3度目の人生は静かに暮らしたい 作:ルーニー
「……どういうことだ……?」
誰もいなくなった放課後の屋上。そこで俺は大した大きさもない紙切れを握りつぶさんとばかりに握りしめて眺めていた。
この紙は授業中、高町に従属の呪文を唱え、今までに起きたことを紙に書かせることを命令した。紙に書かれたことは単語単語で全部を理解しようとする場合には不可能なほどに情報が少ないが、実体を知るには十分な量だ。
初めてこの呪文を知った時は使い勝手のいいものだと思ったが、邪神の扱う呪文で扱いの良いものなんて存在しないということはあの時にはっきりと理解できた。この魔術、『精神的従属』はどんな命令でも従わせることができる分、操ることができる時間が少なすぎる。精々が10秒持つかどうかという程度だ。それゆえに単純な命令にしか従えない。だから今回紙に書かせたのは今までの事件で重要な部分のみを書いてそれを落とすように命令した。命令されたことに関しては記憶に残らないからまだ使えるが、これで記憶が残るようならば使うはずもない。
そして、この『精神的従属』で手に入れた情報が、次の通りだった。
『魔法 ジュエルシード 守る 次元世界 管理局』
高町が知る事件の重要なファクターを書け。そう命令して書いたのだからこれらが今までの事件に関わっていると断定していいだろう。
しかし、予想はしていたが魔法と呼ばれているものがあることに俺はやはりか、という感想しか出なかった。
魔法。聞こえはいいがおそらく魔術をいいように解釈した結果だろう。これで確定した。高町は魔術師だ。おそらく、一番初めの事件で出てきた小学生は高町で間違いないと見ていいだろう。
だが、目的が見えない。なぜ高町は魔術を知っているんだ?何の目的で魔術を知った?今まで魔術を使ってきた連中は目的があって魔術を使ってきた。
洗脳。対策。死者の復活。過去への干渉。そして、邪神の召喚、復活。
誰も彼もくだらないものから命をかけるものまで、様々な人間がいた。が、生きて対峙した人間は全員が目的を持っていた。目的も持たずにただ使っただけの人間は全員死んでいる。奇跡的に生き残った奴もどこかしらの肉体か精神に大きな傷を負っている。
魔術とはそう言うものだ。だからこそそんなことになっていない高町が何のために魔術を使っているのかが分からない。
守る?何を?なにから?
それが分かれば、高町の目的も分かってくるだろう。そして、その目的のカギとなりそうなのが、『次元世界』という言葉だろう。
だが、次元世界とは何だ?
「……次元世界?まさか、ティンダロスの猟犬の住まうとこか……?」
ティンダロスの猟犬が住む世界は鋭角しか存在しない世界だ。『次元世界』が次元が違う世界とそのままの意味ならティンダロスの猟犬がいるような存在から守るために魔術を?
いや、もしかするとイスの住む世界の可能性もある。まさかこいつ、イスと精神を交換したのか?今いるこいつはイスだというのか?
だが、これで何故ティンダロスの猟犬を無傷で対処できたのか理解できた。間違いなく、こいつらはティンダロスの猟犬を知っていた。炎の精を知らなかったということは、時間に関する邪神を崇拝している可能性がある。
時間に関する邪神……。時間で思い浮かぶ人間が欲するのはなんだ。未来視か?それとも過去視か?だが、それはティンダロスの猟犬を何とかする手段を持っているんだから既に見ている可能性がある。他に時間に関するものはなんだ?
時間……時間……。人間……時間……。分からない。なら、逆に考えろ。欲しいものじゃなくて避けたいものを。人間が怖いものと言えばなんだ?時間で怖いものと言えばなんだ?怖い物といえば、ティンダロスの猟犬?いや、そんな具体的なものじゃない。抽象的な……恐怖は……死?死を回避……不死……不老不死……。
不老不死?不老不死……不老……不老を求めている……?まさか、召喚したい邪神は、塵を踏むもの?
「……クァチル・ウタウスの不老不死を求めている?」
可能性は、ないわけではない。歴史上不老不死を求めた人間は数多くいる。現代だって如何に老けないかを研究しているほどに、求められていると言っても過言ではないものだ。それを求めて儀式を行っている可能性は十分あり得ることだ。
だが、それではなぜ黒い仔山羊を召喚したのかの理由が分からない。まさか黒い仔山羊の召喚方法のみが書かれた魔導書があった?ないわけではないが、なぜそれだけが書かれている?黒い仔山羊に親密な邪神であるシュブ=ニグラスも書かれている方が自然だ。
「……判断するには情報が少なすぎる。もっと搾り取ったほうが良かったか……?いや、これ以上使えば高町に疑われる可能性が高いか……」
不老不死を求めているのが誰なのか。ティンダロスの猟犬から守っているであろう高町が求めているとは考えにくい。いや、ティンダロスの猟犬の対処方法と考えればそうでもないんだろう。だが、どうやってクァチル・ウタウスを召喚するんだ?魔術師とは言えたかが1人程度の魔力で召喚できるとは到底思えない。なにか、俺のような『貯蓄』でもしていない限りそんなことはできないはずだ……。
「……なるほど。そのためのジュエルシードというものか」
これが何なのかは厳密には分からないが、おそらく魔力の籠ったアーティファクトのようなものだろう。誰が、なぜ、どこでそのアーティファクトを作ったのかは分からない。だが、今までの経験上
そして、高町はそれに踊らされている
「……だが、一番わからないのが、『管理局』だ」
『管理局』。言葉だけを見るなら、何かしらを
何を、何故、何のために管理するのか。人を殺すためか人を救うためか優越感を感じるためか愉悦に走るためか。
……いや。今までを考えればそれも分かる。魔術書、アーティファクトと言った存在を自分のために使おうと、他を圧するために作り出した組織だろう。
大方
「……この組織の人間を残らず殺した方がいいか」
こういう組織は末端が腐っているか、幹部以上の存在が腐っているかの2つしかない。創設者が危険なものを管理して平和にしようという考えを持っていたのだとしても、
……そうならないために、『管理局』は潰す。独自の理論を正論として押し付けてくるであろう魔術師の組織は、潰した方がいい。魔術師に、いい奴なんて存在しない。すべての人間が、自分のことしか考えないんだから。
「……あの黒いガキと金髪のガキ、オレンジ髪の女が、『管理局』か?」
……いや、まだ断定するのは早いか。あの時もこのときと同じように大して考えもせずに殺して、その結果があの惨事だ。もっと情報は集めた方がいい。が、おそらく時間はない。黒い仔山羊がいる今、儀式は大詰めにある可能性が高い。
だが、わからない。今までの事件は近くで起こったわけではない。住宅街、山の神社、そして公園付近の雑木林。近くで行わない利点としては所在地を悟られにくいという利点がある。が、それだけバラけているということはそれだけ移動する必要がある。計画犯であるにしろ愉快犯であるにしろ、監視や傍観はあるはずだ。警察はバカではあるが、無能ではない。こんな事件があって犯人が近くにいたと判断して捜査していてもおかしくはない。
なのに、その犯人の目星すらついていない。公園ではあんなことがあったにもかかわらず、だ。つまり、それだけ隠密行動が得意である、または別の『目』を持っている可能性が……。
……あぁ。そうか。あの猫か。よく監視して来るあの猫が、猫の主人がこれまでの事件の主犯なのか。
なぜ俺の家族を監視していたのか。なぜはやてを監視していたのか。まだわからない部分はある。が、十中八九儀式の生贄として目星をつけていたんだろう。俺の家族を、生贄に使おうとしていたんだろう。
なら、話は早い。昼間は手段が限られているが、夜ならいくらでも殺す手段はある。昼間でも殺す手段を考えなければならないが、夜見つけた時は、殺す。
絶対に、殺す。俺の平穏のために、俺のモノに手を出す奴らは何であれ殺してやる。
絶対に、殺してやる。
『精神的従属』
視界に入っているならば誰にでもかけることが出来る。この呪文にかけられた対象はどんな命令にも従う。誰かを殺すことも自殺することも思うままにできる。
ただしそのために発動まで30秒前後時間がかかり、効果も10秒しかないため連続して使用することができないのが難点。
【朗報】なの覇さん、虐殺対象回避【飛び火がひどい】
今回も原作キャラ出ず。そしてぬこぬこに死亡フラグが立てられました。
いやぁ。ヤバいですね。タグに原作キャラ死亡ってもうつけた方がいいですねこれ。
どんどん当初のシナリオから剥離していく。どうしてこうなった(震え声)
しかし、うん。本当ならもっと単純に行きたいかなぁと思っていたのに、どうしてこうも複雑になっていくんだろうか。
あれも入れようこれも入れようとしているのが悪いんですねはい。ホントどうしてこうなるまで詰め込んだんだ!私ぃ!
あと『精神的従属』の事故解釈について
他殺にしろ自殺にしろ、何かしらの命令を受けて行動する場合、行動の手順まで命令をしなければならない、というわけではないという解釈をしています。
つまり呪文を受けたAがBを殺すとき、素手で首を絞めたり手にしているもので刺し殺したりと自由に選択できるのでは?という考えです。自殺でも首吊りや喉を一突きといろいろあるなかで自由にできるわけですし。
要は無意識下である程度自分で考えて行動しているわけだから時間内ならば知っていることを書き記すことも可能ではないのでは、という解釈で行っています。とんだ解釈でゴメンねゴメンね~(目逸らし)