今回は回想に入る一歩前、アクションとか戦闘とかはまだありません。
藍様の過去を捏造しますw
といってもちょっとだけ、すごく淡々としてます。
日本間の作りは、人がいないとかなり寂しい。
それは木と石、空間を広く屋根を高く作った中に響く音で実感する。
この館は全てにおいて大きく作られている。まるで昇殿の間を組んだように作られた床高の館は、外回りに続く回廊を持っており、主である八雲紫が郷での日々を過ごす離れのの間は東の中程に寝殿を見る事ができる釣殿にある。
格子の板戸が続く道から、石造りの飛び地、小さな階段を上がると離れである釣殿に入る。
本来寝起きをする場所でないそれは、八角の壁を持つ夢殿にもにた作りで、半分を御簾で覆う形になっている、敷居戸は簡単に外せるたるもので、全てを除けると板間と三方に広がる景色を見ることができる。
そこが一番庭を綺麗に見渡せるように、旨く作られている。
「雨に似合う、また作り直したのかえ?」
殿の縁側から足を投げ出した紫は、紫の上衣は無く随分と軽い下衣だけの姿
変わらず青い法衣を纏う姿で、丸盆に酒を持った現れた藍に、中庭に立つ松を指差すと。
「あれは、以前はなかったよの、飛び島も……前はもっと石が多かったような?」
「ええ、あれは前にいらっしゃった時にはありませんでした。石は外に置くことにしたのです。中に要を置くのは風情に反します、島は水盤にしてありまして…私が使っていましたので」
「ああ、貴女が郷を知る為に組み直したのね。どおりで見通しが良くなったと……」
廷内に石を置いていたのは郷の簡略図を要として示すためだったが、並び立つ石の種類にこだわってみたものの庭を美しくはしなかった。
藍は整った指先で中庭の池に写る郷の姿を見せた。
「今はこのようにして郷を見ております。外には要を多く置きましたが、人には分からぬようで存外に良い形にまとまりました」
「そうよな、うんうん」
鼻歌交じりの熱い吐息は上機嫌に、湿気る飴の空気を仰いで金色の髪を撫でる。
この郷は、世界から隔絶された一つの庭である。郷は紫にとってこよなく愛おしい宝箱であるが管理は難しい。
世界を世界から途絶させるというのは、並大抵の事で出来る事ではないからだ。
奇しくも同じくに時を流す、川の中で、道を隔てた水路を造るのと同じであるが、そこに至るには多くの差異というものがついて回る。
この日の本に最初に壁を作った時は、入れ替わりの激しい日々があり、その後の時代を下り物の怪に化学を注入しようとした人の時代からの隔離が行われたのは数年前
離れの郷の要にはその時々の進化と、用途の進む道による規模が必要とされた。
故に滞りなく郷の景色を見ることが出来るのはこの飢えなく嬉しい目覚めだったと鼻で笑う。
「良くなっている……実に良い。これは平安の屋敷、陰陽師の寝殿であるな」
「まったくに、そのとおりに。実に理に適った作りでありました。お褒めに預かり嬉しゅうございます」
年の半分を眠りに費やす主がいない郷は、藍が管理をする。
その時にあわせ、好みと美的配置などは任せきり、故に起きるたびに屋敷は規模や形を変えるのを紫は楽しく思っていた。
「呑むといい」
水盤の際を見つめる目は優しく、盃を頂けと酒を進めると。
「のう、こないだの算学は目を通したかえ?」
紫がここに戻った時に頂いた本。すでに全てに目を通していた藍は頂いた酒を少し口に注ぐと
「はい、既に全てを……」
ただ返答としては少し曇った声色で、紫は藍の考えを見抜いた目で、体を緩く板間に添わせると
「不可思議か?」
ほんのり赤く染まった頬は、少女の肌を思わせる色白の顔に花を咲かせ、妖しの目は深い海色を輝かせて藍の目をのぞき込む
「不可思議……はい、確かに不思議な感じです。事象を数字するというのは…正直な話、方術に手間を増やすようにしか感じられませんでした」
「はははは、そうね、感じるままに方術を駆った貴女には、それが細かくされた形というのは無駄やもしれぬものよな」
静かに円を描く紫の指、板に浮かぶ流星の線引き、そこら作られる魔方陣。
「そう、こうやってポンッと出来てしまう。それを数するのは、確かに不可思議」
茶化すような柔らかい声を、藍は追う。
主はいつもそういう風に話を始める、大切な事であれ、些末な事であれ、いつも原理というものを知る事に感心をもっており、それを自分に授けようとしている。
「しかし、藍お前は平安の寝殿に魔方陣の安定を見た。故にここにその館を建て郷を見ている。なればこそ、その安定をつくる方陣の造営は何から来ているのか……気にはならぬか?」
「なるほど、出来てしまう事の中身を知れという事でありましょうか」
「そう、所謂水は、そのままでは酒にはならぬ。そこに至る何かがあるわけだ」
言わんとする事。
それは、技を身につけ千年を生きたとき、それが不変で簡単にできているという勘違いをしているのでは? というもの。
藍は九尾を頂く妖狐である。身につけた魔術は多くとも、妖であるがために習う事なく手にした力も多い。
婚本の理解は効率的に郷を囲う要を作る。
毎回、主の目覚めに会わせて方陣の再構築をするのは難儀な事であるという教え。
「郷にはいずれ、屈強な妖もこよう。備えねば成らぬが身についた技をそのまま使い続ければ破綻する。強く、より強く縄を絞めるべき時のために、それを学び行え。そういう事かしら?」
自ら問いながらも、可愛らしく小首を傾げてはぐらかす目に藍は頷くと
継がれていた酒を一気に煽った。
「水が酒になるために通る道。知ってみたくなりました」
こたえながら藍は思い出していた。
遙か昔、人に復讐を誓い、その治世を荒らした妖艶な狐として生きていた頃を、糸目の瞼を指で触れ、目尻に繋がる文殊を確認する。
静かな仕草で。
あの頃、血の気を天高くそびえさせた鉄の意思で多くの魔術と話術で地獄を作った
(はて、あれにも細かな数があったのであろうか?)
雨が続く曇りの雲を耳が追う。
走る風で、季節も時も揚々と動いている事を感じる。
大陸での日々の中にも風は凪がれ、時を流した。
深慮を働かせれば、時を乱したあの愚行にも確かな計算があった。ただ怒りや憤りでそれを駆使してきた結果、まるで普通の出来事のように思い違いをして今に至る。
「藍、今日は貴女と初めてあった時の話をしましょうや。夜長に思い出を少し、貴女がただの狐から妖に至った道を、そこから始めましょうや」
昔ならば断ってしまいそう話だが、藍は素直に頷くと。
「御意」と完結にこたえた
知りたくなったのだ、至る道というものを。それが自分の為、いずれ主の為になるのなら長き時の中で今一度学ぶのも悪くわないと。
「いつだったかしら、最初は」
「最初は、ずっと昔ですね。そう紀元の前、その頃から」
「ではもっと酒のつまみを」
互いの笑みで、雨の影に写る月を見る。
長い邂逅には調度良しと
藍様の過去は、なんとなく創造できそうだけど…紫様の過去は作れない感じです。
自分では作りたくない部分は省くよ。
藍様にきちんと過去を顧みる機会があって、橙に続くって感じにしたいのです。