蒼色の名探偵   作:こきなこ

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Level.09 しばしの別れ

 久しぶりに見る両親は、どことなくやつれていた。隣に住んでいる、コナンの為にたくさんのメカを発明してくれた阿笠博士も痩せたように見える。

 一番意外だったのは、共犯者にしてかつての相棒である灰原哀――本名、宮野志保だ。

 彼女は壊滅させた黒の組織の一員だったが、唯一の身内である姉を殺されたことをきっかけに組織に反抗。新一が飲まされた同じ薬を飲み、縮んだ体を利用して脱走してきた科学者である。彼女こそが新一たちを苦しませた毒薬の製作者であり、そして解毒剤を作れる唯一の存在だった。

 だからこそ新一は彼女にデータを送り、それを元に解毒剤を作ると信じていた。

 それにも関わらず、彼女は前と変わらず小学生の姿をしている。

(飲まなかったのか? それともデータに不備があって作れなかったのか?)

 浮かび上がる疑問を、頭を振って消し去る。今の新一にそれを考える必要性などない。

 ゆっくりとした足取りで彼らに近づき、五メートルほど手前で足を止める。

 近寄らない新一に哀と目暮警部が駆け寄ろうとしたが、博士と優作によって止められた。彼らは気付いたのだろう、新一が張り巡らせている警戒心に。

 ――怖い。彼らが怖い。

 襲ってくる恐怖心を必死に耐えながら、新一は口を開く。

「少年たちの追跡を止め、今後彼らに関わらないことを約束してください。それが『交渉』に応じる条件です」

 怪盗に聞かされてから考えていた言葉に、優作が真っ直ぐに新一の目を見つめた。何を考えているのか分からないそれに、新一もまた真っ直ぐに見つめ返す。

「――目暮警部。ジェイムズ捜査官。新一の言う通りにしてください」

「しかし優作君……」

「……分かった、そうしよう」

 折れたのは優作の方だった。目暮は難色を示したが、ジェイムズは柔和な笑みを浮かべて応じる。

 良かった、と新一は内心安堵した。少なくともこれでしばらくの間、高嶺家に迷惑をかけることは無い。一週間世話になった上危険な囮役まで引き受けてくれた彼らが、新一たちの日本脱出後不当な扱いを受けることだけは避けたかった。

(清麿、ガッシュ。どうか無事でいてくれ……)

 心の中で鬼ごっこを繰り広げているだろう仲間たちに思いを馳せた後、すぐに目の前の者達に意識を戻し、気を引き締める。

 考えていたセリフを、震えそうになる声で必死に紡ぐ。

「まずは、初めまして、とでも言いましょうか。僕は『工藤新一』の亡霊です」

「……亡霊、か。確かに世間一般からすればそうなのかもしれないね」

 ニッコリと、優作が笑って答える。それが増々何を考えているのか分からなくさせ、新一はスペイドに縋りつきたくなるのを必死に耐える。

「何を思ってあなた方が僕を探していたのかは分かりませんが、これだけは言っておきます――『探偵』は死んだ、あなた方が望んだ通りに」

「――違う! そんなこと望んでない!!」

 冷淡な新一の言葉に、哀が叫んだ。肩を押さえてくる博士を振り払おうと体を捩らせながら、新一へと手を伸ばす。

「工藤君、そうじゃないの! 私達はただ! もう元に戻れない貴方の為に!」

「――本当に?」

 伸ばされた手は、どこまでも冷たい声によって叩き落とされた。

「――本当に、ただそれだけだったと言えますか?」

 明確な拒絶に、灰原達は呆然と新一を見る。

 それがあまりにも滑稽なものとして新一の目に映り、思わず嘲笑が浮かぶ。

「――嘘つき」

 たった一言。それだけで彼らを深く傷つけると知っておきながらも、新一は言わずにはいられなかった。

 傷付いた表情を浮かべる彼女たちから目を反らし、踵を返す。

 このままここにいれば考えていたセリフ以外の、刃のような言葉をぶつけてしまう。新一は決して彼らを恨んでいるわけではない、これ以上傷つけ合うのは本意ではない。

「行こう、スペイド」

 静かに隣で見守ってくれていたスペイドに呼びかけ、その場を立ち去ろうとし――

 

「馬鹿なこと言わないで!! 誰がそんなことを望むと思っているのよ!!」

 

 ――母親の叫びに、足が食い止められた。

「大切な、大切な息子の死を望む親が、どこにいると思っているの!? 貴方を失う位なら、私が代わりに死にたいと、ずっとそう思っていたわ!」

 悲痛な声に、新一は勢いよく振り返る。

 そこにいたのは、ボロボロと大粒の涙を流す有希子だった。演技でない本当の涙に、ヒュッと新一は息をのむ。

「新ちゃん、私ね、ずっと後悔してたの。やっぱりあの時貴方を連れて帰るべきだったって。何が何でもこの件から手を引かせて、元に戻る方法を一緒に探せば良かったって――馬鹿なことを考える人たちに、貴方を任せるんじゃなかったって!!」

 訴えられる母親の気持ちに、新一は一歩後退った。だがスペイドがしっかりと手を握りしめており、それ以上下がることは出来ない。

 どうして、と彼女を見れば、ゆっくりと首を横に振られた。「新一」と今までの沈黙を破り言葉を紡ぐ。

「他の者達のことは分からない。だが、貴方の母様が違うことは分かる――あの人は真実、貴方を愛している」

「スペイド……でも!」

「私に真実と向き合う勇気をくれたのは、新一、貴方だ。ならば私も、貴方に授けたい――真実と向き合う勇気を」

 そっと、繋いでいた手にもう片方の手が添えられる。そのまま緩やかな力で前に引っ張られ、自然に新一の足も動いた。

「私を信じてほしい、新一」

 一歩。五メートルの距離に戻る。

「決して、貴方を傷つけることはしないと」

 一歩。引いた線を超える。

「――ともに、前を向こう」

 トン、と背中を押される。力が入っていないそれは、それでも新一を前へと動かした。

 一歩。引いた線の外側に、両足が出る。

 そして、次の一歩が出る前に。

 

「――新ちゃんっ!」

 

 有希子に、母親に、抱きしめられた。

 息が止まる。心臓が不自然に飛び跳ね、体が硬直する。スペイドではない者の感触に突き放そうとし――母の涙に、手を止めた。

 有希子はとても小さかった。否、中学生の頃で既に身長は抜かしていたが、それでも新一の目にはとても小さく映って見えた――新一は気づいていない、最後に母親を目にした時、己はまだ小学生の姿をしていたことに。

 あれ、と数回瞬きをする。それでも変わらない母親の姿に、己の胸に顔を埋めて泣く母親に、「なんで」と無意識の言葉が零れる。

「なんで、だよ……なんで……? なんで、オレは、オレはもう……」

「――『江戸川コナン』になれないのに、かい?」

 新一の言葉を、優作が引き継ぐ。それに哀達は目を見開き、新一もまた驚愕の表情を浮かべた。

「新一、お前はこう思っているんだろう? 世界が望んでいるのは『工藤新一』ではなく『江戸川コナン』だと――本当の自分を否定されたと、感じたんだろう?」

 ゆっくりと、優作が新一たちへと近づく。それにスペイドは一歩その場から下がり、静かに三人を見守る。

「だから、恐怖を感じている。『江戸川コナン』に戻ることを強要されるかもしれないと、今度こそ『工藤新一』を殺されるかもしれないと」

「――っ!」

「また大切な人たちを騙す日々が戻ってくることに。『工藤新一』が死んだことを悲しむ人たちに真実を話せないことに」

「止めろっ!!」

 容赦なく真実を、新一が目を反らしていたことを曝け出してくる父親から逃げようと身を捩る。だがしっかりと有希子の腕が腰に回っており、離れようとしない。

 嫌だ、と耳を両手で塞ぎ目をきつく閉じる。

「もう放っておいてくれ! やっとオレは、偽りだらけの世界から抜け出せたんだ!」

「新一」

「世界が必要とした『探偵』はもう死んだ! 『江戸川コナン』も『工藤新一』も、『探偵』はどこにもいないんだよ!」

 曝け出された真実に、新一は取り繕う余裕もなく叫ぶ。それは彼の本当の気持ちであり、奥深くに仕舞い込んでいたもの。

 守っていた要塞が無くなり、無防備となった心。

「――では今のお前は、単なる私達の『息子』でいいんだな?」

 それを今度は、優作が守るようにして包み込んだ。

「お帰り、新一。ずっと、有希子と二人で探していた」

 そっと、優作は有希子も一緒に新一を抱きしめる。

 己よりも力強い腕に、逞しい体に、新一はただ呆然とした。耳に入ってくる言葉を、理解することが出来ないほど脳の機能が停止している。

 ジワリと、肩が濡れる。それが優作の目から溢れ出る涙だと気付いたのは、抱きしめてくる腕が震えているのを知った時。

「――生きていて、本当に良かった」

 

 ――初めて見た、父親の涙だった。

 

「――……あっ……」

 ゆっくりと染み渡るそれは、新一の心にも染みていく。

 体が震える。だが今度のそれは恐怖からではない。

「……母、さん。父、さん……」

 途方もない安堵と喜びからくるものだった。

 ゆっくりと、有希子と優作を拒絶していた腕が動く。じれったくなる程遅く、躊躇いながらも両親に伸びようとし――「工藤君!」と呼んだ声に、弾かれる様にして両親を突き飛ばした。

 突き飛ばされたことに、有希子と優作の目が凍り付いた。新一もまた、抱き返そうとしたのに真逆の行動を取ってしまったことに戸惑いを抱く。

「新、ちゃん……?」

 悲しむ母親の声に違うと返そうとし、だが再び体を硬直させる。

「工藤君! 私達も優作君と同じなんだ、君を決して否定した訳ではなかったんだ!」

 ――優作というストッパーがいなくなった目暮が、近付いて来たために。

「工藤君!」

「ならん、哀君!」

 目暮の行動に、博士の制止を振り切り哀もまた駆け寄る。ジェイムズは辛そうに顔を背けている。

 保たれていた距離が崩れたことに、全身を恐怖が駆け巡った。足場が崩れていく感覚に、新一は支えを求めて振り返る。

「――スペイド!」

 手を伸ばせば届く目の前の両親ではなく、少しだけ離れた場所にいる相棒を求め、手を伸ばして。

 

「――よく頑張ったな、新一」

 

 ふわりと、視界が黒に覆われる。今彼女は何時もの服ではないのも関わらず、確かに新一の世界は黒で覆われた。

「後は私に任せるがいい」

 その正体がスペイドの手であり、目を覆われていることに気付いた新一はホッと安堵の息を吐いた。腰に彼女の腕が回り、自然に後ろへと庇われる。足首を気遣い負担をかけないようゆっくりとしたそれに、新一は彼女の肩に顔を埋める。

 手を伸ばせば、ゆるりと握り締められた。伝わる感触と体温に、今確かにここにいると実感する。

「――さて、お初にお目にかかる。私はスペイド。新一の相棒だ」

 力強い彼女の声に、新一は再び顔を上げた。庇われながらも、しっかりとかつての仲間たちを見据える。

「これ以上新一に近付き、苦しませるのはご遠慮願いたい。もしもそれでも近付こうものなら――私達は敵とみなし、排除する」

 握り締めてくる手を握り返す。

 この手の温もりがある限り、もう恐怖は感じなかった。

 

 

 

「――なんなのよ、貴方」

 突然口をはさんできたスペイドに、哀が警戒心をむき出しにした。その後ろで博士が必死に宥めており、目暮はポカンと、ジェイムズは反らしていた視線を戻し興味深そうにスペイドを見ている。

 当然と言えば当然の哀の言葉に、スペイドは淡々と返す。

「言ったはずだ、私は新一の相棒だと」

「……相棒、ですって?」

 相棒という言葉に、かつてコナンの相棒の立ち位置にいた哀が睨みつける。それに何を感じ取ったのか、スペイドもまた珍しく敵意をむき出しにして哀を睨み返した。

 バチッと火花が飛ぶ。珍しいスペイドの反応に新一はギョッとしながらも、埒が明かないと判断して自ら口を開く。

「スペイドはオレの命の恩人だ。共に戦い、前を向くと約束した。スペイドの言葉はオレの言葉、そう受け取ってもらっても構わない」

「命の、恩人?」

 近寄っていいのか迷っていた有希子が、首を傾げて呟く。それが耳に入ったのかスペイドは哀から視線をそらし、哀達から庇いながら新一を両親のもとに向かわせる。

「新一、私が盾となる。早くご両親の元へ」

「……手、離さないとダメか?」

「……私も一緒に行こう」

 手を離せばまた恐怖が押し寄せてくるかもしれない、と不安がる新一に、スペイドは一瞬押し黙った後繋いだままでいることを了承した。

 それに安心して、手を繋ぎながら両親へと近寄る。震えることなく空いている手を両親に差し出すと、迷うことなく有希子が飛び込んできた。今度こそしっかりと母親を抱きしめ、父親に目を向ける。

「父さん、母さん。また会えて嬉しいよ」

「新一……」

「新ちゃん、良かった、生きてて……!」

「――でも、ごめん。オレはまだ、そっちには戻れない」

 暗に拒絶する言葉に、有希子が勢いよく顔を上げた。泣き腫らした目は痛々しく、だがそうしたのは己だと目を反らさず受け止める。

「どうして!? また私は、息子を失わないといけないの!?」

「そうじゃない、母さん」

「ならどうだって言うのよ!」

「落ち着きなさい、有希子。新一は『ずっと』とは言っていないだろう?」

 ヒステリックになりかかっている有希子を、優作が背中を撫でて落ち着かせる。そうしながらも目だけは新一を向いており、問いかけていた――事情があるんだろうと。

 それにコクリと頷き、ゆっくりと息を吐いてから哀達の方を向く。

 スペイドという壁によって遮られた距離。彼女たちを傷付けているだろうそれは、新一にとっては守りの盾。真っ向から向き合っても取り乱さずにすむ、新一を守るもの。

 逃げ出したい気持ちを抑え、過去と向き合う。

「頭ではずっと分かっていました。貴方達がオレを、『江戸川コナン』を気遣っていたって。オレはそれを、受け入れることが出来なかった。今も出来ない――怖くて仕方ない」

 彼らに初めて吐露した心の叫び。今まで弱みを見せてこなかった分躊躇いがあるが、弱さを曝け出すことは決して恥ずかしい事ではないと、新一はガッシュと清麿から教わった。

「オレは貴方達から逃げ出した。スペイドがいなければ、こうして向き合うのも嫌だった」

 新一にとって気掛かりだったのは、幼馴染の毛利蘭だけだった。彼らのことはとうの昔に切り捨て、向き合うつもりもなかった。関わり合うのを避け、たとえ見つかっても逃げるつもりでいた。

「でも、泣いてくれた奴がいるんです。オレの為に涙を流して『どんな理由であれ、お前をスケープゴートにした警察を、許すことは出来ない』って、馬鹿みたいに真剣な顔で言って……」

 その決意を覆したのは、清麿の言葉だった。

「――オレはそれが嬉しくて、すごく嫌だった。オレが逃げたせいで、あいつに貴方達を恨ませることが」

 新一のせいで、本来なら信頼できるはずの警察を憎む。清麿が危害を加えられた訳ではないのに、彼は敵対する道を選んでしまう。

 それだけはあってはならない、と新一は強く思った。

 最後の最後で裏切られたのは事実だが、それは新一とのすれ違いにより生じたもの。言葉に出していれば回避できたはずなのに、それをしなかったのは新一達だった。

 そのような自業自得で出来た溝を、清麿にも作らせたくなかった。否、清麿に誰かを恨んでほしくなかった。

「信じることを教えてくれたあいつに、誰かを信じられなくするオレが、嫌だった」

 ――綺麗な心を、己のせいで歪ませたくなかった。

 だからこそ、新一は真実を話した。決して彼らだけが悪かったわけではないと。新一にも責任があったことを。それでも清麿は新一の味方でいてくれ、新一の為に涙を流した。

「だから、この真実とも向き合おうと思った。オレが、胸を張ってあいつの仲間だと言いたいから」

 たったそれだけのこと。他の人から見ればなんてことのない友情に見えるだろうそれに、新一は勇気と覚悟を貰った。

「今はまだ怖いけど、オレにはスペイドがいる。スペイドと一緒に前を向いて歩いて――何時か、貴方達を受け入れたい。そう思っています」

 哀達は静かに、新一の本心を聞いていた。

 目暮は帽子を深く被り、ジェイムズはそっと目を伏せた。哀は一度口を開こうとし、だが言葉は出さず深く息を吐く。そんな哀の肩に手を置き、博士が柔らかく微笑む。

 取り乱していた有希子も落ち着き、新一から体を離して目尻に残る涙を拭った。その顔は腫れぼったくなっているとは言え、今日初めて見る笑顔が浮かんでいる。

「新ちゃん、いいお友達に出会えたのね。……私、何が何でも新ちゃんを連れて帰ろうって思っていたの。でも、貴方がそこまで覚悟を決めているのなら……」

 そっと、空いている方の手を握りしめる。両手で包み込み胸元に持っていき、祈るようにして目を閉じる。

「忘れないで、新一。私達はずっと、新一の味方だってこと。何時でもあなたの帰りを、待っているって」

「母さん……」

 母親の言葉に、新一はくしゃりと表情を歪めた。向き合えた母親の愛情に、飢えていた心が満たされるのを感じる。

 ポンッと、肩に手が置かれる。顔を上げれば、穏やかな笑みを浮かべた父親がいた。

「そこまでの覚悟が出来ているのなら、私達は何も聞かない。元の姿に戻った方法、そこのお嬢さん――お前の持つ本のことも」

「……えっ?」

 思わぬ言葉に、新一は目を見開いた。何故ここで魔本が出てくるのか、その意味に気付く前に、優作の視線がスペイドに移る。

「君は、新一の命の恩人らしいね?」

「……スペイド、と呼ばれている」

「そうか……スペイド君、礼を言おう。君のお陰で新一は救われ、こうして生きてここにいる」

「新一は私にとってもかけがえのない大切な人だ、守るのは当然の事。礼を言われるまでもない」

 恥じらいも照れもなく言い切るスペイドに、優作は面白そうに目を細めた。対するスペイドは真剣な表情で向き合っている。

「では、これから先新一を守ると、約束してくれるかい?」

「体に怪我をさせないという意味でなら約束は出来ない」

 ――あまりにも率直なそれに、新一を除く全員の目が点になった。

 誰もが「約束する」と返事をすると思っていた予想を裏切ったスペイドは、自身の額にある傷に手を伸ばす。

「見ての通り、私は未熟者だ。新一を守りたくとも、時として守れず怪我を負わせてしまう時もきっと来るだろう――だから私は、新一には安全な場所にいてもらおうと考えていた」

 スペイドの視線が優作から離れ、新一へと向く。フッと口角を上げた、愛しそうな表情で。

「だがそれは、私が一人で戦うことを意味するものだった。それでは共に歩くことは出来ない、前を向くことも、成長することも。――今はもう、新一を遠ざけようとは思わない」

 その言葉に、新一も微笑み返す。己だけではない、彼女もまた、ガッシュと清麿にたくさんのことを教わった。

「私は新一と支え合いながら戦うことを決めた。故に私にできる約束は、ただ一つ――共に戦いながらも、新一を守れるよう強くなる、と」

「――降参だ。ここまで言い切られると何も言えないな」

 やれやれ、という風に優作が両手を上げた。新一も苦笑を零し、やんわりと有希子の手を離してスペイドの隣に並ぶ。

 今度はもう、誰も引き留めようとはしなかった。無理やり新一を連れて行くことも、彼らが本当に聞きたいことをぶつけることも出来るはずなのに、彼らは新一の想いを優先してくれる。

 それに新一は背中を押された。自然と彼らへの言葉が口からあふれ出す。

「目暮警部、ジェイムズ捜査官。皆さんに伝えてください――僕を信じてくれて、有り難うございました、と」

「……っ、必ず、伝えよう」

「何時かまた、君と捜査出来る日を楽しみにしているよ」

 話しかけられるとは思っていなかったのか、目暮は泣きそうになりながらも何度も頷き、ジェイムズも未来の約束をする。

「博士、色々と迷惑ばかりかけてごめん。みんなの事頼む」

「ああ、勿論じゃ。わしもあの家で、新一の帰りを待っておるからの」

 家族同然に可愛がってくれた博士の変わらない柔和な笑みに、有り難うと小さく呟く。

「――灰原」

「――なによ」

 最後に声をかけるのは哀と決めていた。彼女に聞きたいことはたくさんある。だが、何も聞かないでくれた彼女たちの好意を踏みにじりたくはない。

「お前はもう、解放されたんだ。好きなように生きろよ」

 彼女を苦しめた組織はもう存在しない。『江戸川コナン』を選ばなければならなかった己とは違い、彼女は望むのを選ぶことが出来るのだ。もしそこに新一への負い目があるのだとしたら、綺麗に忘れ去ってほしい。彼女が責任を感じる必要性は何らないのだから。

「――馬鹿」

 ポツリと呟かれた言葉にうんと頷き、新一はスペイドを見る。

「行こう、スペイド」

「……ああ、そうだな」

 かつての仲間に、見守ってくれていた両親に背を向け、新一はスペイドと共に歩き出す。

 そこにはもう、恐怖の感情は無かった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「――……止まっ、た?」

 森の中を駆け巡り、走りに走ってヘトヘトになった頃。

 執拗に追いかけて来ていた者達が、急にその動きを止めた。無線で忙しく連絡を取り合う様子に、木の陰に隠れていたガッシュがひょっこりと顔を出す。

「あのおっかない者達は、諦めてくれたのか?」

「分からない。だが、攻撃の意思はもうないみたいだ」

 ガッシュがいる木とは別の木に体を隠して身を潜めながら、清麿は彼らの会話に耳を傾ける。

 どうやら無線で退却命令が出されたらしい。外国人――FBIだと思われる――は少し残念そうに、日本人――間違いなく日本警察だ――は喜んで銃を降ろした。中でもやや気弱そうに見える若い警官が涙を流して「良かった」と喜んでいるので、清麿たちを襲った麻酔銃の嵐はFBIの指示だったのだろう。

(新一が、なにかしたのか……?)

 今ここで彼らが引く原因は、空港に向かった新一しか思いつかない。

 しかし、もしそうだとしたら、彼らは途中で捕まってしまったことを意味する。

(新一、どうか無事でいてくれ……っ!)

 清麿と新一は携帯を持っていない為、今すぐ安否を確認することが出来ない。今清麿に出来ることは、ただその無事を祈るだけ。

 何もできなかったことに奥歯を噛み締めたと同時に、「そこの君たち」と日本語で話しかけられた。

「これ以上撃たないことを約束する……少し、話をしないか?」

 話しかけてきたのは、ニット帽を被った日本人の男性だった。国籍だけ考えれば日本警察官だろうが、彼が最も清麿たちを狙って撃ってきていたのでFBIに所属している可能性もある。

 突然のそれに清麿は訝しそうに眉をひそめた。ニット帽の男が何を考えているのか分からないが、己たちにとって非常にまずい状況であるのは確か。慎重に行動しなければ、彼らを止めてくれたと思われる新一にも迷惑がかかる。

「なんなのだ?」

 ――そのような事情を全く知らず、たとえ知っていても難しいことを考えるのは苦手なガッシュが、素直に応じたことで慎重も何もなくなってしまったが。

「何してんだ、ガッシュ!」

 思わず飛び出した目を引っ込めて、ガッシュを抱えて再び木々に隠れる。呼ばれたから出て行っただけのガッシュは、再び隠れさせられたことにムッと顔をしかめる。

「何をするのだ、清麿。あの者達はもう撃たないと言っておるのだぞ?」

「素直に信じるんじゃねぇ! それが罠だったらどうするんだ!」

「なぜ私達を罠にかけないといけないのだ?」

「そりゃあ、おびき出す為に……」

「誘き出してどうしたいのだ?」

「――んなもん俺が知るかよ! とにかく、勝手な行動はするな!」

 真っ直ぐ過ぎるガッシュの言葉に清麿も一瞬戸惑ったが、すぐにそれを振り払い日本警察とFBIを睨みつける。

(あいつらは、新一を裏切ったんだ……っ! 俺達を人質にとって新一を捕まえようとしている可能性だってある)

 今は会いたくない、と泣きそうな顔で言った新一が脳裏に浮かぶ。

 泣きたいのに泣けない辛さを、清麿は知っている。まだガッシュと出会う前の己がそうだったからだ。

 天才であるがゆえに周囲に上手く馴染めず、辛く苦しいと叫ぶ心を、周囲を蔑むことによって誤魔化していた。涙を流すことを弱さだと思っていた。

 ガッシュと出会い、清麿は涙を流すことが出来た。そして知った、涙は決して弱いから出てくるものではないことを。

 だからこそ、その辛さを知っているからこそ、清麿は新一を守りたい。

(絶対に、これ以上新一を傷つけさせてたまるか!)

 魔本を持つ手に力を込め、何時でも術を打てるよう心の力をためる。逃げる時はすっかり忘れていたが、清麿とガッシュは反撃できるだけの力を持っている。

(さあ、どう出てくる!)

 清麿、離すのだと腕から脱出しようとするガッシュを無理やり抱えながら、相手の出方を窺う。

 ニット帽を被った男が、清麿たちが隠れている場所に近付いてくる。その隣でやや気弱そうに見える若い警官が「赤井さん!」と止めようとしているが、男はそれを聞かず歩み、少し離れた場所で足を止めた。

「――君達が『工藤新一』のことをどう思っているのか、教えてもらいたい」

 柔らかな低音の声で紡がれた言葉に、清麿は目を見開き、ガッシュは首を傾げた。

「本当はその本について詳しく聞きたかったんだが、止められてしまってね」

「なっ!?」

 本、という単語に清麿は慌てて己のそれを内側に隠した。

(まさか、魔物について知っているのか!?)

 襲ってくる別の焦りに一瞬思考が狂わされたが、直ぐに冷静さを取り戻し、いやと自身で否定する。

(まだ魔物について知っているとは限らない。新一が本を持っている所を見ているだろうし、それで疑問に思っただけかもしれない)

 流れてくる汗を拭うことなく、ニット帽を被る男の動きに注視する。どこまで彼らが知っているのか分からないが、本について何らかの疑問を抱いている以上迂闊に動くことは出来ない。

 どうしようかと迷っていると、トントンとガッシュに腕を叩かれた。我に返り下を見れば、真っ直ぐな目とぶつかる。

「清麿、あの者達はただ私達と話がしたいだけみたいなのだ。そう怖い顔するではない」

 小さな手が伸ばされ、清麿の眉間を解す。

「大丈夫なのだ。もしあの者達がまた撃って来ても、清麿は必ず私が守る。だから安心するのだ」

 小さな体で守ると言ってくる相棒に、清麿は数回瞬きをし、ふっと表情を綻ばせた。

「そうだったな。俺にはガッシュがいる、何も恐れる必要なんかないんだ」

「ウヌ、その通りなのだ! ――という訳で、早速話に行くのだ!」

「あっ、こらガッシュ!」

 緩んだ拘束にすかさずガッシュがすり抜けた。慌てて捕まえようと腕を伸ばすが、ピョンと軽やかな動きでニット帽を被った男の前に出る。

「お主、新一殿の知り合いなのか?」

 まだ六歳にしか見えないガッシュに、男は多少の警戒心を持ちながら肯定した。

 やはり何か知っているのかと焦る清麿をしり目に、ガッシュは明るい笑顔を浮かべる。

「私達は新一殿の友達で、仲間なのだ!」

 その真っ直ぐな言葉に、ヒュッと何人かが息をのんだ。ニット帽の男は興味深そうに目を細め、「仲間?」と聞き返す。

「それは、どういった意味でだ?」

「ウヌゥ、仲間は仲間なのだ」

「……では、何を目的としている?」

「私達は優しい王様を目指しているのだ!」

 ――言っちゃったよこの馬鹿! と清麿は崩れ落ちた。

 魔物が人間界にいる理由は、王を決める戦いを行うためである。少しでもその知識があれば、ガッシュとスペイドが手を組んだことを悟ってしまうだろう。

 だが、日本警察とFBIの目を点に、ニット帽の男も唖然としている。

「優しい、王様?」

「そうなのだ。私達は二度と悲しい涙を流させないために、優しい王様を共に目指しているのだ」

「……ボウヤが王様か。ある意味凄い国になりそうだな……」

 ふむ、と何かを考え込むニット帽の男の反応に、清麿は内心訝しがった。

 男は王様と聞いて、新一が王様になるのを想像している。演技には見えないので、魔物と魔界の王を決める戦いのことは知らないのだろう。しかし、『仲間』という単語に反応したのが気になる。

(本のことを聞きたがっているのも気になるな。俺達が新一の仲間であってはいけない理由でもあるのか……?)

 新一でさえ唸らせる程の頭脳を働かせる。幾つか予測を立てられるが、確証を得られるだけの情報がない。だがそれは同時に、向こうにも同じことが言えることでもある。

「ヌ? 王様になるのは――」

「――ガッシュ、新一との『ごっこ遊び』はまた今度だって言っただろ?」

 これ以上相手に情報を与えない為に、清麿はガッシュの口を手で塞ぐ。モガモガと抗議してくるが、黙ってろと笑顔で凄むとピシリと固まった。

(悪いな、ガッシュ。だがこれ以上は危ない気がするんだ)

 ガッシュを押さえたことで清麿の姿も見せることになってしまったが、臆せずニット帽の男を睨みつける。

「……ようやく姿を見せてくれたな、高嶺清麿君」

 家を張っていただけあり、名前はすでに調べ済みらしい。予想していたので動揺することなく、ガッシュを抱えたまま後ろに一歩下がる――何時でもここから逃げ出せるように。

「もう俺達に用はないだろ」

「……君の返事は、まだ聞いていないが?」

 一歩、後ろに下がる。ニット帽の男の後ろにいる者達がそれに身構えたが、男がそれを手で制した。本当にこれ以上追う気はないらしい。

 ならば、と清麿は逆に問いかける。

「新一は、今どうしている」

「……飛行機に乗っている」

「それは、お前たちに無理やりか?」

「いいや? あのボウヤは、女の子と一緒に旅立った。君達もだが、ボウヤのことも追いかけてはいけないと命令が下りている」

「そっ、そうか……!」

 無事日本を脱出出来たことに、清麿は思わず安堵の表情を浮かべた。自分たちを逃がす代わりに捕まっていなくて良かった、と息を吐く。

 清麿の反応に、ニット帽の男は眩しそうに目を細めた。「君は」と言葉を紡ぐ。

「あのボウヤが『何者』なのか、知っているんだな?」

「当然だ。全部知ったうえで、俺は新一の味方になった」

「……『江戸川コナン』という少年を、知っているか?」

「あんた達が選んだ『探偵』だろ?」

「……やはり、そう思われていたか」

 クッと男の口角が上がった。自虐的なそれに眉を顰めるも、清麿は追及せず男の質問に対して答えを伝える。

「俺達は絶対に新一を裏切らない。例え『世界』が危機に見舞われようとも」

「――その言葉、覚えておこう」

 清麿の嫌味も込めた言葉に、男は頷いてからひらりと手を振る。もう用はないらしい。

 清麿はすぐに踵を返し、その場から駆け出した。森の奥に入っていくことになったが、何度もガッシュと修行しに来ているので迷うことは無い。

「――っ、清麿! いい加減手を離してくれなのだ!」

「あっ、悪い」

 日本警察とFBIの姿が見えなくなった頃、ガッシュが無理やり清麿の手をどかして大きく息を吸った。

 ガッシュを地面に降ろし、「あー」と迷う。一体どこから説明すればいいのか分からない。

「あのな、ガッシュ」

「よい、清麿。何も言うな」

 とりあえず口を開いた清麿を、ガッシュは手で制した。ニッコリと笑い、首を左右に振る。

「新一殿と約束しているのだろう? 二人で話しているのを何度も見たのだ。勿論気にはなるが……私は清麿を信じておる」

「ガッシュ……」

「その代わり! ブリを買ってくれなのだ!」

「オメェそれが狙いなだけだろ!」

「いいではないか! 私は頑張ったのだぞ!? 労わろうとは思わぬのか!?」

「今ので吹っ飛んだわ!」

 何だと清麿、とポカポカ叩いてくるガッシュをいなしながら、空を見上げる。

「なあ、ガッシュ」

「ウヌ?」

「もっともっと、強くなろうな」

「ウヌ! 勿論なのだ!」

 ――新一とスペイドに、負けないくらいに。

 大空に向けて高く手を伸ばす。

 そして、太陽を捕まえる様に、手を握りしめた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「――良かったな、新一。ご両親と話せて」

「お前が無理やりさせたようなもんだろ」

「そうしなければ、新一が後悔すると思ってな」

 地上を飛び発った飛行機の中。無事日本を発つことが出来た新一は、隣に座るスペイドにジト目を送り付けた。だが彼女の言う通りなので文句は言えない。

(それにしても、こうもすんなり行かせてもらえるとはな……)

 薄く笑みを浮かべるスペイドから視線を反らし、窓の外を見る。

 送り出してもらえたが行き先は把握されると思っていた新一だったが、予想に反し警察たちは新一達の後をつけてこなかった。恐らく両親がそうさせたのだろう。

(ジェイムズ捜査官の様子を見る限り、気を抜くことは出来ないが……)

 脳裏に柔和な笑みを浮かべたFBI捜査官が浮かび上がる。

 彼はあの場にいた中で唯一、新一ではなくスペイドに意識を向けていた。まるで彼女が動けば何かしら起きると思っているかのように、彼女が動き口を開くたびに身構えていたのだ。

 加えて、優作の「そこのお嬢さん――お前の持つ本のことも」との言葉。

(魔物について何か感づいている、と思ってよさそうだな)

 彼らはスペイド達魔物に対し、何らかの情報を持っていると考えられる。

 このことを新一は意外に思わない。むしろ当然とすら思っている。

 スペイドとの旅の中で、新一は幾度となく魔物の力を利用し犯罪行為に出ている人間と出会ってきた。強盗、襲撃、殺人。急に手に入れることが出来た摩訶不思議で強大な力に酔った人間達の欲望は尽きることなく、堕ちるところまで堕ちていく。

 しかし、魔物の力による事件の殆どが、未解決事件として闇に葬られている。

(魔物の力は人間にとって未知そのもの。通常の捜査で辿り着く訳がない)

 例え何らかの方法で辿り着いたとしても、魔物は本が燃えれば魔界に帰る。そうなれば永遠に犯罪方法を明かすことは出来ない。人間が魔物の仕業だと訴えても、信じる者はまずいないだろう。新一とて初めは全く信じていなかった。

(FBIや父さんも、スペイドが魔物だとは知らないはず。本に注目していたから、共通点を見つけた、と考えられるか……)

 だが、怪しむことは出来る。

 目撃情報を集めて行けば「犯人」のそばに「不思議な本を持つ人間」がいることが浮かんできても可笑しくない。それが摩訶不思議な未解決事件の殆どに共通していることが分かっていたとしたら、FBIがいつの間にか新一のそばにいるスペイドを警戒するはずである。

(今回は何も聞かれずにすんだが、次会った時は恐らく無理だろう。あの人たちは事件を解決するために、本のことについて詮索してくるはずだ)

 ギリッと奥歯を噛み締める。眉間にしわを寄せると、心配そうな表情を浮かべたスペイドによって伸ばされた。

「新一、悩ましげな表情も勿論魅力的だが、私は笑っている顔が一番美しいと思っている。どうか一人で悩まないでほしい」

「……お前のその気障なセリフが一番の悩みどころだよ」

「私は真実を言っているだけだ」

 真顔で言うスペイドに顔を手で覆う。最初の頃はあまり出てこなかったが、最近隙があればさらりと真顔で気障なセリフを新一に向けるのだから堪ったものではない。

「スペイド、頼むから人がいるところでは止めてくれ。いや、二人きりでもなるべく止めてほしいけどさ」

「……それを望むならそうするが」

 渋々と、不服そうだがスペイドは頷いた。だが恐らく近いうちに破られるだろう。スペイドが諦めるか、新一が慣れるか。どっちが先かはまだ分からない。

(……まぁ、オレだけにだし、嫌な気はしないけどよ……)

 ――否、新一が慣れる方が早いかもしれない。

 スペイドに毒されつつある新一は、薄らと笑みを浮かべてスペイドの手を握り締める。

「少し、これからの修行方法について考えていただけだ。スペイドも勿論だけど、オレ自身も強くならねぇとな」

「なら、私が教えよう。騎士の嗜みとして、ある程度身に着けている」

「ああ、よろしく頼むぜ」

 握り返される手に、新一は心が落ち着いていくのを実感する。思っていた以上に彼らに感づかれていたことに焦っていたようだ。

(守らねぇとな、オレもスペイドのことを……)

 まだFBIに魔物について知られるわけにはいかない。彼らに王を決める戦いの邪魔をされたくないのもあるが、「魔物」という存在を組織が受け入れるとは思えないからだ。

 恐らく世間に公表されることはないだろう。その代わり、危険生物として「魔物狩り」を始めるかもしれない――未知なる存在に対して、人間は時として非情を働く生き物なのだから。

 そうならない為にも、今まで以上に強くなる必要がある。

「スペイド」

「うん?」

「もっともっと、強くなろうな」

「ああ、勿論だ」

 ――清麿とガッシュに、負けないくらいに。

 奇しくも空を見上げる赤い本の魔物とそのパートナーが交わした言葉を、新一とスペイドも交わす。

 誓いの言葉に二人は顔を見合わせ、幸せそうに微笑み合った。




次回で邂逅編終了予定です。

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