秋色の少年は裁定者の少女に恋をした   作:妖精絶対許さんマン

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霊脈捜査 Ⅳ

「何を餌にされて黒魔術(ウィッチクラフト)使いと結託した?金か?名誉か?私と秋を差し出して階位でも得るつもりだったか?」

 

「ふん、そんなモノに興味はない。私とあの魔術師とはお互いに不可侵を約束しただけだ。我ら(更識)は冬木にある霊脈の場所を教える。黒魔術使い(あちら)更識(我ら)に害を加えない。そんな単純な約束だ」

 

更識刀夜はつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

「隠居した大人がしゃしゃり出てくるものじゃないぞ。大人しく山小屋にでも籠っていたら良いものを」

 

「現当主が頼りにならないと言われては、私もおちおちしていられないのでな。何代も積み重ねて来た更識を、更識家始まって以来の無能な当主のせいで潰されるのは我慢できんのだよ」

 

「ーーーーーーえっ?」

 

刀夜は吐き捨てるように言う。楯無は自身に魔術師としての才能が無いことは分かっていた。それでも、父から言われた言葉は衝撃的だった。

 

「こんなことなら簪を当主に据えておけば良かった。まったく、使えん餓鬼だ。お前たちの母親と一緒だ」

 

「お母様と・・・・・・一緒?」

 

楯無と簪は母親の顔を知らない。物心ついた頃にはいなかった。

 

「ーーーーーーお前たちの母親は俺の妹だった」

 

「妹・・・・・・近親同士の性交による魔術回路の増幅か」

 

「そうだ。更識家は先祖代々姉弟か兄妹が産まれるようになっている。だが、お前たちの母親は魔術回路が更識始まって以来の少なさだった。だから、お前たちが産まれたと同時に殺した。が、産まれてきたのが両方とも女。それも片方は魔術の才能が無いと来た。苗床にも使えない出来損ないが!」

 

刀夜はゴミを、汚物を見るような眼で楯無を見る。刀夜は元から楯無にも、簪にも関心はない。ただあるのは更識家の発展のみだった。

 

「は、ははは、はははははははははははは!!!!!」

 

殺伐とした空間に橙子の笑い声が響く。その笑い声はどこまでも相手を馬鹿にしたような笑い声だ。

 

「・・・・・・何が可笑しい?何も可笑しいことはないはずだ。『冠位(グランド)』の階位を持っているのなら我らの行いが理解(わか)るはずだ!」

 

「ああ、理解(わか)るとも。私だって魔術師だ。だけどさぁ・・・・・・その話は一体、私に何の意味があるんだい?」

 

橙子は前髪をかき上げて、口元を大きく歪める。

 

「私が今日、此処に来たのはただの報復だ。私の息子(愛弟子)を殺そうとしたお前たちへのなぁ!」

 

「っ!殺れ!!」

 

橙子が手に持っていた匣を地面に落とすのと同時に、更識の刺客達が楯無諸とも(・・・・・)殺そうと呪符を投げる。ーーーーーー匣が開く。棘の壁が呪符を防いだ。壁だった棘は触手になり更識の刺客達を襲う。

 

「な、何で効いてなぎゃ!?」

 

「いやぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「し、死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!?」

 

ーーーーーー阿鼻叫喚。ただ、それだけだった。ある者は頭から丸呑みにされる。ある者は心臓を抉り食べられる。ある者は爪先からゆっくりと食べられていく。この屋敷にいたであろう全ての刺客達は『魔』の餌食になっていく。それは、更識刀夜にも当てはまる。更識刀夜は触手に絞め上げられ、左手と右足を喰われている。

 

「更識刀夜。死ぬ前に一つ聞かせろ。娘の事を道具としか見ていなかったお前が、何故、娘を守るような依頼を秋にした」

 

「・・・・・・がふっ!母胎に何かあれば・・・・・・ごふっ!更識の繁栄に影響が出るからだ」

 

「そうか・・・・・・聞いて損したよ」

 

刀夜は匣の中に引っ張りこまれていった。パタンッ。静かに匣の蓋が閉まった。

 

「さて・・・・・・問題は」

 

橙子は後ろに振り向く。そこには眼に光が灯っておらず、精神崩壊一歩手前な状態の楯無が座り込んでいただ。

 

(無理もないか・・・・・・いくら更識の当主とは言え子供。それも、自身の出生と必要が無いことを一気に知らされたんだ。下手したら自殺するかもな)

 

橙子は懐から箱を取り出し、煙草を一本くわえるて火を灯す。紫煙が風に乗って夜空に流されていく。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あの・・・・・・今日からよろしくお願いします」

 

「よろしくなのだ~♪」

 

「本音!ちゃんと挨拶しなさい!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

深夜。伽藍の堂四階に明かりがついている。秋は寝ている所を橙子に叩き起こされた。

 

「・・・・・・先生。どういうことですか?」

 

「引き取った。以上」

 

「先生、起承転結の内の起承転をすっ飛ばして結だけ言うのは止めてください。更識家に行って何で更識先輩達を引き取ることになるんですか」

 

ソファーには更識姉妹と布仏姉妹の四人が座っている。橙子は橙子で素知らぬ顔をして煙草を吸っている。

 

「はぁ・・・・・・四人とも今日はもう寝て。隣の部屋にベッドあるから。左側は人がいるから右側で寝て」

 

「分かったのだ~♪」

 

「もう・・・・・・」

 

布仏姉妹が先に部屋に入っていく。

 

「ごめんね、秋。お姉ちゃん行こ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

簪は楯無の手を引いて部屋に入っていった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

秋は無言で入っていく楯無を見て、違和感を覚えた。

 

「先生・・・・・・更識先輩に何をしたんですか?」

 

「私は何もしていない。そうだな・・・・・・例えるなら一時期のお前より酷い状態だ」

 

「・・・・・・精神的支柱を無くしたんですね」

 

「ああ。お前は無意識に私をジャンヌ・ダルクの代わりにしているだろ?」

 

「ええ・・・・・・まあ」

 

秋はバツが悪そうに顔を逸らす。

 

「今の楯無は精神的支柱、言い方を変えれば依存するモノが無い状態だ。人間は何かに依存しないと生きていけない生物だ。金、女、薬、それこそ宗教にいたるまで人間は依存する。何故か分かるか?」

 

「・・・・・・自分に足りない何かを補うためですか?」

 

「半分はな。もう半分は自分が優越感に浸りたいから(・・・・・・・・・・)だ。金は多く持つほど他人との貧富の差で優越感を得る。女は同性よりさらに綺麗に、美しくなって『自分は他の女より美しい』と思うことで優越感に浸れる」

 

橙子は吸い殻を灰皿に押し付けて火を消す。

 

「薬は辛い現実からの逃避のために使って依存していく。宗教も結局の所は自分の行いを正当化して優越感に浸りたいだけだ。魔女狩り然り、十字軍の遠征然りだ」

 

秋は『魔女狩り』という言葉に反応して、歯をくいしばる。

 

「今の楯無はその依存先を失っている状態だ。ここからは二つの結末が待っている。一つ、新しい依存先を見つけて立ち直ること。二つ、このまま依存先を見失った果ての自殺。このままだと後者の方が確率的に高いな」

 

「そう・・・・・・ですか」

 

秋は外は努めて冷静に、内心は楯無の未来に興味はない。秋もまた、ある種の破綻者なのかも知れない。

 

「私はもう寝る。お前はどうする?」

 

「僕も寝ますよ。流石にこの時間まで起きてたのは辛いんで」

 

時計の針は午前三時を指している。

 

「ちょっと待ってろ。毛布取ってくる」

 

橙子は部屋から出ていった。

 

「・・・・・・・・・・すぅ」

 

橙子が出ていくと暫くして部屋に秋の寝息だけが響く。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「持ってきたぞ」

 

三階から二人ぶんの毛布を持ってきた橙子は寝息を立てている秋を見つけた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

橙子は座っている状態で寝ている秋を横にして、毛布をかける。橙子は秋の頭を持ち上げ、自身の膝の上に乗せて髪を撫でる。ふと、式に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。

 

『トウコさ、アイツ引き取ってから変わったよな』

 

ある夏の日に言われたのはそんな言葉だった。

 

「ふっ・・・・・・私が変わった・・・・・・か」

 

橙子は小さく呟き、眠りについた。




・更識家の家系

外の魔術師の血を入れずに、その代に産まれた兄妹もしくは姉弟の性交により産まれた子供たちに魔術回路を増幅させていく独自の家系。ただし、代を重ねるごとに劣化していっている。そんな中、産まれた簪は奇跡に等しい。

・秋の依存先

秋の依存先は今は橙子。

・これからの更識姉妹と布仏姉妹

たぶん居候ルートまっしぐら。

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