3度目の人生は静かに暮らしたい   作:ルーニー

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1ヵ月ぶりの更新ナリィ


無印4

「……どういうことだ?」

 

 親も寝静まった夜遅くに、信也はパソコンを使っていた。モニターから発せられている光だけが灯っている真っ暗な空間の中、悩み苦しむかのような表情をしながら信也はモニターを睨みつけていた。

 

「……情報に統一性が、ほとんどない」

 

 モニターには今まで起きた事件、動物病院前ガス管爆発事故、神社爆破テロ事件、そして公園前森林無差別テロ事件についてのメモが書かれていた。同時にSNSやニュースと言った様々な場所から情報を確認しているが、それでも共通する情報はほとんどなかった。

 無論、事件があった場所に行っては調べているが、有力な情報を手に入れることはなく時間だけが過ぎていくことに信也は焦りすら感じていた。

 そしてパソコンを使って様々な情報を調べていった結果、やっとのことで共通性のあるものを見つけることができた。

 

「……ピンク色の光」

 

 そう。ピンク色の光だ。大なり小なり今まで起きた爆発事件にはピンクの光が発せられているという目撃情報が多かれ少なかれあったのだ。けど、あるとしてもその程度で他にはほとんど何もないと言っても過言ではないほどに情報は少なかった。

 病院前の爆発も確認したはよかったが粘液らしきものも何も残っていなかった。警察が調べたのかと思い近くで待機していた警官に聞いてみても何も情報はなかった。何かを拾ったというわけでもなく、何かを発見したというわけでもない。俺も調べてみたが、なにも成果を得ることはできなかった。

 神社でもそうだった。破壊跡がいくつもあっただけで、他には何もなかった。他には何人かが散歩でここに来ただけで話を聞いても、1人が気絶したという話があっただけだった。話を聞いてもいつの間にか意識を失っていて何があったのか覚えていないというだけで俺の欲しい情報は何1つなかった。記憶を呼び出すために魔術を使いたかったが、信也はその魔術を覚えた記憶がないために思い出させることはできなかった。

 

 だが、最近起きたあのテロ事件、公園前森林テロ事件は今までとは毛色が全く違う。

 今まで情報がなかったというのに、今回は特別情報多い。それこそ、どんな存在が暴れていたのかがネット上で上がるほどには。

 

「……植物か……」

 

 ネット上では被害のあった道路や建物の画像が張られている。道路や壁には植物の根、あるいは枝のような何かがアスファルト、コンクリートを破壊したような跡が残っていた。そして、目撃情報には植物が暴れまわった、木が動き出したなどと言うものがあった。そして、気になるのがピンク色の光、それもレーザーのように纏まった形で放出されていたという情報もあった。

 

「……植物……ザイクロトルか?」

 

 ふと信也はシャッガイからの昆虫の奴隷である、金属光沢を持つ植物を思い出す。これに関しては見たことがないが、シャッガイからの昆虫に寄生されていたやつの持っていた写本に姿と特徴が書かれていた。植物と聞いてピンとくるのが、こいつだ。

 しかし、信也の読んだ名もない魔導書の写本が正しいならば、ザイクロトルにこれほど被害を与えられるほどの長さの根や枝があったとは記載されていなかった。いや、写本というにも粗末なものだったから書かれなかっただけなのかもしれないが、ここまで広範囲となるとどれほどのザイクロトルがいるのか。

 仮にそうであるとしても、金属光沢のあるザイクロトルがいる中それを疑問に思わない人間がいるのか?1体だけならまだしもそんな大量のザイクロトルがいるというのに何も騒がれないとは思えない。

 それに、現場はめちゃくちゃだったが森の中央部にいたとは思えない。あまりにも被害が偏り過ぎている。仮に中央にいた奴らが暴れたとして、何故あまりにも偏っているのか。迷い込んだ誰かを追いかけたとしても、自分の住処でもある森をここまで破壊して追いかけるとは思えない。それに、そんな大量のザイクロトルを、中心にいない神話生物を見逃すはずがない。

 

 それに、まだ植物に似た生物はいる。

 

「……黒い仔山羊」

 

 黒い仔山羊。やつなら単体でも十分に森を破壊することができる。それに、黒い靄のようなものが黒い仔山羊を見た際の見間違いであるのならば、精神を守るために記憶をぼかしたと考えるのならば辻褄も合わないことはない。

 そして、最大の理由となるであろう神が、母体とする唾棄すべき神を黒い仔山羊にはいることを知っていた。

 

「……シュブ=ニグラス……」

 

 信也は豊穣を司る神として祀られている、黒い仔山羊を産んだ神であると知っていた。今回の事件はシュブ=ニグラスを信仰している団体が召喚したものであるのだろうと当たりをつけた。

 だが、何故黒い仔山羊を召喚した?何が目的で黒い仔山羊を使役している?何故、シュブ=ニグラスを召喚しなかった?

 信也は今回の事件について、全くと言っていいほど察知していなかった。シュブ=ニグラスを召喚するにしても、黒い仔山羊を召喚するにしても、あんな場所で、信也自身も通る雑木林に存在するとは考えにくかった。

それに、探索にはそれなりの自信があり、さらに市内全ての場所を、それこそ非日常の噂すらある場所にすら最大限の警戒を払って足を運んでいた。事件が起きた神社や雑木林も怪しい場所がないか探し回った。

にもかかわらず、事件は起きた。間違いなく敵は、黒い仔山羊を使役している狂信者は自分よりも格上だと信也は確信していた。

 

 同時に、もし黒い仔山羊すらも隠し通せる技術や魔術があるのなら、話は変わる。信也の知らない魔術を持っていることはありえないことではない。むしろ知らない魔術の方が多いのだ。

 信也は神との接触やクリーチャーとの接触を図る魔術を数多く知っている。だが、その数多くというもの一般的に見ればの話だ。個人で考えれば多く、しかし絶対数を鑑みればまだ少ない。無貌の神や知識の神が識っているものを考えればむしろ少ないと言える。

 だからこそ、信也はその可能性を考える。知らないことがあることが当たり前だと、全てを疑っている信也にはそれこそが当たり前なのだから。

 

 しかし、信也は魔術以上に気になることがあった。それは生贄だ。

 黒い仔山羊およびシュブ=ニグラスを召喚するには生け贄が必要となる。だが、この街で行方不明になったという話は聞いたことがない。他の街で調達したと考えるなら話は別なのだが、ニュースにもなっていないことに信也は疑問に思った。

 最初のガス管爆発事故として処理されたあれは少なくとも1週間近く前の出来事だ。だというのに、行方不明となったであろう人物に関するニュースが全くないのだ。数日程度ならともかく、既に1週間近い時間が経っている今、ニュースとなっていてもおかしくはない。だというのに、ここ1週間どころか1ヵ月そんなニュースが送られていない。

 

「……まさか、もっと前に拉致監禁された人物を使って……?」

 

 ありえない話ではない。だが、狂信者どもがそこまで悠長に待っていられるのか、そこが疑問に残っていた。

だがそれを可能にしたからこそ、否、破壊活動があるまで隠し通せるその技術があったからこそ今回のように後手に回ってしまっている。

 これ以上、後手に回っていては、殺されてしまう。ならば、やるしかない。

 

 

 

「……神話生物を、クリーチャーを使うか……」

 

 いまだにピンク色光が何なのかを理解することもなく、ただ目の前に見えている脅威に対抗するために、信也は手を出してはならない存在に手を伸ばした。




主人公の未来はハッピーエンドにしようかなぁと思い始めてきた今日この頃。まぁほぼ決めてはいるんですけどね。

どうも。文字数少なめの更新で不甲斐ない思いです。
ついに主人公が狂信者のようなことをし始めましたね。いもしない狂信者と神話生物と神に怯えて。

ハッピーエンドにしようかなぁとは思ったけど主人公と原作キャラをどんなふうに苦しゲフンゲフン困難を与えようかなぁと考えるとゾクゾクしてます。

早く原作キャラと絡めるようにしないとなぁ……。

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