進級おめでとうございます』という文面が表示された。どうやら学園側は豪華な設備だけでなく多大な期待をも自分たちに抱いているらしい。
そんなことを、彼ら――『Aクラス』の面々は思う。
努力したものは報われる。この学歴社会において、トップクラスの仲間入りができたというのは一種のステータスだ。今のも含めて、この状況はそれを無言で示されている、と改めて彼らは認識させられた。
その『実感』に対し、Aクラス一同の反応は様々だ。勉強してよかったと思う者、このくらいは当然だと思う者、まだ自分には精進が足りないと思うもの。それはすなわち、『頭がよい』というひとくくりの生徒たちの中でも、様々な特徴があるという証拠だ。
とはいえ、彼らには共通した想いがある。
それは喜び。課題を達成できたという満足感だ。
しかし――ひとりだけ、他とは明らかに違う反応を示す少女がいた。
(…………勉強だけが、その人の全てじゃないと思う)
それは、努力してきたAクラスの人間が言うには少しおかしな意見だ。
そんなことを想う彼女の名は、霧島翔子と言う。
翔子は学年主席、つまり校内で最も頭のいい少女なのだが、どうやらその心中はただ勉強が好きな優等生というわけではないらしい。
確かに、今の世の中は学歴が大事だろう。しかし――頭が良いだけではダメなこともある。頭が良くなくてもいいこともある。それが翔子の持論だ。
(…………雄二……)
そんなことを想うのは、昔、ちょっとした事件に遭ったからだ。
友達だった男の子が、大きく変わってしまったあの日。自分のココロも大きく変わったあの日。それが今、無言で示されているこの学校の方針に対する小さな反発心となっているのだと、証拠は冷静に自己分析を行った。
そして、それは間違ってはいないと改めて思う。
けれど――その反発心を『抱えているだけ』の自分のことを、情けないとも感じてしまった。
(…………今、どうしてるのかな……)
改めて、自分のことを避けている幼馴染について彼女は想いを馳せる。
向かい合わなければいけないとは思う。けれど、彼がそうさせてくれない。小学生のころから抱いているこの気持ちを、彼は頑なに認めてくれなかった。
元からあんまり人付き合いが上手くない翔子は、こんな時どうすればいいのかわからない。
だから、いつも思うのだ。
ああ、自分はこんなにも未熟で頭が悪いのだ、と――
▽▼▽
『自己紹介がんばってくださいね』
ボロい黒板に、そんな文章が書いてある。
福原教諭の手書きだ。
書いた本人は既にこの場にはおらず、急な来客ということで出ていってしまった後だ。果たしてこの面倒なクラスを早々に放棄したかどうかは判断が分かれるところだが、多分普通に客が来たと俺自身は思っている。流石に初日での諦めはないんじゃね?という希望的観測だが。
というか、ここのチョーク、ほとんどが他の教室から拝借してきたような折れたモノばかりだがコレでいいんだろうか。まさか教師の首まで絞めていくとは文月学園もドSな学園だなあ。
「……とまあ、現実逃避はそれくらいにして、と」
さて、あれから約十分が過ぎた。
そして、かなり控えめに言うと――自己紹介タイムは混沌に満ちていた。
『はい! 須川ですヨロシクぅ! ちなみに彼女募集中です!』
『アッピルしてんじゃねーよ死ねオラァ! あ、僕も募集してます!』
『俺も俺も!』
当たり前の話だが、普通、自己紹介というのはかなり重要な意味合いを持つ。
宇宙人未来人以下略の例しかり、遅刻してしまってヤンキー扱いされる例しかり、ここで失敗をするということは即ち、後の学園生活に大きく響いてしまう失態だ。
誰だってぼっちにはなりたくない。高校デビューとか狙う人間はけっこうな確率で面白い人アピールとかを狙ってしまうものだが、実のところソレはかなりリスクが高い技だ。スベッたら即死なので自信があるギャグがない場合やめておくことをオススメする。
俺個人としては、こういう場では平凡なセリフを吐いておくのが一番いいと思う。それを後で休み時間などにフォローし、静かに自分の存在を浸透させる、というのがうまいやり方になるだろう。
さて、そんな大事な場面で我らがFクラスは、
『『『『秀吉ー! 姫路さーん!!ここにイケメンがいますよぉお!!』』』』
「うわぁ」
滑っていた。
遅れて申し訳ございません…!
次話は既に出来ているのでまた明日投稿します。
ここらへんキンクリしてさくっと戦争してもいいかもなぁ。