もょもとがダンジョンにいるのは間違っているだろうか【DQ2×ダンまち】   作:こうこうろ

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今回の話だけでロトの剣、という単語がかなりの回数使われています。どうしてこうなった。


第五話

――ヘファイストスは激怒した。

 かの無知蒙昧なる親友を叱らねばならぬと決意した。

 その名は……ヘスティア。

 下界に降りてきたばかりの彼女の面倒を見ていたが、自分のファミリアの拠点で怠惰な生活を送り続けた罰として、着の身着のまま放り出した女神だ。

 まあ、拠点と当分の生活のためのバイト先くらいは紹介してやったのだが。

 

 眷属も連れず、その美脚はヘスティア・ファミリアの拠点である廃教会に真っ直ぐ向かっている。

 何故、ヘファイストスが激昂しているか。

 その理由は、今朝の内にオラリオ中に広まった噂……事実ではあるのだが……まるで嘘のような話の所為である。

 

――オラリオに、突如レベル二桁到達者が現れた。それもダンジョンの中でレベルアップしたものではなく、その男は都市外からやって来たのだという。

 

 この話の出所は、何のことは無い。

 ギルド前に設置された掲示板である。

 ここには、ギルドに報告された冒険者たちのレベルアップの情報や、新たに登録された冒険者のレベル情報が載せられている。

 

 ヘファイストス・ファミリアは鍛冶を目的とするファミリアである。

 冒険者を相手とする組織ではあるが、レベル自体はあまり関係が無い。 しかし、一応所属する鍛冶師に掲示板を確認して貰っている。

 何故なら、親友のことが心配だったのだ。

 おっちょこちょいで、少しそそっかしい彼女のことだ。もしかすると、バイトをクビになって路頭に迷っているかもしれない。

 追い出した手前、自分から会いに行くことなど許されないだろうが……今回ばかりは話が別だ。

 

 Lv.10の冒険者が駆け出し、いや、冒険者が今までいなかったことから、それ未満だと言えるヘスティア・ファミリアに入ることなど、余程の奇跡が起こらない限り有り得ない。

 ヘファイストスが話を聞く限りでは、彼女のファミリアに今まで、Lv.1冒険者の一人でさえ所属したという話は聞いたことが無い。

 それが、昨日の今日になってオラリオ最強の戦士がオラリオに新人冒険者として現れ、同じく新参ファミリアの眷属になるなんて……話が出来過ぎている。

 ヘスティアのファミリアに所属したという新米冒険者、Lv.1のベル・クラネルの名前も彼女は確認している。

 まあ、彼については特に問題ないだろう。

 それより、巷で噂のLv.10冒険者――ロランのことについて、ヘスティアに問いたださなければならない。

 彼女に何の目的があって嘘をつくような真似をしたのかは分からないが……。

 

――ヘスティア、ましてやロランが虚偽の報告などするはずもない。

 しかし、ルビスの起こした奇跡が、鍛冶の神をも惑わせていた……。

 

 

 

 ヘファイストスが廃教会に到達する少し前、空腹に苦しむロランは済ませなければならないことがあったのを思い出す。

 ギガンテスとの戦闘で使ったロトの剣の手入れだ。

 返り血が付着したその刀身自体が余りに滑らかなため、血振りさえすれば血糊を残すことは無い。

 しかし、気分的に拭いておきたかった。必要性は無いが、何となく不潔な感じがする。

 

「ヘスティアさん、何か布はありませんか? 剣の手入れをしておきたいんです」

「うーん、確かそこの引き出しに要らない切れ端があったような……」

 

 ロランはひきだしをあけた! なんと ぬののきれはしをみつけた!

 

「これ、使って良いですか?」

「……いいよー」

 

 ロランがそれを見せながら問う。

 ヘスティアがちょっと前まではテーブルクロスとして使っていたものだ。 

 心なしか、ヘスティアの返事に覇気は無いが……古くなって切り分けたその布を手に入れることが出来た。

 

 剣の手入れと言っても、砥石を使う訳でもなければ、ましてや刀用の打ち粉を使う訳でもない。

 というよりも、使う事が出来ない。並の砥石如きではオリハルコンの刀身を僅かに削る事すら敵わないのだ。

 アレフガルドの地を恐怖の渦に叩き落とし、光を根こそぎ奪うという神話級の偉業を成し遂げた大魔王ゾーマですら、オリハルコンの剣を破壊するだけで三年も掛かったことから、オリハルコンという金属の凄まじい硬さが分かることだろう。

 切れ味が落ちることも滅多にないので、たまについた汚れを落とせば、それで十分なのだ。

 

 ロランが刀身を拭うために抜刀する。

 その抜き身の刀身が放つ神秘的とまでいえる美しさ、そして鋭利さは、例えオラリオを隅から隅まで探したところでこれ以上のものが見つかることは無いだろう。

 刀身だけではない、その半円を模したように弧を描く黄金の鍔も、中心と柄頭に埋められた宝玉もまた、その剣の美しさを増している。

 しかし、決して装飾過多という訳ではない。

 実用品としては勿論、美術品としても超一流だといえる一振りであった。

 

……流石に、武器とは何ら関係ない女神のヘスティアでもロランの持つ剣が凄いものだということは理解できたようだ。

 抜かれた剣の刀身を見て、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 

「うわあ……綺麗な剣だねえ……。一体、何処で手に入れたんだい?それとも、買ったの?」

「いや、これは……譲ってもらったものですよ。とある高名な方から頂いたものです」

 

……一応、本当のことだ。一度は世界を手中に収めた竜の王のひ孫なのだから、有名だろう。

 世界で五本の指に数えられるくらいには。ハーゴンを倒したのちに、重要なことを教えてくれたお礼に行ったら、まさか……

 

「……竜王が、リュウちゃんと呼んでくれって言うとはなあ……」

「何か言ったかい?ロラン君?」

「……いえ、何も」

 

……剣を拭くだけなのに、なんでこんなに疲れを感じているんだろう……?

 

 その疲れは、今はもう果ての世界に住む一人の奇妙で、妙にフランクな友人に起因することに間違いはないだろう……。

 そんな折、扉をノックする音が聞こえた。

 

「ああ! ベル君が帰って来たんだよ、きっと!」

「ようやく、ご飯が食べられるのか……!」

 

 二人の顔が喜色に染まる。

 遂に二人は、この空腹の苦しみから解放される時が来たのだ……。

 

 希望に満ちた目で隠し扉が開くのをじっと眺める。

 しかし、期待に反して入ってきたのは、ロランは知らない、ヘスティアにとっては既知の間柄である赤毛の女神、ヘファイストスであった。 

 その視線はヘスティア・ファミリアの二人ではなく……ロトの剣に注がれていた。

 しばらくの間、彼女は固まっていた。まるで信じられないものを見たかのように。

 

「久しぶりじゃないか!ヘファイストス……あっ、そうだ!僕にも遂に眷属が出来たんだよ! ほら、ロラン君、自己紹介してあげて!」

「え、ヘスティアさんの知り合いなんですか? ……ええと、僕はロランです。ヘスティア・ファミリア所属の冒険者をやっています」

「え、ええ、私はヘファイストス。鍛冶ファミリアの主神をやっているの。……ところで、その剣は、何なのかしら?」

 

 ロランの胸がざわめく。

 このロトの剣は、隠しようもない大業物だ。こんなものを鍛冶の神に見られてしまったら、後でどんな噂をされるか分かったもんじゃない。

 誤魔化すように、その刀身は鞘に納める。

 しかし、一度見られてしまった以上、もう遅い。

 今更隠すことも出来ない。仕方なく、ロランはその銘を告げる。

 

「……これは、『ロトの剣』という剣です」

「ふぅん? ロトっていうのは、それを造った人の名前なのかい?」

「……た、確か『神に近き者』って意味だったと……」

 

 ヘスティアの質問に、まさか、伝説の勇者の称号だと言えるはずもない。

 慌てて思い出した幼い頃読んだ古書に記載されていた意味を答えるしかなかった。

 

「……もしよければ、その剣を見せてくれないかしら。出来れば、手に取ってみたいのだけど」

「ええ!? ……か、構いませんけど……」

 

 ロランは渋々ロトの剣を鞘ごと手渡す。

 ヘスティアの知り合いである女神の頼み事だ、断ってしまうのも気が引けてしまった。

……どうやら、鍛冶の女神様はロトの剣に興味津々のようだ。

 

(せめて、僕のことを言い触らさないように頼むしかないか――)

 

 ヘファイストスが剣を鞘から抜き放つ。

 その輝きは、何故かロランが持っていた時よりかは鈍っているように見えた。

 

「……確かに、噂のLv.10冒険者に相応しい剣のようね」

「……噂の?」

 

 聞き捨てならない単語を聞き返したところで――再び、扉が開く。

 

「ただいま、帰りましたー!」

「ベル君!? お帰りなさい!食材は買ってきてくれた?」

「ええ、もちろんです! ほら!」

 

 抱えた袋には……溢れんばかりの食料。

 ロランとヘスティアにとってはまさに垂涎の品々である。

 

「ええっと……貴方は? 何でロランさんの剣を持っているんですか?」

「私はヘファイストスよ。ヘスティアの友人であり、鍛冶を司る女神でね、この剣が気になったのよ」

 

 ベルの瞳もロトの剣の輝きに惹かれて、目が釘付けになってしまった。 しかし、それよりも彼にはやらなければならぬ使命がある……!

 

「それより、今から料理しますね! 二人は立て込んでるみたいだし……」

「ありがとう! ベル君! ああ……今の僕には君が救いの神のように見えるよっ!」

「神は貴方でしょ……ヘスティア……」

 

 

 

「……しっかし、この剣は凄まじいわね、オリハルコンの刃なんて……」

 

 ベルが野菜、肉などの様々な食材を切り、魔石を使用した調理台で煮込む音を背景に話は進む。話題は勿論、ロトの剣である。ヘファイトスの言葉を聞き、驚愕のあまりヘスティア、ベルの二人が噴き出す。……その時、ベルは何とか鍋から顔を背けることが出来たようだが。

 

「お、お、お、オリハルコンっ!? そんなの、ダンジョンでもほとんど見つからないような金属じゃないかっ! ロラン君はそんな剣を持っていたのかい!?」

「ええ、まあ……」

 

 ベルは調理に追われているため会話に参加することできないが、ヘスティアは別だ。

 ロランの剣を凄いものだ、とは知っていたがまさかこれほどまでとは。 しかも、鍛冶の女神ヘファイストスのお墨付きである。

 名実ともに凄まじい剣であることは間違いないだろう。

……ますます、ロラン君の過去に興味が湧いてくる。

 簡単に踏み込んでいい領域でないことは理解しているけど。

 

「この『ロトの剣』は神造の武器と比べても大差ないわ。私がこれ以上の剣を打て、と言われても出来るかどうか……」

 

―――この一振りは人間が神にまで限りなく近づいた、そして、持つ人間が神に迫るための剣。

 これが間違いなく人が打ったものだとヘファイストスは断言できる。

 しかし、そのことが信じられなかった。

 これほどの攻撃力を持つ剣を造れる者は、少なくとも鍛冶ファミリアの中でも随一の腕を誇るヘファイストス・ファミリアの鍛冶師たちにはいない。

 まさに、神に近しき一振り(ロト)と呼ぶに相応しい剣だ。

 

「やっぱり、凄い剣だったんだね……。ヘファイストスにここまで言わせるだなんて……」

「そうね……もしも売却したら、十億ヴァリスは下らないと思うわ」

「じゅ、十億っ!? そんな金額、想像もつかないなあ……」

「……それよりも、噂のLv.10冒険者ってどういう事なんですか?」

 

 ベルが器にスープを盛り、焼いたパンをカゴに詰めている。

 待望の朝飯はもうすぐだが、ロランには聞かなければならないことがあった。

 もしも、自分が噂されるようなことがあれば、かなり面倒なことになる。

 闘うことはまだいいが、自分のことを……特に、過去を詮索されることは良くない。

 

「ええ、もうオラリオ中の人と神に広まっていると思うわよ。初のレベル二桁到達者が、都市外からやって来たって。私は、最初はヘスティアが嘘の報告でもしたのかと思ってきたんだけど……この剣を見せられちゃったらね……。確かに、君はオラリオ一の剣士に違いないね」

 

……もう、自分の名が広まることは諦めるしかないようだ。

 ロランは深く、それはもう深くため息をついた。

 

 これは、ヘファイストスの推測ではあるが、ロトの剣は限られた者しか真の力を発揮することが出来ない類の武器だろう。

 その人物が彼、ロランであることは誰の目にも明白だ。

 あの剣に認められているのだ。

 彼が、オラリオにいるどの剣士よりも高みに立っていることは、鍛冶しか知らぬヘファイストスでも分かる。

 普段の彼女なら、使い手を選ぶ武器など邪道だ、と切り捨てていたかもしれないが、ことロトの剣に関しては、それが自然なことのように思えた。

 

 彼女の推測は間違っていない。

 ロトの剣は真の勇者にしか振るうことを許されず、太古の昔から多くの邪悪を切り裂いてきた。

 世界のどこかにあると言われる『不思議なダンジョン』を探索する太った商人と、幼き頃の元山賊の戦士などを除いては……。

 

 ベルが具がたっぷりのスープを入れた器とパンを詰め込んだ籠を持って、台所から現れる―――待望の朝ご飯だ。気持ちを切り替えていこう。

 

「神様、ロランさん、ご飯出来ましたよ! お口に合えばいいんですけど……」

「おおっ! 待ってました! 美味しそうだねえ、ほら、ロラン君も早く食べよう!」

「いただきます! ……もしよければ、ヘファイストスさんもどうですか?」

「それじゃあ、ご相伴にあずかろうかな……いいの? ヘスティア」

「大丈夫だよ! 今のヘスティア・ファミリアにはたんまり貯蓄があるのさ!」

 

 ふっくらとした小麦のパンを、温かいスープで空いた腹に流し込む。

 廃教会の、賑やかな朝が過ぎてゆく。

 

……次に訪れるは、少年の旅立ち。ベルが、初めてダンジョンに入る時が来るのだ――

 

 

 




・・・ロトの剣を紹介する回になってしまいました。思いつくままキーボードを叩くと楽ですがその分収拾がつかなくなることが良くあります。

何故、ただの武器説明に一話も掛かってるんだ・・・?

ロトの剣の切れ味云々については、自分で設定を考えました。まあ、これくらいの設定を足すのは良いですよね?・・・ダメですか?




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