遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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めっさお久しぶりです、紫苑菊です。今回はこちらの投稿。
短いです。かなり短いです。だいたい1万行かないくらい。そして、あと1話2話でこの小説はいったん締めくくらせていただきます。
まあ、本当は書きたい話はいっぱいあったんですが、カットにカットを重ねて、泣く泣くと言った経緯があります。時間がないんです。本当に時間がないんです。遅筆な上に書く時間がないとかまじで終わっています。さらに言うならその状況でデータがたびたび飛んだり、保存を忘れたり←おい
まあ、そんなわけでもう少しだけおつきあいください。


第18話

 

 

 とある喫茶店、昼と言うには少し遅い、夕方を少し過ぎたころ、俺はとある人物と喫茶店で向かい合っていた。目の前の彼女は、優雅に珈琲を飲みながら、美味しいわね、と言いつつ、今回の事件の経緯を聞いていた。

 

「それで、結局許しちゃったのね。」

 

 馬鹿な子、となじられる。この人になじられるのは、少し、いや、かなり不快だった。妙な気分になる。

 

「まあ、私からあの子にはお灸を添えておくわ。鞭は私がやるから、飴はあなたの担当ね。」

「重ね重ね、迷惑をおかけいたしました、師匠。」

 

 師匠は止めなさい、と随分前から言っているでしょう?と師匠は俺に言った。だが、俺からすれば目の前の女性は紛れもなく師匠で、恩師でもある。

 敬意をもってこの呼び方をしているというのに、というと、あなたの場合はからかい半分が入っているでしょう?と返された。流石は師匠、俺のことをよく分かっていらっしゃる。

 

「それで、件のあの子はどこに行っているの?」

 

 そう言われて、俺は返答に困った。仕方がなしに、俺はこの喫茶店にあるテレビを指さす。

 

 今現在、目の前のテレビでは近くで先ほどまで行われていたアマチュア杯の映像が流れていた。その大会はただの大会ではなく『マーズ杯』と呼ばれるもので、カードプロフェッサーの証である『ブラック・デュエルディスク』と『プラネットシリーズ』と呼ばれる、世界に一枚しかないカードを賭けた、とてつもなく大きな大会である。デュエリストなら、いや、デュエリストでない一般人ですら注目するような、大型のリーグだった。

 

「ちょっと待って、ねえ、中心にいるのって・・・。」

 

 その通りです、と思わずため息をついてしまった。『マーズ杯』は数日かけて行われるのだが、どうやら彼女は昏睡から目覚めて間もなくエントリーしていたらしい。車椅子に乗りながらプレイしている姿は、俺たちの第二の母、とも言えるであろう、舞子先生そっくりだ。長時間立っているのは疲れるから、と先生の予備の車椅子を借りたらしいが、やっているデュエルはド畜生に尽きる。そもそもネフィリムが突破しにくいのに横にエグリスタとミドラーシュを並べるのはいかがなものか。あ、ウェンディゴまで出てきた。実力伯仲で融合デッキから出てきたモンスターを無力化したうえで、デッキ融合を行っているらしい。

 

「うわ、えぐいわ。あなたならどうやって突破する?」

「デッキの上に手を置きます。」

「奇遇ね、私もよ。」

 

 ですよねぇ、と互いにため息をついた。病み上がりであんなに元気な彼女を見ると、なんだかやるせない気持ちになってくる。目の前の師匠も奮闘してもらっただけに、余計に。

 

「まあ、私は知り合いの精霊に聞くだけだったんだから、いいんだけどねぇ。」

 

 心配だけは返してほしい、と言う言葉には、思わず賛同してしまった。目の前の人物からすれば、そりゃあ手間では無かっただろうが。何せ、自分自身が精霊なのだから。

 

 『ティラ・ムーク』。ヴァンパイア使いであり、そして尚且つ精霊に愛された結果、自身が『ヴァンパイア婦人(フロイライン)』に昇華した、世界でも類を見ないであろうデュエリスト。

 と、言ってもその戦略(タクティクス)はさほど高くはない。実力だけなら自分の方が高い自負がある。それでもなお、彼女を師匠と呼ぶのは、精霊使い、としての向き合い方を教えてくれた、恩師であるからだった。

 

「それで、要件って何?あなたが私を呼び出した、と言うことはそれ相応の情報なんでしょうけど。」

 

 そう言う彼女に、俺は黙って手元の資料を手渡した。今回の事件、そしてセブンスターズ、七星門と呼ばれた彼らについてである。

 珈琲を飲みながら資料を読むさまは、本当に絵になっている。ここだけの話、タイプ、と言うならジュリアよりも彼女の方が好みのタイプではあった。なにより・・・。

 

「・・・ブフォオ?!」

 

 こうして、時々すごく残念なところなんかは、凄く嗜虐心と言うものをそそられる。口から噴き出した珈琲をだらだらと流し、茫然とした表情で彼女は資料を食い入るように見つめていた。

 

「ヴァンパイア、カミューラ?ちょっと、ヴァンパイア使いがそっちにいたの?」

「ええ、相手を傀儡化させるタイプのゲームの使い手でした。幸いなことに、傀儡化した後の相手を、任意に同族にする、なんていうことは出来ないようですが。」

「それでも十分厄介ね。」

「まあ、彼女自身の実力が大して伴っていないですし、なにより、人質を使わなければ学生にも負けてしまうような実力なので、お察しと言えばお察しですが。」

 

 その情報だけでも、あなたにとっては十分でしょう?と言外に告げてみる。目の前の人物の目的を知っているからこそ、このことだけは伝えないといけなかった。

 

「助かるわ。それにしても、カーミラ一族の側にも、ヴァンパイアの生き残りがいたのね。」

「そう言えば、あなたはヴラド側の一族なんでしたっけ。」

「そして、私の標的も、よ。」

 

 そう言って、彼女は笑顔で俺の方を見た。笑顔、と言うには邪気があるが、彼女にとっては進展があったのだから、それも仕方がないだろう。なにせ、数日前までなら、間違いなく俺も似たような顔だったと自信を持って言える。

 

「と、言っても、ペガサスさん辺りから、そのあたりの情報は得られるかもしれませんが、念のためこうして直接渡しているわけです。」

「あら、あの人は情報に関してはシビアよ?身内以外にはね。」

 

 暗に、私はお前達とは違う、と言われる。まあ、彼女はあくまで雇われの身ではあるのだが、だからと言って無関係、という訳ではないだろうに。

 

「まあ、情報料ならあげるわ。ちょっとこっちに来なさいな。」

 

 そう言って、彼女は俺にちょいちょい、と人差し指で指示する。それも笑顔で。

 こういう時のこの人は、大抵ろくでもないことしか考えていない。今回もそうなのだろう、とは思うが、それでも拒否しないのは後々まずそうだ。仕方なしに近寄る。

 

 すると彼女は俺に抱き着き、抱擁し。

 

 牙を肩に突き立てた。

 

「・・・・・?!」

 

 思わず叫びそうになる。痛い。悲鳴をぐっとこらえて、非難めいた視線を送る。

 

「そんな顔しなさんな。」

 

 そう言って笑うが、絶対態とだ。この人の牙はその気になれば相手を快楽じみた快感に襲わせることもできる。だのに態と痛みを強くしたことは明白だった。

 

「・・・あんた、随分無茶したでしょ?片腕、まともに動かせないことに気付かないと思った?」

 

 ・・・気付かれていた。まあ、そこまで隠す気はなかったし、女性は鋭いというから、覚悟はしていたことだった。

 

「まあ、ちょこっと今ので弄ってあげたから、少しは動きやすくなるはずよ?」

 

 そういわれて、初めて腕の異変に気が付いた。しびれが取れて、先ほどよりもはるかに動かしやすい。

 

「まあ、一時的な眷属化とでもいえばいいかしら。安心して、体の不自由が取れた以外は殆ど前と変わらない。日に当たってもどうこうなるわけじゃないから。と、言っても無茶していいわけじゃないわよ?負荷を賭けたらどうなるかは分からないし、気を付けてね。」

「助かります。」

「いいのよ、面白いものが見れそうだし。」

 

 それじゃ、私は行くから。そう言って彼女は姿を消す。半分精霊の彼女にとって、体を霧のようにするのは造作もないことなのだろう。

 席に戻って、残ったコーヒーカップに口をつける。はて、彼女の言う面白いものとは何なのだろうか。それだけが気になった。

 

 といっても、数秒後にはこの発言を撤回することになる。

 

「随分と、優雅だね。」

「・・・、いつからいた?」

「ついさっき。」

「・・・そうか。」

 

 理解した。したくはないがしてしまった。

 あの人が俺を治すのに用いた手段。それを傍から見ていたらどう見えるだろうか。答えは簡単だ。抱き合ってハグをして、そして首元にキスをしているように見えるのではないだろうか。

 そして、その光景を彼女が見ているとしたら。ありえない話ではない。なにせこのカフェは、件の、彼女が出ているリーグ会場の目と鼻の先で、終わった後に合流できるようにしていたのだから。

 あの人は、彼女が視認できるのを確認した後、この悪戯を実行したのに違いない。その証拠にあの人がわざわざ血霧になった(・・・・・・)のは、この状況を出歯亀するために巻き込まれない、かつ安全な立ち位置を手に入れる為だったのだ。

 

「・・・一般人を巻き込んだ罰、もう少し優しくしてくれませんかねぇ。」

 

 無理ね、と言う声が聞こえたのもつかの間、俺の意識は目の前の泣きそうになっている彼女を全力であやすことに没頭するしかなかったのだった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「以上が、今回の事件の全容になります。」

 

 レポートを提出し終わり、目の前の上司に一連の出来事を報告する。本来、彼は上司ではないのだが、今回の一件に関してだけは、俺は彼に報告する義務があった。

 

「・・・頭が痛いな、あと胃も痛い。」

「奇遇ですね、自分もです。」

 

 お前には聞いていない、とにべもなく言われてしまう。感覚的には、自分も彼と同じなのだが。

 

「それで、あいつは今どうしてる?」

「リーグ7勝目記念に酒飲んでぐっすり寝てますよ。」

 

 まったく。あの馬鹿娘は、と愚痴る。人がせっかく時間を作ったのに寝ているのはどうなのか、と言う意味なのか、一連の事件の動機についてなのか、は分からなかった。

 

「起こします?数年ぶりの娘の声でしょう?」

「ゆっくり寝かせておいてくれ。」

「そうですね、それがいい。」

 

 分かってるなら聞くんじゃない、と怒られてしまった。大きな声を出すと彼女が起きますよ、とやんわりと言ってあげると大人しくなる。今日は、これが使えそうだ。

 

「貴様のそういう、見透かした上で聞いてくるところは嫌いだよ。あいつを思い出す。」

「彼、というとペガサスさんですか?」

「いいや、エリアスもだ。」

 

 エリアス。エリアス・ジミーロット。それは、社長の名前だった。

 

「あいつも、ペガサスとよく似ている。相手のことはよく見透かしているくせに、笑いながらその上を踏破していく様は、お前もよく似ているがな。」

「・・・買いかぶりすぎですよ。俺はそこまでじゃありません。ペガサスさんだって、見透かしているのはあのアイテムの力あってこそです。社長の様な怪物じゃありませんよ。」

「そう言っているのは過小評価だな。俺はお前を高く評価している。ペガサスもだ。あのアイテムなしでも、あいつはわが社にとって有益だ。」

「それなら、なぜジュリアに縁談を用意したのですか?」 

 

 核心に迫る。この質問は、ほんの数日前の俺ならできなかっただろう。この人、カール・コクランと正面を切って、面と向かって言葉を交わし合うことを、俺は恐れていた。

 理由は、まあ単純ではある。自分に自信がなかった。その一言に尽きた。だからこそ、俺はあの縁談話を仕方のないことだ、と受け入れた。でも、今の自分は違う。過去を受け入れて、その上で今の地位がある。今でこそ降ろされてしまっているけれど、新プロジェクトにそれなりの地位にいる。自分の仕事には自信を持っているし、他人が見たらうらやむ立場にはいる自覚がある。

 

 これは、今だからこそ聞ける質問だった。

 

 カールさんがグラスを鳴らす。中にはブランデーが注がれていた。一気に煽り、一言。「強いな。」と漏らす。彼女同様酒には強くない彼(アメリカンにしてはだが)がここまで酒を飲む、と言うことは言いづらいことなのかもしれない、と思った。

 だって、避けていたのは彼もなのだから。仕事以外で彼と話したことはほとんどない。あるのは、たった数回。

 

 彼女の病室、だけだった。

 

「本人相手には言いづらいがな。」

「構いません。後ろ指をさされる生き方をしていた自覚はあります。」

「そう言われても、言いにくいのは変わりない。」

 

 何より、自分は間違っていたのだからな、とぼやくその姿に、かつての覇気は全く感じられなかった。

 

「貴様が前科者だったからだ。」

 

 ・・・やはりそうか、としか思えなかった。

 

「・・・前科者と娘が付き合っているのではないか、と言われた時、私はそんな奴には任せられない、と思った。貴様なら分かるだろ?誰だって、好きでそんな男と一緒にさせる親がいると思うか?」

「いえ。」

「・・・随分と素直だな。」

「もっと怒ると思っていましたか?」

「まあな。」

 

 そう言って、また彼はグラスに口をつけた。

 

「話を戻すがな。正直、それでも彼女が選んだならいいかとも考えた。・・・自分が、娘に心を開かれていないのは分かっていたし、あの若輩者、ペガサスの方が、よほど親らしいとも考えていた。

 そして、私は君に会いに直接出向いた。覚えているか?最初に会った時のことだ。」

 

 忘れるわけがない。その時の彼は職場の誰よりも一層厳しい目で自分のことを見ていたのだから。

 

「貴様は、いや、君は成程、素晴らしい人間だと思ったよ。」

 

 だけど、そう評価されていたのは驚きだった。

 

「意外か?」

「ええ。」

「正直だな、あいつらならこういう時、茶化しに来るからそういう反応は懐かしい。」

 

 そう言って、珍しく微笑んだ。あるいはマウントを取れて喜んだのかもしれない。こういう時、彼女は父によく似たのだな、と思う。

 

「あの時の貴様は、誰よりも努力していた。世話になっているペガサスの顔に泥を塗らないように、そして、他人に顔向けできるような人間になる、という意志が感じられた。成程、こういう男なら確かにいいかもしれない、とも思った。」

 

 とも思った、と言うのが、彼の場合世事ではない、と言うことに気が付かないことには気づいたが、手放しに喜べるほど、俺は舞い上がってはいなかった。

 

「だが、貴様は前科者だ。それも、一度は彼女と敵対した男だ。」

 

 それは、リムジンの中での一件を言っているのだろう。

 

「そんな奴に任せていいのか、という意志が消えることはなかった。むしろ強くなっていく。そんな矢先、縁談話を持ち掛けられた。コネクション云々抜きに、その男を調べた。成程及第点だ。私はお前と彼を天秤にかけ、」

 

 そして、相手が選ばれた。

 

「だが、私は相手のことを考えるだけで、ジュリアのことを見ていなかった。ここまで強く、私を、お前以外の人間を拒否するとなんて思っていなかった。」

 

 さらに強くグラスをあおる。もう、普段の強い彼の姿は、微塵もなかった。

 

「正直に言うと、あいつが倒れた時、そんな予感がしていた。自分から襲われに行くような真似を、娘がするはずがない、と思いつつ、私はずっとその考えにとらわれていた。」

「・・・自分は、そんなことは微塵も考えていませんでした。不甲斐ないです、自分が彼女を追いこんだことに、一緒にいても気付けなかった。」

「それは私のセリフだ。貴様はマシだ。私に至っては復讐、とまで言われたんだぞ。」

 

 追い込んだ自覚があるから、なんとも言えんがな。ただ空しく、そして不甲斐なさで死んでしまいそうになるだけだ。

 互いにため息をつく。そして、ふっとおたがいに笑い出した。

 

「まあ、これで私の肩の荷は下りた。潮時だ。」

「引退なさるおつもりで?」

「引退、じゃない。離職だよ。」

「一緒でしょう。それに、話はまだあります。」

「なんだ、私はもう話すことはないぞ。ジュリアは業腹だがお前に託した。ああ、縁談相手ならもういないぞ。縁談が破談になった後、そいつは忌々しいあの場所(ラスベガス)で破産した。重度のギャンブル癖だったらしい。つくづく、あそこには縁がない。」

「知っています。そんなことはどうでもいい。破滅させた経緯と原因は俺にもありますので。」

「おい、ちょっと待て今大事なこと言わなかったか?」

 

 本当に大丈夫かこいつ。と言う目で見られるが、嘘はついていない。ただ、あの時の議員の息子が、彼女の婚約者である、ということを敢えて教えなかっただけだ。

 何度も破産している人間ではある。だが、その外聞はそこさえ目をつぶれば問題のない経歴、いやむしろ素晴らしい人間だった。MITに首席で合格、将来を期待される若手のホープ。ただしギャンブル癖。

 そうでもなければ、あの議員も息子のために多額の金を渡したりしないだろう。たしかに、金払いはよかったが、傲慢じみた性格を内包していることに気が付かないほど、ラスベガスは平和ボケしていない。あれは、カジノ側からすれば文字通りカモでしかなく、そのことをこの人に教えるほど、係りがあったわけでもなかっただけの話だ。

 

 それに、たったそれだけでジュリアとあいつの結婚を阻めたかもしれない、とは思わなかった。

 

あなたから依頼されていた件(・・・・・・・・・・・・・)、きっちり調べましたよ。」

「・・・結果は。」

「ご想像の通り、と申しましょうか。」

 

 やはり、か。そう呟いて彼はその顔を苦痛に歪ませた。手元には、きちんと資料を用意してある。簡単な仕事だった。そして、この人にとっては難しい仕事でもあった。

 簡単、と言うには語弊がある。手段は簡単だったが、それを聞き出すのには苦労した。何が悲しくて、自社のなかで内部調査を行わなければならないのか。だが、まあ結果はこの人の推測通り、だったわけなので何とも言えない。

 手元の資料には、かつてペガサスさんが危惧した、改革(コクラン)派と会長(ペガサス)派に所属しているメンバーの名前が載っている。そして、一番上にはそれぞれの創始者の名前がある。

 そして、その名前は同じものだった(・・・・・・・・・・・・)

 

「どうしてわかったんです?」

 

「勘、としか言いようがないんだがな。私を支持する側と、ペガサスを支持する側が対立し、会社が水面下で二分化しかけていた、と聞いた時、真っ先に出てきたのが、そいつの顔だったよ。あいつは、昔からこういうことが得意だった。

 私から言わせれば、お前の方が不可解だ。最初にこの仮説を話した時、貴様は驚くのではなく、ああやはりか、と得心していた。なぜだ。」

 

 何故だ、と言われたら、こう答えるしかないのだろう。

 

「知っていましたから。」

 

 クルサールさんに忠告されていまして。

 

 そう言った瞬間、苦虫をかみつぶしたような顔になる。今日のこの人はころころと表情が変わるから面白い。

 

「貴様ら、大事なことは話さないとでもいう暗黙の了解でもあるのか?」

 

 そんなのは物語(ホームズ)だけで十分だ。そう言うが、自分たちも信じてもらえない、と思ったから心のうちに留めていただけだというのに。

 

「・・・クルサールさんが彼と最初に会った時、そして、次に会った時。名前が違ったそうなんです。

 クルサールさんは、長い間カジノを経営していました。そんな中で、彼は人の名前と人相、特徴、そのすべてを一瞬で記憶し、網羅することが出来るんだそうです。クロフォード家の人間は、何かしら能力が突出しています。そのことは、あなたもご存じなのでは?」

 

 重々承知しているから、そこは疑っていない、という返事を、目でもらった。どうやら、前置きはいいからさっさと話せ、とも言いたいらしい。

 

「そこで、彼はくだらないことに気が付きました。俺も、思わず笑ってしまいそうになることなんですが、彼の名前はアナグラム(・・・・・)なんですよ。」

 

 多分、彼の遊び心なんでしょうね。そう言った瞬間、頭を?にした後、考え込み、手元の紙にありったけの単語を書き続ける。そして、数十秒もしないうちに思わず笑いだした。

 

「まさか、貴様ら本気にしたのか?こんなくだらないことを?!」

「其れこそまさか。」

 

 ですが、彼自身どこか信用ならない、本性をださない面がある。見ればわかる。そう言う人間は、カジノでよく見た。

 俺もクロフォードさんも、そこを警戒していた。だからこそ、クロフォードさんは、ペガサスさんではなく、俺にだけこのことを伝えたのだ。

 手元の資料には一つの名前が書かれている。家系図のように張り巡らされた線は、同じ名前で止まるのだ。少々変わった綴りで書かれた名前、エリアス・ジミーロット。それが、I2社を二分化しようとした犯人の名前。

 

「・・・引退は、まだ先のようだな。」

「それがいい。何かあったら力になりますよ。」

「貴様はペガサス派だろうが。」

「義理の父親を応援しないほど、不義理ではありませんので。」

 

 口だけは達者だな、と彼は踵を返して、扉に向かう。そして、小声でこう言った。

 

「そうそう、そこの部屋で狸寝入りをしている娘に、一度くらいは家に帰れ、と伝えておけ。」

「へ?」

「あいつは、私に似て居なくてな。」

 

 酒にはめっぽう強いのだ、と笑っていた。

 彼が去った後には、おそらくアナグラムを考えたであろう痕跡が残っている。筆記体で書かれたそれには、こう書かれていた。

 

 『James Moriarty』

 そして、思わず書いたであろう走り書き、『Fucckin’Kidding』の文字。

 

 ・・・たしかに、ふざけた、喜劇だと思った。

 

 

 




それから、廃人の方ですがいったん凍結することを検討しています。元々考えていた話が放送の関係で使えなくなり、シナリオが、まあ、あれだったのもあってHDDに溜めて放置していたのですが、HDDレコーダーを買い替えた時にデータを移すのを忘れていたので、今手元でどういう結末を迎えたのかわからない状態です。
DVDを借りたとしても、見る時間が取れない以上、お金の無駄になりかねませんので、いったん凍結し、時間が空いて再開のめどが立ちましたら、続きを投稿していこうと思います。

感想、評価よろしくお願い申し上げます。

・・・と、ここまで長々と話しましたが、実はそれなら手元にあるこのすばとかヒロアカとかの二次創作書きたい、というのも少しあったり←おい

という訳で、申し訳ありませんがまたしばらく廃人の方はストップするやもしれません。手元にある書きかけの分、どうしようかな。

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