遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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新年あけましておめでとうございます。今年度もよろしくお願いします。
 
今回は短いです。ですので、仮投稿だとお考え下さい。しばらくしたら、これも含めて全話リメイクして再度投稿していこうと考えています。その時はよろしくお願いします。廃人の方は少々お待ちください。


第16話

 

 

 先生の姿をもう一度見たのは、病院のベッドの上だった。

 あのデュエルの後、先生は学校から姿を消した。学校は、また行方不明かと大騒ぎになり、捜索空しく、この人の姿を誰一人、学園から見つけることは出来なかった。

 それはそうだろう。先生はあの後、人知れず島を出て、そして、この病院内で倒れていたのだ。

 どうやって島の外に出たのかは分からない。先生の事だから、精霊の力でも使えば上手くいったのかもしれない。そして、先生はこうして倒れて、病院のベッドの上で寝たきりになっている。医者の話によればここ一週間、目を覚ましていないようだ。

 

「まったく、無茶をするのね、こいつは。」

 

 みどりさんが横で花を供えながらつぶやいた。みどりさんは、先生とそれなりに長い付き合いらしい。ジュリア、先生が言っていたあの女の人の友達だったそうだ。

 

「ジュリはね、昔は私と同じ地域に住んでたの。カナダで生まれたらしいんだけど、母親は結婚するときにが親戚筋から勘当されて、父親と離婚した際に、逃げるように日本に来てたんだって。

 そんな子だったから、友達が少なくてね。笑いもしないあの子に、みんなしり込みしてた。外国人だからっていうのもあったのかもね、小学校の頃だったし。」

 

 でも、そんなジュリアを救ったのが、彼だった。みどりさんは悲しそうに笑いながら、そう教えてくれた。

 

「嬉しそうに、彼女が私に電話で教えてくれたの。私以外に友達が出来たって。ラスベガスに住む、優しい人だって。その頃のジュリは母親を亡くしたばかりで、父親に再度引き取られて、ますます陰鬱とした雰囲気になっていたから、心配だった。でも、そのこいつも実際はとんでもない巨悪の一味。私はそれを聞いた瞬間にやめろって言ったのに、それでも改心させるんだって、ジュリは楽しそうに笑ってた。

 私が紅葉の付き添いでアメリカに行った時に、改めて彼を紹介されてね。丁度、十代君と出会う1年前くらいだったかしら。不器用に笑うこいつと心の底から楽しそうに笑うジュリを見て、心の底から安心した。紅葉も彼と仲良くなっていたし、ああ、もうジュリは大丈夫なんだって。今までの人生が人生だったから、すごくうれしかった。」

 

 でも、そんな笑い合える日は短かったなぁ。みどりさんは泣きそうになっていた。

 

「ジュリが倒れたって聞いた後、すぐ後に紅葉の体調がよくなった。十代君と会ったあの病院、実は紅葉は入院していたの。幸いにも体力は回復してきていて、ジュリの様子を見るためにアメリカに飛んだらね、こいつが病院の部屋の前で立ち尽くしていたの。」

 

 思わず一発ぶん殴ってやろうと思った。でも、出来なかった。

 

「部屋に入ることすらが申し訳なさそうにしていて、それでも一目、顔だけでも見たいってのが丸わかりだった。殴る気も失せた。『そんな顔しないで、顔だけでも出しなさい。くよくよすんな。』って言ったら、『そうだな。』って言って、前みたいに不器用に笑って、そして、彼は妙なカードを一心不乱に集め始めた。

 I2社に正式に社員として配属された後も、どこかに出かけるたびに精霊を探し出しているのは知ってた。それが、ジュリを目覚めさせるためなんだって言うのも、なんとなく分かっていた。4年間、いや、もう5年間、か。仕事の空いた時間にずっとそれを探し続けて、休む暇もないくらいにせわしなく動くこいつの体が心配になった。教師として出向してきた後も、ほとんど毎週ジュリの様子を見に行ってた。

 それがやっと報われて、これからだって時に、今度はこいつ、か。」

 

 今だけは、神様を恨みたい。

 何が原因で、こいつらはずっと嫌な思いをし続けなければいけないんだろうとぼやいて、いつもの気丈なみどりさんはどこにもなかった。

 

「こいつはこいつで、14の時に身内と呼べるものとは引きはがされて、社会の裏側に手を染めて、それでも一生懸命生きて、これからだっていうときに、これでしょ?」

 

 それは、みどりさんに聞かされた先生の人生だった。みどりさんも、ジュリアさんから聞いたらしい。

 先生は、14歳のころまでは日本に住んでいたらしい。でも、ある日突然アメリカに飛ばされた。神隠し、と言うのは簡単だけど、先生の場合、警察に言っても戸籍すら見つからなくなっていたらしい。そのことを知った先生は、警察から孤児院に移される際に、自暴自棄になって逃亡した。

 そしてその後は、マフィアお抱えの闇のディーラーの一人として雇われ、かつてのカジノ事件の際に、改めて警察のご厄介になった。

 でも、それをジュリアさんや周りの人たちに救われ、これからだっていうときに、ジュリアさんが倒れ、紅葉さんも死にかけて、やっとの思いで精霊の事件を解決しても、ジュリアさんは戻ってこなくて。

 きっと、先生はジュリアさんを心の拠り所にしていたんだろう、とみどりさんは言った。そんな存在が、理不尽に意識を失っている状況に耐えられなくて。

 

 だからこそ、先生はきっと『三幻魔』を奪ったのだ。

 

「『三幻魔』はもう封印されていたし、現状はちょっと力の強い精霊ぐらいで固定されているわ。一人で解決しようとするのは、あいつらしいけど。」

 

 ギィ、ギィ、ときしむ音がする。車椅子の車輪が回転する音だと気付くのに、そう時間はかからなかった。

 

「みどり、遊城十代を連れてきてくれて、ありがとう。」

 

 それは、長年眠り続けていたはずの、みどりさんの友人で。

 

「初めまして、十代君。ジュリア、と言います。日本の友達には樹里、で通してるの。日本語は久しぶりで、うまく話せているかしら。」

 

 先生が救おうとした、彼女だった。

 

 

   ◇

 

 

「体はもういいの?」

「ええ、もう大丈夫、とは言い難いかな。何年も寝たきりだったから体はガタガタ。車椅子なしで移動するのは厳しいくらい。それでも、流石は幻魔と言ったところで、大分動くこと自体は楽。リハビリが必要ないくらいには体は動かせると思う。」

「やっぱり、現代医学に喧嘩売ってるわね、その力は。」

「だから、あの男(影丸理事長)が手に入れようとしたんでしょう?流石に、若返る力なんて言うのは現代医学に求めるようなものじゃなかったんだし。」

「それでも、あなたが生きていてよかった。」

 

 そう言って、みどりさんはジュリアさん・・・樹里さんを抱きしめた。「苦しいよ」なんて樹里さんは言っているが、それを許すみどりさんじゃなかった。

 数分ほどしてようやく、みどりさんはあの人を解放した。困った顔押しながら苦しそうにしていて、それでも冗談交じりに軽口をたたくのは、どこか先生の姿を思い出させる。

 いや、きっと先生が樹里さんに引きよられていたんだろう。なんとなくだけど分かる。それだけの魅力が、ジュリアさんにはあった。

 

「それで、ジュリアさん。」

「樹里、でいいよ。なんなら、樹里ちゃんでも。」

「じゃあ、樹里さん。」

 

 うんうん、と満足そうに頷いて、俺の答えを待ってくれる。

 

「どうして、俺が呼ばれたんですか?」

「それは違うなー。正確には、君の持ってる『あるカード』に用事があった。そうだよね、ネフィ?」

 

 そう言った瞬間に、彼女の横に精霊が現れる。それは、かつて沖田先生の横にいた精霊だった。

 

『初めまして、十代くん。幻魔の件では、色々とご迷惑をおかけしました。』

 

 彼女は、人の形をしていなかった。かつて先生の隣にいた時には人に化けていたが、今はありのままの姿をしている。そして、気付いた。ネフィリムが化けていた時のあの姿は、樹里さんの模倣だったのだ、と。それほどまでに、樹里さんと、あの時のネフィリムの姿は似通っていた。

 彼女が出てきたときの、先生との会話を思い出す。つまり、『あのカード』のことは・・・。

 

「『ハネクリボー』のことか。」

「正解。」

 

 ハネクリボー。その出自は、大変貴重な精霊であるというのは、先生から聞いていた。かつて、エジプトの神官が従えた、浄化の力を持つ神霊(・・)。そして、その浄化の力は、使いようによっては大きな武器となり、そして同時に、心強い盾でもある。

 

「私のお願いは、ただ一つです。幻魔の件は聞いています。そのことであなたに迷惑をかけたことも知っています。

 でも、それでもあなたに頼るしかない。私たちは、浄化とは無縁。むしろ、得意分野は汚染と言っても過言ではない。

 厚顔無恥なお願いだとは思います。でも、私にできることなら何でもしますから、どうか、彼を助けて」

「いいぜ。」

「そこをなんとか・・・え?」

 

 

 樹里さんはあっけにとられた顔をしていた。そんなに不思議なことじゃあないはずなんだが。

「いや、十代君。本当にいいの?」

「みどりさん。断る理由あるのかよ。」

 

 むしろ、俺からすればそっちの反応の方が不思議なんだ。先生を助けない理由はない。

 

「いや、あるでしょう?幻魔のことで・・・。」

 

 むしろ、それは助けられた側だった。先生が幻魔を封印していなければ、俺は負けてたかもしれない。

 

「でも、その封印は幻魔を奪うため(・・・・)でもあった。」

「俺たちを助けるため(・・・・・)でもあったんだろ?なら十分。」

「でも、君たちを殺そうとした。少なくとも、君と万丈目くんは殆ど・・・。」

「先生はああいってたけど、多分全力でかばっていたんだと思う。そのくらいは分かってるんだ。」

「でも、君に関しては・・・。」

「それも違う。だって、俺はこれを渡されてたから。」

 

 そう、これを渡されていた。先生が俺を庇う為に渡していた、この布が。

 

「聖骸布・・・。」

 

 そう、以前渡されたこの布が、俺を守っていた。ハネクリボーの力だけではなく、この布が守っていたのだと、後でハネクリボー自身が教えてくれた。

 

「そう。あの人、これを渡してたんだ。」

 

 相変わらず、馬鹿な人だなぁ、と樹里さんは言った。これまた泣きそうな顔で布を見る。

 

「これね、あの人を呪いから守るための道具だったんだろうね。それだけの力があるから。」

「え?」

 

 それって、つまり。この布は先生が使っていて、それを使って、この呪いを制御していたのか?

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、きっとこの人は、君を優先したんだと思う。だって。」

 

 だって、自分を優先しない人だから。そう、悲しそうに呟いた。

 

「うん、分かった。改めて協力をお願いします。十代君。」

 

 だから、お願い。

 彼を、助けて。

 女の人にここまで言われて、助けない男の人はいないと、そう思った。

 

「で、どうやって助けるんだ?」

 

 方法すら知らずに承諾したのか、危険性とか考えないのか、と二人は心配になる。横にいるハネクリボーすらが、もはや呆れ気味に鳴き声を上げていた。

 

「このカードを使う。」

 

 ジュリアは、1枚のカードを取り出した。それは、十代にとっても見覚えのある、一枚のカード。

 

「影衣融合?」

 

 シャドールフュージョン、と呼ばれるそれは、かつて沖田が使ったカードの一枚。敵に融合されたものがあれば、デッキから融合素材を落として融合することが可能になるカード。

 

「ねえ、影ってどういうものだと思う?十代君。」

「影って、えーと、光があって、それから・・・。」

「そうじゃなくて、人の影って意味。影法師って意味の方が近いかな?」

 

 影法師?

 

「そう。かつて人は、影の中に自分を見たという。魔術的な意味合いには、『もう一人の自分』なんてものもあるの。」

 

 いまいちよく分かっていないのか、十代は首を傾げた。精霊と言うものを感覚的に理解することは出来ても、それを知識的に理解することには向いていないということを、ジュリアはすぐに察した。

 

「とにかく、影は言ってしまえばもう一人の自分。なら、それに他の人の魂を融合させる。

 すると、彼の魂と半分だけ同化する。つまり、あなたと彼は、一時的に同一人物になるの。すると、そして、そこにはアレがいる。」

「アレ?」

「そう、こいつがここまで呪いに侵された原因であり、私が昏睡した原因であり、紅葉が倒れた原因。

 全ての元凶。それは、彼の心臓に、魂に同化している。私と同じ手段を使って。」

 

「それの名は、トラゴエディア。クル・エルナ村の悪魔(ゴエディア)。それを倒すことが、君にお願いする私の願い。」

 

 君に、大人の尻拭いをさせるようなことになって、本当にごめんなさい、と彼女は言った。

  

 

 

   ◇

 

 

「で、それでここに来た、と。」

「ま、そういうこと。それにしても、ここは何にもないんだなぁ。」

「人の心象風景に勝手に入ってきて、第一声がそれとは。馬鹿なのか大物なのか。」

 

 先生は、そう言って苦笑した。その言葉の通り、あの後俺はすぐに先生の影の中、心の中に来ていた。樹里さんは、『もう一人の自分』だったり、『陰と陽』だったり、いろんな言葉を言っていたが、それらを詳しくは理解できなかった。

 でも、まあ要するに、先生の影と融合することで、一時的に先生と同一人物になることで心の中に入れる、らしい。そして、それと同時に先生の中に住み着いた悪魔に会うことが出来るそうだ。

 

「でも、その悪魔が見当たらないんだけど。」

 

 そう、ここには何もない。先生がいる以外には、何も存在していない。黒いような、白いような、それでいて不思議な空間だった。

 

「下を見てみなさい。」

「下?・・おわぁ?!」

 

 言われたとおりに下を見る。そこには、鎖につながれた、大きな悪魔の姿があった。

 

「ここには、地面と言う概念がない。平衡感覚が少しおかしくなっているから、気をつけなさい。」

 

 いや、驚いたポイントはそこじゃないんだけど。単純にあの悪魔に驚いただけなんだけど。

 

「さて、君の目的は『あれ』という訳だ。」

「それが、先生に巣食ってる化け物、なんだろ?」

「まあ、そうだな。」

「だったら、あれが目的だぜ。」

 

 俺は、そう言ってアレに向かって足を進めようとした。だけど、それは止められてしまう。他ならぬ、沖田先生によって。

 

「待ちなさい、遊城十代。」

「どいてくれよ、先生。」

「駄目だ。お前にそんな危険なことをさせる訳にはいかない。」

「それ言うんなら、ここに来た時点で手遅れだって。」

 

 危険なら、重々承知でやってきた。みどりさんにだって止められたし、樹里さんには何度もいいのかと聞かれた。

 それでもここに来たのは、俺が先生を助けたいと思ったからだ。覚悟はしてきた。

 そう言うと、先生はため息をついて、俺を諭し始めた。

 

「だけど、あれは封印するほかにないぞ。かつて、ファラオに仕えた神官が、その総力を以てしても封印しか(・・・・)できなかった。俺は、その時の封印を利用してここまで封印できた。

 心臓を失った悲しき悪魔(ゴエディア)。それを止めるには、誰かの心臓を、かつての封印の石板に見立てて、封印しておく必要がある。

 あれを倒す?倒したところで霧散してまたいずれ復活する。討伐しきるには、それこそ『千年アイテム』(クラス)の闇の力か、あれを上回る精霊の力を引き出すしかない。」

 

 ああ、それは聞いたんだ。でも・・・。

 

「それについては、先生だって知ってるんだろ?」

「・・・。」

「『ハネクリボー』。封印と浄化にかけては他に追随を許さない、それほどの浄化の力を持った天使なんだって。」

 俺の言い方で、誰かに教えられたと考えたのか、先生は睨みつけながら聞いてきた。

「誰だ、お前にそれを教えたのは。」

「ジュリアさん。」

 

 そう言うと、ため息をついて頭を抱える。呆れかえっているのか、先生の声には力がなかった。

 

「・・・碌でも無いこと教えやがって。それが原因で無茶したらどうするつもりだったんだ。」

 

 そう言って、先生はどこか諦めた表情でつぶやいた。自分の体がどうなっていようが、こうやって俺の心配を優先しているあたり、先生も大概、人がいい。

 

「そんなわけないだろ。善人か悪人かの区別くらいは、ちゃんとつけることが出来るようになっておけ。」

 

 そう言いつつ、先生は俺をあの悪魔からけん制する。

 

「今ならまだ引き返せる。お前が俺のためにこれをする必要はない。

 第一、そんな資格もない。俺はお前らを見捨てた側の人間だ。そんな人間のために要らんリスクを背負う必要はない。」

 

 先生。おれは、したいからするんだ。リスクとか、そんな難しいこと気にしてデュエルなんかしてきてない。

 

「それでも、だ。失敗したらどうする。今度はお前が悪魔の傀儡になるか?悪いが、俺はもう助けられないぞ。」

 

 大丈夫、負けないからさ!

 そう言って笑うと、先生はぽかんとした表情で、あきれたように俺を見た。

 

「・・・十代。それでも、お前は帰れ。」

「どうしてだよ、先生!」

「価値がないからだ。」

 

 ・・・は?

 

「だから、その行為には価値がない。俺を助けたところで、益なんて一つもない。俺は、誰かに生きてほしいと思われるような生き方なんざしてないし、これから先、そういう風に思われるようなことなんてない。

 むしろ、俺はここでこいつと一緒に心中したほうが、よっぽどいいとすら思っている。」

 

 先生は、そう言ってどこかを見つめてた。

 

「人生に絶望した。」

 

 手を前に掲げ、悲しそうな目でそれを見た。

 

「生きる為に、人を犠牲にした。」

 

 辛そうな目で、その手を握り締めた。

 

「生きる希望が出来た。」

 

 先生の目に、僅かに光が出てきた。

 

「それも、目の前で消えていった。」

 

 これは、先生の人生。苦悩しかなかった、人生なのか。

 

「でも、樹里さんはもう大丈夫なんだろ?」

 

 ああ、そうだなと先生は同意した。

 

「でもな、十代。もういいんだ。疲れたんだ。

 人を踏みにじって生きてきて、今度は、今度こそは人のために生きようとした。大切な人のために、友人のために、未来を生きる子供のために。

 でも、結局俺がしたことはなんだ?」

 

 それが、先生の心の底からの叫びだと、直感した。

 

「未来の宝である生徒(子供)を傷つけた。それに大切な友人(みどり)を巻き込んだ。大切な人(ジュリア)を助けたい一心で、すべてを利用した。」

 

 でも、結果は最良だった。

 

「結果論だ。俺は理解した。俺はこういう人間(・・・・・・)だ。結局は自分が大事なだけだ。自分の周りさえ幸福であれば、と思っていた。そんなのは嘘なんだと気が付いた。」

 

 人ってのは、自分の嘘が一番堪えるもんなんだ。先生はそう言った。

 

「・・・どうして、アレは俺に期待したんだろうなぁ。」

 

 ・・・アレ?いったいそれはなんだ?

 

「『ククルカン』さ。お前も、いつかで会うかもしれない。そのときは、『前任はお亡くなりになりました。期待に沿えず申し訳ありません。』とでも言っておいてくれ。

 俺は、もう疲れた。」

 

 そう言って、先生は俺を追い出そうとした。手を翳し、俺の体が光に囲まれる。

 こうなることは、俺は想像していなかった。拒絶されるとすら思っていなかった。

 そう、『俺は』。

 

「先生。樹里さんからの伝言があるんだ。」

「最後だ。聞いておくよ。」

 

 うん。先生はきっとそうする。そう樹里さんが言ってたから。最後くらいは話を聞いてくれる。これが、最後の説得のチャンスだ。

 

「『言い訳してないで、さっさと皆で飲みに行くよ。バーニャカウダ作ってね。』だってさ。」

 

 そう言うと、先生は目を見開いたようだった。顔を手で押さえ、何かを思い出すように神妙な顔をする。

 そして、何かを察したかのように「そうか。」とつぶやいた。

 説得に成功した。ため息をついて、先生は俺をトラゴエディアの前に連れ出してくれた。

 

「・・・しゃーないから、今から封印を解く。あとは自分で何とかしろ。・・・ただし、封印でなく討伐したいのなら、条件がある。」

「条件?」

「なに、お前なら簡単さ。」

 

 そう言って、先生は笑って。

 

「あれとデュエルするとき、止めは『ハネクリボー』じゃないと討伐できないから。」

 

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・は?

 

「大丈夫、お前なら余裕だって。あ、ちなみに封印解いたら俺の自我が一時的に消えるから、自分一人で頑張れよ。俺はもう知らん。なるようになれ。」

「いや、ちょっと待って先生。ハネクリボーのステータスは・・・。」

「じゃあ、Let,s 縛りプレイ!」

 

 そう言った先生は、実にいい笑顔だった。

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 トラゴエディアの方向が聞こえる。悪魔の目の前には、どこからともなく石板が降ってきた。どうやら、あれがカードの代わりらしい。

 クリア条件は厳しい。それでも、どこかワクワクしている自分がいる、いつもの感覚。

 行くぜ、相棒。と、そこでよくよく考えたら、俺はいつも相棒に守られてるばかりで、相棒の攻撃で止めを刺したことが殆どないことに気が付いた。

 ・・・これを機に、HERO以外のデッキでも弄ってみようかな、相棒の為のデッキを。少しだけそんなことを考えながら、俺は目の前の悪魔に挑んだ。

 

 

 後日談ではあるが。

 正直、沖田先生の実力を基準に考えすぎて、割と普通に勝ててしまったことだけが、何とも言えなかった。

 


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