私立巡々丘学院高等学校。自主自律の理念を掲げ、他の学校ではあまり見られない設備が配置されている。
この高校の生徒の1人、3年C組の
「おい、丈槍!」
「わわっ」
呼び止められた丈槍は驚いて振り返る。
そこには長身でやせ形の若い男性教師が立っていた。
「た、建宮先生。何ですか?」
丈槍由紀を呼び止めた男性教師、建宮健次は呆れた風にため息を吐いて言った。
「何ですか?じゃねーだろ。部活はどうした?」
「あ、そっか。忘れてましたー」
あははと能天気に笑う丈槍に建宮はまたため息を吐く。
「先生、ため息吐いてたら幸せが逃げちゃうよ」
「誰のせいだ、全く」
建宮は脇に抱えていたノートを丸めて、軽く丈槍にチョップする。
丈槍はノートの攻撃をかわして、せわしなく動きながら駆けて行く。
「おおっと。それじゃ先生、わたし部室に行くね」
「おう、用事終わったら後で部室に顔出すからな」
はーい、と元気な返事をして駆けて行く丈槍を建宮は見送った。そして深く安堵の息を吐く。
「危なかった…」
そう呟くと建宮は階段を降りていく。
二階まで降りると、そこには学習机で作られたバリケードが設置されていた。
建宮は近くに誰もいない事を確認すると、バリケードに近付く。
学習机を“ある存在”への壁にしているロープはピンと張られ、特に異常は見当たらない。
指でロープの具合を確認した建宮は頷くと、ノートにCブロック
「さて、部室に顔出しますか」
学園生活部。ある事態に見舞われて以降、丈槍由紀を含めた三人の生徒で創部された。
建宮健次は佐倉
「おっす。…て、誰もいねえな」
学園生活部が主に昼間の根城にしている生徒会室の戸を開けたが、誰もいない。
とはいえ行くところは限られているため、生徒達のいる場所の宛はあった。
建宮は三階よりも上に、屋上に行く。
屋上には園芸部が管理している菜園がある他、太陽光発電パネルが設置されている。
菜園の野菜は学園生活部の貴重な食糧源だ。その関係上、部員は屋上によく足を運び、菜園の手入れを行う。
建宮が屋上の扉を開けると、丈槍由紀がずぶ濡れになっていた。
部員の1人と遊んでいたらしい。
高校三年にもなって一体何をやっているのかと建宮は額に手を当てる。
「何やってんだ、お前ら」
「あ、先生。ちょっと聞いてよー。くるみちゃんが酷いんだよー!」
頬を膨らませながら丈槍が建宮に駆け寄って文句を言った。
「いいから丈槍、お前はさっさと着替えてこい」
夏とはいえ夕方にびしょびしょに濡れていたら風邪を引いてしまう。
「はーい」
そう言って丈槍は屋上から降りていった。
学園生活部の部長、
「先生、さっきゆきちゃんが帰ろうとしたのを止めてくれたんですよね。ありがとうございます」
「あぁ、気にすんな。顧問だしな」
「あいつ、1人で大丈夫か?」
先程まで丈槍と水遊びをしていた
「確かに。少し気になるな…」
気がついたから良かったものの、この状況で帰っていたらどうなるか。
丈槍の事を心配する二人に若狭が言う。
「大丈夫ですよ。めぐねえがついて」
「“佐倉先生”だろ」
やや表情を怖くして建宮は若狭に注意した。
「は、はい。佐倉先生がいるから大丈夫です」
その時扉が開く。変わった帽子を被った頭が覗いた。忘れ物でもしたのかと思っていると、丈槍が控えめに扉から半身を出してもじもじと言った。
「えーとね、皆好きだよっていうか」
「……なんじゃそりゃ」
突拍子のない言葉にようやく恵飛須沢が言葉を発した。
「合宿忘れて帰りそうになったけど、皆の事忘れてたんじゃないよっていうか」
「わかっているわよ」
「う、うん。それだけ。じゃ、また」
言いたい事を言い終えたのか、今度こそ丈槍は降りていった。
「ゆきはいつも楽しそうだな」
「いいことじゃない」
「まぁな…」
若狭の言葉に建宮も同意した。楽しそうな由紀という生徒から元気をもらっている。
だが、果たしてこれは最善の選択だったのだろうか。
丈槍由紀が日頃手にしていたものは、もう壊れてしまったというのに。
建宮は屋上から眼下に広がる景色を見下ろした。
そこには、苦しげなうめき声をあげる生者ならぬ人々がさ迷っていた。
建宮健次。
25歳。担当教科は日本史。2年B組の副担任。
文芸部顧問。学生時代に投稿小説の仮想戦記を読んだ影響でミリタリーに若干詳しい。
背は高いが痩せており、中学高校大学と文系の部活、サークルに所属したため体力は恵飛須沢胡桃よりも低い。運動神経は並。得意技はその辺にあるものを振り回す。
事件以降は同僚で後輩の佐倉慈と共に学園生活部の顧問に就任する。
寝床は生徒会室の隣の部屋。
生徒達とは分け隔てなく接しているが、事件直後の事から胡桃の事を一番気にかけている。
大体主人公に関してはこんな感じです。
艦これの方がメインでこちらは息抜き感覚で進めるので、不定期更新ですがよろしくお願いします。