遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊
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今回は、前の話の間に挟むつもりだった過去編です。別に読み飛ばしてもらっても構いません


過去編 1

 
 彼女との出会いから数日、支配人からいきなり呼び出された。

「お前、今日から仕事無いから。」

 は?と思わず口から零れ落ちた。基本的にノリが軽い人だが、だからと言ってそんなことを軽く言われては、言われた側は堪ったもんじゃない。
 何があったのか、激しく詰め寄る。だが、支配人は何も言わずにただ、「出ていけ」と言うだけだった。
 おかしい。どうにもおかしい。少なくとも、この人はそんなことを言う人じゃない。長い、とは言わない。たかだか数年の付き合いだ。
 だが、ハイスクールを卒業できるくらいの年代一緒にいて、いままでこんなことを言い出したことはない。だというのに、今日は随分と性急だった。
 だからこそ、居座った。数十分、もしかしたら1時間かもしれない。だが、遂には根負けして、現状を教えてくれた。この人は、俺の性格を分かっている。だからこそ、俺の本気度合いを察したのだろう。

「もうすぐ、ここが検挙される。」

 は?と思わずまた声をあげてしまった。それほどまでには意外だったからだ。
 ここに住んで早数年。ここの運営システムについてはある程度理解していたし、その実態も、この近辺の警察組織や議員、権力者や自治体を全て抱え込んだ、いわば半合法(・・・)とでもいうべき物である。そんなものが、今更検挙されるわけがない、と皆が半分確信していた程なのだから。

「・・・済まない。だが、君だけでもここから去れ。」

 そんなことは出来ない。そもそも、どうしてこんなことになったのだろうか。

「何を言っている。元々こんな商売が何年も検挙されないほうがおかしいだけだ。」

 それはそうかもしれないが・・・。

「幸い、君がステージに立つとき、素顔を晒さないようにしていたのがこんな形で役に立つとは思わなかったが、それを利用しない手はない。君だけは、ここから逃げることが出来る。顔も身元も割れているのは幸いにも、君以外の連中だけだ。」

 その言い方に、思わず言い返す。俺にあなたたちを見捨てて、逃げろというのか?!と。 

 逃げるべきだ、という頭の中の理性を頭の隅に追いやり、俺は言葉をつづけた。

 だってそうだろう。冗談じゃない。俺だって、ここの人間だ。違法デュエルで、人だって殺した。いまさら何を言っている。

「殺したのはお前じゃない。俺の用意した医者だ。思い上がるな。」
 
 俺が殺したようなものだろう。

「違うな。殺したのは俺だ。こんなカジノを運営して、お前のような子供を商売道具にして、挙句に臓器売買にまで手を染めた悪人だ。だが、お前は違う。俺に言われるがままにデュエルした、いわば被害者だ。」

 だけど、知っていて加担した俺も同罪だ。

「確かに、捕まれば(・・・・)いくらなんでも(被害者でも)逮捕だろうな。だから、今からお前には、ちゃんとした場所で保護されるように手配している。」

 そんな身勝手な。そう言おうとして、後ろから思い切り衝撃が来た。どうやら、後ろから思いっきり殴られたらしい。
 思わず見上げれば、そこには顔見知りの姿。朦朧とする意識の中で、それでも恨み節を吐かずにはいられない。

 犬飼のおっさんの、筋肉馬鹿。 
 
「おっさんは余計だ。」

 訂正するのはそこなのかよ、と言いたかったが、その前に身動きが取れなくなる。まともに呂律は回らず、ようやく意識も何もかもが回復したころには、俺は簀巻きにされて車に投げ込まれていた。



 意識が回復してきたとき、初めに聞いたのは女の声だった。

「気がついた?」

 そういう声が木霊する。殴られたせいか頭がくらくらするが、どうにか、視界と意識が元に戻ったことを確認する。
 簀巻きにされても、幸いなことに腕時計くらいなら見ることが出来た。どうやらもう数時間ほど経過してしまったらしい。
 とりあえず、誰かは分からないが大丈夫だ、と告げた。強いて言うなら首が少々痛いくらいか。
 全く、首の根元を叩いて気絶させるとか、どこの格闘漫画だ。障害が残ったらどうしてくれる。そんなんだからマッドドッグ(笑)だとか脳みそが糞犬レベル(マッドドッグ)だとか散々言われるのだ。デュエル中のクレバーな戦術は何処へ行った。

「それはよかった。私としても新しい友達が、実は脳震盪どころか撲殺遺体と化していた、なんてオチは避けたいしね。」

 その声に、ふと思った。一体、目の前の人物は誰なのだろうか。俺に友人などいない。いるにはいるが、少なくともこの世界(・・・・)には存在しない。
 それでも、目の前の人物は俺のことを友人、と呼んだ。新しい、とも。最近できた、と言われれば嫌でも頭の中に出てくる。

「なんでこんなとこにいる。」
「私があなたの案内人だから。お久しぶり、というか2日ぶり?」

 目の前にいるのは、数日前に出来た友人だった。ここ数日で、かなりフランクな間柄となった俺に、いつもの調子で話しかけてくる。
 案内人とはなんだ。そう言うと、彼女はまだ状況を理解しきれていない俺を察したらしい。

「そうね、では改めて自己紹介からしましょうか。」
 
 ああ、そうしてくれ。
 よくよく考えれば、俺はこの新しい友人のことを全く知らないと気付いた。数日前、一緒に遊んだ中でもあるし、連絡先も交換していた。つい昨日も、電話越しで楽しく雑談していたくらいだ。
 だけど、彼女が何者なのかは全くと言っていいほど話していない。まあ、自分も話していないし、話す気などさらさらなかったのでお互い様という訳だが。

「では、あらためまし・・・」

 かっこつけて挨拶しようとでも思ったのか、思いっきり勢いよく立ち上がろうとして、彼女は思いっきり頭を車の天井にぶつけた。
 いくらこの車がリムジンのように広い車体だとしても、当然立ち上がれば頭を打つのは自明の理だ。思わず、彼女に問いかける。

「頭、大丈夫か?」
「大丈夫・・・。」

 ぶつけたことを心配してくれた、とでも思ったのだろうが、俺が言いたいのは知能(IQ)の心配であって、決して患部の心配ではない。そのことに気付いたであろう運転手が必死で笑いをこらえてるのを、バックミラー越しではあるが俺は見てしまった。

「どうして車って立ち上がれないように出来ているんでしょう。」

 どうして車で立ち上がろうとしたんでしょう。バカすぎて声が出ないのだが。というか状況が状況だったら思いっきり笑っている。運転手に至ってはもう腹筋を抑えている始末だ。というか運転手の様子になぜこいつは気付かない。
 だが、そのせいか頭が冷えてきた。不思議とリラックスした状態になっていく。これで簀巻きにされていなければ完璧なのだが。

「その拘束は目的地に着くまで解くな、と言われているから、解くのは無理。」

 残念至極。先手を打たれていた。なら仕方がない、別の方法(・・・・)を取るまでだ。少々時間はかかるが、これくらいなら何とかなる。
 そんな俺の様子を知ってか知らずか、彼女は変わらぬ様子で俺に話しかける。

「まあそれはそれとして改めまして。
 こんばんは、《悪夢》さん。私は、I2社直属のデュエリストです。名前は・・・言わなくてもわかるよね?」

 ああ、どうも。なら、さっさと降ろしてくれ。

「それはできません。私の仕事は、このまま無事にI2社へあなたを送り届けることですから。」

 なぜだ、と激高する。だけど、その理由は薄々気付いていたことだった。
 そして、目の前にいるこの女も、俺がそれに気付いていることに気付いている。だからこそ、少々底意地の悪い笑みを浮かべて、俺にこう言った。

「それを言う必要はありません。」

 言外に含まれた意味は、その理由はあなたはとっくに気付いているでしょう、ということだろう。

「クルサール支配人、・・・いや、クルサール・J・クロフォードの要請、か。」
Exactly(その通りでございます)!やっぱり、スラム育ち(・・・・・)とは思えないくらい聡明ね!」

 やはり、というかなんというべきか。こいつも、支配人側の人間だったという訳か。I2社、おそらくペガサス会長からの指示だろう。
 ペガサスの父親(・・)である支配人が、俺だけは逃がすようにペガサスに頼み込んだ、という訳か。

「大体はそんな感じ。」

 なら、抵抗しないからこの簀巻きを取ってくれないか。

「それは無理。」

 そう彼女が言い放った瞬間、俺は簀巻きにされた縄と布団ごと、手の中から出した剣のようなもので吹き飛ばした。
 そして、そのまま彼女に向ってそれを向けようとする。だけどその瞬間、俺は何かに弾き飛ばされ、剣のようなものは跡形もなく粉砕されていた。

「・・・やりすぎ、ネフィ。彼が攻撃したのは予想の範囲内。むしろ、やっぱりか、と思う部分があった。」
『それでも、あなたに傷を負わせるわけにはいきませんので。』
「でも、あなたの力で防御したら、あの人が死んじゃう。たとえ手加減しても、死んでもおかしくないの。分かってる?ネフィ。」
『問題ありません。それに、誰が気絶しているんですか?』

 え?と彼女がこちらに顔を向ける。薄々分かってはいた。I2社の人間、それもこんなことを女の子ながらに任される時点で、普通の人間でないことは分かっていた。だから、念のためにコレ(・・)を使ったんだ。何が起こってもいいように。
 それにしても、一体何が起こっている。先ほどまでそこにいなかった何か(・・)が、いきなり現れたように俺には見えた。

『ガガガシールド。二度までその所有者を守る盾。それを使って私の防御を防いだ、という訳ですか。』
「そして、それを使えるってことは、やっぱりあなた、精霊使い(・・・・)だったのね。」

 精霊使い。一体何のことだ?そしてその巨大な人形はなんだ。いや、そのネフィリム(・・・・・)はなんだ。

「・・・でも、肝心の精霊の姿が見えない。」
『おそらく、彼はまだ自身の精霊の姿を視認していないのでしょう。だから、あんなふうにガガガシールドがすぐ無くなってしまうし、何よりそのカードを呼び出すのに時間がかかる。
 ・・・私があなたが布団の中で小細工をしていることに気付いていないと思っていたんですか?人間。』

 ・・・気付かれていた。布団の中で俺がこのカードを呼び出したことに。
 何故かはわからない。いつの間にか使えてた、この力。それは、どうやら向こうも使えるようだった。それも、俺よりはるかに精度も高く。

「魔法発動、光の護封剣。」

 彼女がそう呟いた瞬間、俺の周りに光の剣が積み重なる。光の剣は、俺が身動きを取れないように綺麗に積み重なった。これじゃあ、抵抗することすらできない。
 抵抗は出来ない。でも、一矢報いるくらいはしてやりたい。

「・・・。」
「・・・・何もしないの?」

 何も言わない俺に、彼女はしびれを切らしたように話しかけた。拍子抜けもしているようだ。
 だが、その言葉は見当違いというものだ。したところで無意味だろう。1対2で何かできると思いあがるような神経は持ち合わせていない。やりたい、と思うのと、すればどうなるか、というのはまた別の話だ。

「男は度胸というでしょ?」

 それは度胸じゃなくて無謀だ。

「そうかもね。それはそうと、できればこのままでいて。何もしないから。」

 このままで、とは抵抗するな、という意味だろう。実際、この光の剣は俺の首筋にピタリと当てられている。少しでも動けば大惨事になりそうだ。

「それに、ここから出たとしても、あなたの行くところはないでしょ?実際、あれから数時間が経過し、あのカジノは既に摘発された。
 クルサール・J・クロフォード、マットドッグ犬飼を始めとしたカジノ関係者の半分は、すでに捕まってる。」

 ・・・そうか、帰る場所は、もうないのか。その事実は、不思議なくらいスッと胸の中に入り込んだ。

「もう、あなたの帰るところはありません。悪いようにはしないから、大人しく捕まってくれない?・・・と、言ってもあなたはあそこの被害者みたいだし、態々戻る理由もないだろうけど。」

 ああ、そうだ。確かにそうだった。

 この世界に来てすぐ、俺はスラムにいた。スラム、という言い方はあまり適切ではないかもしれないが、要するに治安の悪い地域だった。
 状況を把握できた頃に分かったのは、ここは俺の住んでいた世界じゃないということと、何故かずっと聞こえてくる変な声。ずっと語り掛けてくる声が止んだころには、俺は立派な悪ガキとなっていた。
 信頼できる人間がいない。言葉も通じない。持っていた金なんかは当然使えなくて、身分を証明できるものがないから為替もできない。
 結局、ここいらの飲食店で皿洗いをさせてはもらっていたが、当然言葉が通じないのをいいことに、明らかにピンハネされてたのは小学生でも気付く。
 頼りの持ち物は使えない財布()に、ただの音楽プレイヤーと化した、使えないiPhone(携帯)。そして友達と遊ぶために持ってきたゲーム類一式と、泊りがけ用の衣服。
 そして、そのおもちゃ(ゲーム)を狙ってゴロツキに襲われるという毎日。
 正直、こんなもの捨ててやりたかった。俺がこんな目に合うのなら、こんなもの捨ててしまったほうがいい。そう思いながら、俺は襲い掛かる彼らを逆にカツアゲして、なんとか細々と暮らしていた。
 そんな時だった。ゲームの腕でも、そして腕っぷしでも強かった俺は、そこいらの奴らには負けることはなかった。そこに目を付けたのが、クルサールだった。

「どうしてそんなことをしている。」と彼は聞いた。
「これしか生きるすべがない。」と俺は答えた。

 何故かはわからない。でも、彼は俺を気に入り、裏カジノの新たな見世物、『地下デュエル』のプレイヤーとして採用した。
 環境こそ劣悪で、人殺しをしなきゃいけないような毎日ではあったが、俺はあそこを気に入っていた。それ以外に生きる手段がなかったからというのもある。でも、地元の学校にまで通わせてくれて、言葉を教えてくれて、そして生きる手段を与えられた。彼は、確かに俺をこの闇に引き釣りこんだ張本人であるのと同時に、俺にとっての大恩人となっていたのだ。
 だからこそ、俺はあそこに戻らなきゃいけない。終わるのならせめて、彼らと同じようにこの生活を終えたい。そう思っていた。それなのに。
 それなのに、目の前の女は、敵は、それを阻もうとしている。それだけはさせない。俺は、綺麗に終わりたい(・・・・・・・・)のだ。

「罠発動。」

 デモンズ・チェーン。そう呟いた瞬間、足元に妙な感覚が行くのが分かる。
 俺が最も信頼する罠。それが2つ発動した。一つはネフィリムに。そして、もう一つは、俺の体の周りにある剣を弾き飛ばしながら、運転手(・・・)に絡まっていく。ネフィリムはそれに気が付いたようだが、もう遅い。ネフィリムも、運転手も、瞬時に鎖で雁字搦めにされていた。
 ネフィリムが抵抗している。でも、その抵抗空しく鎖は千切れない。

「・・・抵抗、しないんじゃなかったの?」

 抵抗しないとは言っていない。無謀はしないと言っただけだ。隙さえあれば、いつでも逃げ出す気でいた。

「じゃあ、私を鎖で縛らなかったのはなんで?もう一枚発動すればよかったじゃない。そうじゃなくても、運転手を縛る理由はないわ。」

 友人を鎖で雁字搦めにするような趣味はない。

「甘いね。だから、失敗するんだ。」

 はぁ?と思った瞬間、ネフィリムと運転手の鎖が破壊される。身動きが取れるようになったネフィリムは、俺から彼女を守るように立ちふさがった。

「魔法発動、ツインツイスター。これで、その二つは破壊させてもらったよ。私を狙っておけばよかったのに、残念だったね。まあ、運転手を身動き取れなくして、車を強制的に止めるつもりだった様だけど、それくらいじゃ、だめだよ。せめて、もう一枚発動すればよかったのに。」

 あんな短時間で3枚も罠を発動できるか。一枚発動するだけでも無茶苦茶体力を消耗するのに、3枚も同時に、とか常軌を逸している。そんなこと出来るのか?お前。

「訓練したから、それくらいは余裕。」

 うわぁ、と思わず遠い目をした。こんなもの何枚もホイホイ発動出来て堪るか。

「今、人を化け物を見るような顔した。」

 無理ないと思う。ガガガシールド、そしてデモンズ・チェーンが2つ使っただけで、俺の体力は既に半分以下なのだ。それを軽いノリで破壊されていく俺の心情を察してほしい。

「まあ、いいけど。・・・一つ聞いてもいい?」

 なんだ。敗者は潔くぺらぺらとしゃべらせていただきます。

「さっき抵抗したくせに。」

 何のことでしょうか?

「・・・どうして、そんなに保護を拒否するの?あなたに悪いようにしないことくらい、分かっているでしょ?」

 ・・・・。

「・・・クルサールさんから話は聞いてる。あなたは、人を殺めることに嫌悪感を持っている。それをあそこは強要する場所なのに、なんであそこに戻りたいと思うの?」

 戻りたい訳じゃない(・・・・・・・・・)

「だったら、どうして?恩を感じているから?」

 恩は感じてはいるが、それだけじゃない。あんたに話すことじゃない。あんたには関係ない。

「友達として、力になりたいから聞いてるの。」

 ・・・・。

 その目を見た時、本気なんだと確信した。そして同時に、馬鹿らしくなる。たかがあって数日の友達未満と呼んでも差し支えないほどに、俺たちの関係性は薄い。友達に時間なんて関係ない、なんていうのはよっぽどのお人好しか、偽善者だ。どちらにせよ、ろくなもんじゃない。
 あんたには関係ないだろ。そう言うと、彼女はため息をついた。そして、運転手に車を止めるように指示する。
 どういうつもりだ?と聞くが、彼女は何も答えない。ただ、淡々と(リムジン)のなかで俺たちの間に机を用意した。

「デュエルをしましょう。」

 はぁ?と思わず口から声が出る。突拍子のないその一言に、思わず出てしまった言葉だった。

「私が勝てば、理由を教えて。あなたが勝てば、この車から出してあげる。行きたいところにも連れて行ってあげる。」

 ・・・本気(マジ)?馬鹿じゃないの?ゲーム脳も大概にしろよ。思わず反射でそう言ってしまった。

「うわ、ひっどい。」

・・・うん、今のは自分でもどうかと思う。真剣に言ってるのにそれを「馬鹿じゃないの?」の一言で済ませるのは流石にどうかと思った。済まない。

「いいですよ。デュエルを受けてくれるのなら、ね?」

 意地か。馬鹿か。そんな言葉をぐっとこらえる。デュエル脳も大概にしろ。全部が全部デュエルで解決できると思うな。

「あなた、デュエリストでしょ?」

 残念、リアリストだ。そもそも、デュエルを楽しむなんざここ数年一度もやっていない。デュエルは俺にとってビジネスであり生命線だった。そこにほかの感情を持ち込む余裕なんてものは存在しない。

「嫌い、なの?デュエル。」

 嫌い、という訳じゃない。忘れたのさ、楽しむ(満足)なんて言葉。そんなデュエルなんか、この世界に来て、一度もやった覚えがない。
 第一、ここのルールに合わせるのが大変だった。月を落としたり、飛行モンスターだから30%で回避してくる、なんていうここのデュエルに、持っているカードがどんな影響を及ぼすのかを考え直して、それを改めてデッキとして組み立てるのにどれだけ苦労したか。古のルール過ぎて、未だに理解しきれてないのだ。
 ただでさえKONMAI語と呼ばれるくらい奇怪なのに、そこにこんなルールを定着させられたら、流石に無理というものだ。
 ああ、そんなものをするくらいなら、話してやる。そんなことに時間を取られたくはない。

「・・・そうですか、残念です。」

 残念がるなデュエル脳。俺からすれば、こんなものはただのお遊戯で、お偉いさん方々に対戦相手の苦しむ様子を演出させるためだけのものだったんだから。
 そんなものにいい思い出なんてあるはずないだろう。

「・・・すいません、無神経でした。」

 謝ることじゃない。俺が選んだ道だ。そこは何も言わないでほしかったな。
 まあ、いいや。俺が戻りたい理由、だったっけ?話してやるから、そのテーブルを下げてくれ。

「・・・。」 

 彼女は黙って、テーブルを元の位置に戻す。いつの間にか、ネフィリムも居なくなっている。気を使ったのだろうか、少なくとも俺には見えなくなっていた。
 ごそごそと彼女が机を戻しているその間に、俺は改めて席に座り直し、何から話したものかと思案した。
 その様子に、何かただならぬものを感じたのか、陽気な彼女は俺に話しかけようとはしなかった。
 ようやく、どのような思いか説明する整理がついてから、俺は彼女に、自身の気持ちを確かめるように、自分の気持ちを語った。自分語りなんてナルシストみたいだな、と自重しながら、ゆっくりと話す。

 俺は、終わりたかった(・・・・・・・)のだと。

「終わりたかった?」

 ああ、そうだ。それに尽きる。どこまで取り繕っても、俺が人の生き死にに影響を与えたことには変わりない。あのサイバー流の男だけじゃない。()で生きていけなくなった人たちを、自分の命可愛さに奪ってきたのは紛れもないこの俺だった。
 まだソリッドヴィジョンが確立されていないこの時代、ゲームそのものはテーブルの上で行われていた中、観客たちが真に注目していたのは、俺が人を殺す瞬間だった。肉の焼けこげる異臭、パチパチと弾ける閃光、そして叫び声。その全てが道楽として、見世物として使われた中、俺はただ、勝ち続けた。
 まるで、コロッセオみたいだと思う。だけど、何より違うのは、アドレナリンなんて一切出ない、ボードゲームでそれが行われることだろう。自分が人を殺したという感覚が、現実が、目の前で理解できてしまう。無我夢中なんて言い訳できない、人殺しがそこにある。

 だから、俺は俺を(・・)終わらせたいのだ。

「・・・死ぬつもりなんですか?」

 まさか。そんなことをすれば、今まで生きてきた俺は、意味をなさない。死ぬなら、もっと早くに死んでいる。負ける勇気が、死ぬ勇気がない俺には、そうするしかなかった。
 そうすれば、俺が命を奪った行為が無駄になる。俺は、何人ものの屍の上に成り立った人間だ。そんなことは出来ない。
 ただ、償いたいだけだ。

「・・・自首したんですか。」

 そういうことだ。おれはただ、こんな生活は終わりにしたい。でも、あそこから抜け出す勇気もなかった。それに、そんなことをすれば、支配人や、犬飼さん(・・)に迷惑をかけてしまう。だから、ずっと償えなかった。
 でも、今なら。今ならそれが出来る。だから、俺はあそこに戻って、警察に行く。そのためなら、いくらでも抵抗する。いくらでも、いくらでも。

「・・・支配人たちの気持ちはどうするの?彼らは、あなたにこんなところじゃなくて、別の世界で生きてほしかった。だから、クルサールさんはペガサスさんにあなたの保護を頼んだの。」

 最初で最後の親不孝だ、許してほしい。

「将来に傷がつくよ?それで生きていける?こんな事件にかかわっていると知られたら、それこそこの業界で働くなんて夢物語になる。職自体は、探せば何とかなるかもしれないけど、生きにくいのは確かだよ。
 ・・・彼ら、言ってた。自分が引き釣りこんだ世界だから、せめてこれからはまっとうに生きてほしいって。君に、この世界は向いてないからって。対戦相手のために泣くような人間に、こんなこと、もうさせられないって。」

 それは違う、泣いたのは、自分がそうしないと精神的に持たなかった(・・・・・・・・・・)からだ。決して、相手のためじゃない。

 それに、やりたくないことをやっていたのは支配人も同じだ(・・・・・・・)

「え?」

 ・・・ペガサス会長に婚約者がいたのは知ってるか?

「うん。あれでしょ?病気がちで、心臓が弱かったっていう。」

 ああ、そうだ。でもな、それは手術で治る範囲だったんだよ。

「ならなんで死んだの?」

 臓器提供者(ドナー)がいなかったからさ。

「・・・。」

 ああ、想像の通り。あの人は、息子の最愛の婚約者の命を救うために、こんな仕事に手を染めた。
 裏でカジノを作り、会員証を作るときに、血液型その他の情報すべてを洗い出す。その中で、ドナーリストにある人間と一致するものがあれば、それを死刑台に上げて、臓器を取り出し、顧客に売り渡す。
 地元警察と、ギャングと、そして政治家。そんな権力の塊に、あの人は手をだしたのだ。
 彼女が死んでも、この世界からあの人だけは足を洗うことが出来なかった。当然だ、こんな問題が外に漏れたら大騒ぎ。それこそ、今の現状そのものだ。
 だから、あの人はこの仕事を陰でずっと続けるしかなかった。そのことを俺は知っている。でも、それであの人の罪が変わるか?

 そう聞くと、彼女は黙って首を横に振った。

「そんなことはない。どんなことでも、罪は罪。」

 ああ、そうだ。そして、それは俺にも言える。どんなことがあろうと、罪は罪だ。

「・・・それが、あの人たちの願いを踏みにじることでも?」

 ああ、そうだ。

「それが、たとえ彼らに不利な現状を押し付ける結果になったとしても?」

 ああ、そうだ。

「それを、私が(・・)、望んでいないとしても?」

 ・・・ああ、そうだ。

 そう言い切った瞬間、彼女はため息をついた。彼女は前の座席の運転手と二三言葉を交わし、車がゆっくりと動き出す。

「・・・甘いのは、私の方か。」

 そう彼女は言った。その言葉に、俺は思わず声をかけた。どういうことだ、と。

「・・・この車は、警察署に向かう。あなたがそう望むのなら、しかたないから連れてってあげる。でもね、そんなの自己満足にしかならないよ?分かってる?そんなことしても、何も変わらない。むしろ、世間体的にも、その他色々なことで、あなたの人生は苦しいものへと変わっていく。」

 ああ、分かってる。

「自己満足、いや、欺瞞ね。それでも?」

 それでも。そうじゃないと、駄目なんだ。

「どうして?」

 簡単だ。前に進みたい(・・・・・・)から。そうじゃないと、俺が俺にけじめをつけれない。

「・・・わかった。ただし、警察署の中までは私が連れていく。
 私だって、仕事なの。それくらいは、仕事のけじめとして、やらなくちゃならないしね。」

 未成年が何言ってやがる。

「それはあなたもね。」

 ああ、そうだったな。

 「ペガサスさんに怒られるなぁ。」という彼女のぼやく。その後は、彼女と俺は一言も話さず、ただ外を眺めていた。
 近くでサイレンが聞こえる。警察署には、人がごった返していた。カメラがある、ということはおそらくメディアの人間だろう。警備員を押しのけて、中に入りかかろうとしているその様は、あまりに現実味がなかった。




 その後は、ぱっとしない顛末だった。
 俺は、彼女に連れられ、自首することになる。中に連れられ、事情聴取の毎日。語ることがあるとすれば、留置所で支配人と対面したことくらいだ。

「どうして、戻ってきた。」

 反抗期。そう答えた俺に、支配人は泣きそうな顔で、俺をただ済まない、と抱きしめるだけだった。
 この人は父親ではない、縁もゆかりもないただの男のはずだ。だけど、その顔は俺を一人の従業員とでも、共犯者とでもなく、まるで父親のように俺を気にかけていて、そして、ただただ抱きしめ続けた。すまない、すまないと言い続けながら。
 その後は、おそらく支配人が何か気を利かせたのだろう。罪状の割に早く留置所から出た俺は、支配人の息子である、ペガサス・J・クロフォードに引き取られた。
 そしてこの世界の常識や、ゲーム理論、そして経営学。ペガサスの養子としての生活の中で、俺はまた、彼女と対面することになる。



 だけど、それはまた新たな苦しみへの、カウントダウンだった。
 
 





ペガサスの父親の名前はオリジナルです。公式の名前があったら教えてください






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